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狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第三話『ガール・ミーツ・ガール』 ~アリスパート~
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その3 激痛の果てに、きみ。

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ!

第三話『ガール・ミーツ・ガール』

その3 激痛の果てに、きみ。


teller(語り手):アリス=クロスロード





 ――『本当に行くのかい、危ないからやめときな』



 女将さんは、そう言ってくれたけど……どうしても、聴こえてくる泣き声を無視できなくて。

 私は今、シルキオの街外れの森に足を踏み入れている。


 森は、静かだった。

 でも、森に生きる動物たちやモンスターたちが妙に緊張しているのが伝わってくる。

 【妖精因子(フェアリーファクター)】、私の身体に僅かに残ったそれは、周囲の気配を敏感に拾い察知し、感覚として私に伝えてくる。


 生い茂る雑草を、ざ、ざ、と踏みながら足を進め、前を見つめる。

 茨の蔓にまとわりつかれた洋館。

 もうすぐ、あそこに辿り着く。

 聴こえる泣き声も、どんどん近くなる――のに。


 いやなざわめきを、感じた。

 びく、と身体が震えたのは、きっと本能的に恐怖を覚えてしまったから。

 きゅ、と両手を重ねるように胸の前で握る。

 自分の心を、守るように。


 ――来る。存在が近付いてきている。


 魔女リカルカが、来る。



「……ひゃっ……!」


 ぶわり、と、冷たい風が唐突に吹き荒れる。

 胸の前で握っていた手を私は咄嗟に解き、両腕で頭を庇うようにしてその場にしゃがみ込んでしまう。


 勢いを増す風。

 響く地響き、呪いのような咆哮。

 魔女の帽子のように肥大化した角――リカルカ、だ。

 想定していたよりもずっとすぐそこに、魔女が(そび)え立っていた。


 クイーン・オブ・ハートは、今は街の役場近くの荷車置き場に置かせて貰っている。

 ……でも、私が声を上げれば、呼びかければ。

 あの子は、私の大切な女王陛下は、駆け付けて一緒に戦ってくれる筈なんだ。

 だから。


 未だ湧いてしまう、恥ずかしいくらいの恐怖や不安を必死に押し込める。

 気を抜くと俯きそうになるけど、心に喝を入れて顔を上げて。

 私は、私のレディの愛しい名前を、呼ぼうとして――。


「……え……?」


 魔女リカルカからこちらが目を逸らさないようにしたら、気付いてしまった。

 リカルカの方は、私なんて見ていない。

 茨の洋館を睨むように、魔女はじいっと身体ごと向けている、と思ったら。

 リカルカは、けたたましく絶叫しながら洋館相手に飛びかかった。


 なんで。

 なんで、洋館だけ狙って――。


 このままじゃ、洋館の中に居るかもしれない泣き声の主が危ない。

 そう思って、私はまたクイーン・オブ・ハートの名を呼ぼうとしたけど。

 私の声なんかより早く、『それ』は動いた。


 茨の蔓に絡みつかれた洋館。

 蔓の隙間から、両眼のように二つの灯りがぎらりと光る。

 洋館の壁中を覆っていた茨の蔓の一つが、鋭い勢いをつけてリカルカへと伸び、その身を突き刺す。

 身体を串刺しにされたリカルカは悲鳴を上げ、全身をがくがくと痙攣させた。

 だけど洋館は攻撃の手を止めることなく、より多くの蔓をしゅるしゅると自在に動かし、追撃でリカルカの身を抉り刺していく。


 ……洋館じゃ、ない。

 てっきり洋館だと思っていたけど、茨の蔓のコーティングでわかりにくかったけど。

 あれは、【レディ】だ。それも、かなり巨大な。


 洋館を模した【レディ】は、蔓の数を次々に増やし、魔女リカルカの肉体を穴だらけにしていく。

 鋭すぎる攻撃は、拒絶反応のようにも見えた。

 立ち尽くして戦いの行方を見守りながら、私は片手で頭を押さえた。


 頭が、痛い。瞼の奥が、ずきずきする。

 聴こえる泣き声が大きくなっている。

 耳鳴りを起こしそうなくらい、私には届きすぎてしまう。


「……ど……こ……?」


 私がここに来た理由は、泣いている『誰か』に、会いたかったから。

 あの洋館、いや、あの【レディ】の中に、その『誰か』が居るとしたら――。

 

 周りと繋がりやすい【妖精因子(フェアリーファクター)】による感知の余波からなる頭痛を堪えながら、目を凝らして茨のレディを必死に見据える。


 感知、できるなら。

 泣いている誰かの、会いたい誰かの姿も、見つけたい。

 レディのコックピットは、両眼のライトの近くだろうか。

 頭に響く泣き声を頼りに視線を彷徨わせ、顔をさらに上げたところで、やっと。


 ――やっと私は、彼女を見つけた。


 水色に近い髪色のショートヘア。

 綺麗な髪を覆い隠してしまいそうな、うさぎの耳のような飾りがある、暖かそうな帽子。

 首元にも、暖かそうで柔らかそうなもふもふのマフラー。

 遠目からでもわかる、高い身長。

 そんな可愛い女の子が、ハッチの壊れたコックピットの中でがしゃんがしゃんとがむしゃらに、暴れるように操縦桿(そうじゅうかん)を動かしていた。


 ――あの子、泣いてる。

 じゃあ私、あの子の泣いている声をずっと聴いていたんだ。

 海のように澄んだ綺麗な瞳が、涙で潤んでよりきらきらしているのが、ここからでも見える。

 それに――。


 あることに気付いてしまったから、私は棒立ちしていた脚をやっとのことで動かす。

 レディを覆う蔓を伝って、壁伝いにゆっくりと登っていく。

 背後からは、リカルカの断末魔。

 この茨のレディの拒絶は、リカルカをも退け打ち消したらしい。


 リカルカと、この茨のレディの戦闘は終わった。

 けど今の私にはもっと重要なことがあった。

 だから、不安定な足場を登る。

 手で掴み縋るには心許ない蔓に頼りっぱなしになりながら、少しだけ痛む手も、まだ治りきってない身体の傷の疼きも、気にしない振りをして。

 私はやっと、会いたかった女の子の居る、広々としたコックピットに辿り着いた。

 


「っ、ひ……っ!? あ、ぅ……お、おまえ、だ、だれ……っ!?」


 辿り着いた瞬間、一瞬だけ女の子と目が合った筈なのにすぐに逸らされてしまった。

 怯えてパニックを起こす女の子の腕や脇腹からは血が滲んで、彼女の白を基調とした服を赤く赤く穢している。


 怯えられているのは、わかった。

 拒絶されていることも、わかった。

 だけど、私は――。


「……はじめまして。勝手に上がり込んで、申し訳ございません。私は、アリス=クロスロードと言います」


「ぅ、え……?」


「……あの……お怪我、をしているようなので……良ければ私に、手当て、させていただけませんか?」


 私は、さっきは私のレディを呼ぼうとした声で、名を告げた。

 まだレディには程遠い、16歳の子どもでしかない私自身の名を。


 目の前でびくびくと怯え震える、名も知らない女の子。

 彼女の恐れも不安もどこかへ行きますように。

 そう願って、私には覚えたての微笑みをどうにか浮かべながら。




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