その9 あなたのぬくもり、味方につけて
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第三話『ガール・ミーツ・ガール』
その9 あなたのぬくもり、味方につけて
teller:留輝=フローライト
◆
――あたし、たぶん、親とかいないけど。
へたくそだけどコトバとか、ちょっぴりだけど知識、とか、ぼやっとはある。
ほんとに最初から一人で生きてたら、そういうの知るの、きっとムリだった。
なんであたしがちょっとくらいはコトバとか知ってるのかと言うと――むかしむかし、変なオンナがそばにいたからだ。
親じゃないし家族じゃない。
でもそいつは、あたしのオンジン、らしい。
自分で言ってた。
たぶん、オンジンって自分から名乗るものじゃない、と思う。
そいつはちょっとの間、このおっきなロボットの中であたしと暮らしてた。
ロボット、じゃなくて【レディ】って呼ぶんだって、オンジンは言ってた気がする。
オンジンはいつもえらそうに、あたしにあれこれ聞かせて、教えて。
でも、ある日。
『――助けられるのはここまでさ。少女よ、もっと世界を見たまえよ。ここから先は、君自身の手で道を切り拓くがいい!』
それだけ言って、オンナはあたしの前から消えた。
コトバをあたしに教えたのはそいつなのに、中途半端なことだけ教えて、中途半端に甘やかして――それっきりで、あたしを捨てたんだ。
なにがオンジンだ。ふざけんな。
世界なんて見たくないよ。
だって、いつもなにかとつながるんだ。
うるさいんだ。アタマ痛くて、割れそうなんだ。
はだ、ざわざわするんだ。痒いんだ。
外に出るなんて、世界を歩くなんて、あたしこわいよ。いやだよ。
ばか、ばか、ふざけんな。
オマエなんてオンジンじゃない。キライ。だいっきらいだ。
新しいこと、新しいコトバ、なにも知らなくてよかったんだ。
あたしには、このコックピットだけあればよかったんだ。
それがあたしの全世界だったんだ。
あのオンナは、オンジンは。
ほんとの親じゃないし、家族じゃない。
そんなの知ってた。
それでも、よかった。よかったんだよ。
ホンモノかどうかなんて、どうだってよかったんだ。
そこにいてくれれば、あたし、あたし、それだけで。
――あの、ね。オンジン。
はずかしくて、言えなかったけど。
あのころのあたし、オマエのこと、ホントはこう思ってたんだ。
…………おかあさん……、って――。
◆
……なん、だろ。
昔のこと、思い出してた。
ぼんやりと目を開ける。
きもちわるい。頭、がんがんする。
目を開けてるの、しんどい。
まわりを見回そうとして、あんまり首を動かせないことに気付く。
……サイアク、だ。
茨の蔓が、あたしのカラダ中にまとわりついて絡みついていた。
目の前の世界、ぜーんぶ蔓。うざったいくらいに緑色。
身動きできないし、また変なものとつながって苦しいし、ホントにサイアク。
今のあたしが一番強くつながってるのは、おっきな【レディ】、なんだろうけど。
つながってるくせに、【レディ】があたしの言うことは全然聞いてくれない。
【レディ】が暴れているのか、あちこちグラグラしてるけど……あたし、そんなの望んでない。
だってわかる。魔女はもう外にいない。
じゃあもういい、もういいよって何度も何度も思ってるのに、【レディ】は暴れてばっかりだ。
そのせいできっと森も空もおかしくなってる。
世界とつながるあたしのココロが、痛くて痛くて壊れそう。
ココロが苦しいのは、あたしの、えっと……フェアリーファクター、とかいうやつのせいなんだろうけど。
あたしを縛り上げる茨の蔓は、まるであたしの――そう、神経まで縛ってきてるようで、カラダもきもちわるかった。
「出てけ、よ……あたしの、中から……」
……たしか、さっきもおんなじこと思ったな。
落ちてったあのオンナのぬくもりを、やさしいなにかを、忘れられないのが怖かった。
だって今も、あたしの手に残ってるんだ。あのオンナのあったかさが。
あのオンナが、あたしを助けようとしてくれたのも、わかるんだ。
「さい、あく……っ」
サイアクだ。あたし、いつもこうだ。
オンジンを、『おかあさん』と呼べないまま置いてかれて。
あのオンナに、ホントはたくさん言いたいことあったのに、そいつは落ちてっちゃって。
あたしはいつも、大事なことを大事なヤツに言えない。
ヘンなことまで思い出したせいか、どんどん苦しくなる。
息がしづらくて、吸って吐いてを必死に繰り返そうとしても、まだくるしい。
息はうまくできないくせに、なみだばっかり止まんなくて、嫌になる。
「……たす、けて……」
情けない声が、できそこないのコトバが、こぼれる。
なみだと一緒に、あふれてしまう。
「たすけて、よぉ……っ」
ただあふれた、あたしの声。
それを。
勝手に聴いちゃうオンナが、聞き逃さないオンナが、ひとりだけいた。
さっき落ちてっちゃったから、もう会えないはずのやつ、だけど。
そいつは。
「――ルキちゃんッ!!」
緑だらけの世界に、異物が飛び込んできた。
赤く、ちっこい影だった。
聴こえたのは、オンナの声だった。
ちいこいオンナ、あたしは知ってる。
「ぁ……っ……」
身動きできなかったはずのカラダ、泣き言ばかり言ってたココロ。
先に動いたのはどっちだろう、ううん、もうどっちでもいいや。
走り出したいと、あたしは確かに願った。
そのソウゾウに応えるように、急に蔓はチカラを失って、解放されたあたしのカラダはよろけるように前のめりになって。
でも転んでるヒマなんかないから、目の前に茂りすぎてる蔓を振り払って、きり、ひらいて。
◆
――『ここから先は、君自身の手で道を切り拓くがいい!』
◆
……あーあ。
ほんと、ヘンなこと、思い出しちゃったんだ。
でもオンジンが言ったからじゃない、オンジンの言うことを聞いたわけじゃない。
あたしはただ、会いたいヤツがいて、それだけで、道を作って駆け出してるんだ。
あたしがいま、走りたくて走ってるんだ。
あたしがそうしたいだけなんだ。
思い出なんか黙ってろ。
いま、いまは、ただ。
「ルキちゃん!!」
――あたしの名前を呼んでくれる、このコのそばにいたい。
赤い影。血みどろの影。
あたしとおんなじで蔓を掻き分けてきた、ちいこい影。さっきよりずっと、ボロボロ傷だらけの影。
アリス=クロスロード。
そういう名前、だったはず。
脚がふらふらで転びそうなソイツと、前のめりになりすぎてコケそうなあたしは、それでも、手を伸ばし合って。
なんでこんなに追いかけてきたの、なんて可愛くないこと言うよりも、ずっと先に。
――あたしは、アリス=クロスロードを抱き締めた。
もう二度とさわれないと思ってた、でも、また会いに来てくれた。
ボロボロになってまで、あたしを諦めなかったお人よし。ばか。
でも。
そばにいたい、一緒にいたいってコトバをウソじゃなくした、やさしいコ。
あたしの一番あったかいものを、あたしはぎゅーって、強く強く抱き締めた。
オンナがしまりなく笑って、あたしに手を伸ばして、抱き締め返してくれる。
急に片手だけ取られて、手と手が合わさる、かさなる、ふれる――つながる。
ああ、あったかい。
コイツと手の大きさ全然ちがうの、はじめて知った。コイツ、手もちいこいんだ。
……でも、あたしにとってはおっきくてあったかい。安心、する。
誰かにさわるのも、さわられるのも、こわかった。
あったかいのを知るの、こわかった。
今、そんなのどうでもいい。
あたし、抱き締めてたいよ。このコを。
このコなら、あったかいの、もっと知りたいよ。
こういうキモチはハジメテだけど、きっとこのキモチの名前は、いとしい。
いとしい、でいっぱいになったまま、あたしはまたこのオンナを抱き締めた。
このぬくもりを、もう忘れない為に。失わない為に。
あたしは縋って抱きついてるの?
守りたくて抱き締めてるの?
わかんないよ。
助けて、とか守って、なんてことは何度も思ったけど。
守りたいとか思ったの、初めて、なんだ。
オンジンにすら、こんなこと思わなかった。
――誰かを抱き締めたいと思ったことなんて、あたし、初めてだった。
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