scene‐24 人生とは…戦いの連続です
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
「さて…戻れるのかな?」
天輝は、ラルドに声を掛けた。
「はっきりというが…お前は結構やばいことをしているんだぞ…」
「ん?」
「アストラル体…言い換えれば…」
「魂とか?」
「うん、よくできました」
ラルドはニヤッと笑う。
微妙に勝ち誇ったような顔が生意気に見えてしまう。
整い過ぎた顔というのは嫌味でしかない。
「では問題だ。肉体に入れる魂の数は?」
天輝は周りを見渡した。
明らかに数えている。
「…えっと5」
「………ふははは」
ラルドの笑みがゆっくりと深くなる。
「何だよ」
「ふざけてんのか!」
ラルドの声に奏、琴葉、ミニ奏がビクリとする。
「どう考えても異常だろうが! それをしれっと、『何か?』みたいな顔をしやがって」
「わぁ~めっちゃ怒っている」
「………」
「そんなにまずい状況か?」
「言っておくけどな…終わりました。はい、解散、ですまないんだぞ」
「…すまん。で、帰り方は?」
「………」
「何だよ」
「知らん」
消えそうな声だった。
いや、周りの誰にも聞こえないように「すまん」と付け加えていた。
「…出る方法を考えないといけないわけだな」
天輝は空を見上げた。
考えられる方法は…
ラルドは天輝に並んで空を見上げた。
入ってきた逆で戻る方法。
一人ずつ返していく。
…一人ずつ…
一人多くなっている…
と…言うことは…
出したくない答えにぶつかってしまう。
「「あのさ」」
ラルドと天輝は同時に顔を見合わせた。
「先にどうぞ」
天輝が恐縮して先を譲る。
「いやいや、テンが先に」
「いやいや」
「どうぞどうぞ…」
「いやいや」
パコン!
軽い音が響いた。
しばらく続いた押し問答に、奏が天輝の頭を叩いたのだ。
「何しているの!」
「あ…えっとな…身体が一つ足らない」
「何言っているの…琴でしょ、私でしょ、ラルドで、ミニカナ…」
奏が指折るのに合わせて天輝が頷く。
「身体が…ラルド、天輝、琴、私…」
「そうだね」
「4つずつあるじゃん」
「………」
ラルドと天輝は同時に額へ手を当てた。
「数が合っていでも…帰る? 戻る? 器が一つ足りない」
ラルドの呟きに奏がハッとした。
琴葉を見ると苦笑を浮かべている。
恥ずかしさに顔が真っ赤になった。
「ん? テン、どうかしたか?」
落ち込んでいる奏をミニ奏と琴葉が慰めているとラルドが天輝に声を掛けた。
天輝は視線を奏に向けたまま「なぁ、そもそもだけど」と口火を切った。
答えは見つかっていない。
ただ、表情に不安の色が浮かんでいた。
まだ内なる世界が安定していない中で、負の感情が生まれるのは避けたい。
とはいえ、感情が揺れるのが人という…紙も同じか…
ラルドは苦笑する。
ラルド自身も答えを見つけていない。
神というのなら、人の苦しみに対応できればいいのに…と。
いつの間にか、贅沢になっている。
知らない。
それで充分だったはずなのに。
この愚かにも真っすぐに行動する仲間を大切だと感じていた。
天輝の次の言葉を待っているのに続かない。
「俺はどうして内なる世界に…迷い込んだ?」
「疑問で聞かれても、な」
ラルドは苦笑で応えながら、その場で胡坐をかいた。
空を見上げて息を吐く。
「それはチャクラを…じゃないよな」
おちゃらけてみようと思って止めた。
自分の前の床をトントンと指先で叩いてみる。
「正確なことはワシにも分からん。ただ、一つだけ言える」
ラルドが真剣な表情を天輝に向けた。
ふーっ。
天輝はラルドの前で胡坐をかいた。
何となく奏がその横に座る。
ミニ奏が奏の膝の上に座り、琴葉がラルドの横に座った。
「ひとつ…だけか」
「万能など存在しない。それだけだ」
ラルドはクスッと笑った。
自虐的な笑みに、天輝は逆に焦りを感じてしまう。
いかに鈍感とはいえ、傍聴したはずの世界が収縮を始めていることは解かる。
不安定なのは…内なる世界なのか。
それとも…天輝自身の心の在りようなのか。
不安に、汗が額を垂れた。
「そのひとつ…聞いても?」
「正確なところは解からない。でもな…」
ラルドはゆっくりと言葉を選ぶ。
「俺たちがここに入ったときは…闇だった」
その言葉に、琴葉が身体を固くさせる。
あのとき、辛うじて握っていたラルドの手の温もりだけが…
琴葉を繋ぎ止めてくれていた。
必死に掴んでいた気がする。
奏の手を掴んだのも…もしかしたら同じ理由かもしれない。
成るように、なさせる。
そう覚悟をしていた。
奏が天輝を助けると決めていたから…一人で行かせる気もなかった。
違う。
それはいま思いついている言い訳に過ぎない。
掴み続けた手から温もりを感じられていたから…
自分を見失わなかっただけだ。
ラルドについてきてしまったのは、放す事への恐怖だった。
置いていかれる…だったのかもしれない。
独りになってしまう…だったのかもしれない。
いま思えば…天輝を取りもどせたから…
奏が無事だったから…
そんな安心が、いまの琴葉を不安にしていく。
それに気付いたのか、ラルドが、そっと琴葉の手に自分お手を重ねてくれた。
視線を流し『大丈夫』と口が動いた。
子供に気遣われるというのは何ともくすぐったいような気もするが…
琴葉は手を返してラルドの手をキュッと握ってみた。
そっと握り返してくれる。
ん…こほん。
わざとらしくラルドは咳払いをした。
4人の視線がラルドへと向き、いつになく緊張してしまう。
「内なる世界には、必ず『主』がいる」
『主』についてどこまで話すべきなのか迷いながらラルドは真っ直ぐと天輝を見詰めた。
天輝の内なる世界について違和感を感じるとしたら…これが最大級のものだ。
最初、この世界は闇の中に呑み込まれようとしていた。
世界が闇に沈むと、その世界を支配する主も闇に沈む。
闇を構成する黒い粒子の内容によってその特質が変わることは言うまでもない。
ただ、世界が闇に染まるのは必ずしも魔素が原因ではない。
魔気であっても十分な濃度があれば、世界主を侵食することができる。
ラルドは、天輝の優しさが関わる人たちの魔気を集めた結果なのかもしれないと思っていた。
でも、結果は…魔素が光素を浸食し実体化していたに過ぎなかった。
「主?」
「精神の中心……この世界の人格と言ってもいいかもな」
言いながらラルドは視線を漂わせた。
この世界の主にはまだ遭遇していない。
内なる世界を統括する主とは、魂魄の半分…魄。
魔素にあてられてどこかに隠れている可能性もある。
解っているのは、魄が消滅していないことだけ。
魄が消滅するとき、人の身は魂を繋ぎ止めることができないのだから。
アストラル体を動かすのは魂。
それを肉体に繋ぎとめるのが魄。
天輝の意識、魂がここに居るのなら、この世界のどこかにいるはずだった。
アストラル体を肉体に結び付ける役割を持つ存在として…必ず。
そう信じたい。
この世界に確かに存在しているはずなのに、気配すら感じることができていなかった。
「…まさか…」
天輝はミニ奏を見る。
ミニ奏が何かを察したように首を振った。
「…そうだよな。奏に似ているし」
ポツリと天輝が呟き、考えるのを放棄したように「で?」とラルドに先を促す。
「魂に対話する準備が整うと、魄は魂を自分の方へと引き寄せる」
「…それてチャクラにエネルギーを循環させることに成功したから?」
「言い方がムカつくがそれで合っている」
ラルドはうんうんと頷きながらも天輝を見詰めていた。
ひとつずつ、可能性が消していきながら…
ラルドは落胆している自分に苦笑を漏らした。
矛盾している。
これほどまでに人に肩入れをするとは思ってもいなかった。
まだ数日しか過ぎていないのに…
そこには一つの可能性が残っている。
魔素が形作れるほどの自我を持ったのなら…
魄はなす術もなく…
「ラルド?」
「時間は…あまり無いみたいだな」
天輝はポツリと口から零した。
覚悟を決めるべき瞬間に来ているのかもしれない。
「そうだな…呼吸するように、世界が拡張と収縮を繰り返している」
ラルドはペロッと舌を出した。
「これだけは…聞いておく方がいいのかな?」
天輝は苦笑を零する。
怖いのは、巻き込んでしまうことだけ。
心残りは、神崎優衣に何もしてやれていないこと…くらいか。
「ん?」
「俺が闇に捕らわれていたら?」
「お前がお前じゃなくなる…」
「いや、そうじゃなくて」
「欲しがりだな」
ラルドはクスッと笑う。
もしも魔素が心も身体も乗っ取ってしまったら…
何が起きるのかは分からない。
ラルドの表情から笑みが消える。
「正確には分からん」
小さく首を横に振った。
「いや…ここは正直に言うべきだな…」
天輝が静かに頷いた。
「知らん。だが、分かっていることがある」
「?」
「魔素は一度生み出されると、そこに何度となく生まれる」
「生まれる? どこに…」
「そいつの中に」
ラルドは、魔素の消えた場所へと視線を向けた。
そこにはおよそ人とは思えない影が存在していた。
その存在が生き物の形をするのは…そいつが苗床になっているからだ。
「魔素を育てるのは魔気…純粋であればあるほど…望ましい」
「純粋な魔気…」
ゴクリと天輝の喉がなった。
「魔素が周囲へ広がるわけでは無い。ただ…適当にこぼされた魔素は誰かの中で」
「無垢な魔気から喰らう」
「……ああ」
『だから、お前の中で大きくなり、お前自身を呑み込もうとしていた…』
その言葉をラルドは呑み込んだ。いつか自分で気付くだろう。
天輝なら、それでいい。
伝えれば、それに向き合い何とかするだろう。
一度内なる世界に足を踏み入れた魂は、自身との対話にこの場所を使う。
この場所で…魄と語らい魂は、魂魄として大きく育っていく。
「お前は…お前であって…お前じゃなくなる。その事をお前は知らないままに」
ラルドは目を伏せた。
その言葉に、奏が天輝の手を握った。
「俺じゃなくなる?」
「犯罪とか言ったか…人の言葉では」
「………」
「何度、更生を試みようとも繰り返す」
「それも魔素のせいだとでも?」
「当たりでもあり、外れでもある」
ラルドは苦笑いする。
「魔素は、その場にいる時間が長くなるほどに魄と同化する。そうすれば力が強い方が」
「支配するわけだ」
「テンが支配されるとは思わない。ただ、ぎりぎりだったみたいだが」
「…真っ暗闇だった…俺がここを意識したとき」
「そうだな。本当は…もう一人のお前がいるはずの世界…」
「俺が…」
「チャクラを開くことで、お前は自身との対話を可能にした…だから」
ラルドは、奏の方を見た。
奏が不安そうに見ている。
「たぶん…魄がお前を呼んだ」
「そっか…」
天輝はどこか安心したように笑みを零した。
奏はそんな天輝の頬に手を添えた。
そっと唇を近付けかけて、動きを止める。
コホン。
「アストラル体は思っている以上に感情のままだからな」
ラルドは苦笑する。
つられるように琴葉が笑う。
「それで…」
「魔素は近くにある負の感情…撒き散らかされたそれを喰らい繋がりを生み出す」
「…それって…終わりは」
「いつだろうな。共鳴する心を喰らいながら育ち化け物になるのかも」
ラルドは静かに天輝を見つめた。
「お前が恐れている通りだ」
「……大丈夫だ」
「ん?」
「奏がいるから」
天輝は照れ臭そうに、頬を真っ赤に…顔を真っ赤にして逆上せている奏を見た。
奏が慌ててt頷いた。
解っているのは、巻き散らかされた不幸の下で…
次の不幸が生まれる。
そこに魔素が入り込むのかもしれない。
解決策はひとつだけ…魔素をまき散らす権化を討つしかない。
いまは、その前にすることが多そうだが…
「まずは帰らないとな」
自然い零れた言葉に、奏が小さく頷いた。
ラルドも、琴葉も、ミニ奏も…誰も反論しない。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。




