29.すっかり忘れてた
ドアノッカーで来客を報せる音が屋敷中に響き渡る。
寝室のベッドで眠っていたカサンドラは突然の大きな音に飛び起き、慌てたせいでベッドから転げ落ちた。
いったい誰かしら? まさか‥‥…あの悪魔が此処まで追い掛けてきたとか……?
マントルピースに置いてある時計に目を向けると既に夕方の時刻を告げていた。
夕方。という事は十時間以上眠っていたという事だ。
急いで身嗜みだけ整えると玄関ホールへ足早に向かい、十分警戒しながら扉を少しだけ開けて顔を覗かせてみる。
玄関ポーチにはおしゃれな服に身を包んだロバートが立っていた。
彼はカサンドラの姿を認めると帽子を脱ぎ、わざとらしく仰々しいお辞儀をして茶目っ気のある瞳で彼女を見つめた。
「やぁ、カサンドラ。 メリークリスマス!」
「ロビー、貴方だったのね。 良かった‥‥」
「他に誰だと思ったんだい?」
「いいえ、そうではなくて‥……。 誰かしらと思っただけよ」
カサンドラは曖昧に微笑んだ。
まさか自分の命を狙う男が来たのかと思ったなんて言えない。
ロバートは、自分の背中に隠していた左手をサッと前へ出す。
その手には可愛らしい赤と白の花と緑の葉のコントラストが美しい花束が握られていた。
「君にクリスマスプレゼントを持って来たんだ」
「まぁ、どうもありがとう! とっても素敵だわ」
ロバートに手渡された花束はクリスマスの雰囲気に合わせて作られていてとても可愛らしく、沈み込んでいたカサンドラの気持ちはとても慰められた。
嬉しくてじっと花束を見つめていたがある事に気が付き、困ったようにロバートへ顔を向けて僅かに首を振る。
「でも、受け取れないわ」
「どうして?」
「だって私‥‥貴方へのプレゼントを用意していないのよ。
私だけプレゼントを貰うなんて悪いわ」
「あぁ、そんな事?」
ロバートはなんて事無いというように笑えば、残念そうにしていたカサンドラの手にしっかりと花束を持たせた。
「君が喜んでくれるなら、僕はそれで良いよ」
そう言われて恐る恐る花束を受け取り、ロバートへ嬉しそうに微笑んだ。
「‥‥どうもありがとう、ロビー。 いつか必ずお礼をするわ」
ロバートは小さく頷きながら微笑み返し、そしてカサンドラの顔を覗き込んで本題に入った。
「それで、カサンドラ。 クリスマスパーティーには行けそうかい?」
ここ数時間色々な事が目まぐるしく起きていたせいで、彼に言われて漸く今日クリスマスパーティーに誘われていた事を思い出した。
すっかり忘れていたわ。 でも、どうしよう?あの男が町まで来ていたとしたら?
それに今日は、パーティーのような楽しい場所へ行く気分にはなれない‥‥。
「せっかくだけど、私は‥‥」
言いかけて、はたと口を閉じる。
よく考えてみれば、どうして私があの悪魔のせいで怯えながら暮らさないといけないのかしら?
そんなの、あの男に屈服したも同然じゃないの!
そう考えれば考える程、屋敷で閉じ籠ってクリスマスを過ごすのが愚かな事のように思えてきた。
だからカサンドラはもう一度ロビーに微笑み掛け、玄関扉を大きく開けた。
「十五分だけ時間を貰える? すぐに準備してくるわ」
「そうこなくっちゃ! きっとすごく楽しいよ」
「中に入って待っていて。応接間は分かるかしら? 暖炉のある部屋」
「もちろん知ってるさ」
ロバートの言葉に頷くと、彼に背を向けて二階の寝室へ向かった




