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水琴のしらべ~謹んでお断りいたします  作者: 麒麟


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22/27

scene~21 人生とは…きっと寄り添うものです

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

天輝はゆっくりと少女に…幼い奏に近付いて行く。

奏は柔らかな笑みを浮かべたまま、天輝の方を眺めているようだった。

まるで流れていく景色を眺めるような眼差しには…

どこかホッとしたような温もりが混ざっているようにも見えた。

不意に視線に気づいたかのように瞳が揺れた。

ようやく気付いたみたいに首を傾げる。

周りの誰も天輝に気付いていない。

その異様な状況を確認してから奏はにっこりと笑った。

父親に抱かれ、安心した表情で母親へと視線を向ける。

母親が父親に何かを言うと、彼は奏でを地面に降ろした。

奏が不安そうな表情を浮かべる。

その不安を拭うように父親は奏でに微笑み掛けた。

頭に手を置き、少し乱暴気味にガシガシと頭を撫でる。

「痛いよ、もぅ!」

そ言う奏は可愛い。

父親は、奏に背を向ける。

おんぶをするようだ。

奏は戸惑いながら「いいの?」と呟いた。

父親のそこは、妹の定位置なのだろう。

「よかったね、おねぇちゃん」

妹の屈託のない笑顔が母の肩越しに見える。

何かあったとき、いつでも動けるように…

空けている気遣いが…そこにある。

妹がどんな病気だったのかは聞いていない。

でも、その両親の様子を見る限り、気を抜けない状況なのだろう。

きっと…気遣いをさせていない。

そう思っているはずだ。

自分たちが思うよりも…子供は機微に反応する。

天輝はそっと近付く。

奏は父親の方に手を回した。

天輝は奏の体を支えた。

「ありがとう」

その奏の声に父親が満面の笑みを浮かべる。

奏は少しだけ考えて「うん」と返事をした。

気になるかのように天輝の方へと視線を向ける。

「大丈夫…すぐに楽になるよ」

天輝の声はかなで以外には届いていない。

奏の見せる情景に干渉できるのは奏だけなのかもしれない。

そんなことを考えながら、天輝は奏の背にそっと手を添えた。

その手が体の中に沈んでいく。

何かが指先にあたり、天輝はそれを掴んだ。

ゆっくりと、それだけを握る。

奏の表情に戸惑いと苦痛が浮かんだ。

本当にこれをしても良いのだろうか。

そんな疑問が生じる。

でも、その何かを引き出す。

そっと握られた手の中にあったのは…黒い石。

それを天輝が引き出すと、奏はホッとしたように息を吐いた。

「もう苦しくない?」

「うん」

「怪我は…痛くない?」

「…大丈夫みたい。あったかい」

奏がそう呟くと世界が崩れ始めた。

足元から光の粒に崩れて空へと登っていく。


黒い繭が崩れ始めた。

「ラルちゃん」

「…退くぞ」

「で、でも」

「テンとの約束がある」

「でも」

「実際、ミニ奏がどうなるのかも…それでも…世界の崩壊の中においておくわけにはいかない」

「! 1人だったら」

「……いくぞ」

ラルドは繭に背を向け空を見上げた。

「出口は…」

ここに来たときのことを思い返す。

逆をすれば出ることができる。

はずだ。

「ラル!」

「駄目だ! いくぞ」

「違う」

「へ」

ラルドは振り返った。

繭は崩壊している。

ただ光の粒子になって空に広がっていっている。

「これは…テンならやってくれるって言っただろう」

「…言ってないからね」

琴葉はラルドを睨みつけた。


「莫迦…」

「無事を確認して言う最初がそれ?」

天輝は苦笑いをしてみせる。

「本当、莫迦」

奏は天輝の胸に顔を埋めた。

身体が震えている。

怖い。

自分がなくなって行くような感覚がまだ体に残っていた。

自分に何が起きたのかは分からない。

ただ誰かに抱きしめられた瞬間から安心できた。

黒く塗りつぶされていく記憶が元に戻って行った、

確かに、両親は、妹と遜色のない愛を自分にもくれていた。

でも、それを理解できる年齢ではなかった。

いまなら、わかるのに…

でも、あの日のふれあいがあるから家族としていることができた。

我慢も普通だと思えるようになっていた。

妹が元気になるまで…家族で支え続ける。

そう信じて、助け合ってこれた。

でも、妹の病気を通して培われた絆は、その(かなめ)が失われた瞬間に崩れた。

奏に残ったのは、どう接すれば良いのか分からないという現実だけだった。

それが受験の頃じゃなければ…また違ったのだろうか。

扱いがわからないまま…

すぎた時間は取り戻せなかった。

加えて学校を休みがちだった妹の勉強をみる事になると…必要な会話以外することもなくなった。

きっと両親なりに、必死に繋ごうとしてくれたのは分かっている。

でも、何を話せば良いのか、わからなかった。

そんな蟠りが消えて行く。

自分の中にあった妬みも嫉みも…そして恐れすら消えて気がする。

キュッと天輝が抱きしめてくれた。

「元気?」

「え」

「それから始めるのも良いんじゃない?」

「……あ」

「ん?」

「あの刻の…」

「記憶の改竄…」

「えっ」

「いや、それで…どの時?」

天輝は笑った。

「そんなわけないか」

クスッと奏は笑った。

「優しいかっこいいお兄さんが助けてくれたのを思い出しただけ」

「俺には負けるだろう?」

「天輝が勝てるわけないじゃん」

奏はそう言って笑った。

もう何が起きても驚かない気がする。

きっと助けてくれたのは天輝なのだと思う。

いや、信じている。

コテンと頭を天輝の胸に預けた。

もう、大丈夫だと思えた。


コホン。

んっ、ゴホン。

琴葉とラルドが咳払いをする。

「俺たちは何を見せられているんだろう」

「ん〜ラブコメ?」

「世界が崩壊しかけていると言うのに気楽なものだ」

ラルドの声に天輝がハッとしたような顔をみせる。

「マジか? まだ何も終わってないぞ…いや、終わっているから帰っても良いんだけど」

「?」

「折角だから、内なる世界の魔素を取り払ってからでも良いけど」

「魔素? 置いておくとどうなる?」

「ん〜多分だが…俺たちが入り込んだ刻のように真っ暗になる」

「それって…」

奏が天輝の腕にギュッとしがみついた。

「人の心の内はわからない。でも、悪党と呼ばれる生き物に変わるのかもな」

「悪党…」

「小物もいるから、いきなり悪党になるわけではない」

ラルドは腕を組み、うんうんと頷く。

わざとらしく間を置いた。

意味有り気な視線を意識して、じっと天輝を見つめた。

「でも、まぁ、お前はいきなりなってもワシは驚かんぞ」

「それって、deathってるよな」

天輝は苦笑した。


とりあえず…すべき事はわかった。

天輝は、トントンと奏の肩を叩いた。

「天輝?」

「おれ、意外にすごいんだぜ」

「?」

天輝は右手の掌を奏に見せた。

何かを握るように手を動かすとそこに剣が生まれた。

「騎士ぽいだろう?」

「あ」

「ん?」

「違和感の正体に気付いた」

「?」

奏は一歩二歩と下がりながら天騎から離れた。

騎士たちの時代。

貴族と言われる種がきていた服装。

いまの時代なら軍服に近いデザイン。

なぜそんな服装をしているか…

転生異世界もののコミカライズを読んでいたせいだろう。

天輝のファッションセンスに関しては壊滅的なものがある。

というか無頓着すぎ。

原色の赤黒白の無地のものしか買わない。

無難といえば無難だが…周りから何かを言われることもないので無頓着に拍車がかかる。

だから女物と男物の違いもわからない。

一応、パンツスタイルだが…

「それ、レディースだよ」

「え」

天輝が固まった。

「着替えられるの?」

「…知らない」

とラルドの方をみる。

ラルドも首を振る。

何でもかんでも聞けば良いものじゃない!という思いをのせたジェスチャーをバタバタとする。

「ラルドのときは…」

奏が妙に冷静に記憶をたぐる。

色々と聞いている間に服を着ていた。

最初は、琴葉の思い描いたもののはずだ。

でも…奏が考え始めると奏の思い描いたものに変わる。

それは琴葉よりも奏の方が、天輝との結びつきは強いからだと推察できる。

と、したら…

琴葉の意見より(じぶん)の意見が通る…ということになるのかもしれない。

でも、ここは天輝の内なる世界だから、天輝以上に干渉できるとは思えないけど…

そう思った次の瞬間、白を基調にした服へと変わった。

「お、俺ってセンス良い?」

「……はいはい」

奏はクスッと笑った。

イメージした服装になった。

でも、そのコスプレにする必要はないような気がするが。

「その剣って使えるの?」

「ああ」

「じゃあ、服装はいつもの感じがいいよ」

「いつもの?」

「ジーンズとシャツ」

「……」

「不満そう」

「ちょっといい感じだなって」

「中世の服も鎧も合理性にかけるって天輝が言っていたでしょ」

「それは…」


「ねぇ、ラルドさん」

「何ですか? 琴葉さん」

「世界は不安定になって崩壊しそうなんですよね」

「ですね」

「イチャイチャのままで」

「幸せのまま、終焉を迎えるのも乙でしょう」

「……それって、私たちは?」

「巻き込まれますね」

しれっと言う。

我ながらうまくいっていると、うんうんと頷きながら。

「ですよね!?」

琴葉の真顔にラルドの表情が固まった。

「…よし、止めるぞ」

「いまさら?!」

ラルドは慌てて天輝のもとへ駆け出した。

……が、すぐにトコトコと速度を落とす。

何というか、慌てているのが癪だった。


「コントは終わったか?」

天輝はラルドにニヤッと笑って見せた。

「え〜〜」

「それで、残り時間は?」

「それは…知らん」

ラルドは胸を張る。

「実際の問題、お前の意識を戻せるかどうかは…」

「あ、そう言うおまけつき?」

「…楽しんでない?」

「人生とは…」

「とは?」

「楽しんだもの勝ちだ」

天輝はそう言って笑う。

この男にとって、苦難とは楽しむものなのかもしれない。

そんなことをふと思ってしまう。

ただ、天輝にはまだ魔素について説明をしていない。

魔素は、魔気が集まってできるものではない。

その元になる何かが発生しなければいけない。

多くは誰かの魔気に当てられて生まれる。

と、いうよりも植え付けられる可能性の方が高い。

その植え付けられたものは、負の感情を喰らって魔気になる。

そして…それが集まり、かたまることで魔素へと変わる。

生まれた魔素を自分で取り除くのは実質不可能だ。

第三者の協力なくして取り除くことは…

さっき、奏に天輝がしたように。

もっとも、天輝にその意図はない。

意図がなさすぎて呆れてしまう。

何も考えずに、直感で…恐怖というものは…

もしかしたら、天輝もその感情をどこかで落としてきたのかもしれない。


「ん?」

ミニ奏が天輝の服を引っ張った。

「誰? 可愛い」

奏が横で騒ぎだす。

キャキャッとしながら、ミニ奏に近付いていく。

奏が手を伸ばせば、ミニ奏は首をかしげてから笑みを浮かべて手を取った。

愛らしく、素直な行動が目につく。

奏の幼い時の写真は見ていないが…きっと…

そう思うけど、奏のその反応に似ていないのだろうか?と思ってしまう。

「…たぶん、君」

「うん。知っている」

奏は当たり前だよ。とそんな顔で天輝を見つめた。

くすっと笑う。

「え」

「可愛いでしょ」

奏は、ミニ奏を抱き上げた。

ミニ奏が嬉しそうに微笑んだ。

そして、天輝に手を差し出した。

「ん!」

「?」

天輝の握ったままの手を指す。

天輝が右手を開くと黒い石が握られていた。

「あれ…」

「んっ!」

ミニ奏は手を突き出した。

「これ?」

ミニ奏が頷く。

「どうぞ」

天輝は黒い石をミニ奏に渡した。

その石が周りの黒い粒子を集める。

ラルドがその石を払おうとした瞬間、天輝がその動きを止めた。

「テン」

「奏が…」

奏は天輝を見てから、少女から石を受け取る。

それを両手で包み込んだ。

まるで祈りを捧げるように。

奏の手の中で光が溢れた。

溢れた光が空へと上がりはじめ、降り始める。

まるで噴水のように…

キラキラと光の雨を降らしているようにも見えた。

「これ」

「浄化? それとも…」

ラルドは言葉を飲み込んだ。

昇華できる者は少ない。

できる可能性があるものであっても修行を必要とするものだから…

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。

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