ふんどし
組織内では、報告をしなければ仕事をしたと認められない。
残念ながら、ファンタジーな異世界にもそんな面倒な現実がある。
エルが実家に連れ戻された後、ニグルは重い腰を上げてギルドに向かった。
「これが海の洞窟の魔獣の皮収集の完了証明書。報酬は受け取り済み。これが受取証明書。こっちは悪魔討伐依頼の完了証明書。バンゴ村からの報酬は受け取ってないけど受取済み。これが受取証明書。受け取ってないけど」
この世界の文字を読み書き出来ないニグルは、マラやエルに用意してもらった書類を提出し、内容がわからないままギルド発行の書類に母印を押し、悪魔討伐に関する国からの補助報酬と危険手当を受け取った。
「まだ名前も無い生まれたてと推測される悪魔でしたから最低ランクではありますけど、それでも初心者が悪魔を討伐したというのは前例が無いです。初心者としては破格の偉業と言えると思いますよ。街でもすっかり噂になってます」
ギルド職員の女は、ご機嫌取りのつもりで、軽い気持ちで褒め称えた。
「あれ生まれたてなの?悪魔ってどうやって生まれるの?赤ちゃんスタートじゃないの?悪魔の赤ちゃんはどうやって生まれるの?どの穴から生まれるの?お姉さんが持ってるのと同じ穴を悪魔ママも持ってるのかなぁ。どう思う?」
ニグルのだらしない笑顔を見て、ギルド職員の女は顔をしかめながら舌打ちした。
「詳しくはわかっていません。なので便宜上、その存在が世に知られ始めたタイミングを生まれたてと言い表しています。便宜上です、便宜上。あと、卑猥な発言は冒険者の矜持に関わります。行き過ぎだと判断したら冒険者の資格を剥奪しますのでお気をつけ下さい。そしてそれ以前に、気持ち悪いです」
ニグルは、凹んだ。
報酬を受け取ったニグルは、リトルヨシワラにある「その名もフジヤマ」に直行した。
迷いは微塵も無かった。
恋人であるエルは最高の女だ。
顔は最上、体は置いといて、人前では澄ましているくせに二人きりの時は積極的なところも良い。
程よくMなところがこれまた良い。たまにSなところにゾクゾクする。
ニグルは心底そう思っていた。
しかし、たまには大人の女が恋しくなる。
エルも年齢的には大人だが、そう言う事ではなく、色香にまみれた大人の女の体が恋しくなる。
ソエルの色香を吸い込んだばかりなだけに、ますます恋しい。
あとは、さっきギルドで凹んだ心を救って欲しい。
「ニグル様いらっしゃいませ。ご活躍のお噂はお聞きしていますよ」
「恐縮でござる」
「本日は何時間コースになさいますか?」
「三時間!」
「さすが新進気鋭の冒険者、お見事です。ご指名は?」
「ルルさーん!」
「開店早々ですのですぐ入れますよ」
「はーい!」
待合室を出ると、そこにはルルが立っていた。
ニグルはその場でルルを抱きしめ、そのまま手を下に移動させ、尻を鷲掴みにした。
「こんにちはルルさんのお尻!お久しぶりですルルさんのお尻!」
「一ヶ月ぶりくらいですかね」
ルルに受け流されたニグルは、返事の代わりに口づけをした。
「気が早い。待てないの?」
ルルは顔を離しながら、悪戯っぽく笑って言った。
「待てないよー」
「ここで始めちゃう?」
「いいの?」
「だめ」
ルルの悪戯っぽい笑顔は、ニグルの欲情を煽って余りある。
・・・・・
あの男がまた来てくれた。元の世界の空気をまとったままの、自然体なあの男が。
いつの間にか冒険者になって、冒険者になってすぐに悪魔を討伐したという噂を聞いていた。だけど、相変わらず自己陶酔していない。
そもそも、ランクが合わない任務は請けられないはずなのに、何故、悪魔討伐が出来たのだろう。そういうところも含めて、変な人だ。
最近話題になっている街一番の美少女の恋人になったという噂も聞いていた。
街一番どころか国一番という人もいるほどの美少女だそうだ。
ロリコンだとは思っていなかったので、ちょっとショックだ。
「いやいや、エルは三十歳だよ。人族から見ると幼く見えるから美少女って言われてるけど」
噂は部分的には間違っていたけれど、肝心な部分は本当だった。
「早速ご無沙汰なんですか?今日も凄かったですよ?」
「いやそんな事ないんだけどね。そこはほら、ルルさんが素晴らし過ぎるからだよね」
そう言うとまた、彼の口が私の口を塞いだ。
しばらくもつれ合っている間に、私の体は彼を受け入れる準備が出来た。
彼の体もまた、張り裂けそうなほど私の体を求めている。
まだあと二時間もある。今日も二回目があるんだ。と思ったら三回目まであって呆れた。
「さすがに疲れたわー。冒険から帰ってきたばっかだし。腰もだけど背中がすげー痛い」
「私も疲れちゃった」
「ごめんね」
「大丈夫ですよ。店長から三時間と聞いて、今日はもう上がらせてもらう事にしましたから」
「早上がりじゃん」
「たまには」
「じゃあ飯でも食いに行く?」
「いいんですか?」
「もちろん!」
本当にいいのだろうか、とは思ったけれど、私はこの男といると元の自分で居られる。
元の自分で居られる時間を延ばせるのなら、私はこの男のだらしなさに便乗したいと思う。
・・・・・
「ルルさん、店ではノーパンだけど、普段は下着どうしてるの?」
「はい?」
クレープを食べながら突然発せられた、食事中にするべきではないニグルの質問にルルは戸惑い、食事の誘いに乗った事を少し後悔した。
「いや、この世界の人って下着を身に付けないでしょ?」
「そうですね」
「って事は下着売ってる店も無いんだろうし、転移者の人達はどうしてんのかなって」
「私は自分で作ってますよ」
「下、今も履いてる?」
「履いてます」
「どんな形?」
「教えません」
ニグルは、エルに下着を身に付けさせようと考えていた。
エルの胸は豊かではない。戦闘時に動きを妨げるほどの物ではない。つまり、下着を身に付けさせようと考える理由は、実用性を考えた上でのものではない。
身に着ける布が一枚増えれば、剥ぎ取る布も一枚増える。剥ぎ取る布が一枚増えれば、楽しみも布一枚分増える。
それだけだ。
「前の世界で履いてたのと同じ様な材質だったり形だったりするの?」
まだ続く下着に関する質問に、ルルは少々うんざりして俯いた。
「違います。この世界にはゴムがないので」
「って事は褌みたいな感じか」
「まあそうです」
「それ、俺にも作ってよ。ちゃんとお金払うから」
ニグル自身の必要の為であると、質問の意図を勘違いしたルルは顔を上げた。
その瞬間にニグルが鼻の下を伸ばしながら口にしたのは、少しだけ不快な内容だった。
「あと、エルの分も作って欲しい。エルの分は布幅狭くしてもらいたいかなぁ」
ニグルの伸びた鼻の下を見ながら、ルルはこの不快感の原因が何なのかを考えた。
エルへの嫉妬、ニグルの無神経、ニグルの下心、その下心への協力を求められる虚しさ。
どれだろう。全部かも知れない。
ルルはそんな事を考えながら、黙ったままニグルの鼻の下を眺め続けた。
「ルルさん?」
「はいっ」
ニグルの呼びかけで、ルルはようやく我に返った。
「作ってもらえる?」
「わかりました。一週後にお店に来て下さい」
少しうんざりしつつ、話を早く終わらせたくて、ルルはニグルの依頼を受けた。
が、ニグルは止まらなかった。
「サンプルとして一枚売ってもらえない?未使用じゃなくても洗ってあればいいから」
「わかりました」
ルルは嫌悪感を剥き出しにして反射的に返事をするだけになった。
ニグルはこの程度ではめげない男だ。
「色は何色でもいいけど、エルが思わず欲しくなるような可愛い色がいいよね」
「わかりました」
「クレープ食べ終わったら貰いに行っていい?」
「わかりました」
「銀貨一枚でいい?」
「わかりました」
「今履いてるやつでもいい?」
「わかりました」
ルルはハッとして顔を上げた。
「じゃあ今ここで脱いで」
ニグルの眉間がチリチリした。
ルルは顔を赤くしながら、座ったまま机の下で下着を脱いだ。
ニグルは染みが無いか確認したが、それは望外な期待だったようだ。




