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幕間.死よりも恐ろしい罰




グレデナンド湾 オールド・アスレヤ監獄

朽ち果てた執務室にて



壊れかけた石造りの暖炉で暖められた部屋に、ガッと鈍い音がした。

頬を拳で殴り付けられた男が木製の椅子を巻き込み、今度は騒々しい音を響かせながら床に倒れ込む。


殴られたセオドアは口の中に血の味が広がり、無惨に折れた歯と共に血混じりの唾を石の床に吐き出さずには居られなかった。

頭には痛々しい包帯が巻かれている。


殴られたせいで視界が定まらず呆然と目を回しているセオドアは、尚も哀れな事に主人に怒鳴り付けられた。


「役立たずのお前のせいで、俺の計画が台無しだ!」


「‥‥っ、悪かったと何度も言ってるじゃないか」


「お前が間抜けみたいに牢で倒れているのを見た時、俺がどんな気持ちだったかお前にわかるか?」


「‥‥あぁ、もちろん分かるさ」


「いいや、お前は微塵も分かっちゃいないさ!この能無しめ!」


「‥ぐ‥‥っ!」


腹立ちのままに力一杯腹を踏みつけられ、セオドアは痛みに顔をしかめる。

途端に息がしづらくなり、床に蹲りながら空気を求めてハッハッと浅く呼吸を繰り返した。


アーサーは倒れ付した従僕を冷酷なブルーグレーの瞳で見下ろし、自分の従僕の余りの無様な姿に舌打ちをする。


何て間抜けで役立たずの男なんだ。

頭に藁でも詰まってるのか?


苛立ちは収まりきらないものの、己の従僕へ罰を与える事にも飽き飽きしたアーサーは暖炉の側の椅子に座る。


少しでも最低な気分を消し去ろうとクリスタルのグラスに注いだウィスキーを一気に飲み干した。

喉を焼くような熱い液体を胃に流し込み、今後の事を考える。


あの小娘め‥‥俺を馬鹿にしやがって!


ウィスキーで落ち着けた感情も、再び思い出された記憶のせいで再び怒りに燃え上がる。

グラスを持つ手にグッと力を込めると、クリスタルのグラスは簡単に砕けてアーサーの手をウィスキーで汚した。


そう、レディ・ウィリアムズに虚仮にされたのだ。

あの女を閉じ込めた筈の牢で馬鹿な従僕を発見し、この監獄の地下迷宮を探し回った末に船の係留所で女のローブを見つけた時、アーサーは怒り狂った。


アーサーは突然椅子から立ち上がり、床に捨て置いたズタズタに引き裂かれたグリーンのローブを暖炉にくべる。


「あの女‥‥…絶対に見つけ出してやる」


「もう海に沈んでいるかもしれないじゃないか。冷静になれよ、アーサー」


「うるさい! 役立たずが俺に指図するな!!」


「‥う‥っ!」


何とかアーサーの怒りを宥めようとしたセオドアだったが、テーブルの上の皿を投げつけられて痛みに呻いた。


「そもそも、お前がヘマをしたから招いた事態じゃないか」


「‥‥本当に悪かった」


「狸寝入りに騙されるなんて馬鹿な奴め」


セオドアは黙って耐えるしかなかった。

此処で逆らえば自分の運命がどうなるか、嫌と言う程良く知っている。

アーサーは人を葬る事も何とも思わない恐ろしい男なのだ。


従順なセオドアにククと喉を鳴らして低く笑った後、氷のような鋭い瞳で炎の中で灰になっていくローブを見つめた。


もうこうなれば憎きフレデリックだけじゃなく、俺を虚仮にしたあのあばずれにも罰を与えねば気が済まない。


アーサーは片方の唇を吊り上げるようにニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

そして無様に床を這いつくばる従僕を見下ろす。


「あの女には罰を与える事にしよう。

死よりもおぞましい罰をな」


「‥‥は?」


「あの女がいっそ殺して欲しいと泣き叫べば、俺の怒りも少しは収まるだろう」


「アーサー‥‥落ち着いてくれ」


「黙れ!!」


癇癪を起こし、木製の椅子を手で薙ぎ払うように倒す。

もうセオドア一人ではアーサーを抑え込む事は出来なくなっている。


興奮したように肩で息していたアーサーは、突然ヒステリックに笑いだした。

身も心も凍るような邪悪な笑いを聞いたセオドアは、アーサーが破滅する前に正気に戻る事を祈る事しか出来なかった。



なぜならアーサーが破滅する時、それはセオドアの破滅の時でもあるのだから




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