表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/84

78.ずっと守られていた




グレスティンの町まで行って郵便屋に手紙を出し、次に必要な分の薪を配達してもらえるよう手配してから再びヒース・コートの門を潜ると、屋敷の玄関ポーチに人影が見えた。


近付いてようやく、玄関扉に凭れかかって顔を俯けるように立っている背の高い男性がロビーだと悟る。


「あら、ロビー。 こんにちは」


声を掛けられた彼は弾かれたように顔を上げ、体を扉から離して私の側へとやって来た。


「やぁ、カサンドラ。調子はどうだい?

何度訪ねて来ても返答が無かったから、また閉じ籠ってるんじゃないかと心配してたんだ」


ロビーはエメラルドのようなグリーンの瞳を気遣わしげに揺らめかせながらカサンドラの表情を伺う。

ロビーの心遣いを嬉しく思ったカサンドラは、冬の空気のせいで冷たい彼の頬に背伸びをして触れるだけのキスをした。


「この通り、今のところ正気を保っているわ。

寒かったでしょう、 随分待ったの?」


「いや……君のおかげでちっとも寒くなくなったよ」


ロビーは私がキスした側の頬に手を添え、瞳を丸めながら此方を見つめている。

さらにキスをねだるかのような彼の熱い眼差しに応えたい気持ちをなんとか抑え、玄関扉の鍵を開けて屋敷に入るよう促す。


「今日から『ヒース・コート』の女主人になった、カサンドラ・ウィリアムズよ。

私の屋敷へようこそ、ロバート・シダル」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




何時かのお茶会の時のように、応接間の暖炉の側のテーブルに向かい合って座る。

カサンドラは紅茶を注いだティーカップをソーサーごとロビーの前へ置くと、濃いブルーの瞳を悪戯っぽく煌めかせた。


「ミルクと、お砂糖は二杯?」


私がそう言うと、ロビーの瞳も楽しげに煌めく。


「覚えていてくれたんだね」


「当然よ。忘れたりしないわ」



温かい紅茶のおかげで二人の間の緊張がほどよく解けてきた所すごく残念だが、先ずは聞かなくてはならない事がある。


「ロビー、一つ質問があるのだけれど」


「なんだい?」


「事件のあった夜、貴方はどうしてヒース・コートに居たの?」


そう。実は事態が終息してから今まで、ずっと気になっていたのだ。

ロビーはアーサーとの一件を知らない筈。それなのにどうして駆け付ける事が出来たのか。


そう言えば……どうしてフレデリックも私のピンチが分かったのかしら?


銃声がしたのはフレデリックが駆け付けた後だ。それからすぐに私は屋根に逃げ出した。

その数分の間で、ロビーの家からヒース・コートまで来られるだろうか? それも真夜中に?



私の問い掛けに、ロビーは複雑そうな表情をしている。眉を寄せ、どう言おうか悩んでいるようだ。

カサンドラが静かに見守っていると、彼は真っ直ぐ彼女を見つめて事の次第を話し始めた。


「実は前日に君の家から帰る時、エヴァンズ卿に呼び止められたんだ。

そこで彼から、君の命が狙われている事を聞いた」


ロビーはその時に受けたショックと怒りを思い出したのか、右手を拳にしてきつく握り締める。


「何か異変や見慣れない人物を見掛けたら、獅子亭の彼の部屋に伝えるよう言われていたんだ。

どうしてかその夜、この屋敷に大きな雷が落ちた。

以前屋敷に酷い落雷があった時には君が高熱で倒れていたから、嫌な予感がして卿に伝えたんだ」


あの落雷はきっとロイスが引き起こしたものだ。彼の魔法は本当に素晴らしい。

お礼を一つ言いそびれてしまった。


「僕も一緒に屋敷に飛び込むつもりで付いてきたけれど、僕は間抜けな事に丸腰だった。

それにもし一大事なら助けも必要だろうから、僕はエヴァンズ卿が15分経っても現れなかったら町へ応援を呼びに行くよう言われていたんだ」


そこまで言うと、ロビーはグリーンの瞳を咎めるように細めながらカサンドラを見た。


「君が屋根の上に現れて滑り落ちかけた時、心臓が止まるかと思ったよ」


余りにも無鉄砲過ぎる自分の行動を思い出した私は、思わず恥じ入って頬を赤らめ、居心地が悪そうに身動ぎをした。


「私ったら、本当に考えなしな行動をしたものね。

でもあの時は混乱していて、私にはあれしか方法が無いなんて思っていたのよ」


「生きた心地はしなかったけど、君が僕の胸に飛び込んで来た時は嬉しかったんだよ。

………カッコ悪く転んだけどね」


「いいえ、ロビー。貴方はとっても勇敢で素敵だったわ」


そう言ってにっこりと彼に微笑んでみたものの、すぐに笑顔が引っ込んで表情を曇らせずには居られなかった。


私は、こんなにも誰かに守られていたのね。

それなのにあの夜、愚かな私は自分の力だけで解決出来ると信じて疑わなかった……。

なんて自分勝手だったのかしら。



カサンドラは改めて自分の高慢さを恥じた。

そして同時に、自己を見つめ直せる機会があった事に感謝した。


何故なら彼女の周囲の人間と同じように、カサンドラも自分にとても甘いから。


こういった機会が無ければ、カサンドラはずっと『我が儘で高慢な伯爵令嬢』から生まれ変わる事が出来なかった。


三ヵ月前のカサンドラはもう居ない




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ