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指差呼称

 空腹は人格を変える。これほど確かな事実が他にあるだろうか。


 いや、無い。



「お腹空いたんですけど。スープ冷めてんですけど。仲間外れってすっごく辛いんですけど」


 キャイキャイ言いながらダイニングルームに戻ってきた三人を、モリは恨めしそうな顔に恨み言を添えて迎えた。




「一応確認するけど、マグスはエルの父親で、ソエルさんの夫なんだよね?」


 既にわかっている事なのだが、ニグルは奇跡を信じて尋ねた。


「そうよ。私の夫でこの子のパパ」

「エル、何で教えてくれなかったの?」

「聞かれた事ないし」

「そうね・・・」




「ところでエルの修行は進んでるの?」


 どんどん重苦しくなる自分の心を救うために、ニグルは話題を変えた。


「進んでいるわよ。落ち着いて正しく魔法を使えるように修行しているの」

「いいね」


 ニグルは深く考えることもなく、なんとなく順調であると受け止め、なんとなく納得した。


「落ち着いて正しくって、どういう事です?」


 ニグルと比べれば、モリの方がまだ思慮深い。



「この子、無詠唱で魔法使えるでしょ?それはそれでいいんだけど、無詠唱って自分の意思をコントロールしにくいのよ」

「はあ」


 ニグルもモリも、まだピンと来ない。



「無詠唱ってイメージだけで魔法を発動させるの。つまり、完璧に集中しないと、思い通りに魔法を発動させられないのよ。で、この子はドジだし戦闘の経験値が皆無だから、遭遇戦では驚いちゃって最適な魔法を選択出来ないし、力のコントロールも出来ない」


 ソエルがちゃんとしている事に、ニグルは驚かざるを得ない。


「じゃあどうすればいいか。言葉に出すの。言葉に出してどの魔法を発動させたいか自分自身に確認する習慣を身につけるの。そうすれば正しく魔法を選択出来る様になるし、意思と言葉を合致させる事で、自分の選択に集中出来る。そうすれば最適な魔法を自分の意思通りにコントロールして発動させられるの」


 思うだけではなく、言葉にする事で意識のレベルを上げ、判断の精度と魔力のコントロール精度を上げる。

 と、言う事なのであろう。


「指差呼称みたいな感じか」


 そう思えばわかりやすい。

 元いた世界の言葉の方が発達している。


「指差呼称ってなに?」


 エルが不思議そうな顔をしながら質問した。


「ほぼ、さっきソエルさんが説明してくれた事を一言で表す言葉だと思っておいて」


 ニグルは説明を面倒くさがった。


「私、一生懸命説明したのに、あなた達がいた世界では一言で済んじゃうの?」


 ソエルは残念そうに肩を落とした。

 ソエルでもがっかりする事があるのかと、ニグルは驚かざるを得ない。


「まあいいわ」


 気を取り直して、ソエルは説明を続けた。


「指差呼称も人それぞれで、集中力が足りない人は詠唱で指差呼称するし、集中力が高い人は魔法名を口にするだけで指差呼称するわ。私や夫くらいのレベルになると、指差呼称なんて必要無いけれど」


 ソエルは、ニッと笑いながらニグルを見た。

 初めて聞いた異世界言葉を早速駆使している私って凄いでしょと、その笑顔は訴えていた。

 それを察したニグルは、なんか違う、と心の中で呟きながら目を逸らした。



「魔法って決まった名前あるの?みんな同じ魔法を使えるの?」

「無いわよ。適当よ。バラバラよ。だから指差呼称する為に自分で好き勝手に名前を付けるのよ」


 ソエルは指差呼称を気に入った様だ。


「名前が魔法発動の為のトリガーみたいな感じでもあるのですかね!」


 モリが口を挟んだ。


「トリガーって何!?」


 ソエルは目を輝かせながらモリの目を真っ直ぐに見つめた。

 聞いた事が無い異世界言葉への渇望が、ソエルの心に生まれていた。


「切っ掛けですね!」


 モリは得意げに言い放った。


「じゃあ切っ掛けって言えばいいじゃない」


 トリガーはソエルのお気に召さなかったようだ。



「修行は粗方終わったから、あとは実戦で経験を積むだけ」 

「じゃあ近いうちにギルドで依頼受けようか。近場のやつ」

「甘えは良くないわ。近場なんて言ってないで遠征しなさい」


 ニグルはソエルの言葉を受けて無難な提案をしたつもりだったが、ソエルはその無難さが気に入らなかった。


「言っておくけど、私は同行しないから。同行したら、私がエルの保険証になってしまうでしょ。命を元手にしない修行なんて、学芸会の練習と同じだわ」


 ソエルは厳しい事を言いつつも、にやけそうになるのを必死に抑え鼻をヒクヒクさせながら、ニグルとモリの顔を交互に見た。

 この世界に保険証とか学芸会という言葉はない。ソエルは、ニグルとモリがいた世界の言葉を知っている事を誇りたかったのだ。


「すえードヤ顔してるけど、証はいらない」


 ニグルは小さく呟いた。



「ふん。そんな事どうでもいいわ」


 ニグルは聞こえない程度に呟いたつもりだったが、しっかりとソエルの耳に届いていた。


「とにかく、もうすぐ修行が終わるから、エルと一日中汗だくになって絡み合うのは程々にして、とっとと遠征に出てちょうだいね」


「エル、どんな修行してるの?」

「ママと一緒に私の魔法に名前付けているわ」

「それ修行?」

「イメージトレーニングもしているわよ」


 期待出来ないな。

 口に出すことなく、ニグルは頭の中だけでぼやいた。


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