scene-15 人生とは常に変化を求めるものです…強くなれます!
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
そこは光のない場所だった。
真っ暗…
そういうべき場所だった。
自分の手も足も見えない。
ただ自分の手に触れることはできる。
足に触れることもできる。
顔にも…
音がない。
声も出ない。
どこなのだろう。
何をしていたのだろう。
記憶が薄れていく。
自分の周りの色々が消えていくようだった。
恐れが膨らんでいく。
怖さが生まれていく。
このまま闇に飲み込まれていく。
そんな気がした。
「天輝!」
奏が取り乱したように声を荒げた。
反応はない。
天輝に掴みかかろうとした奏を琴葉が止めた。
「どうして?」
答えが出せなくて琴葉はただ首を振るだけだった。
ラルドも不安そうに見ている。
「力を貸してくれるか?」
ラルドが呟いた。
「何をすれば」
奏にいつものゆとりがないことはラルドにも分かった。
「琴葉の方がうまくできるとは思うが…」
「何?」
奏での声から甘さが消える。
ゴクリとラルドは喉を鳴らした。
「危険という点ではどちらも同じで…うまくいく保証はどこにもない」
「………」
「戻るのを待て…は受け入れられない…よな」
ラルドは諦めたように呟いた。
「琴葉の方が可能性が高いなら…」
奏が下唇を噛んだ。
歯がゆい。
何もできないまま指を咥えているだけなのも。
天輝のために誰かに危険をお願いするのも。
本当は嫌だ。
でも、可能性があるのなら……
「莫迦。自信持ってよ、奏さん」
「だって…琴」
「ラルドが合わせやすいだけで、天輝に合わせやすいのは、奏さんでしょ」
「そんなの…」
「呼吸を合わせる。あんまりゆっくりできないのは…」
琴葉は天輝を見た。
光の玉は変わらず7つのゲートを通り抜け循環を続けている。
光の玉の数も増えているが、大きくもなっている気がした。
奏での視線にラルドも頷く。
ラルドはゴクリと喉を鳴らした。
くそっ……実体化なんてしていなければ、俺が行けたのに。
本来なら、俺が潜るべきなのに…
だが、実体化しているいまは容易に魂の領域へ入れない。
身体が欲しいと望んだのに…
それなのに、こんなときだけ、その願いを悔やんでしまう。
「何をすればいいの? ラルちゃん」
「いまと同じことだ」
「?」
琴葉が首を傾げた。
「チャクラを開放して…テンの循環の中に紛れ込む」
「…それって可能?」
「理屈の上では…」
「理屈って」
「幽体離脱のようなものだな」
「…それで、天輝は戻せるの?」
奏の目に涙がいっぱい溜まっていく。
「ラルちゃん」
琴葉がラルドを持ち上げた。
「ん?」
「危険性の本当の確率は?」
「ワシが奏に合わせられるのが五割。奏がテンにリンクできるのが…」
「100%よ。それ以外認めない」
奏は天輝の前に胡坐をかいた。
「7つとも開ける必要があるぞ」
「分かっている」
「落ち着いて。奏さん。ひとつずつでも、2、3、4しか開けれていないのよ」
「だから?」
「もぅ、いじっぱり」
「独りで逝かせない」
奏の頬を涙が伝った。
「ラル!」
「!」
ラルドはビクッとして背筋を伸ばした。
「私にはどれだけ合わせられるの?」
「…まさか」
「はやく!」
「七~八割」
「合せて!」
「待て、お前も7つ全部開いていないぞ」
「開かせればいいんでしょ」
「…馬鹿者どもが」
ラルドは頬を涙が伝うのも構わず、唇を噛んだ。
怖い。
折角、自体を手に入れたのに。
見捨てればいい。
そういう思いが湧かないのが悔しい。
琴葉までが胡坐をかいた。
「三角を作れ…奏はどれだけテンが好きなんだ。顔を見つめていても何もならん」
ラルドはため息を吐きながら、床に降りた。
トコトコと歩けるサイズに手足が大きくなっている。
琴葉が奏の背をトンとたたき、少し場所を開けてもらった。
三人が作る三角形の真ん中にラルドは収まり、琴葉を見た。
奏を見た。
「することはさっきと同じだ」
ラルドがため息を吐く。
「声を掛けたら…三人で手を結んでくれ」
「………」
二人は黙ったまま頷く。
「無理しなくていいぞ」
「ねぇ、ラルド、私だけでいいよ」
「…見つけられなかったら、戻れないぞ」
別に脅かすつもりはない。
それでも奏が震えているのがわかる。
「それでも天輝と一緒なら」
ラルドは首を振った。
「絶対に戻るぞ」
「あとで『料亭河文』のアフターヌーンティと懐石おごらせるからね」
琴葉は返事のない天輝に向かって言う。
奏がクスッと笑い「莫迦ね」と呟いた。
ふん。と鼻で答えて琴葉はふ~と息を吐いた。
「今更だけどきちんと聞いて…」
琴葉は眼を閉じたまま説明を始めた。
「チャクラを流すには、七つの大きな関所、ゲートを通す必要がある」
琴葉は自分の身体を指で示した。
「尾骶骨のあたりから始まって、お腹、みぞおち、胸、喉、眉間、そして頭頂部」
胡坐の上あたりで手をおにぎりを作るように重ねた。
「一つずつ呼吸に合わせて意識を向けていく」
奏が静かに頷く。
ラルドも呼吸を合わせ始める。
「開こうと力むんじゃなくて、呼吸がそこを通るイメージを持つ」
「詰まっている場所があれば?」
「7つのチャクラ、どれが最初に開いてもいいから…流すのをイメージするのはそのあと」
それができれば苦労はしないけど。
そんな説明を挟んで生徒と和気藹藹とするのだが…
「無理に開こうとしたり、逆に流そうとすると、乱れるから」
「うん」
「呼吸で少しずつ温めるように意識するだけでいい」
ラルドは目を見開いた。
「普通は一つ開くまでに何か月も掛かるもんだぞ」
それなのに天輝は閉じていたものを意図も簡単に開いた。
正直、煽るんじゃ無かったと思った。
開いたチャクラを起点に、上へ、下へと次のチャクラが開いていく。
最初に光の玉はそれらをまっすぐに通っていっただけ。
くぐる順番も関係なく、ただゲートを通るだけだった。
それが、8の字を描くように動き始めた。
循環しながら、少しずつ大きくなっていった。
呼吸に合わせるように光が尾骶骨から登っていった。
迷子だった光の玉は、まるで最初から道を知っていたかのように動き始めた。
そのときに声をかければ間に合ったのだろうか。
意識が自分の内側に引っ張られる前に。
「まずは呼吸を整えるの」
琴葉はゆっくりと息を吐いた。
「鼻から静かに吸って…口から長く吐く。吐く時間を吸う時間より少し長くするの」
奏もそれに合わせる。
「息を吐くたびに身体の力を抜いていく。肩、首、胸、お腹……余計な力を全部流すように」
奏も目を閉じた。
「呼吸を落ち着けて、自分の鼓動を感じどって、その鼓動に意識を重ねるの」
琴葉は胸の前で両手を重ねた。
「『氣』は外から集めるものじゃない」
奏に伝える。
いつもなら見つめながら口で説明して導くだけなのに…
同時にチャクラを開放するのは難しい。
でも、しなければいけない。
「自分の中に、もともと流れているものを目覚めさせるだけ」
ラルドは小さく頷いた。
『霊』と『氣』は別物。
宇宙と呼ばれる世界にある自然由来のエネルギー『霊』。
生命で宿り生み出されるエネルギー『氣』。
そのふたつが混ざりあうときに霊気は生まれる。
そこに必要なのはバランスだ。
それを理解することなく、感覚だけで進める。
チャクラを巡回させれば、自然と『霊』を取り込むことになる。
それは決して安全ではない。
だから、ラルドは固唾をのんで見守る。
自分たち神獣が自然とすることも、できないものにとっては命賭けになる。
二人の表情に苦悶が混ざる。
徐々に、琴葉に説明するゆとりがなくなってくる。
ラルドが苦い顔をした。
急ぎすぎだと思う。
もしも、誰かを切り落とさないといけないとしたら…
天輝は誰を切り落とせというだろうか。
訊くまでもない答えが自分の中にあった。
だから、これを止めることは…できない。
「自分の中にある一番大きな光を意識して」
「うん」
「それを血流に乗せてあげるイメージで…」
琴葉の説明が途切れ途切れになり始める。
「全身を巡らせたら……ゲート…、チャクラから…外に…」
「うん」
「外に出た光の玉が自分の中に戻るのをイメージしていくと…」
汗が床に水たまりを作っていた。
限界がどこかで決められるのなら、限界は超えていたはずだ。
ラルドは、息を吞んだ。
二人が命を天秤に乗せる決断をしたように…
自分も決める必要がある。
覚悟というものと別れというものを。
数日の時間とはいえ、楽しい時間だった。
絶対に忘れない。
天輝に出会ったことを。
名前を付けてもらったことを。
旅に出たことを。
6つ目までは届く。
だが7つ目へ意識を向けた瞬間、開いていたどこか1つが閉じる。
奏は何度も、それを繰り返していた。
もう限界と判断すべきだった。
説明もできなくなり、自分の氣を回すので一杯になっている琴葉も。
何でも簡単にして…!
附属中学校のサマーキャンプの引率ボランティアをしているときの八つ当たり。
それをふと思いだした。
別に天輝が悪いわけではない。
不器用なの奏が悪いことは理解している。
ただ焦りが、上手くいかないを連鎖させていた。
他のチームよりも手際が悪いのはともかくとして…
巻き添えになる中学生に申し訳なくて…
つい、同じチームになった天輝に言った言葉。
天輝はクスクス笑いながら「肩に力を入れすぎだよ」という。
手順のすべてを頭でシミュレートしたところで。その都度変われば困るのだから先を読まずに…
と意図も簡単に言う。
適当な行動は後で回りに迷惑が掛かる。
そう思っていたのに…
「そのときに一緒に考えるのが楽しいでしょう?」
そこに添えられた照れた笑いが印象に残った。
適当でいいと言いながらも、完璧に近いところを見せてくれる。
もちろん手際が悪い。
失敗も多い。
でも、いつの間にか中学生と仲間になっている。
創意工夫を善意でしていくことで失敗を成功の糧にする。
あれやこれや、中学生の意見を聞いて、失敗に失敗を重ねて騒ぐ。
進まないのに一番賑やかなチームだった。
気が付けば、他のチームよりも手際よくなっていた。
引っ込み思案だったはずの学生までも積極的に意見を出し行動していた。
何があったら人が変わるのかは分からないけれど…
中学生と一緒になって奏でも泥だらけになって騒いでいた。
たった二泊三日の野外学習。
教師たちはもれなく参加者に賞を用意するとは聞いていた。
でも、ボランティアで来ていた奏たちにもでた。
正確には奏のチームだけに。
『楽しみすぎたで賞』
ばかばかしい遊びだった。
でも、それが嬉しかった。
たった数日の付き合い。
そのあと学際まで会うこともなかった。
連絡先の交換をしたわけでも、学部が同じでもなかった。
ミスコンのステージの上での再会。
自ら動かなければ何も変わらないのなら…
逃げ道を防いでみるのも有りだと思った。
肩の力を抜いて、結果は見ない。
いますべきことを手前からするだけ。
できることからでもいい。
後で辻褄を合わせればそれで問題はない。
あ…これもきっと…
奏は、呼吸を落ち着けた。
意識を自分の内側へと持っていく。
焦らない。
自分の中のもう一人に委ねる。
目を閉じて閉ざした世界に光が満ちるのを想像する。
溢れてくる光が、闇を消すと、光の玉を見つけた。
それが自分の身体の周りをぐるぐると回る。
その光が自分の正中線を前から入り背中へと抜けていくイメージを。
ひとつ上のチャクラから自分の中を抜けていく。
お尻からおへその下、みぞおちから胸の中心へと…
焦らずにひとつずつチャクラを通していく。
「! 奏、テンの手を握って」
「えっ…あ、はい」
奏が天輝の手を握った。
合わせるように琴葉が奏の手を握り、天輝の手を握る。
「呼吸を合わせて」
ラルドは言うとトンと琴葉の足に手を乗せた。
これでうまくいくかどうかは神のみぞ知るところだ。
ただ神頼みをする暇はない。
もう…行くしかない。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。




