二十代の姉と三十歳の妹と呆れた面々
竿姉妹という意味では、確かに、ルルはエルより姉である。
王国ホテルの大食堂。
格式の高いパーティーの会場として使われても不思議ではないほど、豪華絢爛なものだ。
その豪華な大食堂の片隅では、四十歳の人族の中年が九十歳のハーフエルフの外見中年に説教され続けていた。
「ニグル、今回の遠征の目的を忘れてはいけない。今回の遠征の目的はなんだ?」
「エルの修行」
「そうだ。エルの魔法使いとしての修行だ。毎日午前中から盛っていてはもちろんダメだが、問題を起こして足止めされてもダメだ。わかるな?」
不貞腐れているのか考え事をしているのか、ニグルは返事をしない。
「ふん・・・どうやら修行が必要なのはエルだけではなさそうだな。ニグル、特別な力を持っているお前も、成長しなければならない」
ニグルが返事をしない事など気にしていないかのように、マグスは話し続けた。
「自分を制御して問題を起こさないよう努力して欲しい。エルはまだ三十歳だが、お前はもう四十歳だ。何もなければエルはこの先、百五十年以上生きる。それに引き換え、人族のお前は人生の半分を終えている」
マグスはいつになく切実な表情をしている。
「お前が天寿を全うしたとしても、エルはお前と過ごした時間の何倍もの年月を寡婦として過ごさなければならないのだ。お前が天寿を全うしたとしてもだぞ。それをお前、今お前がこの国で問題を起こしてみろ」
マグスは顔をニグルの方に向けたまま、視線をイフォックに移した。
「お前は抵抗する間も無くイフォックに殺される」
イフォックは満面の笑みを浮かべながら頷いた。
「当然だね。他の異世界人を守る為には止むを得ないし、ニグルくんの保護者であるマグスの了承も得られたのだから、迷う理由は全く無い」
ニグルは眉間に皺を寄せて、不機嫌そうに天井を見詰めた。
イフォックの恐怖に耐えられず自分の視線を逃したのだ。
「そうなったら、エルはお前と過ごした時間の百何十倍もの年月を寡婦として過ごさなければならなくなるのだ。俺の可愛い一人娘をそんな目に遭わせないでくれ」
マグスは縋るように、ニグルに訴えた。
この場にいるマグスの知己全員が、これは本当にマグスなのかと思うほど、日頃のマグスとは程遠い姿であった。
ニグルは、イフォックへの恐怖の裏返しなのか、弱気なように見えたマグスに対して強気になった。
「俺が死んだら次の男を探せばいいだけだ」
「とは言わせないぞ!」
「ご存知の通り、今もう言っちまったんだよ・・・」
「エルの顔を見れるか?」
「見れない。後悔している」
強がり、勢いで、ニグルは今言うべきではない事を言ってしまった。
「加藤さん最低ですね」
「ニグルさん最低ね」
「ニグルくん殺すよ?」
「ニグルさんは何故みんなに責められているのですか?」
今この場にいるメンバーの中で誰か一人を味方につける事が出来るとしたら、不本意ながら、それはモリだろうとニグルは思った。
渦中の人であるエルだけが、一人無言でいる。
ニグルは意を決して、エルの顔を見た。
恐ろしく陰鬱な顔がそこにあった。
「ごめんなさい。勢いで思ってもいない事を口にしてしまった。俺は少しでも長くエルと一緒にいたいと思っている。それが本心。信じて欲しい」
「大丈夫。信じてる。でも、今は顔を見たくない」
エルは俯き、その場を去った。
「白川支配人にニグルくんとエルの部屋を別々にするよう言っておくよ」
イフォックが呆れ顔で気を利かせた。
「その必要はない。明日にでも遠征を再開するのだ。ニグル、モリとルルを連れて行け。田中とやらはキゼトに連れて帰る。お前達が帰って来るまで俺が責任を持って面倒を見てやる」
「待て待て。マグスも一緒に行くんじゃないのか?」
マグスが合流したら自分は何もしなくていい。
そう思っていたニグルは、当てが外れ愕然とした。
「そのつもりだったが、俺がいるとお前の成長を妨げると判断した。お前が責任を持つべき命が二つ増えた。最優先すべき命はエルの命だ。しかし他の二つの命も軽んじることは出来まい。三つの命を抱え、お前はどうやって遠征を続けるのか。この最悪な雰囲気の中で・・・期待しているぞ!」
マグスはニグルのことをよく理解している。
「マグスさん来なかったら危険が危ないじゃないですか!僕もキゼトに戻ります!」
モリはマグス任せで何もしない事に慣れている。
「ダメだ!お前はニグル以上に全般的に成長が必要なんだぞ!自覚しろ!」
「私はニグルさんを信じてるから、マグスさんがいなくても平気。でも今はニグルさんのこと最低な男としか思っていない。エルさん探してくる」
ルルはエルの後を追い掛けた。
「僕もニグルさんと一緒じゃダメですか?」
「田中とやら!お前は自分の力を何も引き出せていないだろ!ただの足手纏いだ!だから俺とキゼトで留守番だ!」
「ねぇマグスマグス。出発は明日なんだよね?じゃあ、やっぱり僕から白川支配人にニグルくんとエルの部屋を別にするように言っておくよ」
部屋に戻っていたエルは、無表情でベッドに横たわっていた。
何かを考える気にもならない。
何かを考えたら考えた分だけ、ネガティヴな思考に支配されそうな予感があった。
「エルさん、いるの?」
ドアをノックし、ルルが声をかけた。
「うん」
「入るね」
ドアを開け入室したルルは、エルが横たわるベッドに腰を掛けた。
「エルさん。ニグルさんの事、すぐじゃなくていいから許してあげてね」
「ニグルさんの事は信じてる。本音じゃないってわかってるつもり。でも心が鎮まらないの。ごめんね、お姉ちゃん」
ルルの優しさにつけ込んで、エルは遠慮する事なく、ルルをお姉ちゃん呼ばわりした。
だけではなく、ルルの手をそっと握った。
「いいよ。お姉ちゃんがずっと一緒にいてあげる」
ルルはエルの小さな手を握り返した。
ルルが一人称をお姉ちゃんにしたのは、エルへの気遣いだけではない。
「ニグルさんがまたバカなこと言ったら、お姉ちゃんが怒ってあげるね」
「お姉ちゃん、ありがとう。優しいお姉ちゃん大好き」
そう言うなり、三十歳の妹は二十代の姉に抱きつき、程よく豊かな胸に顔を埋めた。
三十歳と言えど、エルの外見は人族の十代半ばの美少女である。
頼られれば頼られるほど、甘えられれば甘えられるほど、ルルは不思議な錯覚に陥ってしまう。
(合法ロリやべー)
絶世の美少女と言っても過言ではない三十歳の妹が自分の胸に顔を埋める様子を見て、二十代のルルの鼓動が速くなった。
だけではない。
汗をかきやすい体質のルルは既に、うっすら汗ばむ程に興奮している。
「お姉ちゃん胸がすごくドキドキしてるし汗かいてる・・・興奮してるんでしょ」
ニヤリとしながら、エルはルルの胸元の汗を舐め上げた。
「え、え」
ルルはただただ戸惑うばかりだ。
しかしエルはルルの戸惑いなどお構い無しに、再び汗を舐め上げた。
ソエルから受け継いだ血の性が、今まさに解放されようとしていた。
エルの血の力に我を忘れたルルは、エルの唇を奪い、開いた唇から舌を挿入し、その舌でエルの舌を愛撫した。
延々と舌と舌を絡み合わせた後、ルルはエルの褌を取り払い、エルの目を見つめながら、位置を変えた。
「ああああぁぁぁぁぁっ」
褌を取り払われたエルは、興奮し切ったルルの勢いに負け、果てた。
エルとルルがお互いを求め合う部屋のドアの外では、その身内である五人の男が聞き耳を立てていた。
しかし行為に没入する二人は、ドアの外の物音に気付かない。
「自分ばっかりじゃ、ダメでしょ?」
「ほへんははい(ごめんなさい)」
「ああああああっ」
「二人とも俺の時より激しそうな気がするんだよなー」
反省したのかしていないのか。
部屋の中から聞こえて来る激しい声に、ニグルは嫉妬した。
「しっ!ニグルさん!声出しちゃダメじゃないですか!」
「ごめん」
「注意すべきはそこじゃない気がするけど・・・」
「そんなこと言って田中くんも聞き耳立ててんじゃねぇか」
「そりゃそうですよ。男ですもん。いや加藤さん、エルさんを傷付けたこと反省してるんですか?」
田中に詰問されるニグルに、マグスがボソボソと耳打ちした。
「反省してまーす」
ニグルはマグスに耳打ちされた通りに答えた。
「田中くん、今はそんな事より、そこにある耽美な事象に集中するべきなのではないのかな。王都防衛司令部長として僕が命じる。今この時を堪能せよ!」
「そうだぞ田中!格好をつけるな!エルの父にしてお前の師匠となる大魔法使いマグスが命じる!我が娘の耽美な声を堪能せよ!」
興奮の余り、五人の男は声量のコントロールが出来ていない。
興奮し過ぎているエルは気付かないが、ルルは流石に気付いてしまった。
「エルちゃん、ちょっと待って。聞かれてる。ニグルさん達だ」
「ニグルさんに聞かれちゃったかなぁ。お姉ちゃんとこんな事して声出しちゃってるの、ニグルさんに聞かれちゃったかなぁ!」
羞恥心が疼き、限界を超えて興奮したエルの声が大きくなった。
「お姉ちゃん!もっと!」
エルは、動きを止めたルルの顔に跨った。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
「ちょっ、ぶふ、息、ぶふっ」
「おおおおおおおおおおお!」
外では男達が大盛り上がり。
その見苦しい様を見てしまった白川支配人は、廊下の端で壁に手をつき大きく溜め息をついた。
「はぁ・・・姉さん、事件です・・・もうあいつら出禁」




