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19.レモンドリズルケーキ




もう眠れそうもないと判断したカサンドラはゆったりとした白いナイトドレスから、淡い水色の生地で白い花の柄が入ったエンパイアスタイルのワンピースに着替えて寝室を出た。


悪夢に魘されて落ち込んだ時は、美味しい物を食べて気を紛らせよう。

まだ薄暗いけれど空は白み始めているし、大分早い朝ごはんだと思えば良いのよ。



まずは応接間で暖炉に火を起こし、その後厨房へ行って棚からティーセットを持ち出す。


この屋敷には元々家具や食器は綺麗なままで揃っていた。銀器は傷一つ無く綺麗に磨かれてある。

きっと長い間シダル家の人達が管理してくれたのだろう。



ふとある事に思い当たる。


以前この屋敷に人が住んでいたのは、どれ程前なのかしら?

きっとウィリアムズ伯爵家の人間が住んでいた筈よね。 思い当たる人が居たかしら……


リュクス・ガーデンに飾られている、代々伯爵家の血縁者が描かれた肖像画を思い出そうとしたけれど、早々に諦めて肩を竦める。


考えても意味無いわ。私には関係のない事だもの。


きっとシダル家の人に聞いても無駄だろう。

彼らはあくまで屋敷の管理人であって使用人ではない。


当時の管理人ならヒース・コートは伯爵家の所有している屋敷だと知っていただろう。

けれど年月の経った今では他領の伯爵、それも伯爵本人ではなく血縁者の屋敷でしかないので、今ではその威光も風化している筈。

その証拠に町ではゴーストハウスとして扱われているではないか。


けれどカサンドラにはその方が都合良かった。

私がウィリアムズ伯爵家の娘だと知られては困るのだから。




もう定位置となった応接間の肘掛け椅子に座り、レモンドリズルケーキを一口頬張る。

しっとりとした生地も程よい甘さで美味しく、ケーキに染み込んだ甘酸っぱいレモンシロップは絶品だった。

シャリッとしたアイシングもレモンの酸味を感じる。 紅茶との相性も抜群だ。


「なるほどね、危険だわ。 こんなにも美味しいと、毎日でも買いに行ってしまいそう……」


ケーキを一切れ食べ終えた後、我慢出来ずにジンジャーブレッドも一つ食べてみた。

ピリッとしたジンジャーや香り高いシナモンがしっかり感じられる。此方もとても絶品だ。


最近ずっと食欲を無くしていたせいで大分体重が落ちてしまったが、ここに居る間に丸くならない事を祈ろう。



熱い紅茶を一口飲む。

寝室を出た時は最悪だった気分が、美味しいお菓子と温かい紅茶のおかげで今では大分ましになっていた。


徐ろに立ち上がったカサンドラは窓辺により、冷たい空気も気にせずに窓を開けて空を眺める。


暖炉の上にある時計ではもう明るくてもおかしく無い時間なのに、空は厚い雲に覆われていてどんよりと薄暗い






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