054_甘えるな!
前話を執筆中、実際に今年の湯布院はどうなんだろう? と考えてました。
果たして湯布院の魅力が復活したのか! 或いはやはり騒がしくて・・・。
尤も、九州に行こうと思う程の元気は有りませんが。 九州どころか、寿司
や蕎麦を求めて福井に行こうとすら思えない状態です。 福井もいい処ですよ。
具体的には三方五湖と越前大野が好きですが、東尋坊や九頭竜湖もなかなか。
これはもう予想通りというよりも、最早予定通りといった方が適切かも知れない。
それ程迄に周囲を驚かせることがなくなった俺の悪癖。 イベント後の寝込み癖。
一週間も寝込んでしまった。 入院しなかっただけマシだったと思う事にしよう。
・・・・・・・・・
明日からは新学期。 高校・いや、学生生活最後の一年。 気合を入れて行こう。
・・・入学式をドタキャンした事なんかは忘れて。
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新学期といえば始業式だが、実は俺、こういう行事には殆ど参加したことが無い。
季節の変わり目や長期休みの終盤は確実に寝込むという困った習性と、朝の弱さが
その原因だ。 貧血気味な低血圧には朝礼程過酷なものは無い。 ソレの長尺版で
ある始業式とか終業式なんか、得るモノの無い苦行でしかない。 だからサボる。
でも今年はサボれないだろうな。 なんせ年初早々の始業式を欠席したのだから。
流石に連続欠席は気が引ける・・・と思っていたら、なんと学校側からサボっても
いいよ! と黙認されたのだ。 ちょっと信じられない? 正直言って助かるけど?
沢瀬に聞いた処、教職員の一部に『 二度と美倉を演壇に立たせるな!』なんて声も
あるらしいのだ。 俺、なんかやった? どうでもいいけど。 単純に有難いし。
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そんなことで明日から新学期で、始業式が有るらしいのだ。
◇ ◇ ◇
入学式同様に生徒代表の挨拶は伊藤に任せて、俺は映研部室に居る。 教室よりも
リラックス出来るし、お茶とお菓子も有るからだ。 でも遊んでいる訳ではない。
仁宮さんから入学式の日にあった、ちょっとしたトラブルの話を聞いているのだ。
「 何を云いたいのか判らんな?」 「 ただの癇癪だと思います 」
仁宮さんの結論はかなり辛辣に思えるが、沢瀬も首肯している様に的を射ている。
実際、俺も同意見だし。 それにしても、中学生ってここ迄思考がお子様なのか?
・・・そんな風に思えて、ため息を吐いてしまう。 気分転換にお茶でも飲もう。
「 近いうちに、ひょっとしたら今日かも知れませんが、また来ると思います 」
「 暇なのかな? いや、暇なんだろうなぁ・・・」
そうでなければ態々来ないだろう。 中等部から近いとはいえ5分は掛かるのだ。
そう、中等部からの来客。 中等部の生徒会長さんが態々出向いて来て苦情具申を
行ったらしいのだ。 伊藤に。 本当は俺を訪ねて来たらしいのだが、不在だった
ので会長代理の伊藤に噛みついた後『 また来ます 』と吐き捨てて帰ったそうだ。
苦情の内容は予想していたものだが手段が悪い。 完全にお子様の癇癪でしかない。
”中等部から高等部に進めなかった生徒が例年より遥かに多い!” という、新入生
の学力水準向上が示された喜ぶべき状況に、いちゃもんを付けに来たらしいのだ。
「 それで、伊藤は何と言って追い払ったの?」
「 理事会の決定事項に対する苦情は理事会に伝えるべきだ、と言ってましたね 」
無茶苦茶正論。 正論過ぎて突っ込み様が無い。 そう云われて『 また来ます 』
ということは、自分が望む言葉以外は聞く気が無いという事だ。 つまりは馬鹿。
馬鹿だから下駄を履かせて貰っていて尚、合格ラインに届かない様な生徒が入学
したらどんな事になるのかが想像出来ないのだ。 小学生でも判りそうなのに?
馬鹿を相手の対策なんか、検討する時間が無駄なので出たとこ勝負でいいだろう。
◇ ◇ ◇
案の定というか、他にやることが無いのか? 新学期初日から馬鹿がやって来た。
しかもアポ無し。 馬鹿だから仕方ないと考えるべきかも知れないが、少し酷い。
で、その酷い馬鹿。 見た感じは馬鹿っぽくないの。 寧ろ馬鹿には見えないの。
見た目だけなら知的な美少女に見えなくも無いんだけど・・・俺の周りと比べたら
少しばかり、というか・・・かなり分が悪いかも知んない? 実際どうなんだろ?
後で美少女大好き沢瀬の感想を聞いてみるとか?
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いや、そんなことよりも、こいつを早く追い返すとするか。 邪魔でしかないし。
ということで、先ずは軽いジャブを打ってみる。
「 こちらの都合は考えなかったのか?」 「 逃げられるかも知れませんので 」
流石は馬鹿。 回答も馬鹿過ぎる。 逃げられるという発想そのものがおかしい。
逃げるも何も、こちらは応対してやる義理も道理も無いのだ。 そこを指摘する。
「 義理も道理も無いとはどういうことでしょうか? 実際に貴女の発案が原因で
高等部に進めなかった卒業生が48名も居たのですよ! 殆どが赤点なんか一度
も取ったことの無い優秀な方で、例年なら確実に高等部に進めていた筈です 」
・・・面白いなぁ。 何でさっきから顔を正面に向けず、斜めにして話すんだろ?
しかも腕を前に組んで。 一般的に腕を前に組む所作の意味するものは、軽い不安
の表れなんだけど・・・ひょっとしたら小心者なのかな? いや、何か違うかも?
・・・・・・・・・
あと、話始めにブリッジの処に指を当てて眼鏡を持ち上げるのは癖なんだろうか?
さっきから、話す度に同じことをしてるのよ? 眼鏡がフィットしてないのかな?
と、いけない、面白がってる場合じゃないわ。 何かこの子苛立ってきたみたい?
・・・さっさと追い返すとしよう。
「 今年の新入生はレベルが高いということだ。 名門復活の兆しが見えて来た
という事で実に喜ばしい事だと考えているが? 中等部の方では違うのか?」
「 新入生がハイレベルな事も名門復活も、共に素晴らしい事だと考えています。
ですがそれで、私たちの権利で在る高等部への進学が阻害されるなんてこと
は絶対に許されないと、絶対に承服出来ないことだと考えています。 問題
はそこなのです。 在るべき権利が同意も無いままに奪われたという事です 」
そう言った後、例の眼鏡持ち上げから静かに目を閉じて口角を上げるバ会長さん。
どことなくドヤ顔っぽいけど、自分が口にした言葉の内容を理解出来てるのかな?
・・・聞いてるこっちが恥かしくなってくるんだが。
沢瀬なんかハッキリ判る程に肩を震わせているし、険悪な表情をしていたにやこた
は下を向いて震え出した。 多分は笑いを堪えてるのだと思う。 他のメンバーも
似たり寄ったりな状態だ。 そんな状況をバ会長さんだけが判ってなくて、バ会長
さんのお連れ、大人しそうな女子二人組は場の雰囲気に少しばかり狼狽えだした。
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なんというかね、このバ会長さん、馬鹿から可哀想な子に格上げ? 又は格下げ?
そんな感じになったから、生徒会室の雰囲気が一気に和やかなものになったのよ。
「 バ会・じゃなくて眼鏡会長さん、君は基本的な処で勘違いをしてるんだけど?」
「 バカ? それに眼鏡会長って何ですか⁉ 私には鈴宮凛という立派な名前が!」
・・・ボソッ『 あの、会長・・・まだ自己紹介してませんよ 』
眼鏡会長お付きのひとりが小声で話したのだが、残念なことに生徒会室は防音性
に優れており、且つ室内がとても静かだったので小声でも全員に丸聞こえだった。
( クスッ ) 今誰か失笑した。 誰でもいいけど。 心では全員が爆笑だから。
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そうなのだ。 お互いにまだ自己紹介を済ませていないのだ。 俺としては最初
の煽り文句を、軽く流し気味に謝罪し乍ら相手が自己紹介。 それに応えて俺も
自己紹介をするという想定だったのだ。 ゴングを待たずの殴り合いになったが。
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殴り合いというよりは、相手が大振りパンチを空振りして足をもつれさせ、勝手
に転んで最初のダウン、そしてコーナーブレイクという形になってしまったが。
・・・俺、こんな子に追い打ち掛けなきゃならんの? 気が引けるんですけど?
既にPC操作による隠し撮りから、いつものプロユースカメラによる撮影に戻った
沢瀬の様子を窺うと、『 GO!』といわんばかりのハンドサイン。 容赦ないわぁ。
仕方ない。 可哀想だが早く帰って貰おう。 何かお菓子でもあげて。
「 眼鏡ちゃんの勘違いを説明するけど、中等部の生徒に約束されているのは、
君たちが”権利”と呼んでいるものは、高等部に無条件入学出来るなんてこと
じゃなくて、高等部入学に有利な日本一の教育環境とカリキュラムなんだ 」
俺の言葉に中等部の三人が目を丸くする。 知らなかったようだ。 本当に何で
こんなのが生徒会を構成してるんだ? 雑用係といっても限度があるだろうに?
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仕事熱心なポンコツが一番扱き使い易いという発想で選ばれたのだろうけどさ?
「 日本一の教育環境というのは、高等部同様に日本一充実した教育設備に加え、
希望次第で様々な特別講習を受講出来るという、塾要らずの恵まれた環境の
ことで、カリキュラムというのは、これはオフレコでお願いしたいんだけど、
高等部の入試問題は、百パーセント中等部の教育カリキュラムに沿って作成
されているということなんだ。 つまり、中等部で学ぶ内容を百パーセント
理解出来ていれば、それだけで入試問題が百パーセント解けるという事だね。
これって、他校の生徒に対する圧倒的なアドバンテージになっているんだよ 」
理解の程は知れないけど、一応三人共首肯しているので言葉を続けることにする。
「 他にも内部進学者が有利な点として、内申評価と面接の免除が有る。 帝山
は内申でも面接でもプラスの評価はなくて、マイナスのみを評価している。
いってしまえば問題児かどうかを判断しているだけだが、それが免除される
んだよ。 尤もこの二点に関しては、殆どの場合で合否に影響しないけどね 」
やはり三人共首肯している。 この二点は分かり易いから問題無いだろう。
「 そして最後にもうひとつ、俺の改革提案以前から理事会で問題視されていた
内部進学者優遇制度が有る。 単純に入学試験の結果に対する特別加点だ。
具体的には教科毎に最大15点も加点されるのよ。 百点満点に於ける15点。
・・・実はこの加点は昔からあったものではなくて、平成期、バブル崩壊後
に、比較的裕福な内部進学者を取り零さない為に、追加されたものなんだ 」
これに関しては、理事会関係者にしか公開されていないので、この場の殆どが
驚いた表情を見せている。 多分は昔から在る制度だと思っていたのだろう。
「 この特別加点制度の適用時期と、帝山の評価が下がり始めた時期とでは、
ほぼ合致しているんだよ。 その点が理事会でも問題視されていたんだ。
考えてみたら当然でしょ? 試験問題そのものが内部進学者有利に作成
されているのに、百点満点で15点も加点されたらどうなるか? レベル
低下は必然だよね? それくらいは君たちも判るでしょ? どうかな?」
「 ですが、折角付属中学に入ったのに・・・」
「 そう、折角有利な付属中学に入ったのに、きちんと勉強をしなかった。
だから入試で落ちた。 それは勉強をサボった当人の責任でしかない。
そして君たちは知らないかも知れないけど、高等部ではある格差問題
が有るんだ。 付属出身者と外部入学者の学力格差という問題がね 」
「 ・・・そんな格差が?」
「 勿論個人レベルで見れば付属出身者にも成績優秀者は居る。 でも全体の統計
で見れば、成績上位は外部入学者が多数を占め、その逆に下位は付属出身者が
多数を占めているんだよ。 しかも両者の格差は学年が上がる程に大きくなる
という傾向迄あるんだ。 そして上位グループはそれなりの流動性があるけど、
下位グループは固定されがちなの。 その理由は1年1学期での学力差で諦めて
しまって、やる気を喪失したのではないか? という推測が為されているんだ 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 今、理事会が、そして学園が最大の問題と考えているのは、固定化された下位
グループなんだ。 それが学園の評価を下げる最大要因だと考えているんだよ 」
「 だから!」 考え込んでいた眼鏡ちゃんが声を上げた。 少し興奮状態かも?
「 だから?」 俺は眼鏡ちゃんの言葉を、一瞬間押し止めてから、先を促した。
「 だから成績下位の受験生は切捨てると⁉ 付属出身だから大丈夫だろうと安心
していた、例年通りなら合格していた先輩たちを切り捨てると言うのですか⁉」
「 そうだよ。 俺はそれが当然のことだと考えているし、同時にそれは理事会の、
そして学園の、学園を教育の場たらしめている教職員の総意でもあるんだね 」
「 ですが! それだと頑張って来た先輩たちは⁉」
「 反論は構わないけど論理的に話してね、感情的な意見は相手に出来ないから。
それに十分過ぎる程優遇されて尚不合格だったのは、努力不足の証明だから。
その先輩たちの頑張りが足らなかったことが、形になっただけのことだから 」
◇ ◇ ◇
なんといいますかね、とっとと追い返すことが出来なくなったんだよね。
眼鏡ちゃんたち。 だって泣きそうになるんだもん。 俺が悪いのかな?
・・・そんなこんなで、お茶とお菓子でおもてなし。
「 ふ~ん・・・やっぱりそういうことだったんだ 」 「 ・・・はい 」
事情を聞けば予想通りの答えが返って来た。 この子はいいように使われたのだ。
多数の不合格者発生で恐慌状態に陥った、未来の不合格予備軍ともいえる連中に。
ちなみにその連中の親が理事会に意見したようだけど、けんもほろろだったとか。
『 名門校の看板を下ろしても構わないのですか?』 その一言で沈黙したらしい。
単純にその親たちには、理事会や教職員が抱き続けていた危機感が無かったのだ。
「 普通に勉強するだけで済む事なのにねぇ・・・ 」 「 ・・・はい 」
泣きそうになったことで、虚勢を張れなくなった彼女たちは大人しく謙虚だった。
やや気が弱くて糞真面目。 典型的な面倒事を押付けられるタイプ。 そんな子。
かなり無理をして有能さんを演じていたようで、芝居じみた所作も多分はその為。
でも有能さんを演じようと考える時点で・・・かなり天然なのかも?
・・・・・・・・・
ともかく、そんな子が『 手ぶらでは戻って来るな!』と云われていたそうなのだ。
・・・・・・・・・
ということなので、相手の要望通り ”いいお知らせ” を持ち帰らせることにした。
・・・”悪いお知らせ” と一緒に。
「 "いいお知らせ" に "悪いお知らせ" ですか?」 「 うん、多分は初耳情報!」
少し警戒気味の眼鏡ちゃんに、敢えて軽い口調で応える。
これから聞かせる話は、当然の事だという意味を込めて。
「 先ずは "悪いお知らせ" から。 内部進学者に対する特別加点を廃止にする
ことが理事会で決まった。 毎年5点ずつ削減して、3年後には全廃になる 」
場の全員が目を丸くした。 確かに思い切った治療法かも知れないが、不要なもの
を切り捨てることに躊躇いは厳禁なのだ。 ましてや不要を超えて害毒なのだから。
「 次は不合格者を減らす為の "いいお知らせ" だ。 大量の不合格者を問題視した
理事会が、中等部教職員会にカリキュラム全体の強化を指示することになった。
具体的には赤点の基準が厳しくなるんじゃないかな? やる気が足らない生徒
に対する『 愛の鞭 』の強化だね。 実際に何をやるかは未決みたいだけど?」
高等部陣営から『 うわぁ 』という声が漏れた。 誰の声かは判んないけど?
でも "いいお知らせ" じゃん! 態々努力不足を叩き直してくれるのだから!
・・・でも二つのお知らせを、伝えなくてはならない眼鏡ちゃんの顔は真っ青だ。
大丈夫だよ。 校内も校内掲示板もMSSの監視下にあって、虐めなんかがあったら
即警察沙汰にすることを徹底しているからね。 生徒規約にも明記されてるでしょ?
そう言って彼女を安心させた後に、一言、俺からその子らへの伝言をお願いする。
「 甘えるな! 文句が有ったら直接出向いてこい! 当然アポを取ってからな!」
甘えた馬鹿に ”甘い言葉” なんか、麻薬を超えて猛毒でしかないのだ。
ソレを与えてもいいのは、活かすことを諦めて処分を決めた時だけだ。
確実に寝込む :長期休みになると、秋帆や茜が蒼を旅行に連れ出すからです。
蒼も旅行が好きで同行。 例え寝込むことになったとしても。
美少女大好き :沢瀬は映画やアニメ、漫画に小説の志向がそっち向きです。
というか、蒼が例外なだけで中級レベルの男嫌いなんです。
特別講習を :受講出来るのは高等部も同様です。 その制度が在る為に帝山の
授業時間は公立並みに少ないものになっています。 これは本物
の秀才には長時間の授業なんか寧ろ時間の無駄遣い、独学こそが
効率最高! という生徒の自主性を尊重した結果のシステムです。
特別加点 :上位合格者には適用されません。
下位の合否ライン上の生徒に対する救済措置だからです。
理事会関係者 :蒼の事業は学校運営に影響が大きく、蒼本人も関係者扱いです。




