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温光


 お待たせしました!


 前回に引き続きちょっと長いです。

 前回と違ってコピペ少なめ。


 冒頭、白いおじいちゃん目線で

 あとはミツキ目線です。


 どうぞ、お楽しみください。


 タイトルだけちょっと変更(2021/05/16)






 朝早く、ひんやりと澄んだ空気の中。

 昇(のぼ)る熱線に空(あ)けられた人間大(だい)の小さな穴(そら)から、薄く優しく白む光が埃(ほこり)の靄(もや)に落ち揺らめいた。

 時を感じぬ静寂の中揺蕩(たゆた)う光は薄布(うすぬの)のよう。その光景は、幻想的で美しく。

 壊れた天井空(あ)いた穴(そら)から、細かな木くずが降(ふ)ってくる。それらが生木(なまき)の焼けた匂いを引き連れて、静けさの中ぱらぱらと小さな音を響かせ落ちる。


 潰(つい)えた闇の残り香すらも、払われ沈んでゆくように、視界を遮(さえぎ)っていた埃(ほこり)の靄(もや)が、ゆっくり下へ下へと落ちてゆく。



 心の底の注ぎ残しのような罪悪感と、闇を払った爽快感。少しの安堵と、虚しく広がる達成感。


 全てを終えた胸の中に、残るものは何も無かった。




 たなびく霞(かすみ)と砂と埃(ほこり)が混じったような薄靄(うすもや)を、その先に見える灼(や)け貫かれた小さな穴(そら)を。

 何とは無しにぼんやり眺める。


 ふいに落ちてくる、木くずが音が砂が埃(ほこり)が、一際(ひときわ)大きく濃くなった。


 霞(かす)むように見えていた小さな空は、埃(ほこり)に隠れ、見上げることが苦になるほどに砂や木くずや大小欠片(だいしょうかけら)が、ばらばらぱらぱら音を立てて落ちてきた。



 さすがに少し無茶だったらしい。片腕で目を守りつつ、未(いま)だ木くずの降り注ぐ、空色だった小さな穴から距離をとる。


 下を向き森の獣の真似をして、ふるふる身体を揺らしては、被(かぶ)った埃と木のくずが目に入らぬように振るい落とした。

 そうしてぱたぱたと全身を叩(はた)いていると、上からも似たような何かを払うぽふぽふという曇った音が降ってくる。


 まさか、何かの空耳か、或(ある)いは木霊(こだま)か。


 ぽふぽふぽふ。


 意図せず睨(にら)むように見上げていると、またしても同じような音が降ってきた。


 ありえない。

 嘘だ。幻聴だ。


 これで駄目ならいったいわしはこれ以上、何をしたらいい。



 何もできない。


 もう、何も。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「その魔法、どこで手に入れた」



 何かを噛み殺すように。

 激情が溢(あふ)れてしまわぬように。

 静かに、淡々と放たれた言葉。



 ミツキは、背筋をのばした。


 目の前の小さなおじいちゃんの真剣さに。



 正直、適当に誤魔化そうと思っていた。


 レイが影魔法を見たあの時に、その反応から面倒事である事は分かっていたから。

 影が、闇が、何か禁忌のようなものなんだと。

 恐らくそう言う事を研究している人たちがいて、関わっていると思われると面倒なんじゃないかと、そう思った。


 だから適当に話を合わせておけば、都合の良いように解釈してくれると思ってた。


 それが、誰もが理解し納得し易(やす)い対応だと。


 でも違った。

 彼の真剣さは、もっと、重かった。

 彼の、老人の背負う荷は、もっと。



 真摯(しんし)に真剣に、答えないといけない。


 真っ直ぐ目を見て。

 嘘も偽りもなく。

 ただ事実を。


 たとえ理解されなくとも。


 「ただ影に潜(ひそ)むようにイメージをした。そうして、気がついたら影の中にいた。手に入れたというより、見つけたという方が正しいわね」


 ミツキは答えた。


 笑顔で。

 淑(しと)やかに。

 楽しげに。


 それは、少しでも相手に受け入れてもらいたかったから。


 理解してもらいたかったから。


 淑やかに子供の戯言(ざれごと)ではないのだと。

 真面目に真摯に真剣に、答えているのだと。

 伝わるように。


 笑顔で、自分に敵意がないと悪意がないと。

 伝わるように。



 でも

 伝わらなかった。

 理解、してもらえなかった。



 彼は。小さくて真っ白な老人は、少し目を見開いて固まった。

 そうして次に、ふっと顔から表情が抜け落ちた。


 それは落胆ではない。

 絶望でも。怒りでも、呆(あき)れでもない。


 ただ、無。


 何かを理解したような。


 理解できないことを理解したような。

 理解したくないことを理解したような。


 どこか、寂しそうな。悔しそうな。羨ましそうな。


 歯を、食いしばった様に見えた。



 足の先から頭の先までぞわりと駆け上がる強い悪寒(おかん)。

 気が付けば、下に影がさしていた。

 自分の懐。身体と机の間の隙間。


 目の前には誰もいなくて。そこにあったはずの山高帽は、真下にあって。


 咄嗟(とっさ)の事に身体が強張(こわば)ったその瞬間、少しの浮遊感と懐(ふところ)に感じた光と熱。

「ヤバい」と思ったその時には、お腹に抉(えぐ)るような衝撃と、揺れる視界いっぱいの 目が痛いほど強烈な光と熱の塊が。そのすぐ後に背中に大きな衝撃を感じた。


 痛みを知覚したのは、ここだった。


 初めは熱。

 とにかく熱くて、歯を食いしばった。

 涙が滲(にじ)んで、それすら光の熱(あつ)さに乾いてしまって。頬(ほお)は汗や涙の塩分でパリパリと張っていて。

 その腹の焼けるような熱さが、痛みなのだと理解した。


 とにかく少しでも速くこの熱から逃れなければいけないと。

 全身の力を振り絞(しぼ)り、少しずつ少しずつ身体を右に傾(かたむ)けて、真っ直ぐ昇(のぼ)る強く眩(まばゆ)い光から、なんとか身体を引き離す。


 少しの浮遊感を連れ、ようやく強い圧迫感から解放されて、思い出したように圧(の)しかかる重力と、弾かれた横向きの力に従って、身体がく(・)の字に折れたまま、木の天井へと投げ出された。


 そうして擦(す)れた木くずや砂が身体に刺さるのも構わずに、さっきまで天井だった木の床へ身体を預け凭(もた)れ掛かった。

 

 下へ地面へ押し付けてくる星の力は、いつもよりとても重く感じて。

 腕を動かす事すら億劫(おっくう)で。

 もう何もかも面倒で。


 少ししてお腹(なか)に感じる強烈な熱が、確かな痛みへと変わっていった。


 息をするのも苦しくて。

 ただ在(あ)るだけで痛くて痛くて。


 溢(こぼ)れる涙が頬を伝って傷口に滲(し)みてった。



 ああ、眠りたい。

 家に帰って、柔らかいシーツに包まれて。

 薄っぺらい大きな枕と、動くと軋(きし)む木のベッド。でも柔らかな皮が敷いてあるから硬くはなくて。

 少し埃っぽい匂いとおひさまの匂い。慣れてしまった獣の匂いと、鼻につく青く爽やかな薬草の匂い。

 外からは冷たい空気と夜露(よつゆ)に濡れた草と土の落ち着く香り。

 下の階から、多分ライさんのイビキが聞こえてきたりして。

 ミミズクみたいなフクロウみたいな鳥が外で静かに鳴いていて。

 遠くに聞こえる、赤ちゃんの一生懸命な夜泣(よな)きの声と、それに森から応えるような狼の遠吠えと。



 いろんな匂いに溢(あふ)れてて。

 いろんな音で騒(さわ)がしくて、だけど静かで。

 ひんやり冷たくて。

 ほっこりあったかい。


 あの家に帰りたい。


 あの家で、眠りたい。



 涙が滲(し)みて痛いから、胸のところが痛いから、襟元(えりもと)に顔を埋(うず)めて蹲(うずくま)る。


 お腹(なか)のところが頬(ほお)が全身が、軋(きし)んで滲(し)みて、熱くて寒くてただ痛くて。

 なのに、あったかい光に包まれるような感じがして。



 気が付けば、嗚咽(おえつ)が漏れて。涙も止まらなくなっていて。


 一人子供のように蹲(うずくま)り、静かに泣いた。




 しばらくそうして、泣いて疲れて。次第に温かな眠気が押し寄せてきて。


 身体に広がる疲労感と倦怠(けんたい)感に、ため息を吐(つ)いて、また全身を木の床に預けて凭(もた)れ掛かった。



 痛かったはずなのに、その痛みはもう感じられなくて。


 いっそ大の字に思いっ切り力を抜いて寝そべってみる。


 擦(す)り切れて痛かった頬は、じんわりと温(ぬく)い熱を帯びていて。身体に広がる疲労感と倦怠感が、なんだかとても心地よくって。

 身体を包む柔らかな熱が心地よくって。


 このまま眠ってしまいたい。


 眠りたい。


 ああ、眠りたい。





 分かってる。


 分かってるよ。

 起きなきゃいけない。


 腕も上がる。

 足も身体も、動かせる。


 お腹に血は付いてるけど、床に滲(にじ)んでるけど、まだ温(ぬく)いけど。

 もう流れてはいないから。


 頬にあった擦り傷もなくなってる。

 手足のだって。



 はあ。


 ちゃんと、終わらせて帰ろう。



 まだ重い身体を持ち上げ立ち上がる。


 全身に付いた埃(ほこり)や木くずを両手で払う。


 せっかく皆がお礼にって作ってくれた冒険者の服、ボロボロになっちゃったな。


 右半身は擦(す)れて腰からく(・)の字にシマシマ模様みたくなってるし。

 お腹のとこなんか、螺旋(らせん)○喰(く)らったみたいに穴が開いてる。


 ああ、今の私ってあの眼鏡の銀髪と同じ感じなのかな。

 螺(ら)○丸(がん)を、喰らって尚(なお)立ち上がってきたあの蛇男。


 なぁんか、やだなぁ。

 あの人嫌いじゃないけど、蛇とユニゾンしちゃった姿は気持ち悪かったからなぁ。



 はあ。


(ぽふぽふ。


 ああ、降(お)りたくない。


 また戦わなくちゃいけないのかなぁ。

 長老のおじいちゃんもネチネチしつこい攻撃して来たもんなぁ。

 白いおじいちゃん、あの長老にちょっと似てるし。


 てゆーかさ。

 あんな目されてもさ。

 私悪いの?

 あ、いや悪いか。

 悪いか?


(ぽふぽふぽふ。


 そりゃ、知らなかったとはいえ?禁忌の魔法使って、不用意に人の土地(エルフの森)に近づきましたよ?


 でも、知らなかったし。てゆーか、見られてるなんて思わないじゃん?

 病み上がりでテンション高いときに新しい魔法見つけたんだよ?そりゃ、はしゃぐわ!


(ぽふっ!


 そもそも薬草採りに行っただけだし。

 病み上がりで起きちゃダメって言われてたから?隠れてコソコソ薬草採りに行こうとして?忍者ごっこしてたら影魔法見つけちゃって?影の移動速度すっごい速くて?

 そりゃ使うでしょ!便利だもん!

 遠いけど、エルフの森まで行ったらいい薬草が採れるんだもん!行けるなら当然行くでしょ!誰だって!


(ぼふっぼふっぼふっぼふ!


 ああ〜無性(むしょう)に腹立ってきた。


 んがあああ!


(ぼふんっ!!


 もう知らん!

 そっちの都合なんか知らん!



 一発殴る!


 ぐーでいいかな?ぐーでいいよね?でも痛いか。パーでいこうか。それも痛いか。


 よし、ハリセンで。


 長老シバッた木の魔法を使えば、、、


 よし。葉っぱを束(たば)ねただけだけど、それっぽくなったかな。


(ぺしぺしっ


 あー、コレ紙より痛そー。



 うん。ま、天罰だな。

 ちょっとかすり傷が付くくらいは我慢してもらわないと。

 こっちは消し炭にされるとこだったんだし。


(ぺしんっぺしんっ!




 ふぅ。


 よっし、行くか!







ミツキ、ご帰還。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


やっとボケられるぅ〜!

まだちょっとシリアスですが。


おかえり、ミツキ!



次回もきっと面白い。

あれ、面白かったよね?あれ?

そう、でも、ない、、?


_(:」∠)_


きっと面白いから!頑張るから!



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