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水琴のしらべ~謹んでお断りいたします  作者: 麒麟


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20/33

scene-19 人生とは…退屈しないようにできていそうです…

本作品はフィクションです。

登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。

また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。

剣を放った反動を利用するようにして、天輝は反対方向へ駆け出した。

時間が少しでも惜しいと感じてしまう。

冷静になれ!と頭の中に響くのに、同じだけ胸が急げと騒ぎ立てる。

息苦しさを感じる。

でも、足を止める気にはなれなかった。

近くにあるはずの気配なのに…意外に遠い。

内なる世界へ紛れ込んだ異物が何なのかは分からない。

ただ、それをいつまでも置いておくわけにはいかないことだけがわかる。

向こうにとっても、こちらにとっても…

それは直感のように警笛を鳴らしてくる。

いくらその気配が暖かくても…

たぶんダメなのだろうと思う。

それが焦りに繋がっている。

そんな気がする。

それなのに…まっすぐに向けられる熱だけは、焦りさえも揺らしてしまう。

真っすぐな熱が胸の奥を静かに震わせている。

熱い…

暖かな想いが広がっている。

それを抑え込むように黒い霧が床から湧き上がっている。

その黒い存在を見るだけで苛りとしてしまう。

ぶった斬る!

と思って飛び込んだのに、何も持っていない。

それでも、取り戻す。

奏の何かなら。

自分の中にある奏の欠片ならひとつ残らず。

外から流れ込んでくる気持ちであっても…

とりあえず殴る。

拳が虚しく空を切った。

勢い余って前につんのめる。

「痛っ」

床を転がりながら声が漏れた。

一度分散したかのように動いた黒い揺らぎが襲ってくるように集まる。

転がってかわしつつ、体勢を立て直す。

目の前でその黒いものが形作るように集まっていく。

黒い揺らぎが、一つの何かになろうとしていた。

そんな風に見えた。

集まらずに霧散した黒い粒は、ふらふらと浮かび上がり、光の玉へ吸い寄せられていく。

近付きながら塊を大きくし、光の玉を狙うように旋回している。

獲物を狙うかのように…隙を狙っているようにも見えた。

執拗で狡猾な動き…まとわりつくその様が気持ち悪い。

物理攻撃が効くのかは分からない。

ただ、なんとなく手に当たったかのような感触が残っている。

もう一度!

天輝は足にグッと力を入れる。

黒いのがダメなら…

光の玉の方へ手を伸ばした。

その光の玉は、伸ばされた天輝の手を掴むように光の触手を伸ばした。


「奏!」

琴葉は叫ぶことしかできなかった。

一緒なら、天輝が助けられると思った。

ラルドが何度も「ここまで」と示していたのを無視して。

奏が行こうとするのがわかっていたから、置いて行かれないようにラルドを掴んだ。

ラルドが奏を掴み損ねたから、奏を掴んだ。

思った通りに…なった。

奏を独りで行かせずに済んだ。

奏の望みだって…叶えられている。

でも、それだけ…誰にも確認していない。

全部独りよがりだ。

ラルドが望んだことをしていない。

奏が望んだことをしていない。

ただ、琴葉(じぶん)がこう思っているはずだという思いだけで動いた結果だ。

何も変なことが起きていないだけ。

誰のためにもなっていない結果だけが残った。

もしも、ラルドが来ることを拒んでいたら…

もしも、奏が来たくなかったら…

相手の気持ちなんてたしかめていない。

いままでそれで問題が…なかったのは奏だから。

天輝だから…だった。

自己中心的行動…それを容認してくれて来た。

駄目なときは最初に言ってくれていた。

判らない。

本当に良かったのか。

判らない。

この黒い靄の正体だって。

ラルドが説明してくれるときに最後まで聞いていたら…

こんなことになっていなかったのかも知れないのに。

ラルドは何度も危険だと言っていた。

その言葉より自分の気持ちを優先した。

後悔の言葉だけを重ねたところで、何も解決しない。

そのことを分かっている。

知っている。

それなのに…

何度も繰り返してしまう。

「ごめん」

「! 謝るな」

「え」

「負の感情を零すな」

ラルドは下唇をかみしめながら琴葉に言った。

無茶を言っているのは理解している。

それが叶わないことも分かっている。

もとより人は感情に左右される。

人に限らない。

神の方が(たち)が悪いかもしれない。

感情のままに天罰という被害を落とす。

村を一つ消し去る暴挙に出る神もいる。

でも、だから負の感情に引きずられない。

一瞬ですっきりとする。

その唯我独尊的な性格は見習ってほしいが…獣じゃない限り後先は考えるものだ。

「でも…」

「負の力は正の力を食らう」

「え、光が闇を消すんじゃないの?」

「力の差があれば、それも可能だが…いまは光の方が少ない」

「……どうして」

「魔素が存在しているからだ、この内なる世界に」

その声が琴葉に届いたかも怪しい。

ラルドは何ができるのか考えるので精一杯だった。

琴葉の身体から黒い湯気が上がり始めている。

魔気。それは霧状になり、濃度が上がると靄になる。

そして陽の光を遮るほどの濃さになると瘴気になる。

きちんと説明していなかった。

説明する時間は…

そこまで考えたところで、ラルドは首を振った。

考えるな。

事態だけを見つめろ。

この体で何ができるのかを見極めろ。


こ、こんなことなら…もう少し身体を鍛えておくべきだった…

絶対に零体のはずなのに…なぜこんなに疲れるのだろう。

息が上がる。

周りが霞む。

縦横無尽に黒い塊が槍のように降り注いでくる。

それを交わしながら、5つ目の光の玉を回収した。

正確には、手のように伸ばしてくる触手を捕まえるだけなのだが…

ただ、ひとつ、確認したくないことが起きていた。

気のせいであってほしいと思うのに、光の玉は人型になり始めている。

そして、黒い粒も吸収しているように見える。

気配は…あと二つ。

大きい方を後にして…

…奏を感じる。

それで駆け寄っていく。

そして強奪する。

どう考えてもストーカーだな。

天輝はそんなことを考えていた。

さっき学んだことがあるとすれば負の感情を抱けば黒い粒子が湧く。

それも自分からあふれるのだろう。

身体が毒素を出すように。

それが集まって…黒い靄、いや壁になろうとしている。

もしも、この世界に紛れ込まなかったら…

そんな「もしも」を考え始めた瞬間、黒い粒がまた滲み出る。

そもそも天輝(じぶん)から出るやつはどす黒いと思う。

ああ、駄目だ。

暗いことを考えるな。

明るいことを考えろ。

……そうだ。

ワクワクする!

それに置き換えておこう。

とりあえず…ワクワクしていれば…どうにかなるはずだ。

天輝は苦笑いをこぼした。

黒い槍を避けるのもうまくなってきた。

ステップの踏み方もどうにかなってきた。

ときには突っ込み。

ときには止まる。

右に行くこともあれば、後ろに下がることもある。

意表を突くように飛ぶこともある。

その全てを楽しむことにした。

遊園地の少し大変なアトラクションとして…

ただ、失敗したら、代償は自分の命だが…

「こっち!」

何となく光の玉に声をかけた。

光の玉はふらふらと近付いてくれる。

黒いやつらまで引き連れて、だが…

いくつか前までは、触手を伸ばすのが躊躇しているようだったのに…

さっと伸ばしてくる。

何の心境の変化かは…何となく心当たりが左腕の中にあるけど…

伸ばされた光の触手に手を伸ばす。

それなのに、触手は天輝の手を避けた。

お茶目を出している状況ではないことは理解してくれていないようだ。

左腕で抱える球が変に暴れてくれる。

一度迂回してからもう一度アタックする。

完全にタイミングを見計らっている気がする。

あくまでもこっち都合の感覚での話だが…

左腕の中でもごもごとしているやつが触手を伸ばした。

………あ~もう腕と認める。

その腕が球体から伸びた触手をつかむ。

次の瞬間、きゅっと吸い込まれるように光の玉は消えた。

何となく抱いている玉に重みが加わった気がする。

とりあえず…最後のひとつに向かう。

少女を抱えたまま激走。

現実世界でやったら、どう考えても捕まるな…

そんなことを考えられるくらいには、まだ余裕が残っていた。


「琴葉…何で泣きそうなの?」

天輝は琴葉の前で足を止めた。

ちらっと少年を見る。

さて…千客万来のようだが…誰だ。

可能性から考えれば…俺?

全く似てないんだけど…

天輝はため息をつく。

冗談を口走っている場合ではなさそうだ。

床に突き刺さっている剣を手にする。

かわりに抱いていた少女を少年に預ける。

いまは深く考えるな…

思いがこの世界を作るのなら…

剣を振り回してみる。

黒い靄が風に巻かれるようにして剣の刃先に集まる。

「あれ…天輝…よかった無事で…」

ぽつりと琴葉から漏れた。

この際なので、助けたのは自分だと主張すべきかを考える。

ばすっ!

誰かがお尻と太ももの間を蹴る。

って誰かって一人しかいない。

そんなことをするのは…

「えっと…」

少女だった。

少年の横で腕を組んでしっかりと睨んでくる。

さっきまで光の球体だったのだが…

枕程度の大きさだったのにもう少し大きくなっている。

少女は十歳くらいだろうか。

幼児誘拐にはならなそうだが…

そもそも誘拐されてくれるタイプには見えない。

雪のように白い肌。

艶やかな黒髪は肩のあたりで静かに揺れている。

その一本一本が光を受けて柔らかく輝くキューティクル満点。

顔立ちはまだ幼いのに、不思議と幼さだけでは片付けられない。

大人になる途中の美しさ……

それはそれで成長が速いと思うのだが…

それは抜きにして知り合いにそっくりだ。

そのまま体格を子供にした感じ。

長い睫毛の下で閉じられた瞳は静かで、眠っているだけなのに凛とした気配がある。

鼻筋はすっと通り、薄桃色の唇は力なく閉じられていた。

綺麗というべきだろうが、普通に可愛い。

将来、とんでもない美人になる気しかしない。

そんなことが一目で分かってしまう少女だった。

……いや、まぁ、それはともかく…

小学生でこれは反則だろと思う。

将来、絶対に苦労するやつだ。

「えっ。えっ。ええ~~」

琴葉は、若菜と少女を見比べた。

瓜二つというのは…こういうことを言うのだろう。

「…少女誘拐?」

「………」

「ごめん」

「二つに……分かれている理由は後でラルドに聞くとして」

「え、ワシ?」

天輝は少年を見る。

で、何も見なかった顔で若菜の方へと向き直した。

「琴葉、頼む」

「うん、いいけど」

「…どうせお前のことだから、強引に来るのに巻き込んで反省しているんだろう?」

「えっ」

天輝は、琴葉の頭をポンポンと叩いて、ニッと笑った。

「たとえ何があっても、お前を責めないと思うぞ」

「天輝」

「奏でに怒られたいのなら、そんな顔をしていればいいけど」

ドスッとミニ奏のパンチが無防備な天輝のお腹に突き刺さった。

剣を落としそうなくらいに…

声にならないくらいに…

痛い。

「な、何しているの、ミニカナ」

琴葉が慌てて、ミニ奏の背を押してラルドの方へ行く。

「えっと…何か言う方がいいか?」

「憶測以外なら助かるかもな」

「憶測どころか、勘でしか喋れん」

ラルドはニヤリと笑った。

どうやら、説明役は押し付けられたらしい。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。

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