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中年と悪魔とポンコツ女

 元いた世界では空想の産物だった存在が、この世界では実体を持っているらしい。

 それが本当なら、この世界のそういった存在は、いつ、何から生まれるのだろうか。


 悪魔の男女がセックスをして、子宝に恵まれるのだろうか。

 人類から忌み嫌われる悪魔も、親の愛を受けながら成長するのだろうか。


 そんな事、あるのだろうか。

 いや、ないだろう。




「綺麗な青空だねー。悪魔日和って感じではないよね」


 悪魔が住む島が見える浜に立ち、ニグルは空を仰いだ。


「・・・」


 エルは不思議そうに、ニグルの横顔を見つめている。

 何故、ここから目視出来る島に悪魔がいると聞いても恐れないのか。



「ウグリさん、俺、武器を持って来てないんだけど」


 冒険者を名乗りながら丸腰のニグルに対して、ウグリは不安を感じざるを得ない。


「硬くて軽い棒、何でもいいから貸してもらえないかな」


 ウグリは浅瀬に繋留されている小舟から櫂を回収し、ニグルに渡した。無言で。


「宮本武蔵みたいだなー。あと、ポーション売ってくれない?」

「・・・エルさんに魔法で回復させて貰えば良いのではないか?」

「俺、魔法効かないんだ」

「わかった。村中から集めてくる。好きなだけ使って、後で使った分の金をくれればいい」


 ニグルに対し、呆れるという感情を越えたのか、ウグリは不機嫌になっている。


「で、どうしたら悪魔は来るの?」

「そのうち来るだろ」


 ウグリは素っ気なく答え、ポーションを集めに行った。




「エル、準備出来てる?」

「うん」

「いつ来るかわかんない奴を延々と立って待つのも疲れるから、その辺に座って待ってようか」

「うん・・・」


 緊迫感の欠如。エルは少し、ニグルの事を残念に思った。




 二人が砂浜に座っていると突然、青空の中に、羽の生えた黒い影が浮かんだ。

 その黒い影は入江に向かって勢いよく迫ってきた。


「あれ悪魔?」

「そうだと思う」

「本当にいるのか!」

「本当はいないと思っていたの!?」

「正直に言うと、本当はいないと思ってた!」


 エルは悪魔に驚くより、この場に臨んで尚、悪魔の存在を信じていなかったニグルにこそ驚いた。

 信じていなかったのであれば、何故、悪魔討伐を請け負ったのか。


「はあ・・・」


 こんな時にため息をつくとは、名の知れた冒険者の遺伝子を受け継いでるだけあってエルは冷静なものだと、ニグルは感心した。




 黒い影が、ニグルとエルのいる浜に降り立った。

 黒い羽が大きいものの、背の高さはニグルと同じ程度でしかない。


 その顔は青白く美しいが、顔以外は全て黒い体毛で覆われている。羽が生えた青白い顔をした空飛ぶゴリラだと、ニグルは思った。


「おい、お前は人間の言葉を話せるか?」


 ニグルは数歩前に出て、悪魔に近付いて尋ねた。

 想像よりも迫力の無い見た目に、ニグルは高を括っていた。


「私は人語を解する」

「お前はどこで生まれたのか」

「無駄話をするつもりはない」


 ニグルの好奇心を受け付けず、悪魔は白い両掌から炎を発現させた。

 その炎は二筋の火柱となり、ニグルに向けて放たれた。


 しかしその炎は、ニグルの体に達するや否や消滅した。


「何故だ」

「ぬはははははは!」


 ニグルの高笑いが辺りに響いた。


「エル!今だ!こいつを燃やし尽くせ!」


 反応が無い。

 疑問に思い後ろを振り返ると、初めて見る悪魔に恐怖し、エルがすくみ上がっていた。


「余裕無しか!人間サイズの空飛ぶゴリラ相手なのに!」


 自分に向けられたニグルの叫び声でようやく我に返り、エルは慌てて柏手を打つように手を合わせ、掌を宙空に向けて開いた。


 エルの掌から放たれた火の玉は、エルの萎縮ぶりを表すかのようにか細くゆっくりと、エルの縋る思いを表すかのようにニグルの背中に向かって飛んでいき、消滅した。


「おい」

「ご、ごめんなさい」




 エルの魔法に唖然とし動きを止めていた悪魔が、思い出したように、両掌から火柱を発現させた。


「まずは女、貴様からだ」


 魔法が効かないニグルを後回しにして、悪魔は火柱をエルに向けて放った。


「エル!」


 足をもつれさせながら駆け付け、ニグルはエルの前に立ち塞がり、火柱を消滅させた。



「魔法では埒が明かないようだ・・・ではこうしよう」


 悪魔は顔に似合わない大きな手を振り上げながら、ニグルに向かって跳躍した。

 大きな手の指先では、大きな爪が陽射しを反射させ光り輝いている。


「よいしょー!」


 ニグルはリーチの差を生かそうと、悪魔の頭部を目掛けて櫂を上段から振り下ろした。

 悪魔は避けもせずに櫂を頭部にうけたが、櫂は、悪魔の跳躍の勢いを微塵も衰えさせなかった。



 そのままの勢いでニグルの眼前まで迫った悪魔は、大きな手を斜めに振り下ろした。

 ニグルは櫂で悪魔の攻撃を受け止めたものの、力の差が余りにも大きく、跳ね飛ばされてしまった。


 ニグルを跳ね飛ばした悪魔は、ゆっくりとエルに近付いた。

 エルはすくみ上がったままだ。


「美しい顔をしているな。しかし何故、亀の甲羅を頭に乗せているのか」


 悪魔は、エルの頬を撫でながら言った。


「エルフの血と・・・魔族の血も混ざっているか。魔力量は大きそうだが、そんなに怖気付いていては無価値だな」


 悪魔に両頬を掴まれタコの口になったエルはただ、立ちすくみ震えている。



 亀ヘルメットと砂浜のお陰で大したダメージを負わなかったニグルは、悪魔に頬を掴まれ震えているエルを目撃し、櫂を上段に構えながら慌ててエルの元に駆け付けた。


「めちゃくちゃ怯えてんじゃねぇか!トラウマになったらどうしてくれんだイケメンゴリラ!」


 怒号を放ちながら、ニグルは櫂を悪魔の頭に向かって振り下ろした。

 怒りに打ち震えるニグルの眉間がチリチリした。


 悪魔は身じろぎもせず、櫂を頭に受けた。

 悪魔の頭部半分が、ニグルが振り下ろした櫂で叩き潰された。


「貴様、なんだその力は・・・」

「気の集中だ!俺のスキルだ!どやっ!」


 ニグルは櫂を再び振り下ろした。

 悪魔は左手で櫂を受け止め、受け止めた途端に、その左手を潰された。


 悪魔の残る右手は、ニグルの左肩を掴もうと、ニグルに向かって伸びてきた。


 悪魔の左手を叩き潰したニグルは櫂を手放し、左手で悪魔の右手を受け止めようとした。

 しかしニグルの動きは遅い。悪魔はニグルの左肩に爪を突き立てた。


「ぬあっ!」


 ニグルは痛みに顔を歪めた。


 悪魔は右手に込めた力をより強くし、ニグルの左肩の骨を握り潰した。



 痛みへの怒りと恐怖。ニグルの眉間は強くチリチリした。


 ニグルは右手でゆっくりと、悪魔の右手首を掴んだ。

 その瞬間に、悪魔の右手首は握り潰された。


 悪魔の右手は、爪がニグルの左肩に深く突き刺ささり、ぶら下がったままになった。



「両手を失って、次は何してくれんのかねぇ!」


 ニグルは怒気を放ちながら言った。


「私では勝てそうにないな。今回はここまでだ。引き上げる事にする」


 悪魔はゆっくりとニグルに背中を向け、黒い羽を広げた。


「あめーぞオラァ!」


 ニグルが怒号を放ちながら、悪魔の左羽の根本を握り潰した。


「やめろ」


 逃げる術を失った悪魔が、顔を後ろに向けながら呟いた。


「この状況でぇ!やめろって言われてやめる奴がぁ!この世に存在するなんて本気で思ってねぇよなぁ!」


 長い怒号を放ちながら、ニグルは悪魔の右羽の根本も握り潰した。



「このまま殺されるくらいなら、貴様以外の全員を道連れにしよう」


 悪魔はそう呟き、口を大きく開き、口の中に魔力を集中した。

 それに気付いたニグルは、悪魔の頭を右腕で抱き抱え、自分の体を悪魔の口に押しつけ、放たれる火柱を無効化しようとした。


「愚か者め」


 悪魔はニグルの腹に噛みついた。

 口の中に魔力を集めたのは、ニグルを誘き寄せる為の罠に過ぎなかったのだ。

 しかし、悪魔に腹を噛まれても尚、ニグルは悪魔の頭を抱き抱え続けた。


 悪魔の歯がニグルの腹に食い込むが、内臓には届いていない。

 こんな時には、贅肉も役に立つ。


「エル!トドメをさせ!」

「ニグルさんがくっついてると無効化が・・・」

「そうか!」


 ニグルは悪魔の頭を殴り叩き潰し、口の中に拳を突っ込み顎を潰し、悪魔から離れた。


「エル!エルがトドメをさせ!」


 エルは頷くと、小さな掌に魔力を集め始めた。


「落ち着けよ!」


 ニグルは悪魔の動きを封じるために、悪魔の両膝を叩き潰した。


 エルは掌の上に大きな炎の塊を作り上げ、瀕死の悪魔に向けて放った。

 悪魔は一瞬で燃え尽き、悪魔が燃え尽きたその場所に、深紅の宝石のようなものが落ちていた。

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