渾身のツッコミ
短いですが、キリがいいので投稿します
(ぽふぽふ。
初めは空耳か或いは自分の身体を叩いた音が木霊して聞こえたのだと、そう思った。
思いたかった。
(ぽふぽふぽふ。
続いて聞こえてきたのは先程よりもはっきりとした何かを叩くくぐもった音。
その音に恐怖を感じた。絶望に似た虚ろな恐怖。
(ぽふっ!
そして何か区切りをつける様に一際強く叩かれる。
ああ。奴が、彼女が降りてくるのか。
身体を冷たく強張らせるような強い恐怖は諦めに変わる。
歩んできた果てのない道。
全てが終わると開放されると、そう思えば悪くはないとさえ思えた。
(ぽふっぽふっぽふっぽふ!
終わらなかった。
執拗に続くその音は、諦観していた老人の心に三度恐怖を思い出させた。
じわじわと足元から這い上がってくるように。されど先程とは違い、そこにはどこか軽さのようなものがある。
深い闇というよりも、もっと軽い。まるで子供の駄々を見ているような。
(ぽふん!!
布で作った紙鉄砲を弾いたような音。
鬱憤を晴らすように、小さな身体で小さな両手で目一杯叩いたのだと、その光景が目に見える様なそんな音。
(ぺしぺしっ
恐怖を感じるのに、止められない敵わないとそう感じるのに、どうにも笑みが溢れてしまう。
どうしても邪悪な存在だとは思えない。
(ぺしんっぺしんっ!
光に触れ、闇に触れ、闇を孕み、光を抱く。
考えもしなかった理想の形。
ぱらぱら
またも、木くずが降り落ち砂埃が舞う。
穴の上から影が差す。
タッ
「とうっ!」
影を落とした人物は躊躇いもせず飛び降りた。
バキャっ!
「あぃっ!
( たっく ない、、! 痛くない、、!!)」
案の定。張り替えて何十年か経つ床板を思い切りに踏み抜いて、涙を堪えて震える少女がそこにいた。
どろりと胃の腑に溜まっていたはずの黒い何かは、いつの間にか無くなっていた。
老人は、ただ待った。
彼女の処断、裁断を。
少しして足の痺れも引いたようで。彼女は顔を上げて一息吐くと、自分の腰ほどの高さの老人をじっと見つめた。
「ふっ
ん、、」
こちらへ一歩踏み出そうとして、ようやく踏み抜いた床板に足を捕らわれている事に思い至った。
表情の変わらない顔のまま彼女は足元に視線を落とすと、足を抜こうと僅かに身体を捻るも抜けず。
何処から持ってきたのか胸に抱いている青々とした葉っぱの束を握りしめ、今度は片足ずつ力を込めて身体を捻る。
ミシミシッ
バキッ バキャッ!
バキッ
トントンと自由になった自分の足を確認し小さく「ん」と呟くと、さっきと変わらぬ表情で再びこちらをじっと見つめる。
心なしか、こちらを睨み口を尖らせている様に感じる。
荒く鼻息を一つ立てると、左足を斜め前へと大きく出し少しだけ腰を落とした。
彼女の顔は、影になってよく見えない。
風が吹き、静かに足元の砂を巻き上げる。
少女は両手で握る葉っぱの束をばさっと振り上げ伸びるように飛び上がった。
スウゥゥー
息を吸う音。
「なにしてくれとんじゃああぁ!!わりゃあぁぁ!!!」
スッパァーン!!!
パァーン!! ぱぁーん ぱぁーん ぱぁーん
お腹の底からの叫びと一緒に葉っぱの束を大きく振りかぶったミツキは、たった一歩の踏み込みで山高帽子を吹き飛ばした一発目を推進力に一回転。そのまま老人の白髪へクリーンヒットを決め着地した。
振り下ろした葉っぱをふぁさっと綺麗に左に流し、顔はやや斜め下に流し目でふっと微笑む。
光源は老人に遮られ影となってはいたがミツキは無駄にキメ顔であった。
葉っぱのハリセン。
とても痛そう。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。




