後編
次の日、僕は準備を整え孤児院の前の広場で待機していた。チャックが間もなく皆をここに連れてきてくれるはずだ。
「お、噂をすればうんたら。皆、よく来てくれたね!」
集まった少年少女達は相変わらず怪訝な表情で僕を睨んでいた。
「こんな朝っぱらから、何をするのさ?」
「ふふ。今日は皆にやってもらいたいことがあってね」
僕は両手を振って、すそに隠していた膨らむ前の風船達を皆のまえに投げ込んだ。
「君たち!バルーンアートって知ってるかね?」
「え、え?…知ってるけどさ、それが?」
「いやぁ、これは僕も初めての試みなんだがね。この風船を全部使って超ビッグなバルーンアートを作ろうと思うんだ。」
「しかもそれを、僕じゃなくて君たちの手でね!」
「…え、え~~~!?」
予想通り皆はかなり驚いた様子で、チャックも明らかに動揺を示していた。
「な、何で僕たちなんですか?ジェイミーさん?」
「だって、君たちにしか先生の顔は作れないからさ!」
「せ、先生の…?」
「そうそう、おそらく君たちが描いたことのあるだろう、先生の似顔絵をベースにして、超ビッグな先生の顔を風船で作ろうってわけさ!」
「そ、そんなもの、僕たちで作れるのかよ…」
「無論、作り方は僕が教えてあげるよ。やりたくないなら話は別だけどねぇ…」
目の前の少年は少し考えた後、静かに口を開いた。
「つ、作るよ。先生のことを思い出すのは辛いけどさ…どうせ、忘れられないから…」
僕はニヤリと笑みを浮かべ、手を叩いて試合開始の合図を送った。
「ならば、早速作りましょー!皆さんの愛がこもった、素晴らしいバルーンアートを!」
うん、すっごく大変だった。一人ひとりにやり方を教えるのもだが、何より何十本の風船を使ったバルーンアートなんて、僕も経験がないので何度も試行錯誤を重ねることになった。そして日も傾き始めた頃…
「…で、できた!」
「ちゃ、ちゃんと先生の似顔絵通りだ!まさか、本当に作れるなんて…」
「……」
「ジェ、ジェイミーさん…?」
ぶわっ。僕の両目から涙が滝のように流れた。
「え、ええ~!?ど、どうしたんですか?」
「ぼ、僕は感動したよチャック!皆が一つになってこんな素晴らしいバルーンが作れたことにね!」
「ジェイミーさん…僕も、とっても嬉しいです!」
気がつけば皆の重苦しい表情は子どもらしく、とても活き活きとした表情に変わっていた。
「さて、皆。これは追加の提案なのだが、このバルーンを是非空に飛ばしてみないかい?」
「えー!どうしてー?」
「空に飛ばせば、風船はしばらく町中を漂うだろう?もしかしたら、先生がたまたま空を見上げた時に、この素晴らしいバルーンを見つけてくれる…かも!」
「ほ、本当!?先生が、見てくれるの!?」
「もしかしたら、だけどね…でも…」
僕は目の前の少年の頭を軽くなでながら答えた。
「皆は一生懸命努力して完成させたんだ。奇跡の一つだって起こってもおかしくはないよ!」
「……うん!」
こうして先生バルーンは大空へ旅立った。風に吹かれて街の方角へどんどん流れていった…
「先生…見てくれますように…」
皆は両手を合わせて祈っていた。僕も、両手を合わせて先生が見てくれることを願った。
「さて…僕はそろそろ本業に戻ろうかな」
「え…?帰っちゃうんですか?ジェイミーさん…」
チャックはとても寂しそうな表情を浮かべた。
「う~む、悩みどころだけどねぇ。でも僕は大道芸の旅が好きなんだ。だから…しばらくはお別れだね」
「そ、そうですか……ジェ、ジェイミーさん!!」
「ん?」
「あなたに会えて本当に良かったです。おかげさまで、僕も皆も元気になれました!ですから…」
チャックは今まで見た中で一番の素晴らしい笑顔で言った。
「これからも、世界中の人を笑顔にさせて下さいね」
人生は不思議なものだ。あんな僕が、子どもたちをを笑顔にさせることができたなんて…僕はこの感動を胸に抱いて今日も明日も生きていくのだろう。




