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水琴のしらべ~謹んでお断りいたします  作者: 麒麟


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scene-04 人生にはトラブルはつきものです! どう対応するかです!

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

拝殿を出るとラルドがおもむろに「水」と呟いた。

彩芽が振り返って井戸を指さす。

「神水どうぞ」

「! ありが…ンむぐううう」

肩から飛び降りかけたラルドを天輝は止める。

「どうして?」

「まず、お前が飲み食いして大丈夫という保証がない」

「………」

「そもそも、何を食べて生きているんだ」

「魔素…」

「?」

「あとは果物が多いな。お菓子は袋に入っていて食べられない」

「うんうん。お供えを食べるのはわかった」

「ダメとかいう気か?」

「それは構わない。でも魔素ってなんだ」

「ああ~人の妬みとか嫉みとか、そういうのが溜まって形になったやつ」

「聞いているだけお腹を壊しそうだけど」

「それをいわゆる神獣は取り込んで…どうした? テン」

石のベンチに腰を掛けて頭を抱える天輝の顔を心配そうにラルドがのぞき込む。

「情報が多すぎて疲れたわ」

「莫迦なのか?」

「お前に言われるとムカつくのはなぜだろうな」

天輝はクイッとラルドの首を掴んで持ち上げた。

「ああ~殺意が…」

「まてまて、ワシが悪かった」

「…で、魔素を食べても大丈夫なのか?」

「知らんが、それを食べて白い息を出すとみんな元気なるぞ」

「…よし新しいことを考えるのは止めよう」

天輝はそういうとスマホを取り出し、ラルドの言ったことをテキストにして奏に送った。

とりあえず龍が雑食というのは分かった。

柄杓で水をすくい蛇の顔の前に出してみる。

「ありがとう」

何となく時計を見る。

予定の通りだと今頃丹生川上神社を経由して、丹生川上神社上社へと向かっているはず。

それが見事なまでに…

今日中に他の二社を巡るのは無理だな、と天輝は空を見上げた。

雲一つない青空。

川からの風が心地よく頬を撫でていく。

旅の予定はものの見事に狂った。

けれど不思議と悪い気はしなかった。

少し前までウジウジと考えていたのが嘘のようだ。

ゆっくりと世界が流れていく。

「行くか」

「おう!」


車を止めた駐車場の裏手にある社務所は、何とも言えない静かな空気を醸し出していた。

ちょうど牧場が正面に見えて、黒と白の神馬が目に付く。

木造の建物は派手さこそないが、長く使われてきたことが伝わってくる佇まいだった。

簡単に言えば、適度に改修されて、という感じだ。

引き戸を開けると、ほのかに木の香りとお茶の匂いが漂ってくる。

「どうぞ」

彩芽に促されて中へ入る。

事務机が並び、壁には祭事の予定表や神札の見本が掛けられていた。

神社というより、どこか町内会の集会所にも似ている。

天河で感じた神秘的な空気とは違う。

人が働き、人が神様を守っている場所。

そんな温かさがあった。

「お茶をお持ちしますね」

彩芽が奥へ引っ込む。

結衣も慌てて後を追いかけた。

「手伝います」

「大丈夫ですよ」

「でも……」

そのやり取りを眺めながら天輝は苦笑する。

実習生というより、新人のアルバイトのようだ。

「あの娘」

ラルドが小さく呟いた。

「ん?」

「元気ないな」

「お前にもわかるのか」

「蛇だからな」

「…それ何か関係あるか?」

「ない。言ってみたかっただけだ」

ぱしっ!と軽い音がしてラルドの顔が床にべしっとぶつかる。

「痛!」

「聞こえたらどうするんだ」

「それは悩みを解決する」

「デリケートな内容だったら対応できないだろう」

「…そんなことってあるのか」

天輝は口をぽっかりと開けて固まってみた。

「…すまん」

ラルドがシュンと頭を下げた。


「ところで蛇が龍になる話ってあるんですか?」

天輝が何気なく尋ねる。

彩芽は少し考えてから頷いた。

「どうして?」

「蛇に対する耐性が…」

「安直なような気もしますが…伝承ではよくありますよ」

「へぇ」

「長い年月を生きたり…」

ラルドが、つんつんと指で天輝の太ももを突く。

視線を向けると、自分の顔をたぶん指さしている。

手が短くて識別は少し困難だった。

「神様の力を授かったりとかもあるかな」

彩芽は言葉を区切った。

少し考えるかのように天井を見上げて…

「水神様のお使いになった蛇が龍になるお話は各地に残っています」

「御伽噺か」

「御伽噺とは、警告であったり、伝承であったりもしますけどね」

まっすぐに天輝の瞳を見つめながら彩芽が言った。

「つまりワシは選ばれし大蛇ということだな」

ラルドが胸を張る。

胸と言っても、まだ小さな身体なのであまり威厳はない。

「そもそも大蛇だったといわれてもな…いま直径? 体長? スマホと同じだし」

「…それについてはワシも…だが確かに大蛇だった!」

「まぁ、それはいいとして…たいした変化は」

「手足が自在に動かせる」

「蛙だな」

「羽もある」

「蝙蝠みたいなやつな」

「羽だ」

「翼になってから自慢しような」

譲らない。

結衣が思わず吹き出した。

慌てて口元を押さえる。

「す、すみません」

「笑ったな」

「いえ、その……かわいくて」

「かわいい……」

ラルドが微妙な顔をした。

褒められているのかどうか判断に困っているらしい。

彩芽は湯呑みを並べながら微笑む。

「でも、名前というのは大切ですよ」

「名前?」

天輝が首を傾げた。

「昔から神道でも、言葉には力が宿ると考えられてきました」

彩芽は静かに続ける。

「名前を与えることは、その存在を認めることでもあります」

ラルドがぴくりと反応した。

「認める?」

「はい。人でも神様でも同じです」

彩芽は少しだけ考えるように言葉を選ぶ。

存在を認識したら写真が撮れるようになった。

名前が付いたら言葉を交わせるようになった。

(たましい)とは…本当にそういうものがあるのかもしれない。

「テン?」

「ん?」

ラルドに言われてから彩芽が心配そうに顔を覗き込んでいるのに気が付いた。

「どうかしましたか? お茶どうぞ」

「ありがとう」

「きっと一杯いるんでしょうね」

「ん?」

「誰にも知られず、呼ばれず…そういう存在」

天輝は出されたお茶を口に運びながら、そういうのもあるのか、と自然に頷いていた。

「神道ではありませんが、人の死には二度訪れるというのを知っていますか?」

「あ~肉体の死と記憶の死…」

「そうですね」

彩芽はにっこりと笑った。

「そういうのが好きなのが近くにいるので」

「ということは…逆も真なりと思いませんか?」

「逆も?」

「ええ。存在があり…それを認識することで命が生まれる」

「それが誰かの記憶の中に生まれる命?」

「ロマンチックを超えて怖いかもしれませんが…その集まった思いが命に…」

「魂になれば…か」

天輝はラルドを見詰めた。

世の中には不思議が満ちている。

その不思議のひとつが魂なら、それは悪くないのかもしれない。

誰かが…ラルドのことを認識した。

…あ、俺のようだけど…

名前を付けられてその力を解放し始めた。

闇龗神との邂逅で、進化が進んだとしたら…

「そうか」

「え?」

天輝の呟きに彩芽が反応した。

「ラルドの居た祠は…朽ちていたけど注連縄は綺麗だったから」

「おう」

何故か満足気にラルドが返事をする。

「誰かがその存在を信じていたんだろうな」

ラルドが首を傾げる。

「え?」

「祠…そのものじゃなくて、その存在に誰かが気に掛けていた」

天輝は少しだけ笑った。

その誰かが存在ではなく祠を邪魔と感じていたら…

そう思うと少し怖くなる。

誰かの優しさから始まり…ずっと繋げられてきたのだと思う。

繋いできてくれていた思いがあるから、何かに反応できた。

「だから…俺が目を止めたのも、それがあったからかもな」

「え」

ラルドがぴょんと天輝の足の上に乗ってからテーブルに上がった。

「出会いとはそういうものなのかもしれないな…」

ラルドを見ながらしみじみ言ってみる。

ラルドが照れくさそうに視線をはずした。

偶然ではなく。

誰かが残した想いの先にあった縁。

そう考えると、少しだけ面白くなってきた。

ラルドは照れくさそうに視線を逸らす。

「なんだ」

「いや」

「なんだ」

「別に」

落ち着かない様子のラルドを見て、結衣は小さく笑った。


結衣が彩芽の横に座った。

ラルドと顔を突き合わせている。

「蛇?」

天輝を睨みつける。

「龍!」

ラルドの声に、結衣はその顔をまじまじと見つめた。

どう見てもアルビノの蛇。

赤い瞳も印象的だ。

ただ鱗が色水晶のようにキラキラとしている。

あと、手足がついている。

西洋のドラゴンではなく龍をしているのに羽…

「そろそろ、種明かしを」

彩芽が二人のやり取りを少し眺めてから苦笑を天輝に向けた。

正直、話せることは少ない。

情報通からのメッセージは来ていない。

「実は…」

「実は?」

「よく分かっていない。天河で絡まれて? ここまで付いてきている」

「…絡まれて?」

彩芽は、何かを思い出したようにぷっと噴出した。

天輝の耳を齧っていた姿がくっきりと浮かぶ。

確かに無理矢理付いてきている感がある。

でも何とも憎めない存在。

「失礼な…ワシも可愛いか綺麗な女性がよかったぞ」

「……エロ爺?」

「………」

「何で照れている?」

「いや…『エロ』が分からない」

ポツリとラルドが呟いた。

彩芽と結衣が顔を見合わせて笑う。

「まぁ、それはいいとして…説明できるのか? ラルド」

「ん? たぶん、彩芽が言ってくれたままだ」

ラルドは彩芽を見て言う。

「分かっていないと素直に言ってくれ」

天輝が苦笑をする。

「俺に付いてきている理由は?」

「お前が役目を果たすのを見守るためだ」

「…だそうですね」

天輝は大きなため息を「はぁ~」と声に乗せて吐いた。

「なんだよ」

「えっと…藏素さんの役目とは?」

彩芽が笑いを堪えるように肩を震わせながら訊く。

「悩める〇▽□の◇△○○を成就させることだ」

「何?」

結衣がラルドに顔を近づけた。

「誰かの悩みを昇華させることだ」

顔を真っ赤にしながらラルドが言う。

その横で天輝がテーブルの上に頭をゴンと落としてしまう。

「痛っ」

「大丈夫?」

「まぁ、何とか…」

「どうかしたのか?」

ラルドが何も無かったように天輝の顔を覗き込んだ。

イラっとしてしまう。

大人気ないとは思うが…感情の起伏を抑えるのは難しい。

「推察の域だけど…」

天輝は諦めたように話し始めた。

幾つかの事象といま手に入れた情報を総合的に勘案して。

「アルビノの蛇は永い時間を過ごしてきたことで、さまざまな言語を理解するようになる」

「…そうなの?」

結衣の食いつきは良かった。

「ラルドが白蛇だったかは知らないけどね」

「…あ~」

結衣はラルドを見た。

何度か見ているうちに愛らしくなってくるのは不思議だ。

爬虫類は苦手な生き物なのだが…

「言語理解…相手を理解することで自分も認知されるようになる。その為の大蛇かな?」

「…おう、大蛇のころは、人が供え物とともに贄という娘を持ってきてくれた」

「え」

三人の顔が固まる。

「? 贄は何日かワシと旅をする…適当な村に送り届けるだけで食べ物がもらえる」

「それだけ?」

「ん?」

「食べないの?」

「…贄をか?そんな野蛮なことせんわ! 話せる相手を食うなんて」

すごい勢いでラルドが声を荒げた。

三人は顔を見合わせた。

誰も口を開かなかった。

問題はそこではない。


お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。

☆回収作品となりますので…既存話が古い時代の投稿になっています。

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