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058_折衷案?

前日より10℃も気温が下がったりする季節の変わり目。 風邪をひいて頭痛が。

考えてみたら、この時期を寝込まずに過ごせたことって一度も無い気がします。

仕事で少し寒い場所へ出張に行ったくらいでも、確実に寝込んでいたと思うし。


ということで、本話執筆中も丸二日&前後半日ずつ、計三日寝込んでしまった。

帝山には通常授業の他に、平日放課後に行われる二時間の平日特別講習と、土曜日

に行われる最大八時間(午前午後各四時間で一方のみ受講も可)の休日特別講習、

及び長期休み中に行われる長期特別講習(各日土曜日と同じ)の補習授業がある。


更にこれら三種の特別講習に加え、担任教師が認めた場合に限り日曜日の臨時講習

を受講することも可能だが、臨時講習を希望する生徒が平成以降は一人も居らず、

臨時講習制度そのものが、学園規約内にのみ存在する制度となってしまっている。


これらの特別講習は赤点取得者に対するソレとは異なり、各自が任意で受講を選択

出来るものである。 各特別講習は前以ての予約が必要だが、予約さえすれば学年

に関係なく、各自が必要とする講習を無料で受講することが出来る。 その必要性

すら学力診断テストに拠って、最適な受講スケジュール表を作成して貰えるのだ。


・・・・・・五十嵐は、その最適化されたスケジュール表をガン無視しているが。


ガン無視して、自分に都合のいい時間に行われている講習にのみ参加しているが。


・・・・・・・・・


それでも、全ての特別講習をスルーしていた1・2年の頃よりは、マシになったが。


「 GW終盤は、何処に行こうか?・・・なんて言ってる状況ではないのでは?」


冬休みに、何処に行こうか? なんて言い出すよりはずっとマシだと思うけどさ。


学力診断結果のスケジュール表では、特別講習を九割以上受講推奨なのに、土曜日

のみの受講では、三割弱程度では、志望大学への進学はほぼ無理ではなかろうか?


・・・・・・・・・


それに一昨日(おとつい)遠足で遊んだばかりなのに、明日からの三日間も遊ぼうというのか?

この合格圏内に程遠い位置で足踏みしてるだけの、前に進もうとしない受験生は?


「 美倉の云いたいことは解かるわよ。 でも私は勉強と遊びの両立が理想なの。

  遊ぶ時には遊ぶ。 勉強する時には勉強する。 そのメリハリを付けたいの。

  私の考えではGWみたいな長期休暇は半分遊んで、半分学ぶ。 計画的にね!」


・・・五十嵐の主張が、俺にはよく解からない。


人間の能力には限界がある。 特に脳においてそれは顕著だ。 だから選択する。

物事の優先順位を明確にして、優先事項に気力と体力を集中する必要があるのだ。


あれもこれもと、二兎も三兎も追ってしまえば、脳に余計な負荷を掛けるだけで、

作業効率を悪化させて、気力も体力も無駄に消費させることになってしまうのだ。


勉強と遊びの両立が理想・・・半分遊んで、半分学ぶ・・・計画的に・・・か?


結局は遊びを優先させて、ついでに勉強もするわよ! と云っているだけだろう。


・・・・・・・・・


『 人生は如何に遊ぶかが重要なの!』と豪語する五十嵐らしいといえばらしいが。


・・・そして、それが正解なのかも知れないが。


考えてみれば強要された勉強なんて、効率が悪過ぎて殆ど時間の無駄になるのだ。

必要に促され、本人に自覚が芽生える迄は、何を云っても無駄かも知れないのだ。


だから、これ以上の口出しは止めようと思った。 そんな必要は無いとも思った。


・・・五十嵐には、十分な時間があるのだから。


失敗してもやり直せるだけの時間があるから、失敗を恐れる必要なんか無いのだ。

失敗を貴重な経験として、糧として、より強く、大きく伸びればいいだけなのだ。


下手に最短距離を走らせたら、貴重な経験の機会を奪う事にもなりかねないのだ。


・・・・・・・・・


俺には俺の正解があり、五十嵐には五十嵐の正解がある。 ただそれだけの事だ。


「 そんなら何処にしよ「 五十嵐さんのお母さんは、ソレをお認めなんですか?」


俺が遊びモードに移ったら、全てを薙ぎ払う沢瀬の一撃が五十嵐を完全にKOした。




   ◇ ◇ ◇




こんなものは欺瞞にすらなっていないのではないか? そんなことを思ったのは、

正月三日に顔を合わせた、五十嵐(母)の厳粛な佇まいが脳裡に蘇ったからだ。


勉強か? 遊びか? この二択で五十嵐が選択したのは勉強合宿という隠れ蓑だ。


・・・・・・・・・


そんな詭弁を鵜呑みにする様な甘い母親ではない。 恐らくは試されているのだ。

合宿で何をするかは本人に任せて、きちんと結果を出すのかを試されているのだ。


次の定期試験で十分な成績を残さなければ、何らかのペナルティが発生するかも?


・・・・・・・・・


例えば部活の強制退部だとか、ゲーム機を全部封印されるとか、小遣い抜きとか?


「 一流大学に進学出来なかった場合は、強制的に結婚させられる可能性も否定

  出来ませんね。 五十嵐の御令嬢が二流大学というのは考えられませんので 」


俺が現実味の高そうな想定をしていたら、沢瀬が真顔で超特大の爆弾を投下する。

そしてコレも現実味が高いのだ。 多分は先の三種混合ペナルティと同程度には。


「 結婚させられるくらいなら家を出るわよ! 美倉の奨学金を遣わせて貰って!」


・・・それはいいが、帝山で百位以内ってなると普通に一流大学合格レベルだぞ?


・・・・・・・・・


堂々巡りは時間の無駄だから、これ以上は何も言わんが。


「 ・・・最悪、美倉んちに居候させて貰えたりは?」


「 それは姉ちゃん次第だけど・・・云っとくが姉ちゃんは俺以外には厳しいぞ 」


姉ちゃんに認められるには昂輝や沢瀬レベル、東大や京大なんか楽勝レベルの能力

が要求されるが? 田辺も最近は学年150位以内に入ったし、シェフレベルの料理

スキルと、商業誌デビューも可能なレベルの漫画スキル迄を兼ね備えてるんだぞ。


「 「 瑠香ちゃん凄いです、頑張りましたねぇ!! 」 」 「 はい頑張りました!」


にやこたが胸を張る田辺を褒めて、五十嵐と江澄さんが目を丸くして驚いている。

多分は学年順位に驚いたのだろう。 ブービーを争っていた昨年からの急成長に。


「 私より悪かったのに・・・150位⁉」 「 あのさ、勉強ってさ、コツなんだよ 」


驚く五十嵐に説明してやる。 大切なのは時間よりもコツなのだと。 人それぞれ

自分に合った勉強法を見つけることが成績アップの近道なのだと。 ソレに基づく

独学こそが最良の勉強法なのだと。 ・・・ん⁉ お前に合った勉強法を教えろ?


「 そんなん判る訳ないだろ。 俺はお前自身じゃないんだから 」


「 ちぇ、解かったわよ。 ソレは自分で見つけなさい! てことでしょ?

  でも何で今そんな話をするのよ? これから楽しく遊ぼうかって時に?」


そんなもん決まっている。 遊び始める前に自覚を促す為だ。 帰ってから勉強を

する余力を残すように、ある程度セーブして遊ぶ必要がある事を自覚させる為だ。


・・・・・・・・・


何といっても脳はデリケート。 疲れた状態だとまともに働かなくなってしまう。

乍ら勉強も時間の無駄だが、同じ位に時間の無駄なのが疲労状態での勉強なのだ。


俺たちがそんな口論を始めたのは、近くの散策程度に留まらずに、ガチで遊ぶ気

満々で、遊園地に乗り込んだ五十嵐に対する軽い牽制であり、警告だったのだ。


疲れた状態での勉強程下手な勉強法は無いという、俺なりの優しさだったのだ。




   ◇ ◇ ◇




遊びも勉強もと欲張る五十嵐が出した結論は勉強合宿。 非日常感を求めて俺んち

でなく、和歌山の映画セットを使うことにした。 セットというよりもスタジオと

呼んだ方が適切な建物で、別荘代わりにも使える場所が普段から空いているのだ。


阪和道湯浅ICを降りて山側に10分程進んだ場所に在る巨大倉庫・・・風の建物。

中は西洋宮殿風のホテルといっても遜色ない造りとなっており、居住性は抜群だ。


撮影が終わった今、解体でなく改装待ちの状態。 将来的に《眺富の会》関西拠点

として利用するつもりらしい。 軽井沢・鎌倉・有明に次いで4番目の拠点になる。


周りに娯楽施設の無い、勉強に集中するには最適なこの建物を合宿場所に選んだ。


クルマが無ければ、コンビニにさえ行けないこの建物を、合宿場所に選んだのだ。


・・・・・・・・・


それなのに、態々(わざわざ)20キロも離れた和歌山市迄、遊びに来るとは思わんかったよ。


まさか沢瀬が、運転免許技能試験一発合格で免許を取得したとは思わんかったよ。


まさか映研部の予算で、10人乗りハイエースを購入していたとは思わんかったよ。


・・・・・・・・・


まさか姉ちゃんが仕事で同行出来ないこと迄、計算していたとは思わんかったよ。


「 確かに周りに娯楽施設も無いし、免許を持ってる姉ちゃんは同行してないし、

  ゲーム機を持参することもなかったけど、肝心なのは結果だろうと思うんだ 」


「 五十嵐さんの事だから、遊ぼうが遊ぶことが無かろうが、結果は同じですよ 」


和歌山市と海南市の境界にある、欧州の古い街並みをモチーフしたテーマパーク。

五十嵐たちはワンデイパスをフル活用すべく、アトラクションを暇なく渡り歩き、

俺と沢瀬の二人は園内のベンチでのんびりと寛いでいる。 作り物だが悪くない。


変にファンタジーを意識せず、古い街並みを再現しているだけだから自然なのだ。

雰囲気が自然だから違和感を感じさせることが無く、のんびり気分に(ひた)れるのだ。


・・・そんなのんびり気分に、少し(もや)をかけるような言葉を沢瀬は口にするのだ。

『 結果は同じ 』・・・確かにその通りだろう。 全ては本人のやる気次第なのだ。


「 でも望まない結婚なんてなぁ・・・将来設計の(さわ)りにしかならないと思う 」


「 大丈夫ですよ。 五十嵐さんなら、嫌な事からは何としても逃げますので 」


沢瀬が自信満々に語る。 なら何で危機感を煽る様な発言もするんだ? 意地悪?


「 蒼君相手ならともかく、五十嵐さんに意地悪をする理由なんかありませんよ。

  私たちが五十嵐さんに出来ることが、危機感を煽って自覚を促す事なんです 」


成程、俺には意地悪をする理由があると? まぁそれはどうでもいいけど、危機感

を煽ったら、それがプレッシャーになってしまうんじゃないの? そこは大丈夫?


「 五十嵐さんなら大丈夫ですよ。 蒼君と違ってポジティブ思考ですからね。

  寧ろポジティブ過ぎる位だから、外から圧力を掛ける必要があるのですよ 」


半分納得、半分疑問。 確かに五十嵐はポジティブ思考だが、打たれ弱さを感じる

時もあるんだ。 大抵は俺の身体が原因なんだけどね、直ぐ泣きそうになるのよ?


「 五十嵐さんは他人の事には繊細ですが、自分の事だと至って大らかな・・・

  というか大雑把な性格をされてますよ。 蒼君をポジティブ且つアクティブ

  な、健康的な思考の持ち主に変えた様な、そんな感じで根は強靭な方ですね 」


う~ん、そういうものなのかなぁ? いや、意味不明な図太さとか無神経さなんか

を感じる時もあるけどさ? でも何か華奢なイメージが有るんだよね、五十嵐って。


姉ちゃんとか沢瀬とか田辺とかに比べたら・・・あと櫻崎先輩とか鹿原先輩とか?


・・・・・・・・・


比較対象が豪傑過ぎるだけなのかな?


「 今、何か言いましたか?」 「 うんにゃ、何も言ってないよ(思っただけ)」


「 ・・・別に構いませんが、とにかく五十嵐さんの心配は要らないと思いますよ。

  蒼君とは違って、肝心な処で寝込んで動けなくなることは無いと思いますので」


・・・そうなんだよね。 俺はソレがあるから、十全な準備を整えたがるんだよね。


最悪(物理的に)逃げればいいと思っていたら、余裕も生まれるってもんだよね。


・・・・・・・・・


それにしても、言葉の端々で俺をディスっている様に思えるのは気のせいかな?


・・・それとも意地悪なのかな? 俺には意地悪される理由があるらしいから?


・・・・・・・・・


まっ、別にいいか。 気にしても仕方ないし。 沢瀬の意地悪はいつもの事だし。




   ◇ ◇ ◇




案の定だった。 初日は全く勉強しなかったらしい。 らしいというのは、俺だけ

が早々に寝てしまったからだ。 早々とはいっても普段通りに11時就寝なのだが。

規則正しく毎日を過ごすことが身体に優しい、一番負担が少ない生活習慣だから。


「 そんで・・・何時迄ゲーム大会をやってたのよ?」 「 ・・・5時 」


いつも通りに起きた俺が朝の散歩から戻った時にも、五十嵐たちは寝ていたのだ。

五十嵐ではなくて、江澄さんが持ち込んだゲーム機で夜を徹して遊んでいた為だ。


・・・・・・・・・


ちなみに今は朝の9時で、散歩から戻ったのが8時だ。 当然朝食も済ませている。


・・・俺たちゲーム嫌い組の四人は。


「 このまま休んでおきますか? 私たちは今から湯浅の街に出掛けますけど?」


寝ぼけ眼の五十嵐に沢瀬が声を掛ける。 既に出発予定時間になっているからだ。

沢瀬だけでなく昂輝は伊藤に、仁宮さんは田辺たちに、それぞれ声を掛けに行く。


俺は勉強用に振り当てられた大部屋で、学園サーバのデータを基に作成した各自の

学力チャート表に目を通している。 予想通りヤバいのは五十嵐と江澄さんの二人。


この二人専用の模擬試験集を業者に作成して貰うことにした。 本来なら本人が

学園に申請して作るものだが、この程度のおせっかいなら許されると思ったのだ。

それに学園を通すと二週間は掛かるが、直接発注すれば三日で出来ると思うのだ。


俺が発注を終えると沢瀬たちがやって来た。 30分後に此処を出発するとのこと。

寝不足軍団も湯浅の街には行きたいらしくて、急いで準備をしているのだそうだ。




   ◇ ◇ ◇




湯浅の街は2006年に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、更に住民の積極的な

協力もあって、嘗ての醤油の街から魅力的な観光地へと変わりつつある街である。


この重要伝統的建造物群保存地区というのは全国に129箇所しかない。 というか

129箇所もあると考えるのかは判別し難いが、城下町や宿場町といった古い街並み

が好きな人間には堪らない、長い歴史が刻まれた場所が選定されているのである。


129箇所全てを観たいと思っている俺には、是非とも観ておきたかった街なのだ。


ちなみに福島県の大内宿や、岡山県の倉敷美観地区も同保存対象に選ばれている。


・・・・・・・・・


残りは124箇所か・・・来世に期待するしかないな。

遊園地    :ポルトヨーロッパを想定。 和歌山の映画セット(スタジオ?)

        近くにある娯楽施設はそれくらいかも? 個人的には湯浅の街と

        白崎海岸の方が魅力的だと感じますが。 共に穴場かと思います。

        勿論茜の映画セットは架空の建築物で似た物も存在しませんが。


意地悪される :蒼が五十嵐の事ばかり気に掛けるのが面白くないらしい。


直接発注すれば:様々な審査・承認が省けるからですが、かなりの権限が必要。


129箇所   :作者は38箇所を周りました。 イチ押しは郡上八幡で二番目が

        妻籠宿(&馬籠宿)、三番目が白川村(白川郷)、四番目が彦根

        か倉敷でしょうか? あっ! 長崎が抜けてた。 長崎は別格で。

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