31.クリスマスパーティー
腕を引かれて辿り着いたのは、町で唯一の宿屋『獅子亭』だった。
二階は宿になっているが、一階のパブは窓から煌々とした明かりが漏れている。
ロバートが扉を開けてくれたので中へ入ると、さまざまな年齢の人が飲み物を片手に談笑したり、ピアノを弾く人の側で歌を歌ったりして楽しんでいた。
けれど私が会場に入ったとたんピタリと談笑が止まり、パブに居る沢山の人の視線がカサンドラへと向けられる。
注目を集めてしまった事でたじろぎ、後退りしたものの、背中に添えられたロバートの手が阻んでいて逃げる事は出来なかった。
身動き一つ出来ずに固まっていた時、談笑している人の中に混じっていたシダル夫人が笑顔でやって来た。
「メリークリスマス、カサンドラ。よく来たわね!」
「メリークリスマス、シダル夫人。
素敵なパーティーに招待してくださって、どうもありがとう」
「今日は存分に楽しんで行ってね。さぁどうぞ、外派寒かったでしょう。
中に入って空いてる椅子に座ってね」
シダル夫人が陽気に話し掛けてくれたおかげで、周囲の人達も再び各々の談笑に戻っていた。
王都の舞踏会とは違う陽気さや気安さが、張つめていた緊張を解してくれる。
着ていたローブを脱いで玄関のコートスタンドに掛けると、ロバートに導かれるように部屋の奥のソファーへと案内された。
カサンドラが大人しくソファーに座ると、その肘掛けに部分にロバートが腰を下ろす。
するとそこへ、今度はグラスを二つ持ったマーフィー夫人がやって来た。
「ロビー、カサンドラ、メリークリスマス!
レモネードはいかが? わたしが作ったんだから絶品よ」
「メリークリスマス、マーフィー夫人。
えぇ、ぜひいただきたいですわ」
「僕も貰うよ」
マーフィー夫人から貰ったレモネードは本当に絶品だった。甘さと酸味のバランスが丁度良い。
そう言えば‥‥
「マーフィー夫人。
先日買ったパンもケーキも、どれもとても美味しかったわ。
またお店に行っても良いかしら?」
「あらまぁ! そう言って貰えて嬉しいわ。 また何時でも買いに来てね。
うちのパンは毎日美味しいんだから!」
「えぇ、今度必ず買いに行きますわ」
「今日のケーキやプディングもわたしが焼いたのよ。 良かったら食べてみてね」
カサンドラが頷くと、マーフィー夫人はシダル夫人の方へと戻って行った。
「また遊びに行こう、カサンドラ。
君を連れて行きたい場所が沢山あるんだよ」
「連れて行きたい場所?」
「そう。 もっと君に町の事をよく知って欲しいんだ」
人の良いロバートは、私が町で孤独な存在になってしまわないように気遣ってくれているらしい。
自暴自棄になっていた当初の時とは違って、今のカサンドラは彼の気遣いを無下にする事が出来なかった。
カサンドラは悪戯っぽく瞳を煌めかせながら頷いてみせる。
「貴方のせっかくの休日を私に費やすのは勿体無いんじゃないかしら?」
「そんな事無いさ。君と居ると凄く楽しいんだ」
「それならお願いしようかな」
「今度はあのグリーンのローブを着てきてくれないかな?」
「えっ?」
「どうして今日は赤いローブなんだい? 君に凄くよく似合っていたのに」
どうしてかって?
雪道を三時間ほど歩き続けたせいで、びしょ濡れになったからよ。
でもそれを正直に言えば私の正気を疑われそうなので、曖昧に微笑みながら簡潔に言う事にする。
「雪で濡れてしまったのよ。乾かなかったの」
「雪で? 雪遊びでもしたのかい?」
「まぁ‥‥そんな所ね」
壮絶な雪遊びだったけれど。
肩を竦める私に、ロバートはクスクスと笑いを溢す。
「楽しそうだね。 今度は僕も誘ってよ」
楽しくない。
もう二度と雪の降る闇の中に放り出されるのはごめんだ。
思わず眉を潜めそうになるのを必死で堪え、楽しそうに笑うロバートに合わせて微笑むだけにした




