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続 エルの母

 ニグルは考え込んでいた。


 この世界に来て、元いた世界でアニオタの若者から聞いた事がある、合法ロリというものを目の当たりにした。

 ニグルは自分自身をロリコンであるとは認識していなかったが、目の当たりにした合法ロリのあまりの美しさに、合法ロリはいいものだと認めざるを得なかった。


 しかもその、三十歳の外見美少女は自分に惚れている。

 紆余曲折を経て、自分自身も三十歳の外見美少女にすっかり惚れてしまっている。


 しかし今、目の前に正統派のいい女がいる。

 ただただ美しい顔、男の劣情を掻き立てる肢体、勘違いだとしても心地よくならざるを得ない妖艶な視線、滑らかでほんのり湿り気のある肌。

 しかし人間で言うと還暦過ぎ。


 どちらが正解なのだろう。


 答えは意外と早く出た。


 エルを選んでも正統派のいい女との縁は切れないだろうが、ソエルを選ぶと外見美少女との縁が切れてしまう。

 

 だから正解はエルだ。

 夢は大きい方がいい。

 いつかは親子丼だ。




「今日はね、エルにプレゼントを持って来たのよ。悪魔討伐したって聞いたから、お祝い」


 ソエルはそう言いながら玄関まで歩き、玄関脇に立てかけられていた長い包みを手に取り、ソファに戻ってエルに手渡した。


「わかるでしょ」


 ソエルは再びソファに腰掛けた。

 エルは包みを解き、顔に喜色を浮かべた。


「ママの魔法の杖・・・」

「そ、冒険者時代の私の愛用品」

「いいの?」

「いいわよ。私はもう冒険者を引退してるし、愛する娘が冒険者になったのだし」

「嬉しい!ママありがとう!」


 エルはソエルに抱き付いた。


「エル、ママにキスして」

「うん!」


 エルはソエルの横に座り、ソエルの頬にキスをしようとしたが、ソエルは急に横を向いてエルの唇を奪った。


「・・・・・!」


 エルは驚き目を見開いた。ソエルから体を離そうにも、ソエルが強く抱きしめているため逃れられない。

 エルは視線をニグルに向けて助けを求めたが、ニグルは鼻息を荒くしながら、興奮した面持ちで二人を凝視し続けている。


「口を開いてくれないと舌が入れられないじゃない」

「やめてよママ!」


 ソエルが唇を離して喋った隙に、エルはソエルの顔を手で押さえ付けながら叫んだ。


「ファーストキスをニグルさんに奪われたのが悔しいのよー。せめてこれくらいは許してよー」

「ニグルさん興奮してないで助けてよ!」


 エルはソエルの戯言を無視して、ソエルを止めようとしないニグルに抗議した。


「早くも親子丼チャンス!」


 ニグルはつい、思ったままに声を出してしまった。


「いっそ三人で・・・!」

「私はいいけど」

「ふざけんな!」


 エルはソエルの顔を肘で押さえ付けながら、再びソファが浮いた。



「さて、気を取り直して」


 エルは顔を赤くしたままソエルを睨んでいたが、そんな娘を気に留めることもなく、ソエルは杖について説明を始めた。


「これはエルフの里で作られた杖よ。エルフの血を引く魔法使いがこの杖を使うと、色々といいのよ」


 説明が雑すぎると、ニグルは思った。

 ニグルの心中を察したのか、ソエルは説明を追加した。


「魔力が増幅されるし、効果距離が伸びるし、消費魔力が減らせるのよ。それに先端のこの丸みが、女の寂しい夜に役立つわ」


 ソエルは妖艶な視線をニグルに向けた。

 エルは目元を更に剣呑にした。


「エルフの里なんてあるんだ。どこにあるんです?」


 ニグルはむしろそこに興味を持ってしまった。


「説明してもわからないでしょ。すごく遠い所にある大森林の中とだけ言っておくわ」

「そすか」


 またしても雑に説明した後、ソエルは急に真面目な顔になった。


「ねえニグルさん。エルは悪魔討伐でちゃんと戦えた?」


 エルの顔色が赤から青に変わった。

 迂闊な事は言えないと思い言葉を選んでいる内に、ニグルは沈黙を長引かせてしまった。


「やっぱりね」


 ソエルは最初から察していたようで、特に表情を変える事も無く言った。


「そもそも、冒険者になりたてで悪魔とまともに戦える人の方がおかしいのよ。あなたの事よニグルさん。あなたおかしいわよ」


 ソエルは突然、ニグルを批判した。

 ニグルには何故批判されているのかがさっぱりわからない。


「ましてやエルは冒険者以前に魔法使いとして、才能は凄いけど経験が少ないどころか何も準備出来ていなかったのよ」

「え、そうなの?」


 ニグルはよくわからないまま驚いた。


「そうなのよ。実際、全然役に立たなかったんでしょ?」


 ニグルは、海の洞窟での魔獣狩りの事とバンコでの悪魔討伐の事を思い出した。

 海の洞窟ではポーション係でしかなく、悪魔との対戦中はすくみ上がって頬を悪魔に掴まれていただけ。

 確かにエルはポンコツそのもので、戦闘中はほとんど役に立っていなかった。


「この子ずっと引きこもってたから、油断して肝心な事を色々教えるの忘れてたのよ。何の相談も無しにいきなり冒険者になって飛び出しちゃったし」


 ソエルの顔はすっかり母の威厳に満ちたものに変わっていた。


「しばらくうちに戻りなさい、エル。特訓よ」

「えー。じゃあ何で杖持ってきたのよ」

「ニグルさんの足を引っ張りたくないでしょ?そもそもニグルさんも大した能力無さそうだし。そのうち二人とも死んじゃうわよ?」

「わかった・・・」

「ちょっと待て。今、失礼な事を言ったよね」


 ニグルは無表情のままで食いついた。


「ニグルさん、ちょっと実家に戻るね。大人しくしててね」

「ニグルさんもうちに来ればいいじゃない」


 エルの父親、ソエルの夫とはどんな人物なのだろう。

 まだ見ぬエルの父親に萎縮したニグルは、エルが実家に戻って特訓している最中のメリットを検討した。


「冒険から戻ったばかりだから、色々やらなきゃいけない事あるし。ギルドに報酬貰いに行かなきゃいけないし。落ち着いてから顔出します」


 ニグルの頭の中には、ルルの肢体が生々しく浮かび上がっていた。


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