三十歳のエル 二十代のルル
「ニグルさーん。ただいまー」
実家での修行を終えたエルがニグルの自宅を訪ねると、裸のニグルが玄関に背を向けて立っていた。
その奥、ニグルの正面側で女がしゃがんでいた。ルルだ。
「おい」
エルは右手に杖を持ち、柏手を打つように両手を合わせた。
魔法の杖の先端、前オーナーであるソエルの寂しい夜を慰めた丸みのある部分に、膨大な魔力が集まる。
「待て!何考えてるかよくわからんけど多分誤解だ!」
「問答無用」
慌てるニグルに、エルが鈍く低い声で短く答えた。
「下着が出来上がったから試着してたんだよ!」
「やましい事はしてないですよ?下着のサイズの確認をしようとしてただけです」
仕事柄なのかこの世界にきてから死線を何度もくぐってきたからなのか、ルルはこんな時でも落ち着いたものだ。
「エルさんの分もありますよ。サイズが合わなければ直さなきゃいけないし、今ここで試着してもらいたいな」
ルルの落ち着いた笑顔に釣られる様に、エルは怒りを鎮めた。
「仕事柄、他人の裸に抵抗無いから、気にせず脱いじゃって」
ルルはエルに興味を持っていた。この機会に知り得ることを何でも知ろうと目論んでいた。
違和感を感じさせない自然さでシンプルなワンピースに手をかけ、ルルはエルを裸にしてしまった。
ルルの優しい笑顔に魅入られたエルは、「お姉ちゃんってこんな感じなのかな」と想像し、呆然としながらルルに身を任せた。
冒険者の両親が遠征に出る度に、幼い頃から一人で留守番をしていた。
物心がついてすぐに家事をこなしていたエルは、留守番としても優秀だった。
しかし、話し相手がいないのは寂しいものだ。
エルは幼い頃、ずっと姉という存在に憧れ想像し、存在しない姉に話しかけていた。
エルにとってルルは、子供の頃の憧れを思い出し、再会した錯覚に陥ることが出来るだけの魅力を備えた「姉」の様に思われた。
「とても綺麗な肌」
ルルは探るように、エルの両脇腹を羽毛の様な軽さでなぞりながら、エルの目をじっと見つめた。
「んっ」
思考が上手く働かず、エルは虚な目でルルの目を見つめ返し、感情をコントロール出来ず、本能のままに声を出してしまった。
「敏感なのね」
ルルはそう言いながら、エルの脇腹から胸へ、ゆっくりと指を這わせた。
「あ、お姉ちゃん・・・」
胸の先端のそこにルルの指先が触れた瞬間、子供の頃の憧れと快感と興奮で意識を混濁させたエルは、ついそう呟いてしまった。
「くっ、何お姉ちゃんって」
ルルはエルの目を覗き込んだまま、意地の悪い顔をしながら小さく笑った。
エルは赤面しながら正気に戻り、押し黙った。
「ぶはははははははっ!いやマジで何だよお姉ちゃんって!エルさんはルルさんより年上なんですけどー!」
デリカシーの欠片も見せず爆笑するニグルに、エルは最大限の怒りを感じた。
しかし、それ以上に恥ずかしく、エルはニグルに何も言い返せずにいた。
「早く試着させて下さい」
エルは顔を真っ赤にさせ、俯きながら強がった。
「はいはい」
ルルは悪戯っぽく笑いながら、エルの正面から臀部のすぐ上に手を伸ばし褌の腰紐をあて、その腰紐を正面に回し臍の下辺りでキュッと結び、エルのつるりとした股間を凝視しながら、股の向こうに垂れた布を手前に引っ張り、腰紐に挟んだ。
仕上げに再びエルの目を見つめながら、腰紐に挟んだ布をグイッと上に引っ張り、エルの股間に食い込ませた。
「あっ」
体が既に火照り敏感になっているエルは、再び反射的に声を出してしまった。
「これはふんどしって言うの。慣れるまでは違和感があるかもしれないけど、慣れればきっと快適だから」
エルの声に気付かないふりをして、ルルは腰紐の位置や布の幅を調節するかの様に見せかけ、腰や臀部、鼠蹊部をなぞりながら、短く説明した。
ちなみに、ルルが作る褌は越中スタイルだ。
「あ、あ、はい・・・」
ルルに弄ばれ、エルはどっと疲れた。
「エルさんて本当に感じやすいのね。可愛い」
エルの様子に興奮したルルは、エルの耳元で呟いた。
ルルにからかわれたと思い、エルは少し拗ねて見せた。
しかし、憧れていた姉のイメージに合うルルに構われる喜びは、エルにとって甘美なものであった。
憧れていた姉のイメージと言っても、ルルは二十代でエルは三十路なのだが。
「エルさんの服、可愛いね」
試着を終え、モリが作った服を着たエルの愛らしい姿を見て、ルルはため息混じりに言った。
「ありがとう。気に入ってるから褒められると嬉しい」
エルは子供のようにニコリと微笑んだ。
「モリが作ったんだよ。一緒に店行った奴」
ニグルがそう言うと、ルルは表情を曇らせた。
「あのキモい人?あのキモい人が作ったって聞くと少し複雑」
「一緒に店・・・ルルさんってやっぱりリトルヨシワラの・・・」
「今ここにいるルルさんは下着を作ってくれたルルさんだ。それ以外の何者でもない」
「割り切った関係だから、恋愛感情とかは無いから。知り合ったのはお店だけど、今はただの友達で、この場の私はただの下着業者」
明るく笑うルルを、エルはどうしても憎めない。
拗ねつつも視線でルルへの好意を示すエルを見て、ニグルは思った。
いつか公認取れそうだ、と。
ルルが帰った後、ニグルとエルは、エルの家に場所を変えた。
ニグルの家はほぼ物置であり、調理道具すら無いからだ。
食事を終えると、二人はソファで寛いだ。
バンゴ村以来の静かな二人だけの夜だ。当然二人は盛り上がる。
・・・・・
「エル、すっごい汗かいてるね」
「ニグルさんこそ」
「やっぱりエルの方が燃えちゃうんだよね」
「方が・・・?ルルさんはいい人だけど、浮気は許さない」
「浮気じゃないって。下着の相談してただけだって。そう言ってんじゃん」
「私の方がって言った。比較した」
ニグルは黙秘した。
「沈黙は肯定。お仕置き」
「おまっ!どこに指入れてん・・・あっ・・・ちょ・・・あぁ・・・あ・・・うわーっ!」
ニグルの直腸に電流が走った。
ニグルには魔法が効かないことを前提に、実害が無い程度に自分の怒りをぶつけようと、エルは指先から微弱な雷魔法を迸らせていたのだ。
「え!魔法が効いたの?」
「早く回復魔法!」
「うん!ヒール!」
エルが回復魔法を発動させると、ニグルの直腸から痛みが消えた。
ついでに、エルの指の根本近くで、ニグルのイボが消えた。
「ふむ、体表じゃないから魔法が効くんだな」
「これなら私が回復させてあげられるね!口から指突っ込んでも出来るのかな。試してみよ」
「待て、そのままその指を口の中に入れようとするな。洗え。頭おかしいのか」
ひょんな事から、新しい発見を得た。
そんな夜だった。




