069_仕方ないよね
本話の冒頭部分は、百パーセント作者の小学生時代の行動と思考そのまんまです。
昔から少し変わった奴扱いをされて来ましたが、雲への憧れは割と普通ですよね?
小さな頃からいつも空を見上げていた。 広大な空を往く雲に憧れていたからだ。
雲は疲れる事を知らず、そして苦しむ事も知らず、悠々と空を泳いでいるからだ。
俺はそんな雲に憧れていたのだ。 生まれ変われるのなら雲だと決めていたのだ。
動けぬ石ころは詰まらない。 世界を旅する雲にこそ生まれ変わりたかったのだ。
・・・・・・・・・
そして今も・・・やはり雲に憧れて・・・空を見上げているのだ。
「 ・・・行っちゃいましたね 」 「 ・・・そうだな 」
俺は今、校庭に置かれたベンチに座って空を見上げている。 昼以降だと日差しが
厳しくて座って等居られないが、今の時間帯なら影になる為そこそこ快適なのだ。
直ぐ側を電車が走る為、時折五月蠅くなるけれど、それでもそこそこ快適なのだ。
・・・・・・・・・
何故そんな処に居るのかというと、バスを見送る為だった。 今日は学期末恒例の
水練合宿開始日だからだ。 つい先程最終になる三年生の集団を見送ったばかりだ。
本来なら生徒会長であり女王でもある俺は、合宿への参加を強制される筈だった。
それなのに、KAGUYAの仕事が有るからと不参加を決め込んだのだ。 実は嘘だが。
・・・そう、嘘だ。 何で嘘なんか吐いたのか?
・・・・・・・・・
皆に、あまり心配を掛けさせたくは無いからだ。
俺との付き合いが長い昂輝と沢瀬そして田辺には気付かれているが、体調的に合宿
なんかに参加出来る様な状態では無いからだ。 はっきり言って去年より数段酷い。
試験終わりの疲労感が、未だかつて経験した事が無い程に酷いモノだったからだ。
・・・・・・・・・そうなった心当たりはある。
昨年の修学旅行と少し前の交通事故・・・二度に亘る入院の度毎に、自分自身でも
はっきりと自覚出来る程に俺は弱ってしまったのだ。 体力が酷く低下したのだ。
嫌が応にも・・・覚悟を促されてしまう程に。
「 そろそろ帰りましょうか? 」 「 ・・・そうだな 」
全員を見送って、元気なふりをする必要もなくなったから、帰って休む事にする。
「 ちょっとだけ待っていて下さいね? 」 「 うん? 」
トイレだろうか? 俺に大人しく待つ様にと念を入れて、沢瀬が校舎に向かった。
・・・念入れなんか不要なのに。 動けと云われても、動きたくない状態なのに。
わんこでも通らない限り! ・・・いつ迄だってじっとしてやる! ・・・すぅ。
◇ ◇ ◇
息苦しさに目が覚めた。 最近は直ぐに寝てしまう。 目の前に沢瀬の顔がある。
「 にゃんかした? 」 「 寝顔があまりに可愛いので、キスしちゃいました ♡ 」
鼻でも摘ままれたのかと思いきや、まさかのキスだった。 道理で息苦しい訳だ。
別にキス位は好きにしてくれてもいいんだけど、せめて一声掛けて欲しかったわ。
「 掛けましたよ? キスしますよ? って? 」 起こしてから掛けろって話なの!
・・・本当に沢瀬は常識が無くて困る。
「 ところで・・・何、それ? 」 「 車椅子ですよ? 見て判りませんか? 」
それ位は誰でも判る。 俺が聞いているのは何でそんなものがここに在って、それ
をどうするのか? そもそもそんなものを何処から持って来たのか? という事。
「 ソレ、学園の備品じゃないよね? 学園のは手押し式だし? また買ったの?」
「 買いましたよ。 在って困るものでもありませんし。 折り畳み式の車椅子と
いうものも、在れば在ったで重宝しますからね。 折畳み傘みたいなものです。
折畳んでおけば場所を取らないので、部室に置いても邪魔にはなりませんから」
・・・折畳み傘とはかなり違うと思うけど? 突っ込んでも仕方ないので放置する。
置き傘ならぬ置き車椅子という存在にも、突っ込んでも仕方ないのでコレも放置。
・・・・・・・・・
コレで重武装の一世に加え、修理中の二世、二世の同系である三世、そして四世と
四台の車椅子が揃った事になる。 二世の修理にはまだ数ヶ月は掛かる見込みだが。
・・・そんな事よりも、何で此処に車椅子が在るのか? という事が疑問なのだ。
いくら体調が思わしくないとはいえ、駅まで歩けない程に酷い状態では無いのだ。
「 日差しがキツくないので、今日は歩いて帰りましょう 」 「 えー、暑くない?」
・・・沢瀬の突然な提案を当然に却下する。
ホント、何でそんな事を言い始めるのかな?
・・・・・・・・・
「 日差しがキツくないので、今日は歩いて帰りましょう 」 「 いや、暑いよね?」
・・・沢瀬の突然な提案を繰り返し却下する。
ホント、何でそんなに歩きたがるんだろうか?
・・・・・・・・・
「 日差しがキツくないので、今日は歩いて帰りましょう 」 「 別にいいけどさ?」
・・・たまに沢瀬は聞き訳が無い。 昂輝はそんな事ないのに? 女子の特性か?
それにしても、何で徒歩に拘るのだろう? ダイエットでもしているのだろうか?
五十嵐も気合を入れて海で泳ぐ! とか言ってた様に思うし? 夏はそんな季節?
・・・・・・・・・
まっ、俺は座っているだけでいいのだから・・・沢瀬の好きにすればいいと思う。
・・・それに、どうせ直ぐに居眠ってしまうのだろうから。
◇ ◇ ◇
「 何だ、コレ? 」 マンションで目を覚ましたら、何かが脚に載せられていた。
・・・スーパーのレジ袋? 結構、重い。 そして固い。
「 夕飯の食材ですよ 」 まさかとは思うけど、沢瀬が作るんじゃないだろうな?
「 今夜はクリームシチューです 」 そのまさかだった。 しかも夏にシチュー?
・・・・・・・・・
“ 夏にシチュー ” という選択には目を瞑るとしても、やはり気になってしまう。
というかはっきり言って不安なのだ。 沢瀬の料理スキルを体験した者としては。
「 ・・・大丈夫なのか?」 「 勿論大丈夫ですよ、家で試食しましたから 」
こと料理に関しては、沢瀬の ” 大丈夫 ” は全く当てにならない。 何度も酷い目に
遭わされたからだ。 という事で買って来た材料をチェックしてみる。 玉ねぎ、
人参、ジャガイモ、ブロッコリー、ここ迄は正解だが何故豚のレバーが在るのだ?
「 家では鶏肉で作ったのですが、蒼君の健康を考えて豚レバーに変更します 」
俺の健康を気遣ってくれるのは嬉しいが、味を無視するのは料理としての基本面
でどうかと思うぞ? という事でこの豚レバーは冷蔵庫の鶏肉とチェンジする。
「 ルーは市販のものを使用か、俺たちレベルのシチュー作りには正解だな 」
「 市販品が正解? ですか? 市販されてないルーなんてあるんですか? 」
・・・・・・判るだろ? 沢瀬の料理スキルが?
「 さて、材料も揃ったところで、早速シチュー作りを始めるとしましょう。
一人で大丈夫なので、蒼君はのんびり映画でも観て寛いでいて下さいね 」
そう言い乍ら洗った野菜をぶつ切りにして、ポイポイと鍋に放り込んでいく沢瀬。
・・・・・・皮も剥かずに。
「 玉ねぎと人参とジャガイモは皮を剥く! ブロッコリーは酢水や塩水で
しっかりと洗ってから塩水で下茹でして、仕上げ段階で鍋に投入するの!」
俺の言葉に目を丸くして驚く沢瀬。 野菜の下処理すら知らなかった様に思える。
こいつ・・・本当に家で作ったのか? いや、試食したと言っただけだったかな?
「 そうだったのですね? それで芳江さんはブロッコリーを最後に入れた
のでしたか・・・てっきり入れ忘れたから、別で茹でて入れたものだと?」
・・・成程、ヨシさんに作って貰っている処を横で見ていただけ。 という事か。
・・・ヨシさんなら、当然野菜の皮も剥いただろうに?
要所要所を見落として・・・一体、何を見ていたのか?
・・・・・・・・・
大体判っただろ? 沢瀬の料理スキルがどんなものか?
◇ ◇ ◇
「 うん、この味です。 結構美味しく出来上がりましたね!」
嬉しそうに沢瀬は語るが、市販のルーを使用して、間違いを起こさなければ、誰が
作ってもこの味になる筈なのだ。 間違いを起こした時の味は想像したくないが。
・・・・・・・・・
間違いを起こしていたら、大量の家事廃棄物を発生させる事になっていただろう。
間違いを起こさずに済んだから、和気あいあいとした食事風景になっているのだ。
「 それにしても茜さんは今日も東京・・・いえ、横浜でしたか? 最近は随分
と忙しいみたいですね? 何を為されているのか、蒼君は聞いていますか? 」
だからこんな風に軽い・・・特段意味の無い話題になったりもするのだ。 と思う。
俺は上機嫌な沢瀬に応える。 皿の中にある多過ぎる鶏肉の移動先を模索し乍ら。
「 知ってるけど、仕事の話だからね。 誰にも話せないんよ。 判るでしょ? 」
そう、最近の姉ちゃんは仕事で忙しいのだ。 それも俺が進めている新計画の調整
をしてくれているのだ。 俺たちにしか出来ない仕事だから姉ちゃんを頼ったのだ。
「( そう、仕事ですか・・・私を後押ししてくれている訳では無いと・・・ )」
沢瀬が何やら呟いているが、今、俺にとって大切な事は、如何にして皿の中の鶏肉
を、上手く消し去ることが出来るかだ。 昂輝が居ない事が悔やまれてならない。
食べ物を粗末になんか出来ないから、頼みの綱はダイエット中の沢瀬だけなのだ。
普段なら、シチューにはサンドイッチがセットで当たり前な沢瀬しか居ないのだ。
今日に限ってシチューとサラダだけ、俺と同じメニューに抑えている沢瀬なのだ。
・・・絶対に、意識して、食事量を抑えている。
生半可な手段では食べて貰えないだろう。 だから思い切った手段に打って出る。
「 沢瀬、あ~んして ♡ 」 「 あら? 蒼君ってば ♡ 」 ヨシ! 成功した!
・・・ククク、この調子でドンドン食べさせてやる。
「 今度は蒼君の番、はい、あ~んして ♡ 」 「 えっ?」 アレ? 失敗した?
・・・沢瀬の曇りなき笑顔から察するに、今の状況を端から想定していたようだ。
・・・・・・・・・
ホント、こいつってば昔から料理スキルは三流な癖に、何で悪知恵は一流なんだ?
◇ ◇ ◇
噓から出た実という言葉がある。 誠とか真と書きもするし全てが正解でもある。
日本語って本当に難しいよね? と、そんな事を思わされてしまう言葉でもある。
何でそんな事を言い出すのかというと、言葉通りの状況になってしまったからだ。
具体的にはKAGUYAとしての仕事が入ってしまった。 多分は友利ルートで俺が
学校の行事をサボって、休暇状態に入っている事が髭に伝わったのだろうと思う。
・・・・・・・・・
友利は何気に余計な事ばかりしてくれる。 一度釘を刺しておいた方がいいかも?
・・・なんて事は後回しでいいとして、取り敢えずは仕事の話だ。
突然の仕事なので契約上断る事も出来たけど、沢瀬がかなり乗り気だったし、俺の
体調も二日間の完全休養によって、かなり回復して来たので受ける事にしたのだ。
「 結婚式場? 」 「 出来たばかりの、という形容詞が付いた結婚式場ですよ 」
どんな形容詞が付いた処で結婚式場は、結婚式場以外の何物でもないと思うけど?
それ以上でも、それ以下でもない、普通に結婚式場でしょ? 特別感なんか有る?
少し浮かれ気味の沢瀬と友利姉さんには違和感しかない。 何で興奮してんのよ?
「 そりゃあやっぱり此処がまだ開業前、式どころか予約受付すら始まってない
真新しい式場で、最初にウェディングドレスを身に付けるって事だからだろ?」
髭社長も判らない事を言い出した。 ウェディングドレスって面でもあるまいに?
メモリアルって話なら、結婚なんか縁の無い俺だと寧ろマイナスではなかろうか?
・・・・・・・・・
しかし、今、問題なのはそれではない。 問題は俺の相手役である長池某(25)。
こいつがとんでもない大根なのだ。 結婚式場のCMなのに自分のPVと勘違いして
オーバーアクションの連続。 リテイクも連続だ。 何でこんな奴を選んだんだ?
・・・現在 5度目のリテイクが入って小休憩中。 何時間もの撮影なんて初めて。
というかリテイクそのものが初めてだ。 素人以下だな、この腐れアイドル君は?
「 今から伊藤を呼んで、アレと交替させた方が良くね?」 「 そうですねぇ… 」
沢瀬も遠慮がちに同意してくる。 顔やスタイルなら伊藤も似たようなもんだし、
何より伊藤は大根じゃないのだ! 不思議な程にカメラ度胸があって、普段の自信
の無さが嘘の様な、堂々たる演技を見せる奴なのだ。 沢瀬が俺ばかりを撮るから
目立っていないだけで、実際は、映画好きの俺から見ても演技が上手い奴なのだ。
「 ちょっと監督さんと相談してきます 」 「 んじゃ俺は伊藤を呼び出しとくわ 」
水練合宿の翌日に特別講習は無い。 だから伊藤も暇を持て余していると思うのだ。
◇ ◇ ◇
長池某は激怒した。 暗に素人以下の演技力と指摘されたからだ。 長池某は歌って
踊る事だけが能のアイドルである。 演技力はからきしだが、顔とスタイルはいい。
そしてとにかく目立ちたがり屋だ。 だから侮蔑に対しては人一倍に敏感であった。
そういう事で、まるで狂犬の如くに吠え捲くっている。 いや、負け犬の如くか?
「 どういう事だよ! 何故僕があんなド素人と比較されなきゃいけないんだよ!
僕が何年この世界でやって来たと? 何年TOPアイドルの座を守って来たと
思うんだ? 今だって 8回もリテイクを掛けたのは、監督の個人的な趣味を、
望むスタイルを、僕に押し付けて来た結果だろ? 僕の個性を活かそうとも
せずに、自分の我儘だけを押通そうとしたから、こうなっているだけだろ⁉ 」
論理が破綻しているのは、自分は役者ではなくてアイドルとして、このCMに出演
していると思っているからだろう。 そうでなければこいつは本物の馬鹿野郎だ。
いや、アイドルだと主張している時点で、ただの馬鹿と判断すべきかも知れない。
・・・今、此処で求められているのは、アイドルではなくて役者なのだから。
監督の望むスタイルを理解して体現するのが役者なのだ。 アイドルとの決定的な
違いがそこなのだ。 それに気付かずPV感覚で撮影に臨んでいるから駄目なのだ。
「 そもそも、この企画自体に無理が有ったって事だよな・・・ 」 髭社長が零す。
“ 最高の門出をあなたに “ を基本コンセプトにしたCMは、最高を誤解した処から
のスタートになった。 企画を考えたのは式場を経営する会社の社長さんだった
らしいのだけど、せめて広報部長さんとか、詳しい人の意見を聞くべきだった。
TVCM素人な社長さんの素人考えが、素人ならではのゴミ企画を生み出したのだ。
・・・・・・・・・
昨年度帝国TVCM大賞受賞監督と、人気№ 1男性タレントに人気№ 1女性タレント
をコラボさせた夢の企画が、№ 1アイドルではあっても役者としては大根な馬鹿の
おかげで、ただの悪夢になろうとしていたのだ。 付き合ってられんからチェンジ
を要求したし、監督も某は使えないと考えていた。 そこに伊藤が到着したのだ。
伊藤の家からタクシーで20分という立地が幸いして、代役候補が間に合ったのだ。
その伊藤を監督が気に入ってしまった。 顔もスタイルも某に引けを取らない上に
俺様ヤンチャ系な某とは違って、知的紳士系な伊藤はこのCMにぴったしなのだ。
そして何より、NGカットに対する『 まるで、美倉に集る蠅ですね 』という評価が
監督の感想と完全に合致したから。 その感性と観察眼とを高く評価されたのだ。
更には簡単な演技の結果が、大根を圧倒するモノだったので監督が狂喜したのだ。
狂喜した結果、ダイコン某が、監督に噛みつくという暴挙に及んでしまったのだ。
・・・・・・・・・
そんな暴挙の結果に生み出された沈黙を、掻き消す様に明るく元気な声が響いた。
「 あー、こりゃホントに酷い演技だわ! 二年前の主演映画も酷かったけど、
この演技はアノ惨劇を上回るものだわ。 コレに付き合う美倉も大変よね?」
「 やはり五十嵐さんもそう思われますか? でも困った事に本人にその自覚が
無いみたいなんですね? 監督がいくら指導しても直してくれないのですよ 」
五十嵐と沢瀬だ。 沢瀬は某に聞かせる為の言葉だが、五十嵐の方はよく判らん。
純粋に感想が漏れただけ、という可能性が大きい。 それ程迄に酷い演技なのだ。
ちなみに五十嵐は伊藤が呼んだ。 自分だけが呼ばれて五十嵐を呼ばなかったら、
後から確実に文句を付けられると予想した、伊藤の慧眼ぶりが発揮された成果だ。
その五十嵐が、どんなモノかとNG映像を見て、思わず声を上げる事になったのだ。
「 お・お前ら! 何、勝手な事を言ってやがるんだよ! 素人は黙ってろ! 」
「 ・・・だったら貴方が黙りなさい。 貴方の演技は完全に素人そのものだ 」
某が監督の前から、五十嵐の許に向かおうとするのを、伊藤が引き留めて語った。
「 貴方は KAGUYA に対抗出来る器でもないのに、引き立て役に徹する立場で
あるのに、それを心良しとせず、KAGUYA に対抗することでCMそのものを
駄目にしている。 演ずるべき役柄を無視して自己満足に走る最低な素人だ 」
伊藤が珍しく力強い口調で某に語り掛ける。 こいつはたまにこうなる時がある。
◇ ◇ ◇
『 美倉ぁ、あの人たちをなんとかしてくれないかなぁ・・・ホント、迷惑で 』
伊藤が珍しく泣き言口調で俺に語り掛ける。 こいつがこうなる事は滅多に無い。
「 無理だよ、俺だって巻き込まれ組なんよ? アノ人たちは本人がはっきり
断わっても、諦めなかった様な人たちよ? いっそ芸能人に成っちゃえば?」
結局、結婚式場のCMは伊藤を代役として撮影を終了した。 伊藤の演技は監督を
はじめ、スタッフ全員から好評だった。 比較対象が酷過ぎたから当然の事だが。
だけど・・・最低との比較抜きで考えても、伊藤の演技は上手かったと思うのだ。
しかも、TOPアイドルに引けを取らない、優れた容姿とスタイルの持ち主なのだ。
それがどういう事に繋がるか? 髭がスカウトに走ったのだ。 絶賛暴走中なのだ。
・・・・・・・・・
後、某だけど、マネージャーと一緒に途中で帰って行った。 契約面でトラブルに
成り兼ねない状況らしいんだけど、某と伊藤の演技力があまりに違い過ぎたから、
多分は有耶無耶になって終了、と髭社長は言ってた。 ホント、適当な業界だわ。
『 僕に芸能人なんて無理だよぉ、全然向いてないよぉ 』 ・・・本当に珍しい。
「 俺だって全然向いてないぞ。 病弱な陰キャだもん 」 伊藤が俺を頼るなんて。
だから全力で応えてやろうと思った。
「 お前さ、自分が何をしたいのか判らないって言ってたじゃん? だったら
お試しで芸能人になってみようよ? 折角誘ってくれてるんだし? 何か
を始めるいい機会だと思うぞ? どうしても嫌ってんなら仕方ないけどさ?」
『 どうしても嫌って訳でも無いけど、ただ芸能人なんか考えた事が無かったし、
おまけに全く自信も無いし、芸能人に成ってやり遂げたい” 何か ”も無いし 』
「 自信なんか、やる前から持ってる方がおかしくね? 目的だってそうだろ?
具体的な目的なんか、何かを始めてから、その何かがある程度判ってから
掲げるもんじゃね? 何も考えない子供じゃないんだから? そう思わね?」
思っただけだが。 ・・・結局は伊藤本人に丸投げなのだ。
『 確かに美倉の言う通りかも知れないね・・・僕はただ臆病風に吹かれて
前に進むことを躊躇っている。 多分はそういう事だと思っているけど、
” やりたい! ” という強い気持ちも無しに、何かをやり始める事に不安
があるんだ。 最後迄やり抜くだけの気力を維持出来るのか? てね? 』
「 お前、真面目過ぎで臆病過ぎ。 そんな強い気持なんか、俺だって全く
持ってないぞ? 普通はそんなもんだろ? それにやり抜く必要有るの?
嫌なら辞めればいいじゃん? 芸能人だろうが、普通の会社員だろうが?
嫌が応にも訪れる脱学生生活な選択が、向こうから来たってだけじゃん?
取り敢えずやってから、続けるなり辞めるなりを考えたら済む事じゃん?」
だって、俺には時間が残されていないから。
『 ・・・本当に、美倉の言う通りだろうね 』
「 そうそう、難しく考えなくてもいいのよ 」
あれやこれやをサポート出来るだけの、時間が残されていないのだから。
「 やる以上は成功しなければいけない! なんて思い詰める必要は無いのよ。
俺みたいに、引っ張り込まれたから仕方なく付き合ってやるか。 程度の
考えでもいいと思うのよ。 学園祭のノリでもいいと思うのよ。 本気を
出すのはやる気が出てからでもいいと・・・俺は真剣にそう思ってるのよ。
そうじゃないと、一歩も踏み出せないまま終わる可能性だってあるでしょ?」
俺に出来るのはほんの少し。 最初の第一歩のお手伝い。 踏み出す切っ掛け。
「 だからさ、一緒にやってみない? 芸能人生活 」
ぽんっと、背中を押してあげるだけ。 それだけ。 くらいしか出来ないもん。
・・・仕方ないよね。
最近は直ぐに :高校生になってからはずっとこんな状態、ただ本人の自覚不足。
二世の修理 :ねじ等、使える部品を使う事で、最短期間で再生させる為です。
ちなみに二世がバロック調で三世がロココ調といった違いです。
ダイエット :前回は随分とスイーツ熱を暴走させていたようでしたから・・・
長池某 :名前を聞いたけど忘れただけ。 周りが呼ぶから長池だけ覚えた。
長池静弥、覚える必要が全く無い芸歴 10年のTOPアイドル君。
ちなみに某の処は”ぼう”ではなく、”なにがし”とお読み下さい。
伊藤も暇 :伊藤は趣味らしい趣味を持ちませんが、流石にコレは酷い偏見。
実は本話のラスト、蒼が長池の大根振りにブチ切れて一旦中止、再開の条件は長池
抜きという事で、長池の代わりに沢瀬との百合カップルな予定でしたが、蒼が想定
以上に弱っていた様で切れる元気もなく、お便利キャラ伊藤の召喚となりました。
影の薄い地味キャラ伊藤の芸能人計画なんか、今日の朝まで考えてませんでした。




