10話 雪解けのち、晴れ
モンスターの爪がガーベラの脇腹目がけて振り下ろされる。
「くっ!」
咄嗟に目を瞑るガーベラ。
だが、少女の華奢な肉体にその凶刃が届くことはなかった。
「……?」
恐る恐る瞳を開ける。そこには。
「ガーベラ……怪我してないよね」
攻撃を受けるリサの姿があった。
♢
ガーベラが声をかけてきた時、私はガーベラ本人だと信じられなかった。いや、信じたくなかったのだ。
なぜ冒険者になっている。
色んな理由が頭をよぎり、あるひとつの思考が生まれた。
──私のために冒険者になった可能性。
自意識過剰かもしれないが、その可能性が現実的だと感じてしまうほどにガーベラと私は仲が良かったし、それだけの行動力がある子だった。
だからこそ彼女が助けようとしてくれた時には強く否定した。もちろん心に余裕がなくて平静を装うのでギリギリだったというのもあったが、それでもガーベラを暗い理由に巻き込みたくなかった。
結果としては、それでも私を信じて、助けになろうと動くのがガーベラだった。
だが、個人の問題だから、と言って私は1人で冒険者になったのに、私が他の冒険者と一緒にいたら?
どう思うだろう。自分はその程度の存在だったのか、と捉えるだろうか。
少なくともそれが負の感情であることは想像に難くない。
そして、ここまでの推測が当たっているんだとしたら。
私は、もう彼女に対して何を発言していいかもわからない。
♢
「リサ…!?」
「ツカサ!」
「ああ!」
少女2人に気を取られたモンスターを背後から一撃で仕留める。
「リサ!」
「ええ、防具で防いだから大丈夫よ…」
「わ、私も……守ってもらったから…」
「一旦広場に行こう、ここじゃ危険だから…」
♢
「ここなら大丈夫そうだ」
「ええ」
「そう……ですね」
リサのアクションにガーベラは驚いた。あのやりとりを踏まえた上で助けてもらえるなど、露ほども思っていなかったからだ。
「……ふぅ」
リサは、ツカサの言葉を脳内で反芻する。
『なら、そのまま、ありのままを言おうよ』
「ガーベラ、ごめんなさい貴方を裏切ってしまって……謝ります」
「……」
少女は、ガーベラの目の前で頭を下げる。
「私がしたことは、貴方の気持ちを蔑ろにする行為だった。貴方の思いを踏み躙って、私は私の気持ちを優先させた。それは何よりも変えられない事実。でも……それでも私は…」
冒険者になったガーベラと再会したとき、己の行動が、身勝手な振る舞いだったのだと自覚した時、後悔した。
「最初に会った時に何よりもまず今までの行いを、謝るべきだった。本当にごめんなさい。」
だからこそ、まだやり直せる今、向き合わなければならない。
ぶつかることは怖いことだが、それでも前を向いていたい。
「貴方を遠ざけたことも、彼と笑っていたことも事実。私と誰よりも真摯に向き合ってくれた貴方からしたら、許せなくても当然のことだと思います」
リサは、ガーベラの目をみて告げる。
「でも、もし許してくれるなら……また、一緒にいたいです」
その言葉を聞いて、数瞬した後。
「ごめんなさい」
「──」
リサは眉を顰めた。だが。
「私もつまらない意地を張って。…今の貴方を認められなかった。嫉妬や憎さで、ひどい言葉をかけた」
ガーベラの言葉は、リサの想像したものとは違った。
「ガーベラ……」
「貴方が他の冒険者と笑っているところを見ると、昔拒絶された時の思い出が私の中で強くなった。それで……嫉妬と怒りを抱いてしまった。…もしかしたら本当に私のことはどうでもいいんじゃないかって気持ちと、貴方が先に謝らないならって思いとって…ずっと意固地になってた……たくさん心無い言葉を言ってごめんなさい」
ガーベラはツカサにも謝罪した。
「もう話してくれたんだし、俺はいいよ」
「ありがとうございます…リサ、その……私のことも許してくれるのなら、何があったのかを教えてくれる?」
両親を失った復讐。そして周りを巻き込みたくないと1人で冒険者を目指し、道半ばで倒れかけた時に、『阿吽の花』に助けてもらったこと。
そして、ツカサと出会った時のことを話した。
「…そういうことだったんだ……」
「ええ」
「俺は助けてもらったからそれの恩返しって形でギルドに入ったんだ」
リサの言葉にツカサが補足する。
「その……本当にごめんなさい。親友を巻き込みたくなかったなんて言っても…もっと他にやり方があった筈だし、貴方の気持ちを裏切ったのは事実だから…」
「私も貴方を信じ切ることができなくて、弱さをぶつけたから。」
リサには何か事情があるに違いない、そう信じた心もあった。だが、結局他の誰かと一緒に冒険をするのなら自分でも良かっただろう、という怒りが湧いていたのも事実だ、そして、謝ってほしかったという弱さを持っていたのも事実なら、また仲良くしたいと願う気持ちがあったのも事実。
けれど、弱さに勝てなかった。自分の強さを信じられなかった。だから。
「また、やり直してもらえるのなら、今度こそ私は貴方の力になりたい」
そのために、努力し続けてきたのだ。
「もちろん。私も、仲直りできるのならしたいし、貴方が力になってくれるのなら…今度こそ、一緒に戦ってほしい」
2人は強く手を握り、笑顔を交わした。
♢
「この奥にモンスターがいるみたいだな」
「ここに来る途中は弱いモンスターばかりでしたが、奥にいるのは注意しましょう」
「ええ、気を引き締めていきましょう」
リサの言葉に2人は頷く。
「リサの魔法、もうバッチリか?」
「ええ、2人にかけてあるわ」
「はい、心なしか力まで増してる気がします」
「よし! それじゃ行こう!!」
ついに3人はダンジョン奥にいるモンスターと対峙した。
──そして。
♢
「どうだ? リサ、ガーベラさん。来た時と違って、心なしか明るいんじゃないか? 空も心も」
ダンジョンは、何の問題もなくクリアした。
リサとガーベラは打ち合わせしたかのような連携を見せ、笑いあっていた。
「うん…!」
「……ええ!」
「また笑顔でいられて良かったな!」
3人で笑い合う。ガーベラにとっては特に、今までが報われた、人生で一番清々しい日だったろう。
そして、全員で明るい雰囲気のままギルドに戻った。
「ダンジョン攻略おめでとう」
「ああ! 色々大変だったけど、みんな無事に帰ってこれたし万々歳だろ!」
「うん、みんなの顔を見れば成果はわかるよ」
「ほんとですよね!」
ソニアとサントリナは3人の憑き物が落ちたような顔を見て笑う。
「それじゃはい、これ」
「ありがとうございます」
ソニアがガーベラに渡したそれは、ダンジョンを達成した分の報酬だった。
「あ、そっか報酬はガーベラさんのになるのか…」
「ふふ、そうだねえ」
「……その」
少女は、ソニアに顔を向ける。
「よければ……報酬は皆で共有しませんか……その、皆さんがいいなら……これからも」
「ガーベラ…!」
「ふふふ、サントリナ」
「はい、マスター」
ソニアは笑いながらガーベラにある紙を渡した。
「『阿吽の花』へようこそ、ガーベラ」
「! ……はいっ!!」
こうしてまた1人、ギルドへと新たな冒険者が加入したのであった。
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