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8話 鬼になって心を砕いて

「久しぶり、リサ」

「……ガーベラ」


 知り合いのような2人、されど仲が良いとは思えない様子。

 そんなただならぬ雰囲気に、ツカサは入って行けず2人を見守っていた。


「ひ、久しぶり…」

「楽しそうで何よりだよ、目障りな人間が消えたもんね」

「……」


 リサは悪態をつかれても何も言えず、下を俯いていた。


「何も言わないんだ? あんな別れ方しておいて、普通に他の冒険者とつるんで笑って。それで楽しかったのに水を刺されて不愉快だった? 」

「…そんなことない…」


 血を拭き取った剣を鞘に納めた。


「はぁ…私のクエストを妨害したかったわけじゃなさそうだけど、貴方が私の前でヘラヘラ笑ってるのは単純に不愉快だから消えてくれない?」

「ちょ、ちょっと待てよ…」

「はい?」


 一方的に罵声を浴びせる少女に、ツカサが割り込んで口を出した。


「断りも入れずに助けに入ったのはこっちだし、礼を言ってほしい訳でもないけどさ、助けに入ったリサを悪く言うのは違うんじゃないのか…? 2人の間で何かあったのは分かるけど…それはそれだろ」

「そうですか、ええならお二人とも助けてくださってありがとうございました。ただ二度と関わらないでください、特に貴方」


 ガーベラと呼ばれていた少女はツカサを指差し、敵意を見せる。

 

「貴方のような腑抜けた雑魚に文句を言われたくもないですから。これは私と彼女の問題です」

「違う。リサの問題はギルドの問題だ、なら俺にも関係あるだろ」


 リサの前に割って入り、2人は睨み合った。


「……くだらない信頼を上手く気づけたんだね、リサおめでとう」

「……違うわ」

「うん?」

「ツカサは…大切な、ギルドの仲間だから」


 唯一、それがリサの反論だった。


「…気をつけてくださいねーツカサさん。その人は、心の肝心な部分で人を見下してるので、いつか必ず裏切りますから」

「どんな事情があるか知らないけど、俺はリサがそんな奴じゃないって信じてるから、言葉だけ受け取っておくよ」


 気持ちは受け取らない。そんな返しを受けて、ツカサに警告をした。


「裏切られても後悔しないでくださいね」

「ああ」


 そのまま、険悪な日常会話は終わり、業務会話に切り替わった。


「元々あそこの2つのダンジョンを制覇するつもりでここに来たんですよね。その状態なら攻略は無理でしょうし私が攻略してもいいですか?」

「俺もその気だけど、決めるのはその…リサ…」


 リサに聞かないと、と言うよりも早くリサは声を上げた。

 

「ごめんツカサ、一旦……ダンジョン攻略は止めにするわ」

「勿論、俺もそのつもりだったからいいんだけどさ…だ、大丈夫か? その…リサの方が」

「大丈夫、大丈夫だけど……ちょっとだけ時間を頂戴」


 ガーベラは淡々と事務作業を終え、2人に報告だけを済ませる。


「手続きは貴方のギルドの受付の方と私の方で済ませますから、あとは帰ってください。当然偽証したりもしませんから。私は真面目ですので」

「ちょっと待って、ガーベラさん1人でダンジョンに入るつもりか? 流石に誰かと一緒の方がいいんじゃ…」


 ダンジョンは基本複数で見張った方が奇襲にも遭いにくい。それを痛感していたツカサはガーベラに警告をする。


「余計なお世話です。私は今まで1人でやってきましたから」

「ダンジョンも?」

「ダンジョンは…初めてですが」


 リサに出来て自分にできないことなどない。

 ガーベラは、頑固なプライド、意固地を曲げる気などなかった。


「あのダンジョンは私が行きますから、リサの仲間となんて協力したくもありませんのでもう帰ってください」

「本当に危険なんだって。俺たちが嫌ならソニアさんと一緒に…」

「なんなんです? そこまでして報酬を私に渡したくないんですか? 絞れるだけ絞らなきゃ気が済まないんですか? 貴方は? さすが、冒険者で群れてるだけあってがめついですね〜」


 明らかに怒りを含めた言葉。その棘を遠慮なしにツカサに突き刺す。だが、ツカサは真っ向から受け止め、言葉を返す。


「そんなんじゃないって! 俺は心配なんだよ! 本心で言ってる!」

「ここまで言い合ってるのに本心で心配してるとか頭おかしいんですか?」

「さっきも言ったけどそれはそれ!これはこれだろ! リサの様子からして…なんかあった関係性なのは分かるけど! 嫌い合ってる感じじゃないじゃないか! 何かがあって、お互いにすれ違ってるだけだったんだとしたら、死んでから後悔するぞ!」


 その発言がガーベラの心のどこかに響いたのか、ムッと表情を変え、語気を強くする。


「…リサがこういう生き方をしてると知るくらいなら、死んだ方がマシでしたよ」

「……え?」

「もういいです。貴方たちと会話することはありませんから。それじゃ、さようなら」

「ちょ、まだ話は──」

「さようなら!」

「終わってないぞ!」

「続けるなしつこい!!」


 とうとう、会話を聞くことはなく長い黒髪をたなびかせながら、少女は去って行った。


「……」

「リサ、少し休もう。荷物は俺が持つよ、ほら…と、とりあえず帰ろう? な? 別に失敗した訳じゃないんだし…」

「……」

「に、荷物ほら……よ、よし持ったぞ! 帰るまで俺が持つからな!…」

「……」

「……」


 そして無言のまま、少年少女はギルドへと帰った。


 ♢


「ただいまー…」

「……」

「おかえりー!! クエストは…」


 どうだった、と聞くまでもなく、重い雰囲気の2人を見て言葉を詰まらせた。


「……」

「リサ、ほらいいから休んで、部屋に荷物置きに行こ。そしたらゆっくりしていいから」


 泣きそうな顔のリサを必死にフォローしているツカサを見て、ソニアはなんとなく事情を察した。


 ♢

 

「んで、結果から聞こうか」

「はい、リサは休んでもらってるけど…いいですよね?」

「ツカサはその方が良いと判断したんだろ? いいよ」

「まず1つ目のダンジョンは攻略して……」


 起こった出来事を、ソニアに全て話した。


「……なるほど。会ったんだね」

「そうですね…」

「? やっぱり昔の知り合いなんですね?」


 なんとなく長く知った仲だと思っていたが、2人は当然知っていたのだろう。


「そのガーベラっていう子は、リサがうちに来る前の友人だよ」

「友人……」


 だが、あの2人の関係はもはや友人と呼べるものではなかった。


「リサが冒険者になった理由は色々あるんだけど…大きな理由として、闘う力をつけたいっていうのがあるのよね」

「なんでですか?」

「復讐」


 その言葉に、ツカサは一瞬唾を飲んだ。


「…それは…家族の?」

「そ、家族を殺したモンスターを探して討伐するために、冒険者になって力をつけたの。その目的に彼女を巻き込みたくなかったのね」

「実際リサは『阿吽の花』の人間としか関わりもないから、最低限の人間にしか頼りたくなかったんだろうね」


 ソニアとサントリナはそう言うが。離れただけにしては度がすぎるほど、ガーベラはリサに敵意を向けていたように感じる。


「詳しい話はあの子しか知らないんだよね。どんなトラブルがあったかまでは聞いてないんだ」

「なるほど…」


 リサとガーベラの間に確執があるのは理解した。だが、その上でじゃあ、自分はどうすれば良いのか。

  

「どうしたい?」

「え?」


 悩むツカサに、ソニアが尋ねる。


「ツカサがやるべきだと思ったことをやりなよ。大事な仲間なんだし」

「私たちも協力するよ!」


 後味の悪い別れ方をした2人が、時を経てまた再開し、案の定険悪になった。


 それで終わっていいのか?

 それで、後悔しないだろうか?


 ──当然だ。すれ違いであれ本気の仲違いであれ、互いに未練のない表情ではなかった。


「……ふぅ」


 もう、ツカサの目に迷いはなかった。


 後日、依頼交渉に来たガーベラと2人は、ともにダンジョンへと向かうのであった。

 

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