表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/64

062_思わぬ伏兵

第二回病弱あるある~!! 


帰宅中の電車で途中下車して小休憩。 家に着いたら小一時間の休養。


帰りの電車で各駅停車 7駅17分が耐えられず、途中で休憩を入れます。

帰宅したら暫く何も出来ないので、小一時間横になり回復を待ちます。


途中下車は体調イマイチな日限定でしたが、帰宅後の休養は毎日の日課。

休養後に入浴、入浴後は適当に食事を流し込んでは横になるだけでした。

設計のお仕事+往復の通勤だけでフラフラになる毎日を過ごしてました。


アフター 5 に何して遊ぶ? そんなの、完全におとぎ話の世界でしたね。

映研部室の灯りが月曜日から消えたままだった。 五十嵐が試験中のゲーム自粛

を完遂させた為だ。 そんな状況下では俺も早々の帰宅を選ぶことになり、その

結果、試験中は誰も部室に立ち入らなかったのだ。 考えたてみたら当たり前か?


そして中間試験最終日の金曜放課後、部室は久しぶりの賑わいを取り戻している。


先頭に立って全員を引っ張るのは、試験勉強から解放された五十嵐だ。 中間試験

から解放されただけで(はしゃ)ぐなんて、受験を控えた三年生としてはどうかと思うが?


ストレスを溜め込むのも良くないだろうし、日曜迄なら大目に見てもいいだろう。

ということで、これから此処で試験終了お祝いパーティを行うことになったのだ。


五十嵐は伊藤と江澄さん、一年生の三人を引き連れて昼食とおやつを買い出し中。

残された俺たちは部屋の掃除を済ませた後、のんびりと待機モードに入っている。


待機といっても、田辺と小田部さんの二人は大会を前に肩慣らし対戦の真っ最中。

本人たちは32インチの小さなモニターを使用して、その映像が大型モニターにも

映る様になっている。 あの小さなモニターでも、ゲーミングモニターとしては

最大級の大きさらしい。 江澄さんが喜んでいたから、いいモノだろうとも思う。


どっちが勝ったのかは判らんが、一回目の対戦が終わった。 次は山田と・・・

えっ、俺? 他にゲームが好きな人は・・・居なかった。 でも何で俺なんよ?


・・・別に相手してもいいけどさ。 俺、昂輝よりも弱いんよ? てか最弱よ?




   ◇ ◇ ◇




「 噂通りだな・・・本当にすぐに寝るんだ 」 「 ふふ、可愛らしいでしょ?」


山田が蒼を指名した時、何で選りにも選って蒼なのかと(いぶか)しんだが理由が判った。

ゲームをさせたら条件反射的に眠るという、蒼の謎生態を確認する為だったのだ。


そんな噂を耳にして、その真相を確かめたかったのだろう。 そして確認出来た。

出来た筈なのに・・・山田は納得した風ではなく、かなり厳しい表情をしている。


「 藤堂、少し付き合え 」 ソファに蒼を寝かせていたら山田が話し掛けて来た。



・・・・・・・・・



「 お前はアレをどう思うんだ?」 「 どう思う? ・・・アレとは?」


山田に付いていった先は教室棟への連絡通路。 多分人気(ひとけ)を避けた結果だろう。

そしてアレとは蒼の寝落ちの事だと思うが、そんなにおかしな事なのだろうか?


俺だって、ゲームを始めて15分もすれば眠くなるぞ?


「 興味の無い事をして眠くなるのは普通でも、あの早さは異常だと思わんのか?」


成程、山田の云いたいことは判った。 判ったが応えに困る。 誰かに聞かれたく

ない話になる事を予想して部室を出たというのは解かるが、何を云えばいいのか?


・・・・・・・・・


「 俺たちからすれば異常に思えても、蒼にとってはアレが普通なんだよ・・・ 」


あまり口にしたくない話だ。 これで察してくれ。


「 ・・・そうか、お前が判っているなら・・・それで、構わんか・・・ 」


そう言って空を見上げる山田。 どうやら察して貰えたようだ。 そして空が青い。

俺も山田と一緒に澄み渡った青空を見上げてみる。 それで心が晴れる事は無いが。


・・・少しでも落ち着きを取り戻そうと思ったからだ。


少し緊張の糸が緩んだだけで、簡単に意識を手放してしまう蒼に対する暗い不安。

普段は意識の奥底で眠らせているソレを、再び奥底に戻す為の時間が必要なのだ。




   ◇ ◇ ◇




嫌な夢だ。 皆でバーベキューを楽しんでいるのに、俺だけが輪に加われないのだ。

空腹を感じてもいないし、肉を食べたい訳でも無い。 でも輪には加わりたいのだ。

肉の匂いは我慢するから、せめて野菜や海鮮も焼こうよ。 何で用意してないのよ?


・・・・・・・・・


でも何でこんな夢を見てるんだ? 俺は? 心の奥底ではバーベキューをしたい?


・・・違う! 匂いだ⁉ 夢でない本物の匂い! ん⁉ バーベキューか、コレ?


・・・・・・・・・


いや、違う? この匂いは肉を焼いた匂いではない。 もっと嫌な濃い脂の匂い。

と、くどいくらい濃厚なスパイスの匂いが混じった、胸焼けがする程の強い匂い。


・・・何だっけ? この気分が悪くなる匂いは? 記憶がある? そう、あった。

昂輝に誘われて入ったフライドチキンのチェーン店。 アレの匂いだ。 美味しい

と云われて食べたら・・・その夜はとても酷い、痛いくらいの胸焼けで苦しんだ。


・・・・・・・・・


何でそんな匂いが⁉ ・・・そういや五十嵐たち、ランチも買いに行ってたよな。

ということは、ランチにフライドチキンを所望した奴が居るという事だ。 納得。


でもまぁ、あんな脂っこいモノを、よく食べる気になるもんだよねー? 凄いわ。


・・・・・・・・・


判ってる。 共感者が少ないことくらいは。 高梁にも『 えっ⁉ 』て言われたし。


・・・だから、そっちが普通なんだろうと思う。


「 美倉先輩、邪魔になりますから起きて貰えますか 」・・・この声は泉さんだ。


彼女は俺に対して容赦がない。 てか、江澄さん以外の全員に容赦がない。 江澄

さんだけに優しい理由は不明だが、馬鹿女に対するいい障壁になってくれている。


「 駄目だよ泉さん、会長は色々とお疲れなんだから。 寝かせてあげようよ 」


何故か俺を会長呼びするのは手島君。 むっちゃ俺に懐いてくれている可愛い後輩。

全体で次席、外部組では一番の成績で入学した優等生である。 見た目は男の娘、

中身は少し気の弱い硬派男子! なのかな? 女子を避けているのは確かだけど、

単純に女子に囲まれて、可愛い動物扱いされることを嫌がっている様にも思える。


すんごくシンパシー感じるわぁ。 でも大丈夫、いずれ気になんなくなるからね。


・・・それはともかく。


このまま放置していたら、泉砲が手島君に放たれる様になるから起きる事にする。


それに泉さんの言ってることは正論だしね。 去年の同時期より五人も増えている

のにソファセットは更新してないのだ。 俺が横になる様なスペース等無いのだ。


ソファセットを更新しようにも、私物の整理が追い付かないから色々難しいのだ。

それに普段は昂輝も五十嵐も伊藤も、山田も田辺も居ないから必要を感じ無いし。


等と・・・うだうだ考えていないで、そろそろ起きるとしよう。


目を開ければ昂輝と伊藤と手島君、あと片桐君の四人が折畳み椅子を使っていた。


うん? ・・・片桐君?


・・・何で片桐君が此処に居るんだ? いや、別に駄目って訳じゃあないけどね。


「 途中で偶然一緒になってね、ゲーム大会をやるって云ったら参加したいと 」


ということで此処に居るらしい。 俺の様に、空気同然のゲーム音痴が少なくない

映研部に於いては、大会を盛り上げる為に一人でも多くのゲーマーが必要なのだ!


・・・そうだ。 by 五十嵐&伊藤。 空気同然で悪かったな!


・・・・・・・・・


ちなみに30ピース入りバーレルは片桐君の差入れだそうだ。 気を遣わせたかな?


「 美倉先輩の側に(はべ)る為です。 安い出費ですよ 」 うん、ちょっと意味不明かも。


大体同じ生徒会なんだから・・・あ、そういや風紀委員は別の部屋だし、俺は大抵

生徒会室でなくて映研部室で仕事をしてるから、殆ど一緒にはならんかったんだ。


ともかく、俺独りで長ソファを独占するのはかなり気が引けるので座る事にした。


・・・のはいいのだが。


「 手島君、ひょっとして空気椅子をやって足腰を鍛えてるの?」 「 はい?」


横に座る手島君と目の高さが変わらない、というか寧ろ俺の方が低い位なのだ。


「 手島君は身長 158cmだったよね?」「 いえ、今年は 163cmに伸びてました 」


ガーン!! 6cmも差があったのに、僅か 1cm差に迄詰められてしまっている。

このままだと年内にも追い越されてしまう! となれば手段を選んでいられん!


非常手段で実力行使だ!!! 「 てやっ!!! 」 手島君を急襲する!!!


「 うわっ⁉ 会長、いきなり何を・・・おっぱ・いや、そうじゃなくて⁉」


手島君の頭に圧し掛かり、上から全体重を掛けて軟骨を圧迫してやることにした。

非情な先輩と思うだろうが君の身長を抑える為だ。おっぱいの感触で許してくれ。


「 あぁ、美倉先輩! 何て羨ましい事を⁉ そんな事は僕にして下さい!」


片桐君が俺を制止してくる。 成長を止めるなら自分の方を止めてくれと言って。

伊藤より明らかに低いから 180cmは無い片桐君が、何故止めて欲しいのだろう?


180cm、80kg超えは男の夢じゃないのか? 確かに人それぞれなんだろうけど?


・・・だが君の要望は後回し。 今の俺が為すべきは手島君の成長を阻害する事。


なのに・・・ 「 うにゃ!」 「 全く・・・何をやってるんだか・・・はぁ 」 


昂輝に挟む様に腰を掴まれ、軽々と持ち上げられた。 そのまま沢瀬に引き渡し。


「 ふふ、まるでクレーンゲームの景品ですね 」 ・・・全面的な同意しかない。




   ◇ ◇ ◇




「 そんなことで成長が止まる筈はないでしょう? 先輩は馬鹿なんですか?」


やっぱり泉さんは容赦がない。 この舌鋒で誰からも反発をされないのは彼女の

人徳だと思う。 ズバズバ正論を突き付けるが、相手を追い込む事は無いのだ。


「 ホントにもう、そんなだから手島君も誤解をするんですよ?」 「 誤解?」


寝起きと違い、真面な判断力が回復した頭脳でもエラーが出るワードを聞き返す。

と同時に手島君への言動を思い返す。 何処に誤解される要素があるというのか?


・・・・・・どう考えても無い! 誤解の元となる言動なんか、一切無い!!


「 泉さん、蒼君はこんな子なんですよ 」 「 そうですか、なら仕方ないですね 」


俺の意見を無視して、沢瀬と泉さんとで話を纏めに掛かる。 何故そうなるのか?

ならばこうだと、沢瀬の腕から逃れて手島君の元に行く。 本人に確認する為だ。


「 手島君、何か誤解した?」 直接本人に聞く。 それが最も手っ取り早いのだ。

「 いえ、僕は誤解なんか!」 頬を赤く染め乍ら答える手島君の言葉に嘘は無い。


「 泉さん、蒼君は本当にこんな子なんです 」「 もう、どうしようもないですね 」


なのに、何でそんな話になってんの? 本人が誤解してないって言ってるじゃん?


・・・まぁいいや。 済んだことだし。 次は片桐君の番だね。


「 多分、成長を止める事なんか出来ないと思うんだけど、それでもいいのかい?」


「 ・・・止めとけ 」 片桐君の頭を抑え付けようとしたら、昂輝に止められた。

ごめんね、片桐君。 景品になった俺には、君を抑え付けることは叶わない夢だ。


だって手足をバタつかせることしか出来ないもん。 ほらね、ジタバタジタバタ。


「 泉さん、蒼君はこんな処が最高なんです 」 「 ・・・沢瀬先輩も大概ですね 」


上気し乍ら鼻血を垂らす沢瀬に泉さんがちょっと引いている。 何このカオスは?


「 「 あぁ、お姉様の愛らしくも無意味な暴れ(ざま)が、可愛いの究極進化系!! 」 」


にやこたは相変わらず意味不明な言葉を口にするし。 江澄さんはドン引きするし。




   ◇ ◇ ◇




昼食後のゲーム大会は予想外の盛り上がりを見せている。 圧倒的な優勝候補と

見做されていた山田が、まさかの初戦敗退という大番狂わせから始まったのだ。


「 フフフ、私ってば何をやっても天才性を発揮してしまうんですよね?

  どうですか、美倉先輩? 少しは惚れ直して貰えましたでしょうか?」

「 惚れても無いのに惚れ直すわけないだろ?」 「 えぇぇ、そんなぁ⁉ 」


そんな風に調子に乗った馬鹿女も、二回戦で手島君に完敗を喫することになった。

更には敗者復活戦では山田にも完敗を喫し、総当たりの決勝ラウンド進出ならず、

結局 10人中 9位だった。 10人というのはゲーム嫌い四人衆が不参加だからだ。


・・・・・・・・・


ところで何で山田は初戦を惨敗したのだろう? 素人目にも二回目の対戦とは別人

だった。 最初は油断したのだろうか? という疑問に江澄さんの解説が入った。


「 花房が使ったキャラはジャイアントキル製造マシンとして有名で、圧倒的な

  攻撃力のよるキャンセル出来ないコンボ技が決まれば完全に無敵。 だけど

  防御も移動も糞ザコなので、上級者同士の対戦では寧ろ弱いキャラなんです。

  ただ最新バージョンで追加された新キャラなので、山田先輩の様に闘い方を

  知らないプレイヤーも居るんです。 でも一度観れば攻略も容易になるかと。

  更に加えるなら、一ラウンドマッチだったことも山田先輩の敗因でしたね 」


という事らしい。 以上、何故かゲーム絡みの時だけ饒舌になる江澄さんでした。


つまりはアレだな、馬鹿女の10人中 9位は実力通りということ。 ちなみに10位は

片桐君。 何か、圧倒的に弱かった気がするんだけど? 俺がゲーム音痴だから?


「 いえ、糞ザコレベルですね。 多分は藤堂先輩にも負けるレベルでしょう 」


この子、ゲームが絡めば人格が変わるのだろうか? イケメン優等生(かたぎりくん)を糞ザコって。


・・・・・・・・・


糞ザコでも片桐君はゲームが好きなんだよな。 態々(わざわざ)映研の大会に参加する程に。


・・・挨拶代わり( もしくは参加料かな?)に、差入れ迄用意してくれてるのに。


・・・糞ザコ呼ばわりは酷くない?


・・・下手の横好きだと駄目なの?


・・・・・・・・・


何か可哀想に思えて来たから、ぎゅっと抱き締めて頭を撫でてやる。 ヨシヨシ。


「 蒼君!」 「 「 お姉様!! 」 」 「 「 美倉先輩!!」 」 「 会長!」


あちらこちらから声が上がる。 何かあったのだろうか? 周りが俺を見ている。


・・・まるで、俺が何かを、やらかしてしまったかの様に?




   ◇ ◇ ◇




考えている。 正確には考えさせられている。 俺がしたことの意味と結果とを。


そして辿り着いた答え。 俺は片桐君に酷い事をしていた。 男が男にぎゅっと

抱き締められて、頭をヨシヨシと撫でられて、慰めなんかに成ろう筈も無いのだ。


片桐君に謝ろう。 いや、謝らねばならない! 許してくれないかも知んないが。


「 ごめん、気持ち悪かったよね 」 「 とんでもないです! 最高のご褒美でした 」


・・・あれ⁉ 片桐君は気にしてないみたいよ? だったら何で怒られたんだ?


・・・・・・・・・


今一度、皆に云われたことを振り返ってみる。


『 美倉先輩は、御自分の為さった事の意味を理解されてますか⁉ 』は泉さん。

『 蒼君は、もう少し相手の気持ちを考えてから行動しましょうね 』は沢瀬だ。

『 『 『 お姉様(美倉先輩)、次は私の番ですね!!! 』 』 』の三人は無視。

『 違いますよ、蒼先輩は受けに徹するべきです! 』田辺の発言も無視でいい。

『 あんたはホント、罪作りよねぇ 』五十嵐の発言は本人が否定。 俺は無罪。

『 うえぇ 』しか言わない江澄さんや、ため息を吐くだけの男子三人は論外だ。

『 会長は片桐先輩とお付き合いをしているのですか? 』の手島君には回答済。


だった。 片桐君が喜んでいたので、沢瀬の発言も問題無くクリア出来ている。


残るは泉さんの意見、俺は糞ザコ呼ばわりされた片桐君を慰めたかっただけだ。

そして片桐君は慰められてご褒美だと喜んだ。 どう考えたって万々歳じゃん?


・・・・・・・・・


いや、本当にそうなのか? 自分が落ち込んだ時に、姉ちゃんに慰められる場合を

想定してみるんだ! そうしたら答えが・・・そうか! そういうことだったか!

それだったら無視や論外集団を除く全員への、沢瀬や五十嵐への最適解にもなる!


そうなのだ! 俺は片桐君に抱き着く前に、ブラを外しておくべきだったのだ!!


「 一体何を、どの様に曲解したら、そんな安本丹(あんぽんたん)な結論が生まれるのですか⁉ 」


ファイナルアンサーへの反応がコレ。 どうやらちょっとばかり違ったみたいだ。


「 いや、ノーブラの方がおっぱいの感触がダイレクトに感じられるじゃん?

  ・・・はっ⁉ まさか! 更に服を脱いでから抱き付けという事なのか⁉ 」


・・・思いっ切り全否定された。 ついでに『 馬鹿ですか!』を三回も云われた。




   ◇ ◇ ◇




ゲーム大会の決勝ラウンドは中断されたまま、場の全員が俺たちに注目していた。

何故なら決勝に残った四人の内の三人迄もが、ゲームそっちのけの状態だからだ。


何故か三人共がゲームそっちのけで、俺と泉さんの掛け合いに注目しているのだ。


「 間違いとは言い切れませんが、せめて説得とか話し合いとか表現して下さい 」


泉さんから細かなツッコミが入る。 タイミングはお笑い的にばっちりだと思う。

それなのに場の雰囲気が和まないのは、多分泉さんの口調が少し硬いからだろう。


「 美倉先輩は場を和ませたいのですか?」 「 取り敢えず、今の処は・・・ 」


だって、すっごく睨まれているのだよ。 モニター前で待機している江澄さんに。


・・・・・・・・・


デカいコントローラーを抱えたまま、何故か俺だけを睨む江澄さんの視線が痛い。

俺じゃなくて、山田と田辺と手島君を睨んだ方がいいのに? 俺は大会部外者よ。


「 そうですね、ゲーム再開を急ぐのなら余計なツッコミは無しでお願いします 」


江澄さんに向けられた視線の意図を正確に察した泉さんがそんな提案をしてくる。


この子も仁宮さんと同じで理解が早くて話し易い。 問題は俺がこの子の話を理解

出来ていない事だな。 ということで、俺が理解出来ていない理由を模索してみる。


理解出来ない事の原因として、先ずは俺の知識不足が想定される。 次は泉さんの

表現力不足だが、多分それは無いと思う。 だから俺の知識が及ばない、苦手分野

の話をされていると考えて、推論を組み立てる事が理解に至る近道だと思うのだ。


「 表現力を評価頂き有難う御座います。 ところで先輩の苦手分野というのは?」

「 沢山有るな・・・脂っこいモノや味や匂いが強いモノ、生クリームも苦手だし」


苦手なモノを思いつくままに挙げていけば、ゆっくりと泉さんの表情が変化する。

俺はこの変化を知っている。 沢瀬が怒り出す前に見せる変化だ。 何があった⁉


「 今の状況と今迄の流れで、いきなり食べ物からのアプローチですか・・・

  先輩、ひょっとしてふざけてますか? 私をおちょくっているのですか? 」


どうやら食べ物の話は駄目だった様だ。 てっきり女子は食べ物の話が好きかと

思っていたのだが・・・食べ物が駄目なら服かアクセサリーの話が好きなのか?


「 泉さん、蒼君は本当に何も解っていないのです。 蒼君に人の恋愛感情を理解

  させようなんて、バッタに六法を理解させようと足掻くに等しい行為なんです」


俺が服の話をしようとしたら、撮影の手を止めた沢瀬に先を越される事になった。

バッタの六法も意味不明だが、この場で恋愛感情というワードは更に意味不明だ。


・・・恋愛も・・・その素となる感情も・・・俺には無用なものなのだから。


「 恋愛なんて・・・時間と体力の無駄遣いだよ 」 偽りなき本心が自然に漏れる。




   ◇ ◇ ◇




『 恋愛なんて・・・時間と体力の無駄遣いだよ 』


綺麗な顔から発せられた抑揚の無い言葉、表情の冷たさに背筋が凍るかと思った。

ころころ変わる表情が消えたほんの一瞬、言葉に嘘が無い事を理解してしまった。


この麗人は、本心から恋愛を拒んでいるのだと。

そんな感情なんか忘れ去ろうとしているのだと。


だからソレには言及しない事にする。 でも伝えるべき事だけは伝える事にする。


「 先輩がみせる特別な優しさが、少しばかり過剰なスキンシップが、相手を誤解

  させてしまう・・・自分に特別な感情を持っていると思わせてしまうのです 」


「 そうなの? 何で?」 あぁ・・・本当にバッタだ。 本心で判ってなさそう。


これ程の美少女がここ迄無自覚無神経だなんて、どれ程の犠牲者を生み出す事か?

これを看過する事なんて出来ませんね。 きちんと理解しておいて貰わなければ。


・・・少々品性に欠けますが、回りくどい表現は無しにします。


「 美倉先輩、しかと認識頂きたいのですが、思春期男子なんて(なか)(けもの)の様な生物(いきもの)

  可愛い女の子を彼女にしたい! 大脳の半ば近くはそんな事で使われています」


先輩は私の言葉で目を丸くされました。 流石はアレだけ無防備な行動を為される

だけの事はありますね。 全く判っていなかったようです。 驚き乍ら藤堂先輩に

『 昂輝もそうなの?』なんて応え難い質問をされています。 本当に男子の気持ち

がお分かりでない。 藤堂先輩は無茶苦茶お困りの様です。 私のせいなのかな?


「 藤堂はどうか知らんが、大抵の男子はそんなもんだぞ 」


見かねて山田先輩がフォローに入られました。 思いの外友だち思いな方の様です。


「 山田はどうなの? 」 「 ノーコメントだ 」


ホント、何なんでしょうね? 美倉先輩の無邪気乍らも鋭いカウンター攻撃は?

山田先輩は慣れているのか、上手く躱しましたが、普通なら応えに詰まる処です。


・・・・・・・・・


でもいけませんね、このままでは美倉先輩のペースに乗せられて話が進みません。


「 美倉先輩、そのお話は後日、個人的に伺って頂くとして、今は私の話に耳を

  傾けて貰えますか? でないと話が先に進みませんので? 宜しいですか?」


先輩が首肯するのを確認して話を進める。 それにしても本当に可愛いお方だな。


「 可愛い彼女が超欲しいと考えている思春期男子に、先輩の様な超絶美少女が

  気安く接触したり、優しい言葉を掛けたりしたらどうなるか? 思春期脳が

  歓びの余り暴走して、幻想と現実が入り乱れたカオス思考を産み出すのです。

  つまり、先輩を彼女に出来る可能性があるという誤解を産む事になるのです 」


「 誤解の意味を解かって頂けましたか?」 「 ちょっとよく解かんないかも?」


そうですか。 それは困りましたね? 思春期の説明から必要なのでしょうか?


「 だって俺、美少女じゃなくて男、男子だから。 彼女になんかなれないもん 」


美倉先輩の声で・・・美倉先輩の方向から・・・おかしな幻聴が聞こえましたね。

変ですね? そこ迄疲れている自覚は無いのですが? 幻聴なんか初めてですし?


「 今しがた、どなたか美倉先輩を男子だと仰いましたか?」 「 俺が言ったよ 」


確認した処、声の主は・・・美倉先輩本人でした。


「 信じられないかも知れませんが、蒼君はコレでも、辛うじて男子なんですよ 」


沢瀬先輩が手にするノートPCに学生名簿が映されている。 名前は " 美倉 蒼 "。


そして・・・性別欄には " 男子 " の文字が明確に。


「 「 「     ・・・・・・ えっ??? ・・・・・・     」 」 」



・・・・・・・・・



「 「 「   えええええええええええええっっっっっっっ!!!   」 」 」




   ◇ ◇ ◇




驚いたことに一年生三人は、俺の事を女だと思っていたそうだ。 見て判らんか?


・・・ 多分、判らんだろうなぁ。 こいつら、俺の女装姿しか見とらんかったし。

メディアではKAGUYAは女ということになってるし。 ちんKOを見せてもないし。


まぁ、別にどうでもいい事なんだけどね。 等と流し切れなかったのが手島君だ。


・・・むっちゃ、落ち込んでたな。 何でか知らんが?


全勝で進んだ決勝ラウンドでは全敗に終わったし。 終始『 会長が男子・・・ 』

と、念仏の様に繰り返し唱えてたし。 珈琲に砂糖をスプーン24杯も入れてたし。


・・・まぁ、砂糖の量は()()きだと思うが。


それに、扉を開けずに帰ろうとして顔をぶつけた程度で『 妹に食べさせたい 』と

言っていたバーレルの残りを、忘れずに持ち帰ったぐらいだから心配不要だろう。


田辺が『 念の為です!』と言って、家まで送ってくれてたし。


・・・・・・・・・


あの問題児も、いつの間にか、いい先輩に成っていたのだな。




   ◇ ◇ ◇




「 美倉会長! 僕は真実の愛に目覚める事が出来ました!!

  真実の愛の前には、性別なんか全く関係無いですよね!!」




週が明けて月曜日、手島君がパワーアップして復活を果たした。 何があったの?

胸焼けで   :割と胸焼けし易いと思います、某チェーンのフライドチキン。

        でも作者にとって最悪の胸焼け食材はサンマだったりします。

        他は体調が悪いと胸焼けするのですが、サンマの塩焼きだけは

        体調に関係なく胸焼けに苦しみます。 干物や缶詰は少しマシ。


非情な先輩  :ではなくて、異常な先輩と思われるでしょうね。


おっぱいの  :感触が蒼は好きなんです。 だから事ある毎におっぱい。


忘れ去ろう  :以前の問題です。 単に色恋沙汰に振り分ける余力が無いだけ。

        体力的にも精神的にも一杯一杯な状態、ただそれだけなのです。


学生名簿   :一般生徒は閲覧不可。 教職員と生徒会メンバーのみ閲覧可。


長期休み終りと試験終わりの蒼は、どちらも疲労のピーク時なんです。

だから普段より二割増しでポンコツ化します。 言動の全てに於いて。

そのおかげで・・・話があちこちに跳びまくって纏まんなかったです。

5000文字に届かないだろうなぁ、な予想がまさかの9000文字オーバー。

・・・誠に申し訳御座いません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ