scene~21 人生とは…きっと寄り添うものです
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
天輝はゆっくりと少女に…幼い奏に近付いて行く。
奏は柔らかな笑みを浮かべたまま、天輝の方を眺めているようだった。
まるで流れていく景色を眺めるような眼差しには…
どこかホッとしたような温もりが混ざっているようにも見えた。
不意に視線に気づいたかのように瞳が揺れた。
ようやく気付いたみたいに首を傾げる。
周りの誰も天輝に気付いていない。
その異様な状況を確認してから奏はにっこりと笑った。
父親に抱かれ、安心した表情で母親へと視線を向ける。
母親が父親に何かを言うと、彼は奏でを地面に降ろした。
奏が不安そうな表情を浮かべる。
その不安を拭うように父親は奏でに微笑み掛けた。
頭に手を置き、少し乱暴気味にガシガシと頭を撫でる。
「痛いよ、もぅ!」
そ言う奏は可愛い。
父親は、奏に背を向ける。
おんぶをするようだ。
奏は戸惑いながら「いいの?」と呟いた。
父親のそこは、妹の定位置なのだろう。
「よかったね、おねぇちゃん」
妹の屈託のない笑顔が母の肩越しに見える。
何かあったとき、いつでも動けるように…
空けている気遣いが…そこにある。
妹がどんな病気だったのかは聞いていない。
でも、その両親の様子を見る限り、気を抜けない状況なのだろう。
きっと…気遣いをさせていない。
そう思っているはずだ。
自分たちが思うよりも…子供は機微に反応する。
天輝はそっと近付く。
奏は父親の方に手を回した。
天輝は奏の体を支えた。
「ありがとう」
その奏の声に父親が満面の笑みを浮かべる。
奏は少しだけ考えて「うん」と返事をした。
気になるかのように天輝の方へと視線を向ける。
「大丈夫…すぐに楽になるよ」
天輝の声はかなで以外には届いていない。
奏の見せる情景に干渉できるのは奏だけなのかもしれない。
そんなことを考えながら、天輝は奏の背にそっと手を添えた。
その手が体の中に沈んでいく。
何かが指先にあたり、天輝はそれを掴んだ。
ゆっくりと、それだけを握る。
奏の表情に戸惑いと苦痛が浮かんだ。
本当にこれをしても良いのだろうか。
そんな疑問が生じる。
でも、その何かを引き出す。
そっと握られた手の中にあったのは…黒い石。
それを天輝が引き出すと、奏はホッとしたように息を吐いた。
「もう苦しくない?」
「うん」
「怪我は…痛くない?」
「…大丈夫みたい。あったかい」
奏がそう呟くと世界が崩れ始めた。
足元から光の粒に崩れて空へと登っていく。
黒い繭が崩れ始めた。
「ラルちゃん」
「…退くぞ」
「で、でも」
「テンとの約束がある」
「でも」
「実際、ミニ奏がどうなるのかも…それでも…世界の崩壊の中においておくわけにはいかない」
「! 1人だったら」
「……いくぞ」
ラルドは繭に背を向け空を見上げた。
「出口は…」
ここに来たときのことを思い返す。
逆をすれば出ることができる。
はずだ。
「ラル!」
「駄目だ! いくぞ」
「違う」
「へ」
ラルドは振り返った。
繭は崩壊している。
ただ光の粒子になって空に広がっていっている。
「これは…テンならやってくれるって言っただろう」
「…言ってないからね」
琴葉はラルドを睨みつけた。
「莫迦…」
「無事を確認して言う最初がそれ?」
天輝は苦笑いをしてみせる。
「本当、莫迦」
奏は天輝の胸に顔を埋めた。
身体が震えている。
怖い。
自分がなくなって行くような感覚がまだ体に残っていた。
自分に何が起きたのかは分からない。
ただ誰かに抱きしめられた瞬間から安心できた。
黒く塗りつぶされていく記憶が元に戻って行った、
確かに、両親は、妹と遜色のない愛を自分にもくれていた。
でも、それを理解できる年齢ではなかった。
いまなら、わかるのに…
でも、あの日のふれあいがあるから家族としていることができた。
我慢も普通だと思えるようになっていた。
妹が元気になるまで…家族で支え続ける。
そう信じて、助け合ってこれた。
でも、妹の病気を通して培われた絆は、その要が失われた瞬間に崩れた。
奏に残ったのは、どう接すれば良いのか分からないという現実だけだった。
それが受験の頃じゃなければ…また違ったのだろうか。
扱いがわからないまま…
すぎた時間は取り戻せなかった。
加えて学校を休みがちだった妹の勉強をみる事になると…必要な会話以外することもなくなった。
きっと両親なりに、必死に繋ごうとしてくれたのは分かっている。
でも、何を話せば良いのか、わからなかった。
そんな蟠りが消えて行く。
自分の中にあった妬みも嫉みも…そして恐れすら消えて気がする。
キュッと天輝が抱きしめてくれた。
「元気?」
「え」
「それから始めるのも良いんじゃない?」
「……あ」
「ん?」
「あの刻の…」
「記憶の改竄…」
「えっ」
「いや、それで…どの時?」
天輝は笑った。
「そんなわけないか」
クスッと奏は笑った。
「優しいかっこいいお兄さんが助けてくれたのを思い出しただけ」
「俺には負けるだろう?」
「天輝が勝てるわけないじゃん」
奏はそう言って笑った。
もう何が起きても驚かない気がする。
きっと助けてくれたのは天輝なのだと思う。
いや、信じている。
コテンと頭を天輝の胸に預けた。
もう、大丈夫だと思えた。
コホン。
んっ、ゴホン。
琴葉とラルドが咳払いをする。
「俺たちは何を見せられているんだろう」
「ん〜ラブコメ?」
「世界が崩壊しかけていると言うのに気楽なものだ」
ラルドの声に天輝がハッとしたような顔をみせる。
「マジか? まだ何も終わってないぞ…いや、終わっているから帰っても良いんだけど」
「?」
「折角だから、内なる世界の魔素を取り払ってからでも良いけど」
「魔素? 置いておくとどうなる?」
「ん〜多分だが…俺たちが入り込んだ刻のように真っ暗になる」
「それって…」
奏が天輝の腕にギュッとしがみついた。
「人の心の内はわからない。でも、悪党と呼ばれる生き物に変わるのかもな」
「悪党…」
「小物もいるから、いきなり悪党になるわけではない」
ラルドは腕を組み、うんうんと頷く。
わざとらしく間を置いた。
意味有り気な視線を意識して、じっと天輝を見つめた。
「でも、まぁ、お前はいきなりなってもワシは驚かんぞ」
「それって、deathってるよな」
天輝は苦笑した。
とりあえず…すべき事はわかった。
天輝は、トントンと奏の肩を叩いた。
「天輝?」
「おれ、意外にすごいんだぜ」
「?」
天輝は右手の掌を奏に見せた。
何かを握るように手を動かすとそこに剣が生まれた。
「騎士ぽいだろう?」
「あ」
「ん?」
「違和感の正体に気付いた」
「?」
奏は一歩二歩と下がりながら天騎から離れた。
騎士たちの時代。
貴族と言われる種がきていた服装。
いまの時代なら軍服に近いデザイン。
なぜそんな服装をしているか…
転生異世界もののコミカライズを読んでいたせいだろう。
天輝のファッションセンスに関しては壊滅的なものがある。
というか無頓着すぎ。
原色の赤黒白の無地のものしか買わない。
無難といえば無難だが…周りから何かを言われることもないので無頓着に拍車がかかる。
だから女物と男物の違いもわからない。
一応、パンツスタイルだが…
「それ、レディースだよ」
「え」
天輝が固まった。
「着替えられるの?」
「…知らない」
とラルドの方をみる。
ラルドも首を振る。
何でもかんでも聞けば良いものじゃない!という思いをのせたジェスチャーをバタバタとする。
「ラルドのときは…」
奏が妙に冷静に記憶をたぐる。
色々と聞いている間に服を着ていた。
最初は、琴葉の思い描いたもののはずだ。
でも…奏が考え始めると奏の思い描いたものに変わる。
それは琴葉よりも奏の方が、天輝との結びつきは強いからだと推察できる。
と、したら…
琴葉の意見より奏の意見が通る…ということになるのかもしれない。
でも、ここは天輝の内なる世界だから、天輝以上に干渉できるとは思えないけど…
そう思った次の瞬間、白を基調にした服へと変わった。
「お、俺ってセンス良い?」
「……はいはい」
奏はクスッと笑った。
イメージした服装になった。
でも、そのコスプレにする必要はないような気がするが。
「その剣って使えるの?」
「ああ」
「じゃあ、服装はいつもの感じがいいよ」
「いつもの?」
「ジーンズとシャツ」
「……」
「不満そう」
「ちょっといい感じだなって」
「中世の服も鎧も合理性にかけるって天輝が言っていたでしょ」
「それは…」
「ねぇ、ラルドさん」
「何ですか? 琴葉さん」
「世界は不安定になって崩壊しそうなんですよね」
「ですね」
「イチャイチャのままで」
「幸せのまま、終焉を迎えるのも乙でしょう」
「……それって、私たちは?」
「巻き込まれますね」
しれっと言う。
我ながらうまくいっていると、うんうんと頷きながら。
「ですよね!?」
琴葉の真顔にラルドの表情が固まった。
「…よし、止めるぞ」
「いまさら?!」
ラルドは慌てて天輝のもとへ駆け出した。
……が、すぐにトコトコと速度を落とす。
何というか、慌てているのが癪だった。
「コントは終わったか?」
天輝はラルドにニヤッと笑って見せた。
「え〜〜」
「それで、残り時間は?」
「それは…知らん」
ラルドは胸を張る。
「実際の問題、お前の意識を戻せるかどうかは…」
「あ、そう言うおまけつき?」
「…楽しんでない?」
「人生とは…」
「とは?」
「楽しんだもの勝ちだ」
天輝はそう言って笑う。
この男にとって、苦難とは楽しむものなのかもしれない。
そんなことをふと思ってしまう。
ただ、天輝にはまだ魔素について説明をしていない。
魔素は、魔気が集まってできるものではない。
その元になる何かが発生しなければいけない。
多くは誰かの魔気に当てられて生まれる。
と、いうよりも植え付けられる可能性の方が高い。
その植え付けられたものは、負の感情を喰らって魔気になる。
そして…それが集まり、かたまることで魔素へと変わる。
生まれた魔素を自分で取り除くのは実質不可能だ。
第三者の協力なくして取り除くことは…
さっき、奏に天輝がしたように。
もっとも、天輝にその意図はない。
意図がなさすぎて呆れてしまう。
何も考えずに、直感で…恐怖というものは…
もしかしたら、天輝もその感情をどこかで落としてきたのかもしれない。
「ん?」
ミニ奏が天輝の服を引っ張った。
「誰? 可愛い」
奏が横で騒ぎだす。
キャキャッとしながら、ミニ奏に近付いていく。
奏が手を伸ばせば、ミニ奏は首をかしげてから笑みを浮かべて手を取った。
愛らしく、素直な行動が目につく。
奏の幼い時の写真は見ていないが…きっと…
そう思うけど、奏のその反応に似ていないのだろうか?と思ってしまう。
「…たぶん、君」
「うん。知っている」
奏は当たり前だよ。とそんな顔で天輝を見つめた。
くすっと笑う。
「え」
「可愛いでしょ」
奏は、ミニ奏を抱き上げた。
ミニ奏が嬉しそうに微笑んだ。
そして、天輝に手を差し出した。
「ん!」
「?」
天輝の握ったままの手を指す。
天輝が右手を開くと黒い石が握られていた。
「あれ…」
「んっ!」
ミニ奏は手を突き出した。
「これ?」
ミニ奏が頷く。
「どうぞ」
天輝は黒い石をミニ奏に渡した。
その石が周りの黒い粒子を集める。
ラルドがその石を払おうとした瞬間、天輝がその動きを止めた。
「テン」
「奏が…」
奏は天輝を見てから、少女から石を受け取る。
それを両手で包み込んだ。
まるで祈りを捧げるように。
奏の手の中で光が溢れた。
溢れた光が空へと上がりはじめ、降り始める。
まるで噴水のように…
キラキラと光の雨を降らしているようにも見えた。
「これ」
「浄化? それとも…」
ラルドは言葉を飲み込んだ。
昇華できる者は少ない。
できる可能性があるものであっても修行を必要とするものだから…
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。




