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18.罪深いカサンドラ




ここは‥‥?


辺りを見渡すと、そこはウィリアムズ領のリュクス・ガーデンだった。

それははっきり感じるのに景色は白くぼやけ、思考もはっきり定まらない。


『カサンドラ』


誰かが私を呼んでいる。誰かしら?


『サンディー』


その呼び名を聞いたカサンドラは弾かれたように顔を上げると、光の降り注ぐ庭で姉のシャーロットが此方へ微笑みを向けていた。



サンディー。それは姉だけが使う、私の特別な愛称だった。


カサンドラは駆け出し、シャーロットに抱き付いた。 私よりも少し高い背丈も、柳のように華奢で細い体も、私の知っている姉だった。


『大好きよ、サンディー。私の太陽』


私もよお姉様。 嬉しいわ‥‥生きていたのね‥!!



『いいえ、死んだわ。 貴女が殺したのよ』


‥‥‥お姉様?



辺りの景色は一瞬の内に一変し、見覚えのある舞踏会場はイームズ子爵家のものだ。

気が付くと私は夜会用のドレスを身に着けていて、姉の声は私の背後から聞こえてきた。


ハッと声のした方を振り返り、そしてもう一度、先程まで姉だと思って抱き締めていた人物を見上げる。

ぼやけていてはっきり見えないにも関わらず、その人物がフレデリックだと分かった。


背後からカチッと音が聞こえてきた。

嫌な予感がして振り向くと、シャーロットの手に拳銃が握られていた。


『貴女が好きだった事なんて今まで一度も無いわ』


‥‥そんな事言わないで。私はお姉様の事が好きだったのに。


『私は永遠にカサンドラの影でしかないのね‥‥!!』


どうしてそんな酷い事が言えるの‥?


『罪深いカサンドラに死を与えるわ‥!』


もういや‥!! 止めて‥!


その時突然私の手に拳銃が現れ、何が起きているのか理解出来ない内に、体が勝手にシャーロットへ向けて引き金を引いていた。



恐ろしい轟音はしなかった。

ただ突然シャーロットが倒れただけ


カサンドラは呆然としたまま、姉に駆け寄る事も出来ずにいた。


気付くとシャーロットは消え、新しい人影が近付いて来る。

のろのろとそちらへ顔を向けると、フレデリックが私を睨むように見つめていた。


『君がシャーロットを殺した』


‥‥‥違うわ。殺そうなんて思って無かった。


『どうしてあの時引き金を引いた?』


引き金を引くつもりなんて無かったのよ。


『カサンドラ、君のせいで僕はシャーロットを失った』


何よ‥! 私は何もしてないじゃない! どうして私を責めるの?


カサンドラの血の気の引いた頬には、いつの間にか涙がポロポロと伝い落ちていた。


口には出さないけれど、きっとお父様もお母様も‥‥私の事を酷く責めているに決まってる。



誰にも会わせる顔が無い。


誰にも会いたくない。


私の居場所は無い。





消えてしまいたい





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





目を覚ました時、カサンドラの頬は濡れていた。


ベッドから降りて厚いカーテンの隙間から外を覗くとまだ真夜中らしく、空には星が輝いていた。



リュクス・ガーデンから持ってきたトランクをベッドの上に置き、少し躊躇った後に開けてみた。

持ってきた荷物は殆んど出してヒース・コートの色々な部屋に散らばっている。


けれど一つだけ。淡い水色のレティキュールだけが底にポツンと取り残されていた。

トランクの底に放り込んだまま、今まで一度も取り出した事は無かった。

でも‥‥‥



カサンドラはそのレティキュール中にある物を取り出す。


あの夜、シャーロットが持ち出した拳銃だ。


表面には銀で出来た繊細な装飾が施されており、薔薇と蔦、そしてウィリアムズ伯爵家の紋章がそれぞれ掘られていた。



カサンドラは銃をまじまじと見つめ、トリガーには触れないよう気を付けながらグリップ部分をそっと握ってみる。


これは自分への罰として持ってきた。


あの悲劇の後、父はこの銃を鍵の付いた小さな木箱に入れ、更に厳重なタウンハウスの金庫に保管した。


王都からリュクス・ガーデンに戻る時には既に、カサンドラはこっそり金庫を開けて銃を持ち出していたのだった。


当初はすぐに気付かれて取り返されるかと心配していたが、父もシャーロットを撃ち抜いた拳銃を見るのが辛かったのだろう。 何日経っても金庫から銃が消えた事なんて気付きもしなかった。


罪深いカサンドラ。姉を撃ち殺してしまうなんて。


きっと皆そう思ってる。私を非難している。 嘲笑いながら哀れんでる。



カサンドラはぎゅっときつく目を閉じると、拳銃を再びレティキュールに戻す。


そしてベッド横にある、マホガニー製のサイドテーブルの引き出しにレティキュールごとしまい込んだ。


カサンドラの罪は、誤って銃の引き金を引いてしまった事。そして___




目の前で床に倒れ伏した姉を見たあの時一瞬だけ………、それが自分では無かったことに安堵してしまった事だ




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