scene-05 人生での誤解は…放っておかない方がよさそうです!
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
「あ、もう少し詳しく…いいかな? 蛇さん」
結衣が切り出した。
「ラルドだ!」
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫、輝くという名前にふさわしく…ワシは気にしない。決してエメラルドを割っていない」
ラルドが胸を張る。
ピクピクと羽が動く。
天輝が肩を震わせているのに結衣は首を傾げた。
「…俺も続きを聞きたいな」
天輝はククッと声に混ぜながらラルドに声をかける。
ラルドは首を傾げて、「良いだろう」と胸を張る。
「それで贄はどうしたって?」
「うむ。贄は村に帰るの嫌がるから他の村に連れていく。ちょっとした小旅行だ」
「どれくらいの小旅行だ?」
「1~2週間か…いつの間にか届ける村が決まってしまったがな」
天輝は顎に手を当てた。
何かに気付いたように表情が硬くなる。
「待て。ひと月に一度、贄が届くなら……何を願われていた?」
「そんなに来ないぞ…2~3か月に一度…村の安全?」
「…襲うようには見えないけど」
結衣が口を挟んだ。
「襲うなんてなんでそんな危ないことをするんだ?」
ラルドが疑問を口にする。
「槍で突いてくるんだぞ。人は」
「そうなの?」
「すごく痛い…らしい」
「らしい?」
「ワシは神の使いらしいから、襲われたことはない」
なぜか勝ち誇っている空気が気に入らない。
「じゃあ…誰から聞いた」
「わしも友達くらいいたぞ…死んだが」
「…えっと」
天輝が息をのむ。
「そもそも人は何もしていないのに、どうして襲うの?」
結衣が心配しそうに尋ねる。
「知らんぞ」
「大蛇なのに襲われないか…なぜだろう」
「オロチじゃないからな…」
「えっ、違いは?」
「知らない。人がそう言う。アルビナと呼ばれるのも最近だぞ」
「………」
「どうした?」
唖然とする三人の顔を見渡しながらラルドが声をかける。
「ちなみに、ワシの脱皮した革は高いらしい」
ちょっと偉そうな顔で言う。
誰も反応しなかった。
ラルドが不満そうに鼻を鳴らす。
「勝手ですよね」
彩芽がポツリと呟いた。
奏⇒天輝 どこ?
天輝⇒奏 下社
奏⇒天輝 予定では…上社当たりじゃあ
天輝⇒奏 それだと速すぎるけどね。どうかした?
奏⇒天輝 琴葉がラルド見たいって。龍神でしょ?
天輝⇒奏 神様、信じていた?
天輝は苦笑を盛らした。
奏⇒天輝 神獣を見れば信じる
天輝⇒奏 現金
奏⇒天輝 そんなことはない。キリンで麒麟は見れないから(笑)
「いつまでいちゃいちゃしているのかな?」
琴葉が奏の頭をトンと押す。
「いたぁ~い」
「大げさ」
琴葉はクスっと笑った。
琴葉…橘琴葉は、人混みに紛れればすぐに見失ってしまいそうな女性だ。
一緒にいるのにふらりと消えてしまうのは悪い癖だと奏は思っていた。
背が高くないというのもその一つの理由か。
大学時代のサークルの後輩として知り合ったのに…卒業して10年付き合いが続いている。
ふと現れ、しばらく音信不通になる不思議な親友だ。
華奢というほどではないが、小柄で柔らかな印象を受ける。
肩口まで伸びた髪を無造作にまとめ、風が吹くたびに細い後れ毛が揺れる。
派手な美人ではない。
大きな瞳は好奇心を隠そうともせず…
それが原因ですぐ消えるのだが…
初めて見るものを前にすると年齢よりずっと幼く見える不思議ちゃんだ。
反対に、誰かの悩みを聞いている時だけは驚くほど静かな顔をする。
まるで言葉の奥にあるものを探しているように。
笑えば親しみやすい。
怒れば分かりやすい。
感情は豊かだが、それを押し付けることはない。
どこにでもいそうなのに、どこにもいない。
そんな印象を持つのが彼女だ。
「いつ帰ってくるの?」
「どうだろう」
「まだ下社みたいだし…遅い目?」
「放置しすぎだよね」
琴葉くすっと笑う。
「でも、どうしてそんな急かすの?」
「…理由はいろいろだけど…一番は魔素が気になる」
「気になる?」
「字の如く…良いもんじゃないでしょ」
「……え」
奏の顔色が蒼褪める。
天輝はお気楽に悪いものを肩に乗せて帰ってくる。
別に悪さをされるわけでもないみたいだけど…ちょっと不幸なことになる。
それに気付いたのは琴葉だった。
悪い人ではないのに、なぜか知らないうちに絡まれて、それの目的を果たす手伝いをさせられる。
簡単に言えば簡単に感化される。
いい目的のことが多いみたいだが、当然、悪い目的にもあたる。
見えないので埃を払うように祓うことはできない。
それをしてくれるのが神社だった。
神社の神様にすれば、迷惑な来訪者ではあるが…文句も言わずに祓ってくれている。
5円という賽銭だけで。
なんかすっきりした。
それが口癖の男が…魔素…って何?
「どうしよう」
奏が本気で困った顔をしている。
本当に気付くのが遅い。
天輝のことになると突然に何でもかんでも甘々な扱いになる。
琴葉は思わず吹き出しそうになり、くるっと背を向けた。
昔からそうだ。
仕事では冷静で隙がない。
年上の取引先相手でも平然としているし、無理難題を押し付けられても笑顔で捌いてしまう。
それなのに…天輝のことになるとかなり抜けたことを言い出す。
スマホを握りしめたまま、眉を下げて考え込んでいる姿は十年前と何も変わっていない。
奏は美人だ。
背筋が伸びていて、歩けば自然と目を引くほどの美人だ。
正直、薄い化粧でモデル?芸能人?そう感じさせるのは反則だと思う。
目元の強さと整った輪郭。
人前に立つ仕事をしている人間らしい存在感もある。
威風堂々としているせいで、女子人気も高い。
だから初対面では近寄り難く見られることも多い。
でも、実際は違う。
面倒見が良くて。
世話焼きで。
そして…妙に心配性。
女子には甘々で、男子には厳しめのくせに…
そういう風な分け隔てをしていないらしい。
本人は隠しているつもりらしいが…
ふ~吐息を吐き出してから「大丈夫だと思うけど」と琴葉が伝える。
「何を根拠に?」
終いには理詰めにする勢いで迫ってくる。
「だって天輝だし」
「根拠になってない!」
即答だった。
琴葉は肩を竦める。
でも事実だった。
天輝は昔からそういう人だ。
困っている人を放っておけない。
面倒だから関わらないと口にはするけれど…
変なものに好かれる。
面倒事に巻き込まれる。
そして最終的には何とかしてしまう。
奏もそれを知っている。
知っているからこそ心配する。
それはわかる。
でも詰め寄られるのが琴葉であることは納得できていない。
奏⇒天輝 他に行かずに帰ってきて
天輝⇒奏 ?
奏⇒天輝 いいから
天輝⇒奏 まぁいいけど
奏⇒天輝 会いたいから
天輝⇒奏 まっすぐ帰るね
奏のスマホを覗き込みながら琴葉は苦笑した。
天輝がチョロすぎると。
「帰ってきたら説教かな」
「それは確定でしょう」
「だよね」
奏が小さくため息を吐く。
けれどその表情は少しだけ柔らかくなっていた。
「引き留めてしまって」
「いいえ、こちらこそ、良い体験をさせてもらいました」
天輝はペコリと頭を下げる。
その左肩にいるラルドもペコリと頭を下げた。
「こちらこそ…神秘に触れるなんて」
「神秘…」
ラルドを見てしまう。
「なんだよ」
「別に」
彩芽の方へと視線を戻した。
「忘れられてしまえば存在は薄れていきます。その事を私たちは忘れていたのかも」
彩芽に言葉にドキッとしてしまう。
名前を呼ばれ、覚えられる。
それが普通だった。
でもそれは絶対じゃない。
「語られることで繋がりが結び直されていくのかもしれませんね」
「そうですね。肝に銘じておきます」
天輝は拝殿で聞いた声を思い出した。
…名付け、認識、それで封が解かれるものもあるの。
あれは、そういう意味だったのだろうか。
「ねぇラルドは、ずっとそのサイズ?」
結衣が声をかけてくれる。
「いや…大きくなる」
「どれくらい?」
「一杯」
「………」
ラルドが得意げに顎を上げる。
「どうして、ラルドが…龍になるんだろう」
結衣の一言にラルドが「ワシが優秀だったからだな」と即答する。
「違うと思います」
言うつもりはなかったのに、突っ込みのごとく、その言葉が飛んだ。
一瞬静まり返る。
「あ……」
結衣の顔がみるみる赤くなる。
「ご…めんなさい」
「いや、いまのは結衣ちゃんが正しいと思う」
天輝が頷いた。
「ですよね!」
珍しく結衣が力強く同意した。
ラルドは不満そうに尻尾をぱたぱたと天輝の背に叩きつけた。
「ワシは、人の言うところのなんだ…そう! エリートということだ」
「まだ蛇のくせに」
即座に返されてラルドがむくれる。
彩芽はくすっと笑った。
「ただ、本当に龍になる条件は神話によって違いますね」
『そうなの?』という顔でラルドは彩芽を見た。
「修行だったり、功徳だったり、神様に認められたり」
「俺どれも記憶にない」
「はい。名前をいただく話もありますし、人に祀られることで神格を得る話もあります」
ラルドが口をぽかんと開ける。
「では、また何かの縁でもあれば」
天輝が社務所を後にする。
そのままわき道を通って駐車場へと進むつもりだった。
「あのぅ」
振り返ると結衣がいた。
「何か忘れたのかな?」
結衣は頷いた。
そのまま天輝に駆け寄った。
「役割…神職見習いもありですか?」
「えっ?」
「このままじゃあ、学校辞めないといけないかもしれなくて、どうすればいいのか」
結衣は目に涙を一杯にためていた。
「聞かせてもらっても?」
「誰かの悩みを昇華させること…ですよね。助けて」
天輝はラルドの方を見た。
ラルドは明後日の方向へと顔を向けた。
その場にしゃがみ込んで結衣は何が起きたのかを説明し始めた。
結衣はぽつりぽつりと話した。
結衣の話は簡潔だった。
通っている大学で資格取得ができると学生生協で説明を受けた。
資格の内容は多岐にわたり、試験をクリアする必要がある。
追加料金がかかることはほとんどないらしい。
そうなるように勉強を見てくれる。
そのために学費を払い、必要なら実習も受けてきた。
幾つかの資格は得ているが、ふと友達に言われた。
講習資格だよね…と。
その団体でしか通用しない資格も混ざっていた。
高額なものではなく、1日で終わるようなものには数多く混ざっているみたいだった。
学生生協が推奨する資格…そう信じていたのに…
3年生になれば、その手の勉強や実習に時間は取れなくなる。
このままいけば、お金だけをとられて終わってしまう。
学生生協という組織を信じていただけに、どこかで聞き漏れがあったらしい。
焦るほどにこれまで積み重ねてきた時間が、一気に足元から崩れていく気がした。
いまになって、その受験資格そのものが怪しいと噂が立っていた。
努力の行き先を突然失ったような話だった。
そこにある不安だけは天輝にも伝わってきた。
「連絡先交換してもいい? 俺も少し調べるから」
「あっ…ありがとう…ございます」
大粒の涙をボロボロとこぼしながら結衣は頭を下げた。
何も解決していない。
それなのに「助けて」と言われたことだけが胸に残った。
やるせない気分だった。
ナビには名古屋までの経路が表示されていた。
山あいの道を抜けて名阪国道へと流していく。
そこから先は見慣れた帰り道だ。
「テン」
助手席…正確にはコンソールに顎を載せてラルドが声をかけてくる。
「なんだ」
「楽しみだな」
「何が」
「帰るのがだ!」
天輝は少しだけ目を細めた。
窓の外では初夏の山並みが流れていく。
思った以上に長い一日になった。
そう思いながらアクセルを踏み込んだ。
「なぁラルド…、そういえばさ、他の大蛇も贄は食べないのか?」
「人が理解できない大蛇は食べる奴もいたと聞いたが…ワシの友にはいない」
「…贄って何だと思う?」
「話し相手だろう?」
「…魚や鳥、獣、穀物などの新鮮な食物のことだよ」
「食べるの?」
「新鮮な命を捧げて何かを叶えてもらう…という儀式かな」
「お…人って残酷過ぎない?」
「……でも人の願いって」
「守ってくれだったから、争いのときに村に行ってあげるだけ」
「どこかを襲うとかは?」
「ないない」
そんな話の中で車は一路、愛知県、名古屋へと向かう。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。
☆回収作品となりますので…既存話が古い時代の投稿になっています。




