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065_雨と紫陽花と縁側

子供の頃からたまにある事ですが、微熱が続いています。

今の処は一週間くらいですが、果たしていつ迄続くやら?

少し怠く、かなり疲れ易い程度で問題は無いんですがね。


8/1:多過ぎる野田さんに少し退席頂きました。 内容は変更なし。

陽の当たる縁側に腰掛けてのんびりと庭の紫陽花を眺める。 これで雨降りなら

最高のシチュエーションなのだろうけど、幸か不幸か六月とは思えない好天だ。


・・・そもそも雨が降っていたら、俺が此処に居ることは無かっただろうし。


・・・・・・・・・


・・・雨の日は、重い頭を抱え乍ら家に引き籠るスタイルが病弱の常なのだ。


・・・・・・・・・


今の俺は和菓子処吹屋に足を運んで来たばかり。 夕方から家に来る五十嵐たちの

為に菓子を求めての事だ。 帰りには洋菓子も買って帰る予定。 映研メンバーは

和菓子派より洋菓子派の方が多いからだ。 世間一般的にも洋菓子派が 6 ~ 7割を

占めているらしいから、これも当然の結果なのだろう。 俺もチョコは好きだし。


つまり俺が此処に居るのは、ただおやつを買いに来た途中でしかない。


だから本来なら店舗兼工場の反対側にある高梁ん家の縁側に腰掛けて、のんびりと

庭を眺める予定なんか無かったのである。 紫陽花が如何に美しく咲き誇ろうとも。


・・・・・・・・・


その予定を変えたのが、高梁の妹であるお店の看板娘、高梁咲羽ちゃん 14歳。


彼女が俺に話があるということで、此処に連れて来られたのだ。 というのもお店

の喫茶エリアだと人だかりが酷く、落ち着いて話せる雰囲気では無かったからだ。


その結果、俺が一人縁側に腰掛けて紫陽花を眺めているという状況になったのだ。


お店には昂輝と沢瀬も一緒に来たけれど、沢瀬にとってはクラスメイトでしかない

高梁ん家の敷居は高過ぎて、此処に立ち入ることが出来ないのだ。 俺たちの様な

陰キャには、友達の友達は友達理論は非合理的に過ぎて、到底順応出来ないから。


そんで昂輝は沢瀬の付添い。 二人大人しくお茶を飲み乍ら俺の戻りを待っている。


その二人を待たせてる俺は、咲羽ちゃんの仕事が一段落つくのを待っているのだ。


ぼんやりと紫陽花を眺め始めてから、既に 10分くらいは経っている。

入店時の賑わいから察するに、お店の手伝いが相当に忙しいのだろう。


俺たちより三学年下、来年は高校受験だというのに・・・ホント、大変だと思う。


・・・・・・・・・


「 ごめんなさ~い、もの凄くお待たせしちゃいましたね!」

「 別にそんなの気にしなくていいよ、こっちは遊びなんだから 」


バタバタと駆け寄って来る咲羽ちゃんの手には、筒状に丸められた一枚の紙かな?

多分アレが俺に話したい事だと思うのだけど、正直言ってまるで見当が付かない。


「 話というのはコレなんです!」 予想通り、持っていた紙をちゃぶ台に広げる。


その紙には《 和菓子処吹屋四天王寺店・本日11時オープン! 》と書かれていた。




   ◇ ◇ ◇




「 明日はお仕事が無いんですよね?」 「 うん、明日はお休みだよ 」


今日、会って早々の質問が『 明日はお休みですか?』だった理由が読めて来た。


「 それでですが、明日のオープニングセレモニーを手伝っては頂けないかと!

  勿論、高校生のバイトとしては、破格といえる謝礼を用意していますので 」


思っていた通りだった。 お店の手伝いは問題無いけど気になる点が一つある。


「 お兄さん、寛佳(ひろか)は知ってるの? 手伝い程度なら問題は無いけど、

  兄妹喧嘩の火種になんかはなりたくないよ? そこはどうなの?」


「 お兄からは『 無理強いは絶対駄目、快く承諾してくれるなら頼んでいい 』

  と、一応許可は貰っています。 電話で確認して頂いても構いませんよ?

  ちなみにお兄ですけど、四天王寺店で開店準備の真っ最中だと思います 」


成程、それで高梁は不在だったのね。 そしてお手伝いに問題が無い事も判った。


「 そういうことなら、午後からだったら問題無いよ。 後、謝礼は要らないし 」


「 ありがとうございます。 でも謝礼は受け取って下さい。 そうでないと、

  こちらもお手伝い・・・というか、お店の宣伝をお願い出来ませんので 」


「 そういうことなら・・・でも解かっているとは思うけど、KAGUYAの名前を

  使っちゃ駄目だからね。 KAGUYAの権利問題は俺にはどうにも出来ないから 」


「 はい、その辺りは調査済みですので、本名も含めて名前は一切出しません!」


・・・だったら問題は無い。


そんなわけで、吹屋四天王寺店オープニングセレモニーでのお手伝いが決まった。




   ◇ ◇ ◇




「 それで、サプライズゲストによる特別店頭販売が実現! ということですか?」


沢瀬が咲羽ちゃんから貰った、最終版のチラシを手に何処か不満気に呟いている。


・・・・・・・・・


咲羽ちゃん相手だからはっきりと不満を口に出来ないけど、本当は俺が勝手に仕事

を引き受けた事が気に入らないのだ。 仕事じゃなくて手伝いよ。 なんて詭弁で

しかない事くらいは自分でも判っている。 事故の後、全ての仕事をSTOPして確保

した一ヶ月の休養期間中に、余計な仕事を俺の独断で決めた事が不満なのだろう。


・・・芸能人KAGUYAをマネージメントする身としては、その不満も当然だろう。


でも俺としては芸能人KAGUYAとしての立場や職責よりも、大切な友達を手伝う事

の方が遥かに重要だから、今回ばかりは沢瀬が反対しても譲る気なんか無いのだ。


・・・まぁそれが判っているから、沢瀬も何も言わないのだけどね。


「 でもそんな勝手な事をして、事務所との契約は大丈夫なの?」

「 そこは問題無いよ。 KAGUYAの名前さえ出さなければ俺はただの高校生だし 」


五十嵐の質問に応える。 契約ではKAGUYAとしての行動に制限が掛けられている

だけで、俺個人としての行動には何の制約も無いのだ。 客が俺を見てKASGUYAが

来てると盛り上がるかどうかなんて、完全に客の問題になるからだ。 俺は無罪。


「 「 お姉様、サプライズゲスト考案のお菓子とありますが、ひょっとしたら

   お姉様が考案されたお菓子が売られているという事なんでしょうか?」 」


「 そうだよ、俺が食べたいと思ったお菓子を、色々と作って貰ってるんだよ 」


にやこたの二人にチラシに書かれた内容の補足説明をする。 明日、俺は新店舗の

喫茶エリアを特設会場にして、俺考案のお菓子を販売することになっているのだ。


KAGUYAが考案したオリジナル菓子を本人が対面で販売する。 それがセレモニー

最大のイベントであり、オリジナル菓子が新店舗最大のセールスポイントになる。


・・・なんて話を咲羽ちゃんは熱弁していた。


固定客があり周辺に和菓子屋が少ない本店と比べて、人通りは多いがライバル店も

多い新店舗では、分かり易いセールスポイントを掲げる事が成功の鍵になるのだ。


つまりは目立ってなんぼ。 その為に俺、ということらしい。


今現在、大変売れっ子らしい俺を引っ張り出すことは、実に理に適った事なのだ。


・・・そうだ。 知らんけど?


とにかく飲食業は開店当初の集客が全てらしいのだ。 人気店というイメージが。

特に新店舗の様に喫茶がメイン、カフェとしての機能を優先した店舗に於いては。


・・・・・・・・・


「 ということで、俺たちは明日の昼から四天王寺に行くことになったけど、

  五十嵐たちはどうする? 四天王寺で骨董市とかやってるみたいだけど?」


・・・骨董市に誘われて、五十嵐たちも行くことになった。


骨董市というより、何でもありなフリマといった感じなので面白そうなのだ。




   ◇ ◇ ◇




チラシは新店舗の周辺で千枚配ったらしい。 配った内の二割でも興味を持って

貰えたのなら上々と考えて。 KAGUYAのKの字も無い、写真も無いチラシだった。


それなのに、開店前には百人を超える行列が出来ていたらしいのだ。 その行列は

俺が店に着いた頃には三百を超えるまでに増えていた。 1時から 5時迄の 4時間

を予定していたが、電話で緊急呼び出しを喰らって、11時半に店に着いた時には。


俺が店に入ってからでも、その行列は増え続けている。 行列の目的は特設会場。

サプライズゲスト、則ち俺による、オリジナル菓子の対面販売に並んでいるのだ。


・・・・・・・・・


想定外の行列による周辺への迷惑を考慮した結果、特設会場での販売を急遽 1時間

繰り上げる事になり、当然に俺も予定時間よりも早くに呼び出される事になった。


「 すみません美倉さん、どうやらネット上にKAGUYAさんが対面販売を為される

  という書き込みがあったみたいで・・・それでこんな状況になったみたいな?

  あっ勿論私は、というかうちはそんなことはしてませんよ! 約束でしたから 」


説明の後、弁明を始める咲羽ちゃん。 解かってる。 君を疑ったりはしないよ。


・・・何故なら、むっちゃ怪しい被疑者が居るから。 限りなく黒に近い墨色(すみいろ)が。

と、思っていたらMSSからのメールだ。 墨色が黒だったと確認出来たとの報告。


・・・犯人はやはり沢瀬だった。


・・・・・・・・・


沢瀬は知らない事だけど俺たちのマンションは、有線無線を問わずに全てのデータ

のやり取りがMSSの監視下に置かれているのだ。 だから早急に犯人が判明した。


情報リークの目的は単純明快、俺の拘束時間を短縮する為だろう。 自分たちとの

時間を減らさない為か、俺の体力を考えての事か、多分はそのどちらかが目的だ。


・・・あるいはその両方か?


まぁそんなことはどうでもいい。 俺の我儘と沢瀬の我儘の丁度いい落し処だろう。


お店には少しバタバタさせて申し訳ないけど、宣伝効果を考えれば結果オーライ?


多分、誰も損はしない。 ・・・しないんじゃないかな?


「 特設会場準備完了しました。 美倉さん、1分後に対面販売開始します!」


咲羽ちゃんから声が掛かる。


オリジナル菓子 5個入りセット 500箱、完売を目指して・・・頑張るとしますか!




   ◇ ◇ ◇




・・・気合を入れる必要なんか無かった。 販売開始 20分後には完売が確定した。

500人目が並ぶことになったのだ。 以降の客には明日以降の予約受付を開始した。


予約受付の方は他の店員さんが行い、俺は機械的に 500個の受渡し作業を行った。


・・・大体 2時間程で終わったが、引っ切り無しの状態だったのでかなり疲れた。


「 今日は御協力有難う御座いました! おかげ様で完売! 大成功です!!」


とのことでお役御免になったのだけど、ショーケース内の商品がまだ残っている。

吹屋の定番商品十種、各 80 個ずつ用意した分がまだ八割方売れ残っているのだ。


・・・ついでだから、こっちの販売も手伝う事にした。 ホント、ただのついで。

というか本心を言えば・・・自分一人だけ終了というのが、何か嫌だったからだ。


そしたら予約券を受け取っても帰らずに、店を眺めていた客が雪崩れ込んで来た。


そして・・・あっという間に新たな行列が生まれた。


3000 円以上お買い上げのお客様専用の、粗品付き限定紙バッグ対応レジの方に。


・・・・・・・・・


用意した全ての商品が売り切れるまで・・・それから 1 時間も掛からなかった。




   ◇ ◇ ◇




「 やっぱり、降って来たね・・・ 」 雨の予兆があった。 朝からの軽い頭痛だ。


「 相変わらず蒼君の雨予想は、天気予報なんかよりずっと正確ですよね?」


「 そうなの?」 「 そうですよ 」 無自覚だったが、何かそういうことらしい。


「 昂輝たち、傘を持ってないんじゃ?」 「 この程度なら、問題ありませんよ 」


昂輝たちは此処から徒歩十分程度の、天王寺駅の近くまで買い出しに行っている。

吹屋四天王寺店の近くで、味と種類を求めたら天王寺駅周辺になってしまうのだ。


・・・・・・・・・


吹屋四天王寺店の営業時間は 11時から 19時迄の 8時間。 本店との 1時間の違い

は客層の違いを考慮したもので、開業日である今日も 19時に閉店の予定だった。


それが 14時での早仕舞いになった。 用意した商品を完売してしまったからだ。


スタッフ全員、やることが無くなってしまった・・・今から何をすればいいのか?


・・・とまぁそういった理由で、19時から始める予定だったイベントの後片付け

を前倒しして行う事になったのだ。 その為、正規スタッフが本店倉庫との往復

を繰り返す間、俺たちは 17時位迄喫茶エリアを自由に使えるようになったのだ。


お店を好きに使っていいから、留守番して下さいね。by 咲羽ちゃんという事だ。


・・・・・・・・・


いいように利用されてもいるが、俺たちも面白い場所を提供して貰ってもいる。


つまりは WIN・WIN なのである。


「 本店の喫茶エリアはオマケレベルなのに、こちらは喫茶がメイン、

  普通に、お洒落なカフェって感じの造りになっているんですね?」


「 うん、喫茶エリアにスペースを割き過ぎた結果、店内在庫量の限界という問題

  も露見したみたいだけどね? まぁ、喫茶以外は切捨てる覚悟ならいいけど 」


その辺りをどうするかなんか、俺たちが気にすることではない。 だから楽しむ。


「 でもこのゆったりとした、余裕のある空間設計は魅力的だ 」 「 本当に 」


この、都市部のカフェとしては、珍しい程に贅沢な空間設計を楽しんでいるのだ。


・・・・・・・・・


白を基調とした店内からガラス越しに、小雨が降り始めた外の世界に視線を移す。


・・・やっぱり、雨が似合う花だ。


営業中には・・・お客を相手にバタバタしている時には、気付かなかったけれど、

お店の周りの花壇には、青・紫・ピンクと色とりどりの紫陽花が咲き誇っていた。


・・・それが雨に濡れている。


・・・紫陽花ほど、雨が似合う花は無いだろうと思った。

骨董市に   :蒼は行かない。 何故ならお寺の境内で開催されているから。

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