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灰かぶり媛の奇縁譚  作者: 藤瀬京祥
伍章

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第拾陸話 新しい家族

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「ですからあなたの新しいお父様です」


 泣き止んだ琳瑶(りんよう)を見て安堵した薔薇(そうび)だが、改めて問われた理由がわからず困惑を浮かべていると、またしても楊慶(ようけい)が声をあげる。


「だから、そなたが悪いと言ったでしょう!」

「なぜ?

 わたしが吾子になにをしたというのですっ?」

「驚かせるようなことをしたではありませんか!

 それでこんなに泣いてしまって……可哀相に」


 そう言ってさりげなく琳瑶の髪に触れようとすると、すかさずその手を薔薇が払いのける。


「わたしの琳瑶に、勝手に触るでない!」

「頭を撫でてやるくらいいいではないか!

 だいたいわたしだって琳瑶の母になるのです。

 権利はあるでしょう」


 楊慶こと(れい)楊慶(ようけい)東雲(とううん)の妻であることは琳瑶も思い出した。

 その東雲に椅子にすわらせてもらい、少し落ち着いてくると薔薇と楊慶の仲があまりよくないこともわかった。

 だが、ここに来てさらに意味不明な発言が楊慶の口から出てくる。


(楊慶様がお母様っ?)


 東雲に続き楊慶までが琳瑶の母親になるとはいったいどういうことか?

 ますます頭が混乱してくる琳瑶に、少し離れて様子を見ている東雲・楊慶夫婦の息子たちは困惑顔。

 いや、そっくりな顔をした二人は母親と叔母のやり取りを冷ややかに見ているだけで、彩月(さいげつ)は再びどうしたものかと思案顔。

 そして(こう)砥尚(ししょう)だけが戸惑っている。

 いや、琳瑶自身も戸惑っている。


「あ、あの、楊慶様がお母様って、お母様は……」

「薔薇はそなたの母のままだ。

 今からするわたしの話を落ち着いてききなさい」


 そう前置きして東雲が説明したのは琳瑶の養子縁組である。

 琳瑶の両親である(たい)昌子(しょうし)と薔薇は離縁し、以前は父親である昌子が引き取り、側室から正妻に格上げした()艶麗(えんれい)が継母となった。

 そのため薔薇は琳瑶のことに表立っては口出しすることが出来なくなり、季節ごとに新しい衣装や身の回りの品を送ったり、手紙を届けるのがせいぜいだった。

 それが薔薇に引き取られることで今度は昌子が口出しを出来なくなる……となればよかったのだが、薔薇に再婚相手がいないため、昌子が琳瑶の父親の立場で在り続けることになる。


 ここで登場するのが薔薇の長兄であり、名門黎家(れいか)の当主でもある東雲である。

 東雲が琳瑶の父親代わり、つまり後見人となるというものである。

 もちろんこれでも十分なのだが、昌子が琳瑶の実父である事実は変わらない。

 しかも昌子は今回の騒動で役職も宮城での立場も失い、泰家(たいか)も、元々あまり高くなかった家格をさらに落とすことになる。

 ただでさえ昌子は今まで琳瑶のことを蔑ろにしてきたのだ。

 これ以上泰家や昌子の都合に琳瑶を巻き込ませたくないという薔薇の思惑もある。

 そこでただの後見人ではなく、琳瑶を東雲の養女にしてしまおうということになったのである。


 貴族ではよくある話である。


 昌子(実父)より東雲(養父)のほうが地位も高く権力もあるため、今後琳瑶にことについて昌子は口出し出来なくなる。

 それこそ琳瑶を取り戻すことも出来なくなるだろう。

 しかも養女とはいえ、琳瑶の母親は薔薇であり黎家の媛である。

 琳瑶も黎家の血筋であり東雲との血縁もある。

 もし東雲に娘がいれば少々面倒になることもあるが、幸か不幸か息子が三人いるだけ。

 先程の薔薇とのやり取りからも、養母となる楊慶も反対はしていない。

 そして薔薇も、琳瑶の後見として兄の存在を心強く思っている。

 これ以上はないほど都合のいい養子縁組……というわけである。


 ただこのよくある話、貴族だけでなく庶民のあいだでもよくある話で、多くは父親のいない娘が後ろ盾を得るために使われる。

 父親がいないというだけで不当に扱われないためだが、他の目的もある。

 嫁ぎ先の家柄に合わせるために養子縁組を行なうのである。

 実は今回の琳瑶の養子縁組はこの目的のためである。


 貴族ではよくある話である。


 琳瑶はもちろん知らないけれど、はたして薔薇は知っていることなのか?

 わからないけれど、そこまでの話はここでされなかった。

 だから琳瑶も安堵した。

 泰家で暮らしていた時も、両親として昌子と継母の艶麗がいたが、薔薇は実母として存在していた。

 だから東雲夫婦に養子入りしても薔薇は実母として存在し続ける。

 そう思ったからである。

 実際に東雲もそう言っている。


「薔薇はそなたの母のままだ」


 だから納得して安心したのである。

 だが納得して琳瑶の養子縁組の話を進めたはずの薔薇だが、納得していないこともあったらしい。

 楊慶が大きな顔で母親面することである。


「改めて紹介しよう。

 妻の楊慶だ」


 東雲は落ち着いて楊慶を紹介したけれど、当の楊慶は薔薇との言い争いに忙しくしている。

 時に顔面を掴んだり、胸ぐらを掴んだりと一触即発状態になる従姉妹同士、あるいは義姉妹の喧嘩にはすっかり慣れているらしい東雲はかまわず。

 放っておいても大丈夫なのかと心配になる琳瑶を澄ました顔で促し、続いて三人の息子を紹介する。


「同じ顔をしているのが蒼月(そうげつ)橙月(とうげつ)

 一応長男が蒼月で次男が橙月だが、皆、見分けるのが面倒なので双月(そうげつ)と呼んでいる」


 (ふた)つの月


 そこには本当にそっくりな青年が二人、並んで立っていた。

 顔はもちろんだが、背丈も、体格も同じ。

 ついでに言えば着ている衣装も同じで、表情まで同じと来た。

 実はこの二人、わざとそっくりに振る舞っているのだとか。

 そのことを教えてくれたのは三男の彩月(さいげつ)である。


「それこそ生まれる前から一緒にいますから、振る舞いを似せるなんて簡単なのでしょう。

 本人たちが故意にやっていることなので、見分ける必要はありません」

「これが三男の彩月だ。

 そういえば、彩月には前に会ったことがあると言っていたな?」

「叔母上に頼まれて泰家(たいか)までお遣いに。

 あと、お迎えにもいきました。

 残念ながらすれ違ってしまいましたが」


 彩月はそう言って肩をすくめてみせる。

 (そう)英成(えいせい)から聞いた話を思い出した琳瑶は小さく頷いてみせるが、ふと思い出す。


(そういえばあの時、英成様に預けた髪飾りはどこに?)


 琳瑶が大切にしていた薔薇の髪飾り。

 後宮で翠琅(すいろう)は 「預かり物だから今は返せない」 と言っていた。

 英成から直接預かったのか、あるいはこの兄弟の手を経て翠琅に預けたのか。

 ひょっとしたら、まだ会ったことのない翔雲(しょううん)の息子たちが預けたのかもしれない。

 いずれにせよ、この兄弟なら翠琅の正体と髪飾りの行方を知っているのかもしれない。

 そう思った琳瑶だが、尋ねる前に東雲が言葉を継いできた。


「そなたの養子縁組のお披露目は正月の佳節だが、この三人のことは今日から兄と思いなさい」

「はい」


 おとなしく応えた琳瑶は、新たに兄となった三人に挨拶をする。


「琳瑶です。

 よろしくお願いいたします」


 小さく頷くだけの双子と違い……いや、二人の兄の分も弟の彩月が愛想よく応える。


「こちらこそ。

 そういえば砥尚(ししょう)とはもう会ったんだっけ?」


 琳瑶がなにか答えるより早く砥尚が口を開く。


「先日は佳澄(かちょう)が迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳ございませんでした」

「え? なに?

 また佳澄が西の離れにしに忍び込んだの?

 あいつも懲りないねぇ。

 琳瑶のことを知ったらまた一騒動ありそうだけど」


 正月には黎家の親族が一堂に会する。

 楊慶の姉やその息子である宋英成はもちろんだが、佳澄を含む芳雲(ほううん)一家とも挨拶をすることになる

 つまりまたあの佳澄はもちろん、弟の鹿涼(かりょう)や妹の佳流(かりゅう)とも会うことになる。

 あまり会いたくないのが琳瑶の本心だが、これから黎家の一員として暮らしてゆくには避けて通れない道である。

 三対一という圧倒的不利な状況を想像してうんざりするが、いいこともあった。

 行方がわからなくなっていた手紙に続き、髪飾りも戻ってきたのである。

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