Scene-12 人生とは…選択することで変わります!
本作品はフィクションです。
登場する人物、団体、企業、学校、事件等は架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
また、作中には実在する神社仏閣、伝承、民話、地域名等を参考にした表現が含まれますが、物語上の演出および独自解釈によるものであり、実際の歴史・信仰・伝承とは異なる場合があります。
琴葉はジッとテレビを見詰めていた。
キャスターが昨夜の緊急記者会見の様子を説明していた。
そのキャスターの左後ろで、その様子が流されている。
会見は、大学幹部による謝罪から始まった。
フラッシュを焚く音と光が映像をホワイトアウトしそうだった。
数十秒に渡り頭を垂れ、ジッとフラッシュが収まるのを待っているようだった。
1分後、顔を上げ、椅子に座る。
中央で学長がマイクを手にした。
深呼吸をして、正面を見据えた瞬間、バン!と大きな音が響いた。
体育館を使った会場は音の反響がすごく、視線が入口に一斉に向けられる。
その次の瞬間には、数十名の学生が雪崩れ込んだ。
誰もが呆気に取られている中で学生たちは大学関係者が座る席へと詰め寄った。
報道機関のカメラの間を抜けるようにして。
でも、その手が、その声が学校関係者に届くことはなかった。
事前に察知していたのか、それとも偶然なのかは定かではない。
ただ警備員たちが立ちはだかった。
学生たちを捕まえるように押さえつけ、関係者を体育館から逃がした。
その後、警察も出動する騒ぎとなり、逮捕者まで出る事態へと発展したのは言うまでもない。
発端となったのは、ネット上へ投稿された一つの書き込みだった。
動画投稿が流行のこのご時世で、百字程度の文字制限という呟きが『いいね』を集めた。
遺書を思わせる内容。
百数十文字の投稿は瞬く間に拡散された。
それだけではなく、関連する画像投稿にも繋がっていった。
真偽も分からないまま情報は瞬く間に拡散し、憶測と怒りだけが膨れ上がっていく。
その幾つもの憤りは対応をできない大学へと向けられていた。
大学側は事実関係を調査中と説明する以外にできる事は無かった。
疲労の色を隠せない表情で、大学関係者たちは対応に追われている。
その内容が事実かどうか、信憑性もつかめないまま情報が走りだした。
そして最大の問題は、当事者が見つかっていないことだった。
事件に巻き込まれたのか。
自ら姿を消したのか。
警察も大学も、その消息を掴めていない。
だからこそ学生たちは焦り、怒り、答えを求めていた。
琴葉は小さく息を吐いた。
偽りで物事をごまかそうとする。
そんな光景は、きっと昔から変わらない。
それが分かっているからこそ、誰かが情報をリークしたのかもしれない。
それでも、それが褒められた方法とも思えなかった。
憶測も虚偽も混ざり始める。
面白半分で煽る者まで現れた。
時間が経つほど真実は埋もれていく。
それを何も考えずに拡散する。
真偽は曖昧にされていく…のはいつものことなのかもしれない。
それでも、早い真相究明を求める人にとってはネットは丁度良い媒体だった。
ただ、相手が見えないことで、粗暴で卑怯な言葉を使ってしまう。
当然のように大学側は、事実無根であることを発信し続けるしかない。
このまま、ただ姿を消した学生として扱われてしまうのかもしれない。
それが分かっているから、被害に遭った学生はやるせなかった。
きっと、多くの学生にとって納得できるものではなかったのだろう。
そんな見解と勝手な解釈、コメンテーターの私見を訊いた上で画面は切り替わった。
画面の向こうでは、正門前に報道陣のカメラが並んでいる。
朝9時を過ぎたキャンパス。
本来なら一限へ向かう学生たちが坂道を上っていく時間のはずだ。
奈良の丘陵地に広がる静かな大学の朝はのどかに流れているはずなのに…
『こちらは、いまの飛鳥総合大学前です』
女性レポーターの声とともに映し出されたのは、朝の陽射しを受けるキャンパスだった。
緩やかな丘陵地に広がる校舎群。
朝の陽射しを受けた白い外壁が静かに輝いている。
まるで観光番組の一場面のような穏やかな風景だった。
若葉を揺らす風も。
坂道を上っていく学生たちも。
木々の間を抜けるようにして伸びる通学路には、講義へ向かう学生の姿がぽつぽつと見える。
古都の空気を残した落ち着いた街並みの中に、その大学は静かに溶け込んでいた。
普段ならば、穏やかな朝の風景なのだろう。
歴史や文化財を学ぶ学生たちが、それぞれの日常を始める時間。
でも今朝は違った。
正門前には報道陣のカメラが並び、三脚が歩道を埋めている。
マイクを持った記者たちが慌ただしく行き交い、大学職員らしい人物が対応に追われていた。
画面の奥では、足を止めて様子を見守る学生たちの姿も映る。
昨日まで当たり前だった景色が、どこか別の場所のように見えてしまう。
『現在、大学側は…』
キャスターの声が続いていく。
琴葉は黙ったまま、その映像を見つめていた。
仕事の関係で何度か訪れているキャンパスだけに、報道されている光景に違和感を覚えてしまう。
いや…違和感という言葉だけでは足りていない。
画面の向こうの大学には、どこか薄い靄が掛かっているように見えた。
記憶の中にある住宅街と里山の境目のような穏やかな空気が消えている。
空が広く、木々が多く、季節の移ろいを感じやすい場所だった。
春には若葉が揺れ、秋には色づいた山並みが校舎を囲む。
そんな大学だったはずなのに…
いま画面に映るのは、カメラとマイクに囲まれた別の場所のようだった。
「真剣だな」
ラルドがパンを手にしたまま止まっている琴葉に声を掛けた。
「あ~、真剣というよりは、知っている場所はね」
「そういうものか…」
ラルドはどこか気の無い返事を返す。
「そういえば…ラルドにはどう見えるんだ?」
天輝が珈琲を口に運びながら言う。
「どう? ああ、テレビというヤツの事か」
「ああ」
「カメラとかのレンズは拭いた方がいいぞ」
「?」
「何だ?」
「意味が…」
「温度差か? 曇っているのは」
「曇っているか…綺麗な青空だけどな」
天輝の答えにラルドは一瞬固まる。
自分の目が悪いのか? そんな事を考えてしまう。
でも、琴葉はそんな戸惑うラルドを見て小さく頷いた。
どうやら見えているものは人によって違うらしい。
天輝は、他の人には見えないラルドを見つけた。
見つけられるくらいだから、普通に霊質は高いはずだ。
それなのに…
「人は見たくないものを見ないいよ」
ポツリと琴葉が言った。
「便利だな…それは…」
「そう?」
「ああ。だって、ワシは見たくないものも見えるぞ」
「例えば?」
「魑魅魍魎の類は怖いから嫌だ」
「………」
琴葉と天輝は顔を見合わせた。
「で、どうするの?」
奏は天輝の顔を覗き込みながら訊ねた。
乗り掛かった舟からは足をおろすタイプだが、乗ってきた相手は受け入れてしまう。
素直じゃない甘さが好きだ。
「どうしようか」
天輝はスマホを取り出し、結衣の番号を表示させる。
きっと気に揉んでいると思う。
助けるためには、調べないといけないと思っていたことが…テレビから流れている。
触らなくても、解決できそうな流れにも思える。
「昨日の結衣…だったか? 巫女見習いの」
「…ああ」
「そういえば、お前たち霊気を喰うのに…魔気に絡まるよな~」
「霊気?」
奏が首を傾げる。
ラルドは天輝の手元の珈琲を尻尾で差した。
まだ足は自由に動かせない。
白い湯気がゆらゆらと立ち昇っている。
奏がそれを見たのを確認してラルドは胸を張る。
「そこに見えるだろう。」
奏は珈琲を見たあと、ゆっくりラルドへ視線を戻した。
そして、にっこりと笑う。
「怒るなよ」
天輝が間髪入れずに言う。
ラルドが首を傾げるが、そこはあえて無視をする。
「別におちょくっていないから」
「…そうなの?」
「ああ。すっかり忘れていたよ。それも訊こうと思って」
天輝は苦笑しながら琴葉を見た。
私に振るの? そんな顔で天輝を取り敢えず睨んでみる。
「琴葉にはどう見える?」
しれっと天輝は何も無かったようにいう。
この辺は付き合いが長くなると都合の悪いところは無視できるのがムカつく。
「んー」
琴葉は珈琲を覗き込む。
「温かそうな湯気」
「ほら」
天輝に言われて、ラルドは少し不満そうに鼻を鳴らした。
確か車の中で違う言い方をしていた。
ラルドは記憶を探るように思い出そうとする。
あ…琴葉が言っていた『湯気』。
ラルドは、天輝を見上げた。
その赤い目が『助けて』と訴えている。
琴葉も奏も天輝を見つめる。
天輝は頭の高さくらいに両手を挙げて「わかったよ」とポツリ。
ラルドが天輝の方へと身体ごと向き直した。
「俺も聞こうと思っていたから、琴葉に」
「えっ?」
「ラルド…霊気について教えてくれるか?」
「お前はワシの話をいつになったら理解する」
ラルドがはぁ~とため息をこぼしてから、三人の顔を見渡した。
「仕方がない。教えてやろうか」
若干偉そうなのが天輝には気にかかった。
だから、あえて無視をしてみる。
「おい、聞く気はあるのか」
「ん~どっちでもよくなったかも」
「…むっ…そういうことを言っていると不幸になるぞ」
「ラルドに出会って、奏に滅茶苦茶怒られて、これ以上不幸はないかと」
「…いや、不幸になるのは、結衣だぞ」
次の瞬間だった。
ラルドは身体を硬直させた。
天輝の雰囲気が変わった。
いつでもゆとりのある涼やかな目をしていたのに…
冷たく研ぎ澄まされた殺意を感じさせる視線になっていた。
「な、なんだよ」
「ふざけているのか?」
その声は冷たい。
ラルドは奏の方へと振り返った。
奏も若干怒っているように見える。
琴葉を見る。
琴葉がため息をついてラルドを見た。
「なんだよ、いったい」
「ここにいる人に対してだったら冗談で済ませられることでも…ね」
琴葉は穏やかな声色で話す。
天輝が一瞬で一線を超えることがあるとすれば…
誰にも触れてはいけない一線を持ち合わせる。
天輝のそれは自分以外を自分の土俵に持ち込まれることだ。
自分のことはいくらでもヘラヘラとしているのに…
自分の周りに矛先を向けようとした瞬間に、一線を越えそうになる。
ただ、蛇相手でも関係がないことに琴葉は驚いていた。
「まて…何か勘違いしているぞ」
「………」
「す、凄んでも怖くないぞ…間違えてないからな」
「ラルちゃん…冗談はそこまでに」
琴葉が深くため息を吐きながら嗜める。
「冗談ではない」
「どういうことだ」
天輝の手がラルドの体を掴んだ。
「さ、さっき言ったろうが…」
「天輝!」
奏が天輝の手首をつかみ、琴葉がラルドをそっと下から持ち上げた。
「ラルちゃん。解るように言って」
「魔気に絡まれているって言ったぞ。だから霊気を聞いたのじゃないのか?」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
お読みいただきありがとうございます。
基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。
ご意見、ご要望あればうれしいです。
アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
タイアップ企画に挑戦ということで…サクサクとあげていきます。




