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12.町へ



「もうすぐ着くよ、カサンドラ。足は痛くないかい?」


「ええ、大丈夫よ」


週末はロバートの仕事が休みだというので先日約束した通り、町まで案内して貰った。

カサンドラは乗合馬車を使うつもりだったのだが、少し遠いけれど通り道の景色がとても美しいと言うので町までロバートと歩く事にした。


確かに町まで距離はあるけど、彼の言葉通り自然豊かな景色はとても美しかった。

王都に比べたらウィリアムズ領も田舎だけれど、こんなにも力強い生命力を感じられる景色は無いだろう。

カサンドラは華やかな都会が好きだけれど、此処へ来て自然豊かな土地も悪くないと思えるようになった。




町と言ってもそれ程大きい訳ではない。主になった大通りを中心にして左右に二階建てと三階建ての建物が建ち並び、そのどれもがくすんだ色の石造りだった。でも不思議と厳しさや古臭さを全く感じず、歴史的でとても美しい。


町の主となる通りの入口に差し掛かると、思いのほか人で賑わっている事に驚いた。

よく見ると通りに並ぶ店の扉には柊の葉や可愛らしい赤い花が飾られていた。


「もうすぐクリスマスだから何時もより人が多いんだ。はぐれないように気を付けないと」


「子供扱いしなくても平気よ、ロビー。心配しなくても貴方について行くわ」


「それなら良いんだ。でも危ないから僕の腕に掴まって」


「わかったわ。これで良い?」


差し出された腕を取るとロバートは穏やかに微笑んで頷いた。本当に彼は人懐っこい人だ。


「うん、これで安心だ。町を案内するよ」


「ありがとう。まずは薪が欲しいんだけれど、何処へ行けばいいのかしら?

出来れば屋敷まで運んで貰えるお店が良いんだけれど……」


薪だけは切らす訳にはいかない。庭に落ちている枝にも限りがあるから、出来るだけ多めに欲しい。

でも沢山の薪を屋敷まで持ち帰るなんて到底無理で、それがカサンドラの悩みだった。



幸い薪を売るお店の店主はヒース・コートまで荷馬車で薪を届けてくれる事を約束してくれた。

それに喜んだカサンドラは大輪の花が咲くような笑みを浮かべ、お店にある大半の薪を購入して店主を驚かせた。


実はリュクス・ガーデンを飛び出して来た時、ずっと大切にしていた宝飾品を幾つか売り払って来たので、私一人なら一年くらい生活出来る。

宝飾品は殆どが家族からの贈り物なので、厳密に言うとこれは私のお金では無いけれど。




店を出ると、通りの向こうの店のショーウィンドウにエメラルドグリーンのローブが飾ってある事に気付いた。遠目から見ても銀色の装飾が美しい事がわかる。

足を止めた私に気付いたロバートが視線の先を見て、そして私の手を引いて通りを渡る。


近くで見るローブは一段と美しかった。

今着ているお気に入りの赤いローブは先日の一件で酷く傷付いてしまった。

着ているローブはこれからも大切にするけれど、この寒い土地で暮らすにはもう一つ持っていても良いかもしれない。


「君にとても似合うと思うよ」


「とても綺麗な色だけれど……この色は身に着けた事がないわ」


「カサンドラは気付いてないかもしれないけど、君の青い瞳に緑色は良く合うんだよ。まるで海の色みたいだ」


「冷たくて荒れやすい海ってこと?」


「いいや。僕が言いたかったのは綺麗なブルーグリーンの海の事だよ。君は分かってて僕に言わせたんだろう?」


緑色の瞳を煌めかせながらわざとらしく怒ったように言うロバートに此方も肩を竦めて見せると、ロバートの言葉に背中を押されて店内に入った。



赤いローブを脱いで購入したローブを羽織ってみると、この地の気候にあって作られているのか先程よりも温かく、冷たい空気が肌に触れる事は殆ど無くなった。


「うん、やっぱり君にはこの色が良く似合うよ」


「ありがとう。それにとっても温かいわ」


通りに戻るとロバートは私の腕を掴んで自分の腕に掛けさせ、そのまま歩き出す。


「次は何処へ行くつもりなの?」


「近くに僕の働いてる店があるんだ。ちょっと挨拶しに行こう」


「それなら私はこの辺りを見て待っているわ。ゆっくりしていらしてね」


「カサンドラも一緒に行こう。町で一番美味しいパン屋なんだ。皆良い人だから、きっと君も気に入ると思うよ」


ロバートが町で働いているのは知っていたけれど、パン屋だというのは初耳だ。

シダル家に滞在していた間に食べたパンは確かにとても美味しかった

あのパンが買えるお店なんだとしたら行ってみたい。


「ちょうど美味しいパンが欲しいと思っていた所よ」


「じゃあ、君も一緒に行くって事で良いね」



カサンドラは遅ればせながら、ロバートがいたずらっぽく笑うと彼の瞳の輝きが増す事に気付いた





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