scene-18 人生とは…過去の積み重ねです!
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
かむながらえ。
たけふりはらえ。
何度唱えただろう。
闇はまだ晴れない。
でも、不思議と怖くはなくなってきていた。
そもそも闇を晴らしてくれるものではない。
そのことはわかる。
言葉に込められた意味…役割…
言霊というものが実在するのなら、この祝詞は自分の内から負なる思いを払うもの。
祓ってくれるのが理想なのだろうが…
その辺は贅沢を言わないことにする。
どうせ闇を晴らすための言葉ではない。
そうだったら、きちんと奏が説明してくれたはずだ。
何かしら憑りつかれるらしいから…
ここまで来たら開き直るしかない。
天輝はそっち関係に縁があるらしい。
ラルドに知り合って、余計に力強い気がするが…
戻れたら、殴らせてくれるだろうか…
ブワッと黒い靄が広がった。
霧状くらいまでは収まってきたと思ったのに…何事だろうか…
解っていることは…いま自分がいる場所は…内なる世界。
どうして閉じ込められているのかわからない。
ただ、心が凪いで行くのがわかった。
天輝は、深呼吸をしていま一度目を閉じた。
考えるのを止めてみる。
「かむながらえ、たけふりはらえ」
自分の中の思考がばらつくのが終わるまで呟いてみる。
ゆっくりと立ち上がり…目を開ける。
どうせ真っ暗…そう思っていた。
だが、そこにあったのは闇ではない。
黒く濃い靄が、世界を覆っているだけだった。
感じるままにここが自分の内なる世界なら……。
驚くほど何もない…本当に驚きたい。
もう少し色々とものがあってもよさそうだが…
何もない…どこまでも広い空間だけが続いているようだった。
……そして、ようやく気付く。
裸だった。
「さて、どうしたものかな」
天輝は空を見上げた。
少しの光…それだけで世界は輪郭を持ち始める。
と、言っても何もないので、いまいち実感は薄い目だが…
微かな光が差し込んでいた。
とりあえず…掃除でも始めるか…
天輝がそう思った瞬間…足元に何かが当たった。
手を伸ばすとバケツだった。
水も入っている。
雑巾も入っている。
つまり…?
意識すれば…というところだろうか。
天輝は、勢いよく後ろに向かって飛んでみた。
背中から床に落ちる感じで…
ばふっ!
ふかふかの布団が身体を包んでくれた。
モスグリーンのシーツなのは、奏の趣味だろう。
少しずつ闇が晴れていく。
靄は霧状になり始めていた。
自分の中とはいえ少し気持ちの悪いものだ。
天輝はベッドをおり、少し物思いにふける。
フワッと体を何かが撫でる感覚がある。
ゴクリと喉が鳴る。
どうやら裸からも脱出できたようだ。
西洋の騎士時代のような軍服めいた衣装を身に着けていた。
普通にスーツを思い浮かべたはずなのだ…スマホ漫画の影響だろうか。
どうせなら…
何となく剣を想像してみる。
剣が形になっていく。
一振りの剣がゆっくりと姿を現した。
まるで周りの黒い何かを吸い込むように、靄が晴れていった。
「お~何気に行けてるな」
「それで…どうするの? ラルちゃん」
「テンを探す。ところで、この服はこれいいのか?」
「うん、似合ってるよ」
琴葉が言い切った。
奏は、クスッと笑う。
神職のような装束だった。
白衣に袴。どちらも雪のように白い。
琴葉のイメージに任せているとモンスター系着ぐるみの衣装になるようだ。
それはそれで可愛いし、緑のドラゴンの着ぐるみはなかなか可愛いかった。
普通の衣装にするのは忍びないくらいに…目を引いた。
もしもラルドが、外の世界で同じ姿なら、それも悪くないと思ってしまう。
ただ、この場所では琴葉よりも奏の方が、思い描いた姿をそのまま形にできるみたいだ。
「ねぇ、ラルド」
「あん?」
ラルドが振り返る。
奏が怪訝そうな顔をする。
「もう慣れてくれ。奏。ワシにもどうすることもできない」
「?」
「何だろう。魂に記録でもされるのか? セーブとかいうやつかな」
「えっ…幽体離脱するとこの格好になるということ?」
「テンの中では…というよりも、一度出ない限りは…だと思うが、どうした?」
「もっと若いときをイメージすればよかった」
「………」
ラルドは無言で琴葉を見る。
琴葉も無言で見返した。
ラルドは、琴葉にちょいちょいと手招きをする。
琴葉は屈みこんでみる。
何となく違和感があるが、これだけは慣れるしかない。
「何?」
「それワシのセリフ」
「ああ~乙女心よ」
「?」
「おこちゃまには分からない」
「ワシ、千歳を超えているんだけど」
「…実際は、何歳なの?」
「知らん。数えてない」
「そんなものなんだ」
「悠久のときを独り生きていると数える必要もない」
ラルドの言葉が、奏に突き刺さる。
いまでこそ、天輝がいる。
琴葉も何かにかけて気にかけてくれる。
別に家族がいないわけではない。
でも、それが必ずしも幸せではない。
虐待など受けていたわけでもない。
ただ、無関心なだけ。
学校の成績も、スポーツ大会の結果も、彼らは何も言わなかった。
できて当たり前。
そんな空気だけが家にあった。
妹が病弱だとしても…かかりきりで大変だとしても…
関係を持てなかった。
それがすべてだと思う。
良いとか悪いではなく…妹が普通に暮らせるようになったいま…
奏は家では腫れ物にでも触るような扱いになっていた。
妹のことは理解していた。
だからこそ、たくさん我慢もした。
でも…彼らもだけど、奏も扱い方を見つけられないでいた。
大学進学で家を出た。
就職で家に帰らなかった。
それなりに社交的で、生活上は苦労していないと思う。
天輝が気付いてくれるまで、隠せていたと思う。
話して面白くない話じゃない。
だから友人にも話していない。
琴葉にも言えていないことの方が多い。
それでも、救いは妹が連絡をくれることだと思う。
嫌う理由はない。
大変な思いをして、いまを生きられるようになったのだから。
彼らにしても、いま夫婦生活を謳歌できているのだと思う。
でも、だからこそ、お互いに干渉しない。
一人じゃないのに、ずっと独りだった。
そんなことを思う自分が嫌だった。
それなのに…
千年以上という時間を、ラルドは笑って口にする。
背を向けられたから、心根に触れることはできないが…
声には寂しさが混ざっている気がした。
「!」
ラルドの表情が変わった。
「どうしたの?」
琴葉がラルドの視線を追いかけると奏が黒い靄をまとい始めていた。
「奏、どうしたの?」
「負の感情という奴だな」
あっあああああっ!!
奏の叫び声が上がった。
「ラル!」
「この身体、何ができるかわからんぞ」
ラルドは奏の手を握った。
「奏!」
ラルドの身体から何かが吸い出されていく。
力が抜けていく感覚に拙いことだけがわかる。
「ラルちゃん!」
「琴は触るな!」
「でも」
「飲まれたら意味がない」
「でも…」
琴葉の声に力が無くなっていく。
その次の瞬間だった、
黒い靄を切り裂くように何かが飛んでいた。
ガシュッ…ガガッ……
剣が床を切り裂きながら、ラルドと奏の間に割り込んだ。
ラルドの手を剣の柄が弾いてくれる。
「痛っ」
「ラル! 大丈夫?」
「…とりあえず、手はある」
奏の姿が闇の中に沈んでいく。
「どうしよう」
「…触るな」
「でも」
「琴も引っ張られる」
ラルドの勢いに琴葉は奏に触れる手を止めた。
だから…連れてくるべきじゃなかった。
そう思ったところですべてが遅い。
いまさら外に出すこともできない。
ただでさえ空間が収縮をはじめているのに。
ときを少し遡らせて…
ラルドが自分の手の安否を確認する少し前。
天輝は満足そうに剣を両手で握って振り回していた。
雑巾で拭くよりも早く黒い靄がかき消されていく。
その靄が一か所に集まり始めている。
…漫画的には、俺が倒すボスキャラか?
そんなことを考えながら、二次元に感化されていると自分で苦笑する。
ただ感化されているのは認めている。
寝心地の良いベッドに、座り心地の良いソファ。
思えば食事の出てくる便利なテーブル。
装飾がこれでもかと施された美しい剣。
どれもが想像の産物にすぎない。
それを生み出すのはこれまでの知識なのだろう。
そのことだけは漠然と理解できている。
あとは、お決まりの流れなら、この空間を支配しようとしている敵を倒せばいい。
ゲームの定番の流れだ。
剣を振り回せば、靄が晴れるのなら、あとは…
靄を出す元凶だけ…
あんまり居眠りをしていると怒られそうな気がする。
そろそろここから出て、身体を起こさないと、奏が怖い。
天輝は顔をパンパンと叩いて黒い靄が集まっていく先を見据えた。
体育で学んだ程度の剣道で太刀打ちができるかが少し疑問だが…
…あれ…
天輝は周りをキョロキョロと見回した。
嫌な予感が一気に広がる。
奏の気配が色々なところからする。
なんだ?
天輝は焦りに呑まれそうになっていた。
考えるな!
近くから…
遠くは…
円盤投げをする要領で天輝は剣を投げた。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。




