066_何でこうなるのか?
蒼に暇を感じるだけの、十分過ぎる休養を与えるとこんな感じです。
普段はしんどい or 面倒で表に出ないポンコツぶりが発揮されるから。
そしてどうでもいいけど、微熱の影響なのか天気痛が普段より酷い。
普段の頭が痛いな~程度から、重くて痛いな~+軽い眩暈と吐き気。
そんな訳で今回はかなり迷走、何を書いてるか判らん様になるんよ。
だからあれよあれよで一万文字になるんよ。何でこうなるのか?よ。
で、ソレとは関係なく、次回は沢瀬小噺なので明日投稿となります。
「 会長は・・・あの、と・藤堂先輩と、お付き合いを為されているのですか⁉ 」
・・・突然の事だった。
のんびりと、夏の水練合宿に於ける役員巡回表を眺めている時に、いきなり手島君
から話し掛けられたのだ。 かなり切羽詰まった様な、重い雰囲気を漂わせ乍らに。
・・・・・・・・・
そんな手島君の口から放たれた少し間の抜けた言葉に、咽て咳き込んでしまった。
◇ ◇ ◇
「 そういや昂輝からも伊藤からも、告白されたって話を聞いたこと無いよな?」
二年連続でミスターコンテストの一位と二位というイケメンコンビ、女子の数が
男子の二倍という準ハーレム環境にあっては、少し不自然に思える程モテてない。
「 いちいち報告する様な話ではありませんからね。 その上お二人の近くに
はとんでもない強敵が居るので、告白そのものも躊躇われるんでしょうし?
特に伊藤君の場合は、告白されても蒼君には聞かれたくないでしょうから 」
沢瀬がよく判らないことを言う・・・まぁ、二人が告白されたとかされないとか、
そんな話は俺に関係無いから、判らないまま放置しておいても問題は無いだろう。
・・・追求するだけ時間と体力の無駄だ。
ちなみに何故そんな無駄話になったのかというと、昂輝が一年生に告白された事が
話の発端になったからだ。 筋肉と顔、どっちに惹かれたか迄は解かんないけど?
そして、彼女の告白を断った時に理由を訊ねられ、『 好きな人が居る 』と答えた
というのだ。 そこから何故か好きな人 = 俺、という図式になったらしいのだ。
・・・・・・・・・
それを耳にした手島君が、何故か慌てて俺に確認して来た結果が目の前の惨状だ。
手に持つ巡回表をデコる茶色の迷彩模様。 噴き出した珈琲の名残。 香り付き。
・・・捨てようとしたら仁宮さんに止められた。『 私が処分します 』と言って。
綺麗に折畳んだ後、鞄にしまい込んだ様に見えたけど? 持ち帰って自宅で処分?
・・・学園はごみ処理業者と契約してるから、そこ迄気を遣う必要なんか無いよ?
・・・習慣になっちゃってるのかな?
・・・・・・・・・
「 それじゃあ、藤堂先輩の好きな人って・・・本当に会長ではないんですね?」
違います。 そもそも何で俺なの? どう見てもただの友達にしか見えないよね?
「 それは何というか、確かに会長の藤堂先輩に対する態度は、友達にも見えなく
はないんですけど、藤堂先輩の会長に対する態度、というか会長を見る時に、
時折もの凄く切なそうな表情をしている事があるので、どう見ても友情以上の
感情を抱いているとしか思えなくて・・・それにお二人には色々な噂もあって」
手島君が申し訳なさげに釈明してくれる。 でも見えなくもない? ということは
友達以外にも見えるという事だ。 俺と昂輝が恋人同士に見えたりするのだろうか?
・・・俺たち二人をよく知る常識人に確認してみる。
『 うん、美倉をよく知らない人が見たらそう見えるだろうね。 ほら、美倉って
藤堂が相手だと、猫がじゃれつく様にすぐべたべたと甘えるでしょ? アレは
誤解されても仕方ないと思うよ? 僕ですらたまに誤解しそうになる程だし 』
・・・高梁の言葉に耳を疑った。
・・・・・・・・・
知らなかった。 俺と昂輝が、恋人同士に思われてもおかしくは無い様な、そんな
ラブラブな関係だったなんて⁉ 昂輝とはキスをしたことも無いし、当然デートを
したことも無いのに? デート以前に二人だけで外出した事すら・・・うん、無い。
どれ程記憶を遡ったところで、俺と昂輝の二人だけになった事が一度も無かった!
俺と昂輝が一緒の時は、いっつも沢瀬も一緒に居たのだ!! ・・・何でだろう?
・・・・・・・・・
沢瀬がまるっきし興味無い筈の、世界プラモ博にだって俺たちに付いて来たのだ。
『 どれも同じに見えますね?』なんて文句を零し続け乍ら、最後まで一緒だった。
「 それは、好きな人と一緒に居たかったからでは?」 と、手島君は言うけれど。
例え好きな人と一緒だろうが、退屈なものは退屈なのだ。 独り外れて、カフェで
寛いでいる方が快適に決まっているのだ! 俺の様に少食過ぎて、独りでの入店
に抵抗がある訳でもあるまいに。 昔から沢瀬は下手な男子以上に食べるんだぞ!
◇ ◇ ◇
「 ・・・さっきのは会長が悪いですよ 」 手島君がまた解からないことを言う。
事実を述べただけの俺と、殴った沢瀬。 どちらに非が有るか一目瞭然だろうに?
こうなったら常識人に再度・・・沢瀬にスマホを取り上げられた。 何すんのよ?
「 何度も部活の邪魔をするんじゃありません!」 正論で怒られてしまった。
・・・・・・・・・
俺がよく判らない理由で沢瀬に怒られる事に問題は無い。 よくある事だからだ。
だが俺は知りたかったのだ。 手島君の常識度を! 常識に疑問符が付く上級生
ばかりの中にあって、常識が期待出来る新人二人の常識度を確認したかったのだ。
「 ・・・常識、ですか? 伊藤先輩なんか、もの凄く常識人って感じですけど?」
手島君が、選りにも選って伊藤を常識人だと評価した。 これはどうしたことだ⁉
「 常識の無い蒼君の判断はともかく、伊藤君は映研部内で一番の常識人ですよ?」
常識の無い沢瀬の判断は参考にならないしどうでもいい。 問題は手島君の誤解だ。
・・・もし手島君が伊藤の変態性に気付かないまま、トイレで二人きりになる様な
事になったらどうする⁉ BLとか異常性癖の持ち主に免疫のある俺とは違うのだ!
・・・・・・・・・
生真面目で純粋な手島君みたいな子だと・・・酷く傷付いてしまうのではないか?
もしくは伊藤に感化されて・・・変態の道に足を踏み入れてしまうのではないか?
・・・・・・・・・
現時点では唯の可能性に過ぎないけども・・・放置しておいていい問題ではない!
伊藤の危険性を、アノ性癖を伝えることなく手島君に理解させるにはどうしたら?
・・・仕方ない! こうなったら、強硬手段だ!!
「 沢瀬! 会長権限を発動させるぞ!」 「 はい? 一体何をする気なんです?」
沢瀬の危機感の無い応えは仕方ない。 伊藤の危険性を知る者は限られるからだ!
だけど、それでも、少しは感じられる何かがある筈なのだ。 伊藤の異常性癖を⁉
「 全校生徒を対象とした、現生徒会役員全員に対する意識調査アンケートを行う。
信任に足る姿勢が感じられるか、言動が適切なものと思えるか、職責に見合う
だけの常識や良識を弁えていると感じられるか・・・そういった事の調査だ!」
これであれば伊藤に対する公平性を保ち乍も、客観的評価が示されることになる。
皆がどう思っているのかを知れば、沢瀬も手島君も伊藤の危うさに気付くだろう。
・・・いや、気付いてくれる筈だ!
◇ ◇ ◇
・・・・・・・・・何でこうなるのか? 自宅のリビングでPCを前に驚愕した。
6月25日19時25分、俺は回答率98パーセントのアンケート結果に戦慄を覚えた。
蓋を開ければ伊藤は全役員中最高評価を得ていたのだ。 特筆すべき事に否定的な
評価が全役員中で唯一人のゼロに終わったという、花丸級のオマケまで付いてだ。
企画力・実行力・判断力・対応力・即応力・堅実性・妥当性・常識・良識・魅力
の全 10項目各最大 10点の、百点満点評価で唯一 80点を超えたのが伊藤なのだ。
・・・・・・・・・
特に堅実性と妥当性、常識と良識の 4項目では最高の、評価 10を得ているのだ。
・・・なんでやねん。 特に常識と良識。 誰も伊藤の危険性に気付いてないの?
「 良かったですねぇ、蒼君。 最下位にならずに済んで ♡ 」 沢瀬が満面の笑顔。
「 「 お姉様の評価が不当に低過ぎます!! 」 」 逆ににやこたの二人は怒り顔。
俺は外部役員である沢瀬を除く 10人中 7位という、少々残念な結果に終わった。
企画力・実行力・判断力・対応力・魅力の、最多 5項目で最高評価を得たのだが、
即応力と堅実性で最低の 0評価、常識は友利と並んで 2点という酷い評価だった。
体力不足と休みがちである現実から前者 2項目は納得だが、常識が僅か 2点とは。
・・・ちなみに、4点以下が評価基準以下、試験に例えるなら赤点、否定的評価。
・・・・・・・・・
そして 0点取得は俺だけで、1点評価は誰も取らなかった。 つまり俺は 3項目で
全役員 10人中最低と評価されたのだ。 少し凹むぞ。 泣く程じゃあないけど。
「 お前は何をしたかったんだ?」 昂輝の質問。 うん、俺は何をしたかった?
・・・自虐ネタで落ち込みたかった訳じゃない。
俺は伊藤の危険性を手島君に教えたかったんだ。 完全に逆効果になったけども。
一応は口頭で『 トイレの伊藤に気を付けろ 』と注意をしたのだが、言葉の意味が
解からないという表情で返された。 無理もない、トイレで発情するなんて性癖を
誰が想像出来るものか⁉ でも素直な手島君の事だ。 意味が解からないなりにも
警戒はしてくれるだろう。 それで最悪の事態は避けることが出来るだろうと思う。
その後で沢瀬から何事かを耳打ちされて、泣きそうな顔で俺を見ていた様にも思う
けど、沢瀬の話す事迄いちいち気にしていたら、堪ったもんじゃないからスルー。
「 本当に・・・何をしたかったんだ?」 昂輝が重ねて聞いて来る。 要回答か?
・・・仕方ないから俺は席を立ち、昂輝の太ももに腰掛けて耳元に口を近付ける。
「( 手島君が伊藤を常識人だと思ってるんだよ )」 そして、囁く様に応える。
・・・・・・・・・
「 はあああ・・・ 」 昂輝が、超特大のため息を吐いた。
「 蒼君! 藤堂君へのお座りは禁止した筈です!!」 沢瀬が怒りだした。
「 「 お姉様! 次は私たちの番ですよね!! 」 」 にやこたが興奮状態。
「 あんた・・・本当にわざとじゃないのよね?」 五十嵐が意味不明な事を言う。
・・・・・・・・・
田辺も嬉しそうに興奮してるから、多分、俺が何かをやらかしたのかも知れない。
◇ ◇ ◇
「 それにしても、皆よく見てるわねぇ。 書き込みがどれも的確過ぎるわ!」
五十嵐がPC画面を見乍ら面白そうに声を上げる。 アンケート画面の書き込み欄を
確認していたのだが、書かれた内容が的確、且つユーモアに富んだものだからだ。
例えば伊藤に対しては “ 全ての点でハイスペックなのに不思議な程の小物感 ” と
いう感想とか、 “ もっと自信を持った方がいいと思います ” といった意見なんか
が書かれているが過激な表現は見られない。 それは画面上の表示こそ匿名だが、
アカウントは実名登録になっている為、書き込むという行為に責任が伴うからだ。
だけど過激な書き込みでなければ問題は無い。 等という単純な話でもないのだ。
「 ハハ・・・小物感を払拭すべく、もっと自分に自信を持てってことだね・・・」
伊藤は笑い乍らも地味に、そして確実に落ち込んでいる。
でもお前はいじられている書き込みよりも、ずっと多くの称賛があるじゃないか?
・・・俺と違って。
・・・・・・・・・
「 ・・・何だよコレ?」 役員 10人の中でも圧倒的なのが俺に対する書き込み。
量が圧倒的なのは構わないし、ある程度仕方ないと思っている。 でも、質がね?
書き込まれてる内容がね、ちょっとばかりね、アレな内容ばかりになってるんだ。
・・・・・・・・・
別に否定的な書き込みが多い訳ではない。 寧ろ好意的と考えられる内容が殆ど。
” どんなに休んでも、どんなに教室や部室に引き籠っても、可愛いから全部許す ”
” いつも寝てるよね。 可愛い寝顔で寝てるよね。 いい夢が見れたらいいよね ”
” 立ったまま居眠った送辞は最高でした。 卒業式の代表挨拶も期待しています ”
” たまに階段の踊り場で壁にへばり付いてますけど、アレは何なのでしょうか? ”
” カフェで限定苺パフェを食べ損ねた会長の残念そうなお顔、堪りませんでした ”
” 先日、ふらふらと犬の後を追う会長を見ました。 周りの人は注意してあげて ”
” 会長はカラスも好きっぽいですよね? 一緒にカラス愛好会を創りませんか? ”
” 校庭で蟻の行列を凝視する会長を観賞する機会に恵まれた。 アレは良かった ”
” KAGUYAちゃん、学校行事なんか周りに丸投げでいいから芸能活動を頑張って!”
” 先輩、また一緒にお仕事しましょう! CMもいいけどドラマなんかどうです?”
でも、こんなのばかり。 好意的だとしても微妙な内容なのだ。 生徒会長とか、
帝山学園の象徴たる女王とか、そんなのが一切関係の無い処の評価ばかりなのだ。
端的に表現するなら仔犬や仔猫と同じ、” 可愛い可愛い ” の扱いでしかないのだ。
・・・・・・・・・
俺が目指したもの、目標に掲げて努力を積み重ねて来たものとは違い過ぎるのだ。
自分の力で何かを創りたかった。 何でもいいから形になるモノを残したかった。
ただ、それだけを希求して来た。 ただ、それだけの為に努力を積み重ねて来た。
それなのに、” 可愛い可愛い ” だけなのだ。
ホント、嫌になる。 全く以って・・・何でこうなるのか?
◇ ◇ ◇
「 それはそうと今日は茜さんが居ないのね。 帰りが遅いの? 」
「 姉ちゃんは仕事で東京、帰りは明日か明後日になる予定だよ 」
特別講習前日は夜更かしを避ける為、うちに泊まらない事にしていた五十嵐だけど
今日は特別に泊っていく事になった。 アンケートで落ち込んでしまった俺と伊藤
の為に、急遽(?)、二人共元気を出そうよパーティーを開くことになったのだ。
急遽(?)と疑問符が付くのは、アンケートの結果が出る前に、沢瀬が料理の注文
を済ませていたからだ。 項目別投票欄の他に、自由書き込み欄を独断で追加した
時点で、沢瀬はこうなる事を予想していたのかも知れない。 恐るべし、女の勘?
・・・それとも、俺を落ち込ませ様として、自由書き込み欄を追加した? とか?
・・・・・・・・・
尚、パーティの主な出し物は、変態眼鏡から送られて来た映画用衣装のお披露目。
つまりは俺とにやこたの二人、次作ヒロイントリオによるファッションショーだ。
それって・・・俺の立ち位置が微妙じゃないか?
俺を励ます為に、俺が道化を演じるのか? 一人二役? というかマッチポンプ?
そんな俺の疑問を余所に、変態眼鏡がデザインした服は皆の好評を得たのだった。
俺的には無駄な装飾が多くて、着辛い、脱ぎ辛いだけの服としか思えんかったが?
◇ ◇ ◇
規則正しい生活は健康の基本である。 俺が言っても説得力は無いだろうけども。
でも、もし俺が乱れた生活を送っていたら、多分とっくに鬼籍の人になってるよ。
俺だって夜更かししたことくらいあるし、その経験から判るんだよ。 何となく。
・・・・・・ アレは ・・・ むっちゃ ・・・ 身体の負担になるって事が。
という訳で昨夜は、皆がまだ騒いでいる時間にベッドに入り、いつも通りに起床。
トイレを済ませて、顔を洗ってから食堂へと足を運ぶ。 毎日のルーティーンだ。
「 なよー、にゃ? ほうきにょとーわ?」
「 お早うございます、蒼先輩! 藤堂先輩と伊藤先輩は昨夜の内に帰ったのです 」
朝食の準備をしている田辺に挨拶を済ませ、昂輝と伊藤がどうしたのかを訊ねる。
思っていた通り帰宅していた。 それ程俺んちって男子は泊まり難いのだろうか?
・・・・・・・・・
もう、こうなったら、テラスに男子専用のグランピング施設を造るしかないかも?
既に見積もりは取ってある。 設置工事費用込みで大体 800万、早速発注するか!
◇ ◇ ◇
7時を回った辺りで皆が食堂に揃った。 五十嵐と江澄さんは特別講習が、沢瀬と
にやこたは映画の撮影という予定があり、朝寝坊が許される状況では無いからだ。
「 おはよう! 相変わらず、二人共早いわね!」 「 うん 「 お早うございます 」
五十嵐の元気から察するに、全員無茶な夜更かしは控えた様だ。 今日の為だろう。
「 お早うございます、蒼君、今日は映画の撮影ですよ? ちゃんと覚えてます?」
沢瀬に『 覚えているよ 』と応える。 それにしても、俺がいつ約束を忘れたと?
約束を忘れたなんてこと、今迄一度も無かっただろ? ・・・無かった筈だよな?
「 蒼先輩は約束を忘れたりはしないのです! ただ、何かに夢中になったら、
時間が経過するという、当たり前の自然現象を忘れてしまうだけなのです!」
成程、そういうことか。 つまりは、撮影前は仕事も読書もするなという事だな。
「 あー、それと明後日だけど、皆で大阪城に行くことになったから 」 「 え⁉ 」
・・・五十嵐の、突然過ぎる発言に思考が停止した。
「 ほら、7月になったらまた仕事が入るんでしょ? だから前々から話があった、
第三回ご近所名所巡りを明後日にしようって決まったのよ。 問題無いでしょ?
一年生の三人にも昨夜の内にメールで連絡済み、三人共参加したいって事だし」
・・・だって、明後日は、昂輝と二人だけで何処かに行こうと、考えていたから。
・・・・・・・・・
どうする? 昂輝との約束はこれからで、大阪城行は既に参加確認迄済んでいる。
迷う余地なんか無い筈なのに、回答が躊躇われてしまう。 それ程昂輝と二人で
何処かに行きたいと、俺は望んでいるのだろうか? 今迄無かったというだけで?
沢瀬と二人きりで行動したことはあったけど、昂輝と二人きりで行動したことは
無かったという、それだけの事に、どれ程執着する価値があるというのだろうか?
「 あれ? 駄目だった? 何か都合が悪かったりした?」 五十嵐が問うてくる。
・・・答えるべきだ。 問題無いよと。 皆で一緒に大阪城に行こうと。 早く!
早く答えるべきなんだ! 問題なんか無いんだ! 都合が付かない事は無いんだ!
それなのに・・・答えられない。 どうしよう? どうしたら? て・・・あれ⁉
・・・・・・・・・
応えられない・どうしよう・どうしたら・・・何処かであったな・・・この科白?
・・・・・・・・・ そうだ! 新しい映画の告白シーンだ! にやこたが演じる
二人のヒロインに告白され、どちらも選べず逃げ出す事になる俺の葛藤シーンだ!
俺が演じるヒロインは二人の事が同じくらい好きで、どちらかひとりを選ぶなんて
出来なくて、応えることなく二人の前から逃げ出してしまうのだ。 それと同じ。
・・・てことは、俺はここから逃げ出す事が正解なのか?
・・・いや、そんな筈は無いな! 確か映画だと・・・そうだ、にやこたの二人は
逃げた俺を追い掛けて言うんだ。『 私たちは、二人共好きだという貴女の気持ちを
最大限尊重したい! その上で貴女とお付き合いしたい!!』 ・・・とか何とか。
・・・・・・・・・
そうなんだよ、あの映画のラストは二人の内の一人を選ぶなんて面倒臭い事で頭を
悩ませるという無駄を省いて、三人全員がハッピー大団円なエンディングなんだ!
つまり、ここで俺が選ぶべき選択は・・・コレ一択だ!
◇ ◇ ◇
俺としたことが、少しばかり混乱している。 本当に・・・何でこうなるのか?
・・・・・・・・・
車内の目という目が俺たちに集中している。 正確には俺の隣にいる蒼にだが。
昔から飛び抜けた美貌と、説明不能の可愛らしさで衆目を集めてしまう奴だった。
高校生になってからその美貌に磨きが掛かり、香り立つ様な色香迄も纏い始めた。
毎日の様に側で見ている俺たちが、驚かされる程艶やかに変わってしまったのだ。
ずっと側に居た俺たちが、戸惑ってしまう程に変わったのだ。
それでも引っ込み思案な人見知りである事から、周りからの注目は限定的だった。
健康面の問題にさえ目を瞑れば、それなりに平穏無事な毎日を過ごせていたのだ。
それが変化した。
それも途轍もなく激しい変化に見舞われることになった。 本人が望まぬままに。
芸能人KAGUYAとしての活動が、本人の意向に反する形で日常を変えてしまった。
・・・・・・・・・
穏やかな箱庭の世界から、蒼を外の世界に引き摺り出した沢瀬を責める気はない。
蒼を独占出来ないのなら、せめてその存在を世界に刻み込もうと考えたのだろう。
・・・その気持ちは理解出来るのだ。
理解は出来るのだが迷惑なのだ。 俺たちにとって。 そして何より蒼にとって。
・・・・・・・・・
例えば今、やや草臥れ気味の通勤・通学時間帯ではない休日の電車内での注目度。
やや浮かれた雰囲気が漂う車内に、圧倒的に注目される麗人が居ればどうなるか?
「 あの、KAGUYAさんですよね?」 「 あぁ⁉ 俺の友達に、何か用でも?」
「 いえ、何でもありません!」 「 ですよねぇ、俺はアンタを知らないしぃ 」
・・・大体こんな感じになる。
駅から数えて既に 8人、蒼に寄ってくる奴を俺が追い払う羽目になっているのだ。
こうやって俺が周囲を威嚇しなければ、あっという間に蒼が囲まれてしまうのだ。
コレだから沢瀬も公共交通は使えない、移動車の購入が必要不可欠と判断した筈。
・・・・・・・・・
それなのに、何で俺たち二人が電車で移動なんだ? いくら本人の希望とはいえ?
◇ ◇ ◇
森ノ宮駅、蒼と二人だけでカフェに入っている。 予定外だがこれも蒼の希望だ。
でも丁度いいタイミング且つ話し易い状況なので、こうなった理由を聞いてみる。
『 沢瀬とは二人だけでどっかに行ったり、カフェに入ったりしたけどさ、
昂輝とはそんなの全く無かったじゃん! やっぱ一緒にしたいじゃん?』
蒼は凄く楽しそうな表情で答えてくれた。 だから今日の謎行動になったのかと、
解かった様な解からない様な? 如何にも蒼な説明には納得以外に出来る事が無い。
無理矢理にでも納得して、受け入れる事しか出来ないのが蒼の思考と言動なのだ。
・・・そして思い返してみる。
確かに蒼と二人だけで何処かに行ったりしてないし、カフェに入ったことも無い。
だからといって、そんな細かな処迄俺と沢瀬の扱いを同じにする必要はあるのか?
・・・俺はそう考えるし、多分沢瀬も同じだろう。 コレが蒼センスとの相違点。
俺たちと蒼の間には、ある事が当たり前だろう相違点。
・・・・・・・・・
置かれた状況を鑑みれば、俺たちと蒼の間で価値観が違ってくるのは当然なのだ。
だから少々の違和感なんかは無視が基本。 問題が発生した時だけ対応を考える。
それが正しい蒼との付き合い方。
・・・・・・・・・
でも問題は沢瀬だ。 今朝の沢瀬、無茶苦茶機嫌が悪かった。 だから説明もなく
俺たち二人を送り出したのだ。 『 蒼君を宜しく 』 と、氷の笑顔を浮かべて。
沢瀬の不機嫌の理由を推察する。 大体想像は付くのだが、一応確認もしてみる。
「 蒼は昨日から撮り始めた映画のラストをどう思った?」 これは核心的な事だ。
『 どうって?』 「 どちらかを選ばずに、両方を取るというやや異端な選択だ 」
『 異端なの?』 「 恋愛物の基本は、結ばれる者が居れば結ばれない者も居る 」
『 基本なの?』 「 そうだ、本当に好きな相手はあなただけ! なロマン主義
こそが、というかロマンこそが恋愛ドラマのテーマだろ? 」
『 ふ~ん、恋愛って面倒なんだねぇ・・・まぁ俺には関係無いからいいけどさ 』
これは決定的な言葉だ。 まさか沢瀬にも同じことを云ったりはして無いよな?
・・・もの凄く怖いけど、意を決して確認してみる。
「 沢瀬から感想を聞かれたりしたか?」 『 聞かれたよ 』 「 何て答えた?」
『 沢瀬にもラストについて聞かれたけど、ベストな結末だな! って答えたよ。
だって誰も不幸にならないもんね。 最高な形でのハッピーエンドじゃん!』
・・・そうか・・・皆で仲良しの・・・友達エンドが最高のハッピーエンドか。
・・・・・・・・・
成程、沢瀬が不機嫌になるわけだ。 いくら蒼がこんな奴だと解かっていても、
解かっているのと、面と向かって本人の口から聞かされるのとでは別物だから。
・・・・・・・・・
それにしても、無自覚にせよキツい言葉を吐く奴だ。 沢瀬には同情しかない。
・・・本当にキツいと思う。
愛して止まない相手が、恋愛という感情を持っていないと理解出来てしまった。
恋愛と友情の区別が無い、どうしようもないポンコツだと思い知ってしまった。
・・・・・・・・・
俺の蒼に対する想いと沢瀬の蒼に対する想い、まるで性質の違うインプットなのに
蒼は同じアウトプットを求めた。 それが二人だけのお出掛け、二人だけのカフェ。
・・・そんな状況下で最上の、恋人に見せる様な可愛らしい笑顔を俺に見せる蒼。
沢瀬や茜さん、秋帆さんに見せてやれよと言いたくなる様な、そんな最高の笑顔。
判っている。 こいつは単純に、目的の達成を喜んでいるだけなのだという事が。
それでも、判っていても、向けられるだけでドギマギしてしまう様な最上の笑顔。
可愛いにも程がある、考え込むふりをして視線を落とさざるを得ない天使の笑顔。
・・・・・・・・・
それで理解した。 この直視出来ない程の可愛らしさこそ、沢瀬の企みなのだと。
蒼の、途轍もなく気合の入った装いこそ、俺に対しての沢瀬の嫌がらせなのだと。
最高に着飾った最高の美少女(?)が見せる最高の笑顔と、周囲からの注目こそが
蒼に自分と同等に想われ、同等に扱われる俺への、沢瀬渾身の意趣返しなのだと。
蒼の希望を快く認めたふりをして、溜まったもやもやを俺にぶつけているのだと。
蒼に対する沢瀬のもやもやが、俺への八つ当たりになって転嫁されているのだと。
・・・・・・・・・
けれど甘受するしかない。 俺は蒼の友人であり、沢瀬の友人でもあるのだから。
・・・でも、皆との合流は急ぐとしよう。
正直言って、今の状況は精神的にキツい!
筋肉と顔、 :最初に両方という発想にならないのは、蒼は基本的に
一点集中突破型の省エネ思考で動いているからです。
常識人に確認 :当然高梁は部活の最中なんですが、蒼の突発性奇行には
周囲の人間全てが、すっかり慣れ親しんでしまったので。
免疫のある俺 :免疫があるというより、汚染されていると判断すべき状況。
伊藤の危険性 :蒼には自分に対する伊藤の執着心が、全く理解出来ないのです。
沢瀬の自分に対する執着心は、経験で覚えているだけで理解は
してません。 だから伊藤を理解不能な言動を行う変態と認識。
踊り場で壁に :へばり付いているのではなく、もたれて休んでいるだけです。
階段昇降による揺れや振動は眩暈を生じ易く、眩暈を覚えたら
無理せず、そして邪魔にならない位置で安全に小休止を取る。
あと、へばり付く形になるのは、へばった表情を隠す為です。
テラスに・・・:蒼たちの部屋は最上階なので、テニスコート六面分に相当する、
1200平方メートルにもなる専用テラスが付帯されているのです。
ちなみに最上階は蒼たちの部屋のみという構造になっています。
俺たちにとって:昂輝と茜さんにとって。 昂輝的にはそんな意味合いです。
蒼が昂輝との二人でお出掛け、二人でカフェに拘ったのは義理堅さ故のことです。
同等・同格の友人で付き合い方に違いがあるのは気持ち悪い。 そういう事です。
おまけ : 蒼の寝ぼけ言語解説
「 なよー、にゃ? ほうきにょとーわ?」 の処を、一般言語に翻訳すると、
「 おはよう、でっ? 昂輝と伊藤は? 」 になるのですが、注意すべきは
“ にゃ ” になります。 蒼は “ それで ” とか “ ところで ” といった接続詞
全般を “ にゃ ” で済ます事が有るからです。 文脈の理解が重要になります。




