061_わからないんだよ
前々話・前話( 2話で約23000文字)を書いた疲労と天候不順でダウンしました。
雨の日が好きな人って、気圧変化に伴う頭痛(天気痛)なんか無いんでしょうね?
『 どうして私が居ない時に、そんな面白そうな事をしているのよ!』 怒声かな?
愚痴にしては大きな声がスマホから聞こえる。 声の主は五十嵐、本日絶賛補習中。
『 あぁもう、そんなことになってるんなら、私も補習なんかサボるんだった!』
私もって、俺たちはそもそも補習なんかは要らないし。 サボってる訳じゃないし。
・・・・・・・・・
それにこっちだって、色々と大変なんだよ? おまけに面白くも無いし。 俺は。
・・・そこんとこ、ホント、解かってる?
◇ ◇ ◇
約束の土曜日、俺たちは富士宮市の堂匡邸で、後継者さん達の挨拶もそこそこに、
恒例となったコスプレ大会を開催している。 ホント、おざなりな挨拶だったわ。
『 いやぁ、待ってたよぉ蒼ちゃん! 早速始めようか!!』 それだけだった。
形式には拘らない堂匡らしいと謂えばらしい挨拶だが。 アレがホントに挨拶か?
・・・ただの号令じゃん。
・・・堂匡相手に、そんなことを気にしても仕方ないけどさ。
そして勿論、早速に始めたのは修行に関する話ではなく、俺のコスプレだったが。
・・・・・・・・・
後継者さん達、揃って呆気に取られてた。 うん、堂匡ってこんな爺さんだから。
堂匡が言うには、先ずは俺の都合(本日中の帰宅)を優先して、その後で酒を酌み
交わし乍ら、互いに腹を割って本音で語り合うのが “ 漢の話し合い ” なんだとか。
なんて言ってるけど、ただのこじつけだよ。
単純に早く俺で遊びたかっただけ。 後は基本的に成行任せの風任せ、それが堂匡。
◇ ◇ ◇
朝の6時に家を出て此処には10時に着いた。 映研号は姉ちゃん号よりも疲れる。
ソレに4時間も揺られたら、何をされても抵抗しようと思わない。 されるがまま。
メイドさんに胸を揉まれても(何をするんよ、この変態共は?)としか思わない。
いやホント、自分たちの方が立派なモノを持っているのに、何で俺なんかの胸を?
・・・等と思っても訊ねる意思も気力も無い。 どうせ詰まらん理由だろうしね。
・・・・・・・・・
そんなこんなでコスプレ大会午前の部は終了、着る事が出来たのはずらり並んだ
トルソーの2割。 残り24着からどれを選ぶかで、皆揃って大激論の真っ最中。
午前の部2時間で6着だから、午後の部2時間も6着になる。 つまりはかなり熾烈
な争いが展開されているという事だ。 銘々が推しの衣装を掲げては、コレが如何
に素晴らしいかという主張を繰り広げている。 何であんなに熱くなれるのか?
尚、姉ちゃんが推した衣装は既に確定扱いになっている。 一部ではサブカル界の
女王とも呼ばれ始めている姉ちゃんへの、堂匡軍団一同の敬意の表れなんだとか。
ちなみに堂匡軍団とは堂匡とメイド達、そして堂匡のヲタク友達6人からなる集団
で年齢層はかなり広い。 特にヲタク友達は10代から60代までという幅の広さだ。
ということで、残り5枠を沢瀬とにやこたと相河軍団と五十嵐、そして午前の部
で選ばれていなかった、堂匡軍団の外れメンバーで争っているという状態なのだ。
何故か堂匡も外れメンバーの一人だ。 何でなん? えっ、ジャンケンで負けた?
・・・・・・・・・
そんな具合に堂匡軍団、メイドも含めてかなり平等な社会を構成しているようだ。
「 そんなら、午後の部も手っ取り早くジャンケンで決めればいいじゃん?」
「 嫌じゃ! 儂はジャンケン弱いんじゃ! だからヲタク愛で勝負じゃ!」
そう語る堂匡だが傍目にも劣勢。 堂匡のヲタク愛は、どうやらその程度らしい。
そして優勢に見えるのは、五十嵐とタッグを組んだ沢瀬とにやこた、この2枠も
ほぼ決まりだろう。 残りは3枠となるが相河軍団と外れ軍団で泥仕合の様相だ。
皆熱く自己主張するだけで周りを見ていない。 勝つ為の戦略が足りてないのだ。
ここに居ない五十嵐のオンライン参加を認めさせ、JKコスプレ(?)姿の五十嵐
にプレゼンを任せることで、ヲタク軍団を腑抜けにした沢瀬の戦略性や、双子の
様に息の合った凸凹コンビ、にやこた独自の話術に類するアピール性が無いのだ。
揃いも揃って本当に、全く方向性の合わない自己主張を唱え合ってるだけなのだ。
最終的にはジャンケン勝負になるんじゃなかろうか?
・・・マジでどうでもいいことだが。
とにかく、そんな詰まらん争いに関係の無い俺たちは、休憩兼食事タイムの2時間
を有効活用すべくソファで寛いでいた。 その時に五十嵐から電話があったのだ。
「 本気で残念がっている様に聞こえたな?」 「 本気で残念がってるんだろ?」
昂輝の問いに答え乍ら考える。 あいつ、嫌々特別講習に参加してやがるな? と。
勉強する際に一番大切な、積極性と集中力に欠けたままなのは相変わらずか? と。
・・・・・・・・・
そんなんで本当に大丈夫なのだろうか? という俺の不安を昂輝たちは否定する。
『 やらないよりはずっとマシだし、何より勉強を習慣付ける事が大切だから 』
と言って。 効率の悪さは、その先の段階で考えるべきテーマになるらしいのだ。
・・・なんとも悠長な話だ。
だが昂輝や沢瀬がそれで構わないと云っているのだから、実際問題無いのだろう?
時間は後8箇月もあるし、高校としては最高水準のサポート体制もあるのだから。
◇ ◇ ◇
昼寝から目覚めたらソースの匂いがした。 焼そばを買いに行っていた姉ちゃん
たちが戻ったのだろう。 と考えて目を開けたら、午後の部開始の5分前だった。
「 蒼は何か食べた?」 「 いえ、食べたら帰りに吐きそうだと言って・・・ 」
「 ・・・そう 」 答え乍ら俺を見る姉ちゃん。 仕方ないじゃん、事実なんだし。
・・・・・・・・・
でも、心配そうに見てるよなぁ。 昂輝も適当に誤魔化してくれてもいいのにね。
この融通の利かなさが昂輝最大の欠点だろう。 優しい嘘ってのを知らないのか?
そんな奴にはこうだ! ・・・むーっ、むむぅー。
昂輝を睨みつけてやったら姉ちゃんに怒られた。 うん、確かにコレは俺が悪い。
元々は俺が余計な事をしたのが原因だからな。 でも相河軍団が俺のコスプレで
盛り上がっているのは微妙に納得がいかない。 誰の為に苦労してると思うんだ?
・・・・・・・・・
・・・多分、俺が苦労してるなんて、全く思ってはいないんだろうけどね。
・・・・・・・・・
ぼんやりクルマに揺られて、着せ替え遊びに付き合ってるだけなんだから。
・・・・・・・・・
それだけでフラフラになる、俺が世間一般的にはおかしいだけなんだから。
・・・・・・気にしても仕方ない。 メイドさん達に連行されてお着替えタイムよ。
そんな感じで午後の部がスタートした。
◇ ◇ ◇
帰りは俺と姉ちゃんだけが堂匡の用意したセンチュリーに乗っている。 運転は
私服に着替えたメイドさん。 運転が一番丁寧なんだそうだ。 実際に丁寧だし。
・・・・・・・・・
姉ちゃんは何も言わないけど、このクルマを用意して貰ったのは多分姉ちゃんだ。
俺がダウン気味だから、あまり疲れないクルマを出して欲しいと頼んだのだろう。
・・・・・・・・・
コスプレ大会を午前と午後の各2時間ずつに、制限してくれたのも姉ちゃんだし。
俺の勝手気儘な行動を色々とサポートしてくれている。 ホント、感謝しかない。
今も膝枕をしてくれているし。 化粧品も俺の好きな匂いを選んでくれているし。
「 KAGUYA様、御気分が悪いと感じられましたら遠慮なくお申し出下さい 」
メイドさんの声に「 大丈夫です 」と応える。 実際映研号よりずっと楽なのだ。
尤も、映研号に揺られるだけでダメージを負うのは俺だけだが。 沢瀬なんか一人
で運転していても疲労を感じないらしいのだ。 たかだか片道4時間程度だったら。
「 明日はお仕事があるんだから、休める時は休んでおきなさい 」
姉ちゃんの言葉に甘えることにする。 明日は撮影のお仕事がある。 というか
急遽簡単な写真撮影の仕事を入れたのだ。 コスプレ大会を早く切り上げる為に。
・・・本当は 30着全てを着せるつもりだった。 堂匡はそんな予定をしていた。
今日は富士宮に泊まるという前提で、明日の昼過ぎを大会終了時間だと想定して。
今の俺にとっては、無謀過ぎる程ハードなスケジュールを堂匡は考えていたのだ。
・・・・・・・・・
堂匡も俺の身体の弱さは知っている。 ただ堂匡の知っている俺は2年前の俺だ。
2年前だったら、その程度なら大した負担にはなっていなかったという事になる。
堂匡は、その程度には気遣いが出来る爺さんなのだ。
ただ俺が、堂匡の想定以上に弱っていただけなのだ。
・・・・・・・・・
眠ろう。 帰ったら、明日の撮影と勉強会の為に五十嵐たちが待っているのだ。
ひと眠りすることで、多少は元気が回復すればいいいのだが。
疲れた顔を見られるのは、正直気持ちいいものじゃないから。
◇ ◇ ◇
家に着く頃にはかなり楽になっていた。 途中で二回SA休憩を取ったそうだけど
全く記憶に無い。 かなり熟睡していたらしいのだ。 姉ちゃんには申し訳ない。
そして加藤さん、俺たちを送ってくれたメイドさんだけど、家に泊まっていく事に
なった。 戻れば日付が変わることになるので「 泊まっていけば?」と誘ったら、
『 KAGUYA様と同じベッドでしたら 』とか言うので「 いいよ 」と云った結果だ。
目を覚ましたのはいつも通りの6時過ぎ。 加藤さんは俺を抱き抱える様にして
眠ったままだ。 目の前にはデカいおっぱいがある。 形も大きさも姉ちゃんの
モノに似た立派なおっぱいに、昨夜感じた違和感の再確認を行う。 やはり違う。
見た目はよく似たおっぱいなのに、頭を押付けた時の反発力が明らかに違うのだ!
・・・おっぱいも奥が深いのだと感じさせられた。
おっぱい道の深さを噛み締め乍ら部屋を出て洗面所に向かう。 そして顔を洗った
後に、俺の着替えが置かれてない事に気付いた。 珍しい事もあるものだと思った。
生れる選択肢は二つ。 面倒だからパジャマのまま、もしくはジャージに着替える。
朝一番から難しい選択に迫られたが、取り敢えずは廊下に出る。
廊下に出たら笑い声が聞こえて来た。 食堂から聞こえて来る野太い声に違和感を
感じる。 知らない様な、聞いたことがある様な。 確認の為に食堂に足を運ぶ。
「 やあ、今日も可愛いねKAGUYAちゃん。 朝からお邪魔してるよ 」
聞いたことがある筈だ。 髭社長だった。 あと、ひょろPに友利姉さん、そして
知らない人が姉ちゃんと一緒に食卓を囲んでいた。 そういや朝から仕事だった。
ということで、姉ちゃんに促されるまま空いた席に座る。
テーブルに並ぶ料理は田辺が作ったモノだろう。 「 にゃべは?」 聞いてみる。
「 まだ寝てる子たちの食事を用意した後、二度寝に入ったわよ 」
まだ寝てる子、沢瀬に五十嵐、そしてにやこたすーだろう。 あっ、後は加藤さん。
昂輝は夕食を食べてから直ぐ、10時頃に帰って行った。 泊まってけばいいのに。
俺は帰宅後直ぐに風呂に入って寝た。 そういや昼も夜も食べず仕舞いだったな。
・・・・・・・・・
せめてカロリーブロックだけでも、頑張って入れるべきだったかな? 少し反省。
等と考え乍ら、俺の前だけに置かれた一人用土鍋の蓋を取る。 予想通りおじや。
考えてみたら、俺って、田辺にも苦労を掛けてるよなぁ。
そんな田辺にお礼をしたくても、沢瀬と五十嵐の猛反対で出来なかったんだよね。
・・・・・・・・・
田辺の一番の望み。 それは俺が昂輝と中根の二人に押し倒され、責め抜かれる事。
中根を呼び出そうとしたら、二人に無茶苦茶怒られたんだよな。 あと、昂輝にも。
・・・何で怒られたんだろ? 別に減るもんでもないのに? 不思議よね?
なんて考えている場合じゃないな。 温かなおじやを木のレンゲで掬って口に運ぶ。
あっさり昆布カツオ出汁で作られたタマゴたっぷりおじや。 細かく刻まれたコレ
は豚肉だろうか? うん、匂いで判る。 豚肉だな。 姑息な真似をしやがって!
・・・・・・・・・
でも脂っぽさは抑えられているから、炙ってあるのだろう? 手間が掛かっている。
・・・うん、そこそこ食べ易い。 味も肉の割には問題無い。 流石は田辺だな。
「 あの、KAGUYAさん、食べ乍らで構いませんので、お話宜しいでしょうか?」
知らない人が話し掛けて来た。 そういや今日の仕事って何なん? てか、誰?
「 あっ、私は小説プレアデスの山武と申します。 今日は読書家としても有名な
KAGUYAさんの、読書遍歴や読書観なんかをお聞かせ願いたいと思いまして 」
知らない人の言葉に驚かされる。 キタローも恵海姉さんも出版関係の会社なんか
持っていないのだ。 なのに何でKAGUYAの仕事に出版社が絡んで来るのだろう?
「 KAGUYAプロジェクトへの参入企業が増えているんだよ。 雄英社さんも
その内の一社で、予定を変更して貰えた、ただ一社のクライアントなんだ 」
髭社長の言葉にしぶしぶ納得する。 そういう事なら仕方ないので質問に答える。
「 読書遍歴だけど・・・後で俺の書斎を見て貰えれば判るんじゃないかな?
そんで読書観、というか俺が本に求めているのは知識と意識の継承だけ。
小説プレアデスだったよね? 悪いんだけど、俺は小説を読まないんだ 」
ホント、悪いんだけどさ、読書イコール小説を読むじゃあないんだ。 寧ろ小説は
少数派でしかないんだよ。 出版される本の七割は小説でも漫画でもない非娯楽本
なんだよ。 一冊当たりの販売数が少ないから、それが目立たないだけなんだよ。
「 えっ? 小説は読まないの?」 知らない人さんは吃驚だ。 髭社長さんらも?
大体こんな反応をされるんだよなぁ・・・何故か本を沢山読むイコール小説を沢山
読むって思われがちなんだよ。 ホント、一体何なんだろうね? この謎現象は?
◇ ◇ ◇
スタイリストも兼ねた友利姉さんに、クローゼットの中で服を選んで貰っている。
いつの間にか沢瀬が横に居てカメラを構えている。 ホント、いつの間にかにだ。
・・・・・・・・・
他の連中はまだ寝てるとのこと。 昨夜はかなり遅く迄盛り上がったらしいのだ。
何で盛り上がったのかは知らんし、知りたくもない。 多分はろくでもない事だ。
友利姉さんはかなり迷っている。 良さそうなのが無いのではなく、逆に多過ぎて
選べないらしいのだ。「 だったらジャージで!」は速攻で却下されてしまったが。
髭社長とひょろP、そして知らない人の三人は、姉ちゃん立会いの下で俺の書斎に
入っている。 どの本を幾つ位で読んだのかは、姉ちゃんから聞いているだろう。
衣装が決まった頃には全員が揃っていた。 時刻は既に8時過ぎ、知らない人だけ
本来予定していた仕事の為に帰って行った。 俺に月間小説誌とお薦め小説を毎月
送ると言い残して。 可能なら読んで感想を聞かせて欲しいという希望も添えて。
・・・・・・・・・
俺の都合の為に、早朝から時間を割いてくれたという事だ。 善処するしかない。
・・・のかな? 正直よく判らん。 面倒事が増えてばかりな気がするんだけど?
ホント、何でかな?
まぁいい、今は云われた通りに本を読むだけ。 本を読む姿を撮るだけらしいのだ。
簡単と言えば、本当に簡単過ぎる撮影だ。 手にした本の頁を開いて目を落とす。
目で文字を追っていく・・・意識が本に同化していく。
深く・・・何処までも深く・・・
・・・・・・・・・
読み掛けだった本を読む。 そうしていただけで写真撮影は終わっていたらしい。
本を閉じた時には三人共姿を消していて、時計を確認すれば10時半になっていた。
時計を確認していたら声が聞こえて来た。
「 五十嵐さん、コレこそ蒼君が常々言っている集中するという事です。 本当に
集中したら周りから音が消え、景色も消える。 コレが蒼君の勉強法なんです 」
「 コレは・・・確かに凄いわね。 美倉? 今は聞こえてる? みたいね。
どうやったらそんなに集中することが出来るの? 何かコツでもあるの?」
コツとか聞かれてもなぁ? 何かする時に集中するなんてのは普通でしかないし?
俺からしたら、集中せずに何かを出来ることの方が解からないんだよ。
映研号は :058を参照、色はクリーム色。 姉ちゃん号は017を参照。
読書遍歴 :作者の読書遍歴は、十代は古本屋で捨て売りされていた純文学の
文庫本と図書室図書館で読み漁った歴史の本が殆ど、後は漫画。
二十代は歴史・自然科学メインで政治や宗教を少し程。後漫画。
娯楽小説を読むようになったのは、三十台も半ばを過ぎてから。
娯楽本は絵の魅力も付加された漫画だけで十分と考えてました。
漫画以外は堅い本ばかりを読んでいた堅物(?)だったのかも?
この謎現象 :ホント、全くコレ。 何故か本といえば小説だって思われ易い。
どんな作家さんが好きですか? とか。 本って本来知識を求めて
読むモノだった筈なのに? いつの間に娯楽メインになったの?
集中せずに :集中しないと疲労感に押し潰されて、何も出来なくなるのです。




