その3 勇壮勇猛祝誕歌
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第二話『奇跡は綺譚を紡ぎ出す!』
その3 勇壮勇猛 祝誕歌
teller:???
◆
ごたごたと、無人の【レディ】のコックピット内部で、ぼくは搭乗準備を進めていた。
指示の声は、コックピット内に響き渡っている。
『うん、席の高さは運良くオッケーみたい。ほんとはもうちょい固定した方が……あ、グローブ無いから操縦桿握る時、摩擦でかなり痛いと思うよ。だいじょぶ?』
「お気遣い、痛み入る。だが、平気だ。見てくれは友のものを模してはいるが……ぼくの身体は、随分と頑丈らしい」
『……そっか。素手でスズベルくんのブリキハートを結構追い詰めてたもんねえ』
ぼくに柔らかな声で語りかけてくるその御仁の言葉の纏う空気は、少し、友のものと似ていると思った。
魔女相手に油断をした自分を恥じて少々頭が冷えたのもあるが、この人が相手だと、ぼくも幾分かは落ち着ける。
冥助=ララバイと、声しか届けぬ彼は名乗った。
彼もまたWITTSの人間で、人型戦闘ロボット【レディ】の生みの親かつ、かなり特殊で重要な立ち位置の存在らしい。
『まさかこんなとこに廃棄されたレディがあるとはな~。しかもかなり旧い型。この辺りでしばらく戦闘はなかったはずだけど……だとすると、昔の脱隊者が乗り捨てていったやつかなー?』
「…… 冥助殿。ぼくは、この機体で戦えるか?」
『ん? それはもうばっちりよ。めーすけさん、レディ相手ならちゃちゃ~っと内部に簡単に入り込んでいい感じに調整できちゃうから。旧い機体だけども、とりあえずこの一戦は耐えられるはず』
「……かたじけない」
『いんやいや~……』
そこまで言って、冥助殿は言葉を止めた。
次に彼が発した声からは、軽い調子が少々なりを潜めていた。
『改めて、謝罪させてくれ。申し訳ない。君の友の命が喪われたのは、俺の解析が遅れたせいだ』
「……いや、違う。貴殿らの事情は先程聞いた。冥助殿はご自分の仕事に充分に取り組んだ。……スズベルは、一つの村を、多くの命を助けていた。責められまい」
どく、どく、と。
ぼくの心臓が、命の証が鳴っている。
ぼくは、緊張しているのだろうか。
左胸に手を当てて、命の感触を噛み締めて、ぼくは俯く。
産まれたてでパンクしそうな頭の中を、ゆっくりゆっくり整理しながら。
「……怒りを、抑えられなかった。ぼくが真に怒り狂うべきは、ぼくだ。ぼくに知性と勇気があれば、友を失わずに済んだ」
『それは……』
「モンスターだから、というのは言い訳になりはしまい。ぼくは初めての友をみすみす死なせ、のうのうと生き延びた。それは確固たる事実だ」
手のひらから伝わる命の音を、温度を。
実感しきって――今一度、友への言葉をここに宣う。
「……友よ。この命、しかと貰い受けた」
目を開き、顔を上げ。
スズベルのレディと魔女の戦闘を目に焼き付ける。
今から、ぼくはあそこに飛び込む。
レディの――我が友が憧れたロボットの搭乗者として、戦いに身を投じる。
『ごめん』
「だから冥助殿。そのことはもう――」
『そうじゃなくてさ、スズベルくんのこと。いきなり心の自由とか言われてもさ、急にどうした知るかボケカスひっこんでろ、とか思わなかった?』
「ボ……っ、そ、そこまでは……まあ、言い分に納得したわけではないが」
『やたら抽象的な主張で、ごめんね。スズベルくんってだいぶめんどくさめの精神構造してるしだいぶ感情的に生きてるから、ちょいちょい何言ってんだコイツって思うかもだけど、まあ、なまあたたかーい目で見守ることをオススメする』
そこまで言うか……?
そう思いつつ、聞き返す。
「めんどくさい?」
『そうそう。自由が大好きなくせにさ。自分自身で定義した自由や好き嫌いの枠組みに囚われて、勝手に困っちゃうタイプの不器用系アホの子なんだよ、あの子。多分普通に博愛主義目指した方がまだ生きやすいんじゃないかなあ』
「アホ……」
『そーそー、アホ。すっっげー繊細なくせに強がりでかっこつけでプライドだけは人一倍あって、無駄に良く喋るなあと思ったら無駄にやたら思い悩む時があったりさあ。ほんっっとめんっどくせえやつなのよ』
そ、そこまで言わなくても……。
だだだ、とスズベルをこき下ろした、その後。
冥助殿は、少し黙った。
声でしか繋がってないのに、冥助殿の視線が見えた気がした。
スズベルのレディ、確かブリキハートと言う名の機体に向けられているであろう視線。
『……さくさく~っと攻撃繰り出してるよね、ブリキハート』
「……ああ。戦い慣れているのだな」
『んー、スズベルくんは資質の無さを経験でカバーしてる感じだからね。11年で培った技術は、そこらの魔女じゃあ、やすやすと崩せない』
「11年……長い、な」
『まあまあ長いね。ついでに俺とも付き合い長いのよスズベルくんって。スズベル少年10歳、めーすけ青年26歳の頃からの付き合いよ』
11年。
産まれたばかりも同然のぼくには、まず想像もできない程の途方もない時間だ。
『スズベルくんって、ちょーっち訳ありでさ。WITTSに入るその前、生まれてからの10年はスズベルくんにとっては今すぐこの世から記憶も痕跡も消したいくらい忌々しい時間だったりすんだよね』
「……? どういう……」
『んー、詳細はスズベルくんからの信頼度と好感度が順当に上がったらレアイベントで明かされるかも! って未来にワンチャン期待しといて』
おちゃらけた言い方だったが、今はそれ以上触れてはいけない問題なのだと、ぼくにもわかる声色だった。
冥助殿は、それでも語る。
スズベル=エメラルダーという男のことを。
『スズベルくん的にはさ。WITTSの戦闘員として生きた11年と、この先の未来を生きることが全てなんだよ。カッコつけてるけど、それだけでいっぱいいっぱいなんだ。デカい夢や志を抱く余裕も無いんだ。色んな意味で、もう容量限界なんだよ』
そう語る、冥助殿の声は。
寂しそうなくせに、一番優しい声だった、気がした。
『あ、でもでも。呪わしいだろう10年よりも、そっから改めて生きた時間が1年長くなった今が多分、一番息とかしやすい時期なんだと思う』
「……失いたくない、誇らしい時間ということか」
『うん。――で、そんな時期のスズベルくんが今、珍しく脈アリの未成年の女の子をキープ中で本人いま幸せ絶頂浮かれぽんちだったりすんのね。あのアホタレ、ますます今の平穏を邪魔されたくないと思われる』
「早い。冥助殿、早い。暴言への切り替えが早い」
『そんでキープしてる自覚ないっぽいからアホなんだよねえ。まあ二股とかハーレムとか目指せるほどの器用さも甲斐性もありゃしねえから、まあ、今後もなまあたたかーい半目でそこは見守るとして』
「……気になったのだが、冥助殿は随分とスズベルのことをボロクソに評価しているのだな」
『んー、まあね。だってスズベルくんさ、不確かなもんにすぐ不安になってビビるくせに、特に気に入ってるもんが人の心と可愛い女の子。よりにもよって不確か代表のもんばっか好きになっちゃってまあ、難儀なクソ野郎だなあって。乙女心なんて世の神秘代表だろうに』
「心は、不確か、なのか?」
『うん。そして俺は、そんなスズベルくんとかいう、考えても考えても短所ばっか思いつくクソ野郎のこと、ひそやかーに息子みたいに大事に思ってたりするわけだよ』
その言葉に、ぼくは。
会話やコミュニケーションの仕方を、少し忘れた。
『だから、ごめん。スズベルくんの態度や言葉が不器用で不十分だとしたら、俺の責任でもあるんだ。息子のように思うってことは、そういう責任もあるから』
「……そういうものか」
『まあ、うん。……ほら、ね? 心なんて、不確かで、よくわかんねーもんでしょ。ただ、スズベルくんはさ』
優しい声のまま紡がれた、そのあとの言葉が。
妙にぼくの胸に残った。
『ずーっと何もかもを嫌って生きてたやつだからさ。スズベルくんには、何かを好きになれることがまず凄いんだよ。傍から見たら不確かでアホらしく見える『好き』でも、あいつにとっちゃ奇跡なんだ。スズベルくんは、それに縋って生きてんだよね』
奇跡。
……奇跡、か。
「……冥助殿。ぼくにも少しわかるものがある」
『ん、なんだい』
「スズベルにはスズベルなりの譲れない誇りがあるように、ぼくにも誇らしいものがある。友から受け継いだこの命、友への敬意から生まれたこの心、ぼくは決して無駄にはしない。……ぼくはぼくとして、精一杯生き抜く」
冥助殿がそうするように、ぼくもスズベルのブリキハートをじっと見て、告げた。
「だが、ぼくの生き方はスズベルとは異なる。……ぼくは、世界を軽視しない。世界を『なんか』と切り捨てない。欲深く、多くを望み願い愛し、その全てを守り通す」
告げるのは、ぼくの、生きる決意。
芽生えた感情と、友の死、その二つへの混乱による癇癪じみた産声ではない、ぼくの、真の産声。
「……ぼくは、ぼくの命だって守り通す! 友が起こした奇跡を果たし、ぼくは『奇跡そのもの』として、世界を守り生きていく!! ぼくは、世界を救う奇跡になる!!」
誓いの言葉だった。誇りある言葉だった。
世界ごと、ぼくという奇跡に縋って頼って、勇気を育てて――そして、より多くの命が活きればよい。
ぼくは、世界を救い、世界に胸を張れるような『奇跡』として生きるんだ。
その数秒後、通信機越しに聴こえた冥助殿の声は、穏やかな笑いが少し混じっていた。
『うん、いいと思う。……あのさ』
穏やかな笑いと共に、柔らかな声が、届く。
『君が生まれたのは、悪いことなんかじゃないよ。生き残るべきは自分じゃなかった、なんてもう言わないでね。スズベルくんもたぶん結構その言葉にダメージ食らってるから』
「……そう、か。……すまない。魔女との厳しい戦いの日々を過ごすWITTSの面々には、酷い態度を取ってしまった」
『いんや。俺もあんまり良い大人ってわけじゃないし。スズベルくんも対応うまくなかったし……あの子、女の子相手だともうちょい気の利いた言葉とか考えるんだけどな~。マジで人格変わった? ってレベルに女の子相手だと態度違うからさあ』
「そこまでか……」
『うんうん、見たらきっとびっくりする。ただね』
「ただ?」
『スズベルくんは君みたいな命、だいすきなはずだよ。自分と違ってデカい夢や志を抱ける、自由な心に溢れたヒーロー! とかさ。スズベルくんの憧れだよ』
「……そうか……だいすき、憧れ………………いや待てそんなに嬉しくないな」
『あ、やべっ……いい感じにシメようと思ったのに間違った……スズベルくんの評価が想定より低かった……俺の話の貶しターンが多かったせいかな……おや……』
響く戦闘音の少しの変化。
それは、ぼくも感じた。
『ありゃ、そのスズベルくんがちょいとだけ苦戦してきたかも。……いけそう?』
「ああ。……ぼくがレディに乗る覚悟については、また後ほど話を通させてくれ」
『りょーかい。俺もリモートだけどサポートするよ。暴れといで暴れといで』
「うむ、心得た」
『……ところでずっと気になってたんだけど、君のとっても個性が爆発してる喋り方ってツッコんでもだいじょぶなやつ?』
「……む、何かおかしな点があったか?」
『あー、いんや。なんでもないよーっと』
ぼくは操縦桿を握ったところで――レディの起動には呼びかけが必要だと思い出し。
「……冥助殿」
『ん? なんじゃい』
「少し、お聞きしたいことが――」
◆
――そして。
魔女リカルカに押され始めたブリキハートの助太刀の為、ぼくはやっと両の操縦桿を引き倒し、叫ぶ。
「――『ジェーン・ドゥ』!! テイル、……リスタート!!
Ready steady, my steady!」
心臓を、魂を揺るがす叫び。
テイルスタート、ではなく、ぼくの場合はテイル、リスタート。
ぼくの呼びかけに、ぼくのレディは応えてくれた。
暗がり同然だったコックピットが、モニターが一気に光を得る。
やっと出番かとでも言いたげに、レディは立ち上がった。
レディの名は、『ジェーン・ドゥ』。
名付けたものの、言葉の意は――名無しの、身元不明の女性を指す言葉だと、冥助殿は教えてくれた。
まだ何者でもない、君。
だが、だからこそ、望み願い努力すれば、何にだってなれるはずなんだ。
君も、ぼくも。
そしてまた、まだ。
冥助殿に教わったことがあるから。
ぼくも、幾度目かの産声代わりに名乗りを挙げた。
「今一度、この名を刻め!! WITTS!! そして忌まわしき魔女リカルカよ!!
我が友の美しき名、凪也=ラブクラフト、この名を、僭越ながら一文字だけ改めて!!
也の字に代わり、始まりの意を宿す哉の字を!!
凪哉=ラブクラフト!!
ぼくの名だ!!
友の魂を継ぎ、されど、ぼくだけの愛溢れし未来を創る!!
ここに産まれし、奇跡がぼくだ!!」
ぼくの声が響く荒野。
動きを止める醜き魔女。
――笑止、恐るるに足らず!!
奇跡の始まり、しかと見届けよ!!
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teller:凪哉=ラブクラフト←New!!
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