美酒と唄に酔いしれる夜~豪快な姉御肌~
サシ飲み六杯目 ― トーラとともに
場所:酒場《豪拳亭》
酒:エール「ブロンズホーン」
相手:トーラ
石造りの壁に獣の角や剣が飾られ、賑やかな笑い声と豪快な歌声が響く酒場。
ここは力自慢たちが集うことで知られ、テーブルも椅子も分厚い木材で作られ、多少暴れてもびくともしない造りになっている。
そんな喧騒の中で運ばれてきたのは、泡立ち豊かな黄金色のエール。
力強い苦味と香ばしい麦の香りが特徴で、飲むだけで胸の奥まで熱が広がっていく。
トーラは大きなジョッキを掲げ、豪快に笑った。
「よし、行くぞカケル!」
「おいおい、俺はもう五杯目なんだけど?」
少し頭が重い気がしながらも、俺は苦笑いで応じる。
「大丈夫だろ!お前はそんな軟な男じゃねぇ!――乾杯!」
ごつんとジョッキがぶつかり合い、泡がこぼれて木の卓に滴る。
トーラは一気にあおり、喉を鳴らして飲み干した。
「ぷはあ~!うめぇ!やっぱり酒は最高だぜ!」
その豪快な声に、周囲の客達からも笑いが漏れる。
彼女がいるだけで場が明るくなるのは、もう慣れっこだ。
俺もグラスを口に運び、麦の香ばしさと苦味を舌に転がした。
「いい飲みっぷりだな。惚れ惚れするよ」
トーラはにやりと笑い、泡のついた唇を手の甲で拭った。
そして彼女はもう一口、豪快にジョッキを傾けて喉を鳴らした。
「くぅ~っ!おいカケル、お前さんももっと飲め!今日は気兼ねなんていらねぇんだ!」
「……そうは言っても、そろそろ足にきそうなんだが?」
「はっはっは!情けねぇな!」
盛大に笑い飛ばしながらも、トーラはちらりと俺の様子を伺っている。
視線が優しくて、ただのからかいじゃないことがすぐにわかった。
「お前さんはなぁ…無茶しすぎるんだよ」
彼女はジョッキを卓に置き、真剣な目を向けてきた。
「戦いでもそうだ。自分を犠牲にしてでも仲間を守ろうとする。そんなんじゃ、いつか潰れちまうぞ」
思わず言葉に詰まる。トーラの声は大きいが、その芯には揺るぎない温かさがあった。
トーラはジョッキを軽く揺らしながら、ふっと遠くを見るような目をした。
「アタイだって若い頃は無茶ばかりしててな。周りからしょっちゅう叱られてたぜ」
「なんとなく想像できるな」
思わず笑みをこぼすと、トーラも肩をすくめて笑った。
「まぁアタイには力しかないからさ。考えるより先に行動しちまうんだよな」
ごつい拳で卓を軽く叩き、ジョッキの泡が揺れる。
「でもな、根っこには、お前と同じで、誰かの力になりたいっていう想いがあるからなんだよ」
彼女は真剣な目を俺に向ける。
その言葉は、豪快な声でありながら、不思議と胸に温かく響いた。
ただ強いだけじゃなく、誰かを思う気持ちが彼女を突き動かしている――そう思うと、自然と頬が緩む。
トーラはジョッキを握りしめたまま、力強く言葉を紡ぐ。
「だからアタイもお前が倒れそうになったら支えて、守ってやりてぇんだ」
俺はジョッキを置き、少しだけ肩を落とした。
「確かに…俺にはもう闇の力はないし、あんな無茶な戦い方はもうできないな」
「それでいいんだよ。アタイ達をもっと頼りな!それが仲間ってもんだろ!」
その言葉が、まるで背中を押す拳のように心に響いた。
胸の奥にあった迷いが少しずつ解けていくのを感じる。
「…ありがとう。トーラ」
トーラはにかっと笑い、ジョッキを持ち上げて再び勢いよくあおった。
その笑顔を見ていると、どこまでも前を向ける気がした。
その時、リュートの音色が響く。
アピアの歌声が、酒場の喧騒の中に凛として広がった。
「嗚呼~炎は踊る 力と共に 仲間の誓いは 決して消えず」
今回のお相手はトーラでした。
豪快に笑い、豪快に飲み、それでいて仲間への情は誰よりも厚い。
そんな姉御肌な一面を感じていただけたなら幸いです。
そして、いよいよ最後の乾杯。
物語を締めくくるのは、カケルにとってかけがえのない、あの小悪魔です。




