9話 ちぎる昔日
「はい、概要のほど把握しました」
サントリナからダンジョンの情報を受け、ガーベラは荷物を持ち、その場を後にしようとした。
だが、そこに2人が現れる。
「また貴方たちですか……」
ツカサと、リサ。リサはあいも変わらずおどおどしているが、ツカサはガーベラの目をしっかり見据えていた。
♢
「そう、ソニアから聞いたのね…」
「ああ聞いた、冒険者になる前の友達だったんだろ? その後何があったかは知らないけど」
リサはゆっくりと頷く。
「だったらやっぱり助けに行こう。ダンジョンに1人で行くのが危ないのは、先の攻略で痛感したんだし」
「でも今のガーベラは私と会いたくないはずよ…あの子も不愉快だって言ってたんだし…」
「あの人はヘラヘラ笑うなって言ってただけだろ? 最初会った時は普通に会話してたじゃないか」
「あ……」
ガーベラは初めの挨拶の時から笑っていなかった。だが、会話をやめもしなかった。
「お互いに何か言いたいことがあるんなら、絶対言ったほうがいいよ」
「私は……」
今のリサは、明らかに言いたいことがあるのに消極的になっているように見える。
「言わなくていいこととかだって勿論あると思うけど……今のリサは、絶対にそう思ってないだろ!? 言いたいけど、言うのが怖いって気持ちのほうが強いんじゃないのか?」
「……私は取り返しのつかないことをした……今更、何を言ったら良いかもわからないの…」
ガーベラとリサの2人の出会い。リサにとっては、また会うと思いもしなかった相手との再会だった。
「でもとにかく謝りたいって、また一緒にいたいって思ってるんだろ…?」
「……うん」
「なら、そのまま、ありのままを言おうよ。」
♢
「危険なダンジョンだから、俺たちもついて行く。報酬も全部そっちが持っていっていい」
「必要ありません」
「これは私たちのギルド『阿吽の花』がクエスト交渉をする最低条件だよ」
「……貴方がここのマスターですよね。私と彼女の仲は知ってるんでしょう? 貴方のお仲間に不意打ちすると思わないんですか?」
ガーベラの指摘に、ソニアは淡々と述べる。
「キミがクエストに真摯に取り組んでいたのは報告を見ればわかる。クエスト報告にもきっちりあの子達の成果を含めてたじゃないか」
「……ちっ…そっちの受付の仕業ですか……」
ガーベラは大きくため息をした後。
「必要最低限の協力だけです。仲間ではありませんから」
「ああ、それでも大丈夫だ」
リサはツカサの横に立ち、ガーベラに手を差し伸べた。
「……よ、よろしくガーベラ」
「……ええ」
♢
「入ってすぐのモンスターの危険度はそこまでですが、ダンジョン内奥にいるモンスターに注意した方がいいとのことです」
「了解」
「ええ…わかったわ」
ダンジョンに入る前の注意事項を確認をする。
「それじゃ俺たちからも。ダンジョンの中は暗くて視界が悪いから、一気に進みすぎずに少しずつみんなで進もう」
「ええ」
「ならリサ、いつもの頼む」
「わかったわ」
他者の防御力を上げる魔法を、ツカサにかける。そしてガーベラに付与しようとした際。
「待ってください、私にそれはいりません」
「ダメだ、リサの魔法があった方が安全だろ?」
「仲間じゃないですから! さっきも言いましたよね!?」
「そっちが仲間じゃないと思ってても単純に防御策はあった方がいいだろ!」
「いりません!」
「いる!」
終わらない言い合いに嫌気が差し、ガーベラは一言言い放った。
「人を平気で裏切るような奴の魔法なんて受けたくないんですよ!」
怒声にツカサが一瞬ビクつく。リサはそれよりふた回り以上大きく体を跳ねさせた。
♢
「今日もあそぼ!」
「うん!」
私とリサは昔から仲が良かった。
ともに遊び、学び、いろんなことをともにやってきた。
「引っ越しちゃうの?」
「うん、ごめんね」
訳あって別の町に移住することになったが、それで縁が切れるとは微塵も思っていなかった。
「たまに会いに来るね! めちゃくちゃ遠いけど…たまに、たまになら来れるから!」
「うん。ガーベラ」
「?」
リサは私の小さな小指に小指を重ね、こちらも明るく程の笑顔で。
「何があっても、私たちは友達だよ」
笑っていた。
──そして、数年後。
再会した時には、すでに私の知っているリサではなかった。
「り、リサ…?」
「……?」
「私だよ、私! ガーベラだよ!」
リサの着ている物とは思えないくらい、ボロボロの服で身体もボロボロだった。背丈も伸び、顔つきも凛々しく変わっていたが、それでもすぐに気づいた。
「何があったの!?」
「…何も」
そんなわけがないのに、リサは何度追求しても何も情報を教えてはくれなかった。
「ど、どこに行くの!?」
「着いてこないで、お願い」
「ど、どうして…?」
「私個人の問題だから」
それから、リサとは明確に距離を置かれることとなった。
彼女にとって自分はそこまでの仲だったのか、何にも変えられない程の友人だと思っていたのは私だけだったのかと落胆したと同時に、怒った。
だが、それでもリサが何か思い詰めていたのはわかっていたから、冒険者になり、鍛え続けた。
きっと、あの子は心に余裕がないからああしているだけだ。
今も1人で戦っているなら、今度こそ助けを求めてくれるなら、力になりたくて。
そして──現在。
彼女は、他の冒険者とともに笑っていた。
他の誰かと一緒に冒険するなら、自分でも良かったはずなのに。
──じゃあ、本当にリサにとって自分はその程度の存在だったの?
怒りと裏腹に、心のどこかで存在していた期待も打ち砕かれた。
彼女にとっては、本当に自分は大した存在じゃなかったと証明されてしまったから。
あんな苦しそうにしてたから、私としか笑えないと思ってた。私しか、リサの横に立って支えてあげられる冒険者はいないと思ってた。
♢
「あんな約束しておいて…あんな風に私をあしらって…それで今は他の冒険者とヘラヘラ笑ってる…そんな奴の魔法、どんな顔して受ければいいんですか!」
ツカサは気まずそうにするが、それでも意志を曲げなかった。
「俺は2人の中ですれ違いが起きてると思う」
あからさまに呆れた顔をするガーベラ。
「何が? 人の善意を無下にして、本当に友達だと信じてる奴を馬鹿にして笑ってる人間でしょう?」
「俺は…リサはそんな人間じゃないと思う」
ツカサの物言いに、少女は怒りを見せる。
「何も知らないくせに! どうせ馴れ合いしてきた人間でしょう!? だから、リサの振る舞いを知らないんですよ!」
「リサは、本気で命をかけて俺や村の人を守ってくれた。そんな悪い人間だとは思えない」
ツカサの知っているリサの姿は、悪辣なものではなく、むしろ善き人のそれだった。
「何かあるんならそれは…」
リサに向けるツカサの信頼が、無性に腹立たしくて、ガーベラはダンジョンに独断で入る。
「ガーベラ!」
ツカサの目に映るリサの姿は、ガーベラから見たリサと同じだった。なら、なぜこんなことになっているのだろう。
余計な思考をしたくなくて、ガーベラは一心不乱にダンジョン内を独歩する。
「くだらない…」
周りにいるのは雑魚だらけ。これならば複数人でかかる必要なんてない。
ガーベラは怒りを剣に灯し大振りで叩きつける。
「──!」
孤独な少女は理解した。なぜ、男が警告していたのか。なぜ、ダンジョンが1人でいるのが危険なのかを。
避けられない体勢でモンスターの爪が襲いかかってくるのを、ガーベラは手遅れになってから気づいたのだった。
夜投稿は20時〜22時の間くらいになると思います。
※10,11話を続けて投稿した方がいいと判断したので次回2話あげます。




