表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水琴のしらべ~謹んでお断りいたします  作者: 麒麟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/29

scene-02 人生に趣味は大切です! 

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

禊殿を後にして石段を下る。

天河の空気は不思議だ。

山の中にいるはずなのに閉塞感がない。

見上げれば空が近く、耳を澄ませば水の音がどこまでも続いている。

天ノ川に沿うように歩いていくと、川面が朝陽を受けて白銀に揺れていた。

澄んだ流れは山々の間を縫うように続き、時折大きな岩に砕けて飛沫を上げる。

神域の静けさをそのまま運んでいるような川だった。

川沿いの道を進むと、小さな集落が姿を見せ始める。

生活の匂いが少しずつ増えていく。

それでもどこか時間の流れがゆっくりとしていた。

天河大辨財天社の駐車場に戻り、車のドアを開けたところで左肩を見る。

『ん?』

「それテレパシーみたいなやつ?」

『ん~頭に直接?念を送っている』

「なぜ自信なさげなんだ?」

『話せたのはお前が初めてだから?たぶん?』

「たぶん? まぁいいけど…俺も頭で考えるだけでいい?」

『駄目だ』

即答だった。

「理由は?」

『読めないからだ…』

少し恥ずかしそうに頭を下げた。

「まだ蛇というわけか?」

『まぁな』

「いつまで蛇?」

『?』

「知らないとか?」

天輝は苦笑した。

「まぁ…いいか」

車に乗り込みかけて本殿を見上げる。

あの声は…

まぁ、また聞こえることもあるか。

天輝は車に乗り込んだ。

肩に乗っていた蛇が勢いに負けて助手席のドアにぶつかる。

ビチャッという感じで…

「痛い」

「…声になっているな」

「お…ほんとだ」

何故か蛇は嬉しそうにしている。

「で、名前は?」

「ない」

「蛇と呼ぶのもな」

「これでも100年前は、大蛇だったんだぞ」

「おろち…悪い印象しかない」

「…そうなの?」

「うん、人を丸吞みにするイメージ」

「…名前募集中だ」

「あ~まて」

天輝はスマホを取り出し蛇を撮影する。

奏にメッセージでそのまま送る。

天輝⇒奏 名前募集!

奏⇒天輝 蛇…じゃりょく…

奏⇒天輝 だめ?

「ダメ」

スマホを覗き込みながら蛇が寂しそうに言う。

天輝⇒奏 本人から却下

奏⇒天輝 エメかラルド

「ラルド…かっこいいよね」

蛇はなぜか天輝に確認する。

天輝⇒奏 ありがとう

奏⇒天輝 どういたしまして。柿の葉お願いね

天輝は苦笑してエンジンをかける。

「なぁ…お前の名前は?」

「藏素天輝」

「長い」

「最初から思っていたけど、お前、本当に失礼だな」

「テンだ」

「聞いてないし…って勝手に決めるな」

「よろしくな、テン」

「……ああ…よろしくな、ラルド」

天輝はアクセルを踏んだ。

行き先は決まっている。

ただ、その旅に蛇が一匹増えたことだけが予定外だった。


天河大辨財天社を後にして車を走らせる。

山々の間を縫うように続く道は、どこまでも川と寄り添っている。

少し開けた窓から吹き込む風が心地よい。

谷を流れる水は驚くほど澄んでいる。

深い場所は翡翠色に見え、浅瀬では白い石を透かしていた。

都会では聞こえない鳥の声が山肌に反響していた。

急ぐ旅ではない。

目的地は決めていても、その途中にある景色まで見落としたくはなかった。

天河から流れてきた水を追いかけるように車を走らせている。

気付けば、追いかけていた流れは別の川へと姿を変えていた。

天河を流れる天ノ川から、今度は丹生川沿いへ。

水を辿る旅は、まだ続いている。

「なぁ…テン」

「ん?」

「じゃりょく…って蛇の力とかいう意味?」

「……蛇が緑だから」

ラルドが頬をぷくっと膨らませる。

「じゃあ…エメとかラルドは?」

「エメラルドグリーンの鱗だから…蛇と緑がダメだったから」

「…エメラルド?」

「半分にすると」

「雑っ!」

ラルドはコンソールの上に顎を載せるようにして天輝を見た。

「独特のセンスだろう? 我が姫君は」

シートの上で項垂れるラルドの横でスマホがメッセージの着信を教える。

奏⇒天輝 エメは『愛する』だからね ラルドは『輝き』だから

天輝⇒奏 どうかした?

奏⇒天輝 琴葉がテキトーにつけてって言うから

天輝⇒奏 それで、後付した?

奏⇒天輝 解る?

天輝⇒奏 犬にポチと付けるセンスだからね

天輝⇒奏 ラルドはてっきり豚の脂だと思っていた

そこでメッセージが止まった。

「なぁ、ワシの名前、輝き?」

「みたいだな」

「お前の字を一字貰ったのか?」

「…気持ち悪いからそれ、偶然」

天輝は苦笑した。

道はいつしか山間を抜け、川幅も少しずつ広くなっていく。

集落が現れ、畑が見え、人の暮らしの気配が増えていた。

神域の静けさから現世へ戻ってきたような感覚だった。

そうこうしているうちに辿り着いたのが、丹生川上神社下社だった。

水を司る神を祀る社。

偶然にしては出来過ぎている気もする。

でも…旅というものは案外そんなものなのかもしれない。


天河大辨財天社から向かうと、下社の駐車場は少しわかりにくかった。

危うく隣の『カフェ丹生の光』へ入るところだった。

慌ててハンドルを切ると4台程度しか停められない下社の駐車場を過ぎてしまう。

そのまま道なりに進み、下市町丹生支社の駐車場へ車を滑り込ませる。

「着いたか?」

流れる景色に飽きたのかラルドが天輝を見あげた。

「俺の目的地には」

ニヤッと笑いながら天輝はエンジンを切った。

車を降りる。

役場と神社の敷地が自然に隣り合っている。

天河のような神域とはまた違った趣がある。

ここには人の暮らしがある。

社務所の脇を抜け、牧場の方へと行くと鳥居がある。

その向こうでは風が木々を撫で音を奏でていた。

丹生川が奏でているしらべも聞こえてくる。

鳥居の脇を抜け道路に出ようとすると肩に乗っているラルドが「反対だぞ」と呟いた。

「知っている」

「?」

ラルドが首を傾げる。

「一回出る」

天輝は境内の方を振り返った。

「は?」

「鳥居をくぐらずに入るのって…泥棒ぽくない?」

「…そうなのか?」

「さぁ。ただ俺は、初めての神社は正面からきちんとな」

「面倒な」

ラルドは欠伸をする。

川の方へと道路を横切る。

陽光を受けた川面が静かに揺れていた。

山から流れてきた水は変わらず清らかで、どこか懐かしい風景にも見えた。

振り返ると、鳥居の向こうに本殿が見える。

川と集落と神社。

そのどれもが無理なく同じ場所に溶け込んでいた。

人の暮らしと神様が自然に隣り合っている。

そんな温かさがあった。

振り返り鳥居を眺めてから、スマホで写真を撮る。

鳥居の中に本殿が入るように…そんな構図を考えながら。

まぁ…せっかくなら、ちゃんと参拝したい…という考えは黙っておくことにした。

鳥居の前で一礼し、天輝は改めて境内へ足を踏み入れた。

平日の昼前ということもあって境内は静かだった。

拝殿の前では夫婦らしい二人が並んで手を合わせている。

少し離れた場所では年配の男性が写真を撮っていた。

境内の隅には地元の人らしい女性たちが腰を下ろし、世間話をしている。

神社というよりも、地域の人が自然に集まる場所のような空気感。

「なんだか落ち着くな」

「うむ」

ラルドは石灯籠の上へ飛び乗った。

「誰もワシを気にしない」

「蛇だからな」

「そこは龍だからだろ」

「いや蛇だ」

「……」

ラルドは少し傷ついた顔をしてみせた。

「そもそも俺以外に見えているの?」

「写真? あれに写るということは…」

「喋れれるようになったり…急展開だな」

「ご都合主義? 神様の特権だから」

「本当にそれだったら…面倒見ないからな」

天輝は苦笑交じりに言った。

何かが動き出している。

そんな事を考えてしまう。

何か知らない世界へと誘われていくような…

それなのに、それを楽しんでいる自分を感じてしまう。

ゆっくりと本殿へと向かっていく。

下社は参道らしい石畳がない。

鳥居からまっすぐに本殿に向かって進み、拝殿へとあがることになる。

じゃり、じゃり、と踏みしめる音が祓いをしてくれるらしい。

音に不思議と身体の重みが抜かれていくような気がする。

心地好い感覚が伝わるのか、ラルドも大人しくしている。

拝殿への石段の前で足を止めた。


町中の神社とはいえ…

隣の民家はまでは少し離れているが…

田舎町であればこういう感じが普通だろう。

ラルドを見てから深く拝礼をする。

石段に足を踏み入れた瞬間、世界が動き始めるように風が流れた気がした。

これまで感じたことはなかった感覚が身体の中に広がっていく。

神域の安らぐような特別感が深まった気がした。

まるで二重に結界が張られているかのような感じだろうか。

ラルドも緊張をしているように感じた。

まっすぐに拝殿へと向かっていく。

この下社は他の寺社とはどこか違う雰囲気がする。

ポケットから小銭入れを出して賽銭を用意する。

「おい」

「ん?」

「俺にはくれなかった」

「…覚えていた?」

「当たり前だ。あれだけ頑なに拒絶して…」

ちょっとむくれているような言い方に笑い出しそうになってしまう。

「きちんと祀られるようになったらな」

「ちょいちょい傷つくんだけど」

賽銭箱の前に立ち5円玉を取り出したときに後ろから声がかかる。

「あのぅ」

振り返ると一人の女性が立っている。

服装的に神社で働いている人だろうか。

「はい」

その柔らかな笑みにラルドは耳に嚙みついてみる。

…痛…っ…

「蛇が肩に…えっと、耳に齧り付いていますよ」

どうしようか…そんな動揺を見せながらその女性は言葉を選んだ。

「え…見えるんですか」

天輝は

、駆けるようにして女性に近づいた。

「きゃ」

「あ、すみません」

「いえ。ぷっ…あはははは」

軽やかな温かみのある笑い声が上がった。

「あのぅ…痛くないですか?」

天輝の耳にぶら下がっているラルドをみて女性が言う。

「申し遅れました。禰宜(ネギ)を務めさせていただく大角彩芽と申します」

「あ、藏素天輝です…その」

「お取りいただいても」

クスクスと笑いながら彩芽は言う。

「すみません…おい、いい加減にしろ」

ラルドは、天輝の肩の上で体勢を直してから、彩芽に「見える?」と尋ねた。

彩芽がポカンと口を開けて固まっている。

それもそうだろう。

蛇が喋って驚かない人はいない。

それがスピリチュアルな人であっても…

さて、そう言い訳をするべきだろうかと天輝は思考を巡らせた。

「ええ。普通にアルビノ系に見えてますけど」

彩芽の顔は引きつっていた。

どうやら問題は見えることではないらしい。

喋ったことの方だった。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。

☆回収作品となりますので…既存話が古い時代の投稿になっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ