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13.町で噂の天使




目的地に向かって通りを歩いていると後ろからロバートを呼ぶ声が聞こえてきた。

ロバートと同じ年頃か少し上くらいに見える銀色の長髪を後ろで一つに結んだ男性が、親しげにロバートに話し掛けた。


人当たりの良いロバートは男女問わず友人が多いようだ。

こうして誰かに呼び止められるのは、町へ来てから既に今回で五回目だった。


会話の邪魔をする気は無いカサンドラは、毎回近くのお店に目を向けて時間を潰そうとする。

けれどロバートが当然のように私を友人に紹介するので、渋々カサンドラは慣れた様子で青年ににっこりと微笑んで見せた。


どのように微笑めば喜ばれるのか、カサンドラは幼い頃から熟知している。


「カサンドラです。会えて嬉しいですわ 」


「僕も貴女に会えて光栄ですよ。

この町では今、丘の上の屋敷に天使が舞い降りて住んでいるという噂で持ちきりなんです」


「天使って?」


「きっと貴女の事でしょうね」


「なら噂は間違っているわね。私は人間ですわ」


屋敷に住んでるのはゴーストであって天使ではない。


そもそも、どうして噂になんてなったのかしら?

丘の上に建てられたヒース・コートは確かにこの町からも見えるけれど、それでも遠く僅かに外観が見えるだけで、誰かが住んでいるかなんて分からない筈だった。


カサンドラが眉を潜めた事に気付いた銀色の髪の男は、安心させるように微笑んで私に答えを教えた。


「不安にさせてしまってすみません。

貴女が考えているよりもっと簡単な事ですよ。

この地へ来る時、乗り合い馬車に乗ったでしょう?」


「えぇ、そうですわ」


「その際に共に下りた者が噂の発端でしょう」


「多分、ジョスじゃないかな。

カサンドラ、覚えてる? さっき紹介したジョシュアだよ」


覚えてない。

でも正直に言う訳にはいかないので、少し考える素振りを見せた後に頷く。

嘘をつく事が必要な時だってある。


「えぇ、覚えているわ。 その人が私を見たって?」


「ジョスは女性に目がないんだ。

特に君は人の目を惹くから、余計に分別を無くして大騒ぎしたんだろうね」


ロバートはそう言うと私の顔を覗き込んで表情に不安の色が無いのを確認し、安心させるように彼の腕に掛かったままの私の手に触れる。


「屋敷の煙突から煙が上がっているのも見えてたしね。 だから僕が様子を確認しにカサンドラに会いに行ったんだよ」


「小さい町ですから、皆知り合いなんですよ。 だから初めて見る人が居ると、どうしても噂になってしまうんです」


なら町に居る人達は皆、私が挨拶にも来ない礼儀知らずだと思ってるという事?

だからといって何か変わる訳ではないけれど。


「噂を止める方法はご存知かしら?」


「それなら安心してよ、カサンドラ。

こうして町で過ごしていれば君が噂の中の天使じゃなくて、実在する女の子だと分かる。そのうち噂も消えるさ」


「そうなの?」


「僕が一緒に付いてるからね」


「ロビーは友人が多いので、彼に任せればおかしな噂もすぐに無くなりますよ。

と言うより‥‥別の噂が広がらない事を願うばかりです」


別の噂って何かしら?

私が伯爵家の人間だと言うこと?

それとも___



そこまで考えると胃の辺りを締め付けられるような痛みを感じたので、無理矢理思考を中断する。

あの惨劇の噂がこの町で広まる筈がない。


いい加減、余計な事までごちゃごちゃ考えるのは止めにしたい。

この調子では例え社交界に戻ったとしても、舞踏会の景色を見ただけで悲鳴を上げてしまいそうだ。

そんな事になれば本格的に正気を失ったとされてしまう。



「それでは僕は失礼します。

またお会い出来ると良いですね、レディ・カサンドラ」




‥‥‥今なんて言ったの?








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