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77.永遠に幸あれ




夜になって書斎を覗き込んだカサンドラは、窓辺に佇むロイスの変化に気付いてぎょっとし、急いで書斎の窓に厚いカーテンを引いた。

窓辺にぼんやりと佇んでいたロイスの体は、月明かりに照らされて大分薄くなってしまっていたから。


彼の姿はもう殆ど見えない。


私が傍に来た事を察したロイスがカーテンの引かれた窓から私へと顔を向け、口角を吊り上げてニヤリと笑った。


「時が来たようだな、マイ・ディア。お別れだ」


「……いや…」


カサンドラは恥も無く大粒の涙をポタポタと溢しながら首を横に振った。


「いやだ、私を置いていかないで…!一人ぼっちにしないで……!

ロイスが居なくなってしまったら、私はどうなるの? どうすれば良い?

私の道標が消えてしまうのに……」


本当は彼を笑顔で見送ろうと思っていたのに、計画は台無しになってしまった。

こんな風にみっともなく泣いて縋りたかった訳ではないのに。


ロイスは濃いブルーだった瞳で私を見つめる。その優しく温かい眼差しは、私への深い愛情が感じられた。


「お前はもう一人ぼっちじゃない。

自分でも分かってるんだろ? お前の道はすでに一つしか無いんだ。道標の必要はない」


カサンドラは情けなく嗚咽を漏らしながらも、涙に濡れた瞳をロイスへ向けた。


「100年間、私を待っていてくれてありがとう。

ロイス、貴方の事は絶対に忘れないわ」


「あぁ、精一杯生きるんだぞ」


「貴方は私が出会った人の中で、誰よりも一番ハンサムよ」


「当たり前だ」


ロイスの姿は光の粒子となって少しずつ空気に溶け出していく。

カサンドラとロイスは暫くじっと見つめあっていた。

これで永遠の別れとなる事をお互い理解していたから、視線を交えてハグをするように。



やがて書斎の窓辺には最後の光の粒子がキラリと輝いて消え、カサンドラは書斎に一人取り残された。


どうか今度こそ、ロイスとアメイサに神のご加護があらんことを。


二人に祝福を。


カサンドラは両膝を床につき、手を胸の前で組み合わせて心からそう願った




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




カサンドラはその夜、なかなか寝付く事が出来なかった。

もう既に涙は枯れ、長いこと寝台で右へ左へ寝返りを打っているというのに。


玄関ホールにあるグランド・ファーザー・クロックが深夜の二時を告げた時、カサンドラは眠るのを諦めてベッドを出ると、寝室の窓辺にある物書き机に向かった。


きっと今回の全ての件で両親はさぞや心配しているだろう。

だから手紙を書いて送る事にした。


『自分は怪我無く元気にしているから心配は要らない』こと。


『グレスティンは素晴らしい場所で、此処が大好きになった』こと。


『両親に会えないのはとても寂しいが、もうしばらく此処で過ごしたい』こと。


『両親も体に気を付けて、幸せに過ごして欲しい』こと。



二時間ほど頭を悩ませてそれらの事を便箋に綴って封をした。朝になったらすぐにグレスティンへ行って、郵便屋に出しに行こう。

そう思いながら机に突っ伏していると、いつの間にか眠ってしまっていた




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




午前の遅い時間に目覚めたカサンドラは、ベッドで寝なかったせいで体の痛みと軋みを感じながらも手早く身支度を整えた。

階下へ降り、コートスタンドに掛けていた赤いローブを羽織って玄関扉のドアノブに手を伸ばそうとしたが、そこで振り返って屋敷の玄関ホールから応接間まで視線をさまよわせる。


誰も居ない。


目を閉じて屋敷の中に何か物音がしないか耳を澄ませてみる。


何も聞こえない。


ヒース・コートにはもう、私以外は誰も居ない。


枯れたと思っていたのにまた涙が込み上げてくる。


唇をきつく噛み締めながらグッと泣くのを堪えると、ドアノブを回して玄関ポーチへと踏み出した




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