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38.企みと鉄格子




カサンドラが意識を取り戻した時、冷たい石造りの床に転がされていた。

薄目を開けて睫毛の隙間から周囲を観察してみるが、辺りは消えかかった蝋燭の僅かな明りしかなく、とてもではないが何も見えなかった。


体中、特に背中と首がズキズキと痛み、思わず顔を顰める。

無意識の内に呻き声が漏れてしまわないようにキツく唇を噛み締めている必要があった。

けれど幸いな事に手足を拘束されてはいない。



恐怖で荒くなる呼吸を何とか落ち着けて耳を澄ませてみると、声を荒げて口汚く罵るような声が聞こえてきた。

あの黒髪の男の声だ。


カサンドラはじっと動かず、まだ意識を失っているフリをして二人の会話を盗み聞いた。


「どうして此処に閉じ込める必要がある?

さっさと殺して、エヴァンズの屋敷にでも転がして置けば早いだろ!」


「冷静になれよアーサー! 彼女の使い道を良く考えろ」


「使い道だと? これ以上無い使い道じゃないか」


「前に君も言ってただろ。 君の従弟を此処へおびき寄せる手立てにすれば良い」


「それだとつまらん。あのあばずれは俺を蹴りやがったんだ。それも二度も!!」


「落ち着いてくれよ! 何度も言ってるだろ!伯爵家を敵に回さない方が良い」


「俺がやったとは気付かれないさ。フレデリックの仕業に仕立てあげるんだ」


何ですって? それじゃあこの男は、フレデリックに雇われて私の命を狙っている訳では無いという事?


低く唸るような声とは別の、もう一つの中性的な声の持ち主が嗜めるように話し出す。


「いいか、アーサー。彼女を使ってフレデリック卿をおびき寄せる。それが最良の作戦なんだ。

とにかく上に行って、君の従弟に手紙を出すんだよ」


「手紙だと?」


「そうだ。レディ・ウィリアムズが此処に居るとでも書けば、のこのこと無防備にやって来る筈だ」


「あの間抜けの事だ。きっとそうだろうさ」


「そうしたら事故に見せ掛けて殺せば良い。そしたら時期侯爵の地位は君のものだ」


「ふむ………」


「この方法が一番なんだよ」


「その手紙をあの間抜けが信用しない場合はどうするんだ」


「それは………」


中性的な声の男は言い淀んだ後、閃いたとばかりにパチンと指を鳴らした。


「レディ・ウィリアムズの髪を切り落として手紙と一緒に送れば良い」


「ふむ………引き裂いたドレスという手もあるが」


黒髪の男が愉快げに喉を鳴らす。その言葉にカサンドラはゾッとし、体が震えそうになるのを必死で抑えた。


「とにかく、上に行って手紙を書く必要がある。そうしてから____」



それ以上会話は聞こえなくなってしまった。二人分の足音が遠ざかり、漸くカサンドラは自分がしばらく息を止めていた事に気付いて大きく息を吸う。


なんて恐ろしい男なの……。早く此処から逃げ出さないと…!

でも、どうやって?


少しの間じっと横たわったまま耳を澄ませ、人の息遣いや衣擦れの音がしない事を確かめてから痛む体を起こして周囲を見渡す。


薄暗くて良く見えないが、目の前にある鉄格子を見るに、此処は何処かの牢獄らしい。

扉になっている部分を押してみたけれど当然ながら軋むだけで開く様子は無い。

牢屋の中を見渡しても、石造りの壁と頼りない明かりを灯す燭台しか無かった。



目頭が熱くなりポロリと一筋だけ涙が頬を伝ってしまったものの、ギュッと瞼を閉じてそれ以上泣くのを堪える。


泣いたからって助かる訳じゃないのよ、カサンドラ。助かりたいなら泣くより先に考えないと。

ボケっと間抜け面して此処に座ってても逃げられないでしょ。


自分にそう言い聞かせ、必死に思考を巡らせて状況をどう打開するべきか考える。


どうすれば良い? 武器は何も持っていないし、私では大人の男二人相手に勝てるとも思えない。

そもそも仲間は二人では無いのかもしれない………



考えた末、消えかけた蝋燭を外した燭台を手にし、鉄格子の扉に背を向けるように冷たい床に横たわった。

こうすればまだ私が気を失っていると勘違いして、無防備なまま近付いて来るかもしれない。



カサンドラは耳を澄ませて周囲の物音を慎重に聞き取りながらその時を待った。



どうか此処へ来るのが二人では無く一人で、それもあの黒髪の男ではありませんようにと強く願いながら





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