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水琴のしらべ~謹んでお断りいたします  作者: 麒麟


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scene-06 人生はままならないものです…惚れたものの負けです!

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

夕暮れはいつの間にか夜へと変わっていた。

名阪国道から東名阪自動車道へ。

流れる車列に合わせて走っているうちに、車窓の景色は山並みから街の灯りへと変わっていく。

「テン」

「なんだ」

「腹減った」

「またか」

「果物は別腹だ」

「その理屈は聞き飽きた」

ラルドは不満そうに尻尾を揺らした。


亀山を過ぎた辺りで、天輝はサービスエリアへと車を滑り込ませる。

長距離運転というほどではないが、一息入れたかった。

駐車場に降り立つと、昼間より幾分涼しい風が吹いている。

建物からは揚げ物の香りが漂ってきた。

「おお……」

ラルドの赤い瞳が輝く。

「駄目だからな」

「まだ何も言ってないぞ」

「顔に書いてある」

しゅんとされると、どうしようか本当に考えてしまう。

残念なくらい見かけは可愛い。

「見えなくなればな…」

「! お、神通力の一つだな」

「できるのか?」

天輝は二度見する勢いでラルドを見た。

「できない」

「おい!」

「まだ神龍になっていない」

「……なるほど」


売店やフードコートには家族連れや観光客の姿が残っていた。

平日だというのに不思議だ。

コロナ禍を境に働き方は大きく変わった。

テレワークやオンライン会議が当たり前になり、平日に旅を楽しむ人も珍しくない。

アクティブな人にとっては、生活拠点を移動させながら働き続ける人もいる。

便利になった。

素直にそう思う。

家から出られなかった人も仕事に復帰できる環境が生まれた。

会社にすれば、交通費分経費の削減になったともいわれている。

人の順応力の高さに感心する。

でも、その反面、人と直接話す機会は少なくなった。

オンラインで仕事や学習ができる環境が整ったことは、本当に良かったのだろうか。

当時はそんなことを考えた。

地方に住みながら都市部の企業で働く人。

副業や複業を始める人。

フリーランスとして独立する人。

そんな生き方が増えていくのを、どこか羨ましく眺めていた。

たぶん天輝だけじゃない。

こうした変化は、様々な人の価値観にも影響を与え変えたはずだ。

でも、新型コロナウイルス感染症、それがもたらしたのは決して便利だけではない。

仕事中心の時代は、過去の遺物になり…

自分らしい生き方やワークライフバランスを重視する考え方へと流れていった。

でも会社の後輩を見ていると、大人の都合にしか感じられなかった。

結局…学生は、先生の都合でリモートでの学習を余儀なくされる。

それがもたらしたのはコミュ障という言葉なのかもしれない。

本当の障害の人は苦労しているのに、都合の良い使われ方をしている。

人と接する機会が少ないまま社会へ出た世代。

そんな彼らの口から、その言葉を聞くことが増えた。

社畜と呼ばれる働き方をしていた分、その辺は疎い。

でも家族以外の人と接していなければそうなるのも不思議じゃないことくらいはわかる。

誰かに相談するのも…

誰かに疑問をぶつけるにも…

画面越し。

人のぬくもりに触れる機会が少ないまま育ってきた後輩たちは…

コロナ禍の終わった世界で、生き辛そうにしている。

あの神職、彼女も、そんな時代を過ごしてきた一人なのかもしれない。

天輝は缶コーヒーを一本買うと、ベンチへ腰を下ろした。

こうして眺めると何となく感じてしまう。

旅の途中の人。

旅を終えて帰る人。

それぞれの時間が交差している。


スマホが震える。

奏からだった。

『いまどこ?』

一言。いきなり要件から。

きっと、運転中だと思って電話なのだろう。

出てしまってから何だが…どうしよう。

サービスエリアにいると知られれば、小言が増える。

とりあえず車まで戻ろうと足早になる。

その努力は虚しいほど簡単に終わらされる。

『寄り道禁止』

「わかってるよ」

『寄り道している』

「は~い」

『で、どうして遅いの? 高速渋滞してないよ』

「ネット情報に頼らないで」

天輝は苦笑する。

クルッとと回れ右をして売店へと向かう。

ラルドが何を食べるのかは知らないけど…とりあえずコロッケを買おう。

耳には奏の小言が騒いでいる。

こういう時はこちらの言うことはきいてくれない。

断片的に残る言葉が気にかかる。

魔素に、赤い目に、蝙蝠の羽。

何となく琴葉の説明を中途半端にしか聞いていないような気がする。

『うるさいうるさい、早く帰ってきなさい!』

理不尽な一言。

ただ言い終わって落ち着いたらしい。

「ねぇ、琴葉に変わって」

『えっ?』

「横にいるでしょ」

天輝が苦笑しながらトレーにサンドイッチを載せた。

『もしもし…先輩!元気?』

「奏を怖がらせるな」

『何もしてないし…言ってないんだけど』

「きちんと説明して」

『無理無理、怖いのに好きとかいうわけのわからない思考だもん』

「…とりあえず、もう名古屋市内に入るから」

『寄り道禁止!』

しっかりと奏の声が飛んでくる。

「はいはい」

『返事が軽い!』

通話の向こうで奏が何か言い続けている。

天輝は苦笑しながらレジへと並んだ。


車に戻るとラルドが心配そうに顔を覗き込んできた。

「なんだ?」

「疲れているぞ」

「ああ…そういうのは分かるんだな」

天輝は苦笑いをこぼす。

コンソールの上にコロッケを置いた。

「これでいいかな?」

「ほくほくだぞ…霊気も出ている」

「…たぶん字が違うぞ」

「?」

「それに上に上がるのは湯気だ」

「白い煙は霊気、黒いの魔素だろう?」

さすがに初めてが増えてきたのか不安そうになっている。

スマホが鳴る。

「わっと」

『電話切った!』

「琴葉がな」

『え…』

あまりの勢いにスマホを耳から話す天輝を見てラルドが首をかしげる。

それがスマホというものであることは知っている。

よくアスファルトという道に落として画面が割れるやつだ。

「怒っているのか?」

「聞かれてるぞ」

とハンズフリーにする。

『誰に?』

「ラルドだ! そう怒るな娘。男は浮気をする生き物だ」

「………」

天輝はポカンと口をあける。

その様子にラルドがまた首を傾げた。

『お話があります。早く帰りなさい。天輝君』

ツーツー。

「怒っているのか?」

ラルドが何が起きたのか分からないという顔で天輝を見上げた。

どう見ても悪気がない。

突っ込みどころだけが万歳だった。

「半分くらいな」

ため息交じりに返事する。

怒るのも違う気がしてしまう。

「怖いのか?」

「…少しな」

「お前…弱いな」

「お前は黙って、コロッケ食ってろ」

天輝は運転席に座りなおした。

ちょっと、ネタで出かけただけだったのに…

色々なことが一気に起こっている気がする。

特に、自分に不幸が近づいている足音が聞こえてきそうだった。

「そういえば…男は浮気する生き物だと誰に聞いた?」

「ん? 市杵島姫命様」

「…天河の主祭じゃん…」

「?」

天輝はアクセルを踏む。

ラルドはコロッケに齧り付く。

その小さな身体で、身体よりも重い物を食べる。

どこに消えるんだろう。

「その話おもしろい?」

ラルドがコロッケを頬張りながら首を傾げる。

「浮気か?」

「ああ。ちょっと気になった」

「人はつがいを替える生き物だろう?」

「いや…普通は替えない…というか稀だ」

「そうなのか?」

ラルドは本気で驚いていた。

「市杵島姫命様が人も神もしょせん…って言っていた」

「…あの女神様、何を見てきたんだ」

「ワシは、つがいの浮気喧嘩よく見たぞ」

「……何を教えてくれた?」


ラルドは、ケップッと息を吐いてから天輝を見た。

「酔ったときにしか話さないんだよね」

前置きのようにラルドは言った。

「確か…西の方の神様…雷を操る神様…これが結構浮気者らしい」

「へぇ」

「人間の娘を見つけては子を授け、英雄を増やしていくらしい」

「英雄ね」

「ぶらっと街を散歩して、相手を決めて、暗くなると寝室に入るんだって」

「……夜這い?」

ぽつりと言葉がもれる。

「知らない。でも、1年近くするとお腹が大きくなるんだって」

「迷惑だな」

「そのたびに、奥さんに追いかけまわされるのに…」

「奥さん?」

「姿を変えれるから、神出鬼没? 雷のおっさんの浮気さにも表れるとか」

「…怖いな」

「結婚の秩序を守るための過酷な嫉妬と復讐の能力があるのに…」

「なんだその懲りないおっさんは」

天輝は苦笑する。

「神様だからだ」

「理屈になってない」

「でも、そっちの方は、それが普通みたいだよ」

「お国柄ね」

名古屋の街並みがウィンドウを流れていく。

「でも、それで…?」

「10月に神たちが集まる会議…えっと人の言葉で、サミット…合っている?」

「神様もサミットなんてするのか」

「世界中の神様が集まるからな」

「世界中?」

「おう。その雷のおっさんも毎年来るらしい」

「…仕事しろよ」

「仕事の話をしてから女性神ばかり口説くらしい」

「最低だな」

「だから宗像三女神様の周りはすごい武神、闘神で固められているらしい」

「懲りてほしい気がしてくるよ。ラルド君」

「でも、恒例行事っぽいぞ。市杵島姫命様の寝所にも来たことがあるらしい」

「…国際問題にならないよね」

変な心配が湧いてしまう。

「『またですか』と笑うと帰るらしい」

「で」

「奥さんに見つかって、追い掛け回されて、バシバシされる」

「へ~」

「よく禊殿の横の川に逃げてきているから…」

「…迷惑じゃない?」

「市杵島姫命様は『また今年も懲りない御方ですね』と」

「へ~…え?」

「ん?」

「面識、会ったのかよ」

「年に一度、世界中の神々が顔を合わせる集まるからな」

「サミットね」

「おう。世界の主神が一斉に集うすごい集まりだぞ」

「神様の世界ね」

「なんじゃ、あんまり驚かんの?」

「横に珍獣がいるしな…」

「お、ようやく神獣と認める気になったか」

ラルドが目を輝かす。

市街地を抜けていく。

名古屋駅の前を抜けて、下町ポイ地区へと車は入っていく。

天輝は缶コーヒーを飲み干す。

さて。

説教の時間まで、あと少しだ。

とラルドを見る。

「なんだ」

「……お前のせいで、俺まで怒られそうなんだよ」

「?」

ラルドは首を傾げる。

本当に悪気だけはない。

それが一番たちが悪かった。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。

☆回収作品となりますので…既存話が古い時代の投稿になっています。

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