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41.マーメイドの可能性とは




睫毛を震わせてゆっくりと目を開けると、見知らぬ部屋のベッドで横たわっていた。

当然の事ながら見慣れたヒース・コートの寝室の天井ではない。


前にもこんな事が無かった?

どうして私は気が付くと、よその家の人様のベッドを横取りしているのかしら。


そんな呑気な事を考えながら剥き出しの簡素な天井をぼんやりと見つめていたが、気を失う前の記憶が唐突に思い起こされてハッと息を呑んだ。

上掛けが床に落ちるのも気にせずに勢いよく起き上がったものの、体のあちこちが痛くて呻き、思わず動きが止まる。


体中が痛い……特に背中が…。あの男に投げ飛ばされたせいね。

でも死んでない……何とか生きてる。


それにしても、ここはいったい何処なの?


部屋の中を見渡してみると、壁もドアも何もかも簡素な造りをしていた。ヒース・コートでも、ロバートの家でもない。

何とかベッドから這い出て窓辺へ行くと、外は見知らぬ景色が広がっていた。


海が見えるわ……。


グレスティンは確かに冷たい海風が届くが、決して海や崖が間近にある町ではない。

という事は、この場所はグレスティンよりも北にあるグレデナンド湾近くの村だろうか?

カサンドラはそう考え、余りの悔しさに唇を噛み締める。


あの男……私をグレデナンド湾まで拐って来たというの?

なんて憎たらしいのかしら。

祝福すべき年の始めに、とんだ災難に遭ったものね。

というか、本当に此処は何処なの?


カサンドラは男への恨み言をつらつら考えるのを強制的に止め、さっと素早く自分の様子を確かめる。

真っ先に確認したのは両手両足がきちんと動くかという事だった。

所々痣になってはいたが、あれ程酷使した割には手足は問題無く動かせる。

その事安堵し、今度は身に着けている服の裾を掴んだ。


今身に着けているのは薄い水色の簡素なナイトドレスだった。 レースやフリル等の飾りは何も無いけれど、とても綺麗で丁寧に縫われている。

それに裾の方には凝った模様の白い刺繍が施されていた。


私のドレスは何処?

海水を吸ってダメになってしまったかしら…。


そう思いながらドレスの裾を掴んで捲りあげ、繊細な刺繍を良く見ようとしていると、ガチャッと音を立てながら扉が開いて茶褐色の髪を綺麗に編んで結い上げた女性が部屋に入ろうとした。



「………目が覚めたようですね」


女性は起き上がっているカサンドラを目にするなり琥珀色の瞳を丸め、そして私がスカートを捲って素足を晒している事に気付いて僅かに視線を反らした。

スラリとした背の高さや大人っぽい顔立ちから、私よりいくつか年上のように見える。


あの男の仲間という可能性はあるかしら?


もう二度も襲われたせいでつい疑心暗鬼になってしまったものの、その疑念をすぐに振り払う。

この状況を見るに助けてもらった事は明確なのだから。

まずは相手の様子を見る為にも、カサンドラはわずかに微笑んで問い掛ける事にした。


「貴女が助けてくれたの?」


「えぇ、そうです。わたしが貴女を見つけて、父がこの家まで運びました」


「助けてくれて本当にどうもありがとう。 あのままでは、今頃私はどうなっていたか……」


あのまま岩の上に居たら体温を奪われて死んでいただろう。

あるいは黒髪の男に見つかって、死ぬより酷い目に遭わされていたかも……。

その場面を想像してゾッと背筋に冷たいものが走り、改めて救いの手を差し伸べられた事に感謝したくなった。


「私の名前はカサンドラ。貴女は、えっと……」


「アラベラです。アラベラ・クイン」


「アラベラ、心から感謝しているわ」


「いいえ。困っている人を助けるのは当然ですから」


過酷な土地に住む人達って、こんなにも人情に厚いものなのかしら?

この地に来る前は、厳格で他人には目もくれない変わった人達ばかりだと思っていたけれど…。


この土地で出会った人達の事を考えるに、助け合わないと生きていけないから仲間意識が芽生えるのかもしれない


カサンドラはアラベラの方へと手を差し出し、アラベラがその手を恐る恐る取ると、キュッと優しく握って握手をした。


「最初はとても驚きました。まさか岩陰に人が倒れて居るとは思わなくて」


「きっと貴女には、とても怖い思いをさせてしまったでしょうね」


そう言って彼女を慰めようとしたのだが、アラベラは僅かに首を振り、蜂蜜のような琥珀色の瞳を好奇心に煌めかせながら口を開いた。


「いいえ、恐ろしくはありませんでした。

ただマーメイドが倒れていると思って驚いただけです」


「なんですって?」


想像を遥かに超える返答を受けたカサンドラは驚きに瞳をパチクリと瞬かせ、自分の耳を疑った。


彼女、マーメイドって言ったの?

それとも私の聞き間違いかしら?


戸惑っているカサンドラの事は気にせず、アラベラはうっとりと私の姿を見遣る。


「あの入り江は、この辺りでは『マーメイドの入り江』と呼ばれています。そこに貴女がいたので」


「残念だけれど私は人間なのよ。きちんと両足もあるわ」


そう言って再びドレスの裾を掴んで少しだけ素足を晒してみる。

けれどアラベラはまじまじとカサンドラのドレスの裾から見える足を見つめた後、興味津々といった様子で視線をカサンドラへ戻した。


「言い伝えのマーメイドは、陸に上がる時には魚のようなヒレから、人間の足へと変化するようですよ」


「私の足はヒレから変化した訳じゃないわ」


「カサンドラの涙は真珠になりますか?」


「真珠?」


「マーメイドの涙は真珠だと聞いた事があります」


「…………。」


「花婿を探しに陸へ来たのですか」



私が此処を発つ時、海に帰されたらどうしよう………




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