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狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第三話『ガール・ミーツ・ガール』 ~アリスパート~
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その5 Dear

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ!

第三話『ガール・ミーツ・ガール』

その5 Dear(ディア)


teller(語り手):アリス=クロスロード





 とてもまぶしくて、愛らしい女の子。

 まだ、名前も知らない子。


 自力で手当てを終えたその子のきらきらがとても愛おしく思えて、自然と笑みがこぼれる。


「……ふふっ……」


「っ!? な、なな……っ、な、なんで、笑う……っ! ば、ばかにするな、あたし、あたしを……っ!」


「あ、ご、ごめんなさい……違う、んです」


「な、なにが!? ……だ、だって、いま、わら、笑った、のにぃ……」


 いやだ、ひどいと言わんばかりの、涙で潤んだ瞳が私に向けられる。

 あ、ちがう。私、まちがえたんだ。

 この子を傷付けたくなかったのに。最低だ。

 どうすれば、ちゃんと届くように伝えられるんだろう。

 あなたが素敵だと思ったんだって、どうしたら。


 これが正しいかは、わからない。

 わからないながらも、私はどうにかこうにか言葉を紡いでいく。


「え、と……あなたが、自分の心に優しくできるの、すごいな、と思ったんです……」


「…………すご、い……?」


「で、でも……お身体の方には少し無頓着、みたいだから……どちらも、大切にしてあげてほしい、です……」


「ぅ、う……! や、やっぱりばかに、してる……!!」


「ち、違います……私は……私のほう、は、まだ、自分の心も身体も、ぜんぜん大事にできてないから……貴方には、そうなってほしく、なくて……傷ついてほしく、ない、から……」


 うまく言えない、この気持ち。

 まだ出会ったばかりの女の子の幸せを、勝手に願うこの気持ち。

 これをどんな言葉で本人に伝えたらいいのか、私はやっぱり上手なやり方がわからなかった。


 言葉をきちんと紡ごうと思ったのに、結局途中でわからなくなって黙ってしまって、すぐ俯く。

 こういう自分が、私は大嫌いなのに。


 女の子まで黙ってしまって、広いコックピットに沈黙が訪れる。

 そのせいで、女の子を囲む四体のロボットの稼働音が空間に良く響く。


 不思議と重いその音が、広がった空間にこだましているように響く。

 なんだか、気まずい私たちを心配しているようにも聴こえた。

 都合の良すぎる想像、かもしれないけど。


「…………おまえ、なんで、ここ、来た?」


 長い沈黙を破ってくれたのは、女の子の方だった。

 先に言葉をくれたこの子の優しさに、この子の勇気に、一瞬泣きそうになって――薄れかけていた私の大切な記憶が、やっと蘇った。

 ここに来た一番の理由を、やっと思い出したんだ。


「……そう、だ……あ、あの、泣いてた声、聴こえたんです……っ……た、たぶん、貴方の……」


「ッ!!!! や、やあ……っ! な、泣き声、き、聴くなあ……!!」


「ぁ……ごめん、なさい……!!」


「う、うるさいうるさいっ! もう、しゃべるなあっ!!」


 強い拒絶に、彼女から向けられる敵意が色濃くなったのを感じた。


 ……ああ、私。

 また、聴いてはいけないものを聴いたんだ。


 【妖精因子(フェアリーファクター)】。

 精神が過剰活性しやすく、心が何かと繋がりやすくなる体質。

 時には遠くのものすら感知し、果ては同調、共鳴することもあるから……キャロッタ村に居た頃は、あらゆる災害を事前に知りすぎて、それで周りに気味悪がられてしまった。


 私はまた、私の体質を悪いように使ってしまったんだ。

 ひどいことをしてしまった。

 聴かれたくなかった泣き声を勝手に聴く、だなんて――私、とっくにこの子の領域を侵してたんだ。

 この子が必死に守っていた居場所に土足で踏み込んでしまった。

 最低、最悪。こんな私がまだ、私は嫌いだ。


 でも。

 でも、クイーン・オブ・ハートを創ってもまだこの身に残滓(ざんし)として残ってしまった私の【妖精因子(フェアリーファクター)】が、まだ反応している。


 今もこの子の泣き声、私には聴こえてしまう。

 初めて気づいた時から、声は止まない。


 泣き声を聴いた時、声の主に会いたいと思った。

 だからこうして駆け出して、この子に辿り着いて会えて――でも、そのあとは?


 今更ばかを晒すと、具体的なことは何も考えていなかった。

 ただ、この子と直接出会ったことで、私の心の奥からたくさんの気持ちが湧いてきた。


 泣いてる誰か。つまりこの子に会えた、そのあと。

 そのあと、は。


 ――助けたいと、思った。

 でもそれは、私には簡単なことじゃないとも思った。

 だって、私はまだこの子のことを何も知らない。

 名前すらも聞けていない。


 知りたい、名前を。

 ううん、名前だけじゃなくて。

 この子のこと、もっと知りたい

 お話、たくさん聞かせてほしい。

 涙の理由だって、教えてほしい。


 それから一緒に考えたいの。

 この子がなんの不安もなく笑える方法を。

 この子が悲しい涙なんて、流さずに済む方法を。


 助けられなくても。

 助けるだなんて考え、思い上がったことだとしても。

 最初から躊躇いたくない。立ち止まりたくない。


 私の今までの、立ち止まっていた日々を思い出す。

 私が歩き出し走り出した、全てのはじまりをくれた人――スズベルさんのことを思い出す。


 スズベルさんは私に【妖精因子(フェアリーファクター)】について教えてくれただけじゃない。

 私のことを、フェアリー・メイド(可愛い女の子)って呼んでくれた。


 妖精なんて見たことないけど、私が苦しいくらいに嫌ってた体質の名前と近しい言葉で、だけど凄く素敵な言葉で私を、私なんかを呼んでくれた。

 私は、それがとても嬉しくて。

 ほんとうに、嬉しくて。


 そうだ。

 私、スズベルさんのような人になりたいって誓って旅立ったはずじゃないか。


 この女の子の悲しみを、私は和らげたい。

 スズベルさんみたいに気の利いた言葉は言えないけど、でもじゃあ、なんのために私には言葉があるの。

 なんのために、私には想像力があるの。


 私自身の言葉じゃないと、この子の心にはきっと届かないから。

 下手くそでも不十分な言葉でも、もう喋るなと拒まれても、伝えるんだ。



 女の子から、もう一歩距離を開ける。

 荷物から取り出したメモ帳にペンを走らせ、見やすいように大きな文字でこう書いて――女の子に、見せた。


『おてがみ、へいきですか?』


「ぇ、うぇ……? て、てがみ……?」


 さらに、綴る。


『改めて、はじめまして。アリスです。

16歳です。

旅をしています』


「え、え……?」


 女の子が困惑しているのが伝わってくる。

 無理くりな、コミュニケーションとも言えない行為だとはわかってたのに。


 私は、私のことを物語りたいと思った。

 この子に私を、話をしていい人間かどうか判断してほしかった。

 自分がいい人間だと証明する自信なんて、私にはまだない。


 でも今、目の前のこの子に私の本心を伝えたかった。

 この子の心に届く為の言葉には時間制限がある気がした。


 どうか。

 いま、いま。貴方に、届いて。


『泣いてる声、勝手にきいて、ごめんなさい。

それでもどうして泣いてるのか知りたいです。

わかりたいです』


「か、カンタンに言うな……っ!」


 走れ、ペン先。急いで。

 早く、文字を作って。


『簡単じゃないから、ちゃんとお話ききたいです。

わかるよう、がんばりたいです』


「な、な、なん……で、そんな……あたし、を……」


『あなたに、泣いてほしくないです』


「え……」


『きずついてほしくないです、

きずつけたくないです』


 綴って、綴らなきゃ。

 大事なことを。



『あなたのそばに、いたいです。


泣きやむまで』



 ああ、ちがう。私、わたし、追記して!



『泣きやんでからも、ずっとです』



「……ッ……!!」


 女の子が、目を見開く。

 潤んだ綺麗な瞳は。

 はっと呑まれた息は。

 それらの、意味は。

 すこしは、言葉が届いたって思っても、いいですか。



 急いでたくさんの文を書いたから、少し疲れた腕を休ませながら――女の子の言葉を、待つ。

 女の子は俯いて、ちら、とこちらを一瞬見て――ぷいっ、と、顔を逸らした。


「あ、あたし、泣いてなんかない……っ! あたしは、あたしは、ただ……っ」


 ただ、の続きを聞こうとする。

 私、貴方のお話聞きたいんです。

 もっともっと、ずっと、これからも。


「ただ…………お、おこってた、だけ……。あ、あたしの……そばに、いてくれる人、なんて……どうせいない、から……む、ムカついて、いじけてた……」


 女の子の瞳が、今度はまっすぐに私を映す。

 そばにいたい、と何度だって伝えるためにペンを走らせようとした、その時。


「て、テガミなんて、もういい! ふ、フツーにしゃべって! て、ていうか、ですます……とか……きもちわるい……ぜんぶ、フツーにしゃべって……」


「……ぇ……それ、って……」


 びっくりして、封じてたはずの声は思いのほかすんなり出てしまった。


 女の子が、ぎゅっと目を閉じて、僅かに頬を赤らめて――絞り出すような声で。

 ずっと知りたかった、素敵な名前を教えてくれた。


「あ、あたし……ルキ……。留輝(るき)=フローライト……じゅ、じゅうろく、さい……。ふ、フツーに、なまえ、呼んでよ……ゆ、許すから……と、トクベツ……」


 ……なんでだろう。

 くるしい、と思った。


 どうしよう。

 嬉しくて、くるしい。

 この子には泣かないでほしいのに、だめだ、ほんと、どうしよう。

 私の方が、泣きそうだ。


 心底そう思うのに、私の表情は勝手に笑顔を作る。

 喜びが、自分勝手に動き出す。



「……ルキ、ちゃん」


「……ん、うん……」


「……ルキちゃん、……ルキちゃん……っ」


「っ、ぅ、な、よ、呼びすぎ……う、うるさいぃ……っ」


「……ごめんね……だって、だってね……ほんとに、うれしいの……」


 ルキちゃん。

 きらきらまぶしいこの子は、やっぱりきらきらした素敵なお名前だった。


 何度も何度も、大切な名前を噛み締めるように言葉を口の中で転がす。


 そっか、同い年なんだ。


 ルキちゃん。

 正反対の女の子。

 身長も髪の長さも体型も、心の在り方も、私と全然違うけど、でも、おんなじところもあるんだ。


 それがなんだか、なにか、素敵な宝物を見つけたようで。


 ……ルキちゃん。


 どうしよう、うれしいな。


 ――おないどし、初めてだ。





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