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美酒と唄に酔いしれる夜~慈愛のエルフ~

サシ飲み五杯目 ― エリシアとともに


場所:酒場《翠の調べ亭》

酒:果実酒「フィオーレ」

相手:エリシア


木造りの梁と緑の蔦が絡むこの酒場は、まるで森の中に迷い込んだような雰囲気だった。

壁際には木製の竪琴が飾られ、柔らかな音楽が絶えず流れている。

ランプの明かりもほのかに緑がかって揺れ、どこか幻想的で落ち着いた空気を醸し出していた。


椅子に腰を下ろした途端、少し頭が重いような感覚に気づく。

――そりゃそうだ、もう四人と飲み終えたあとなんだから。

喉や胸に、まだ酒精の熱が残っている気がする。


そんな俺を見て、エリシアが心配そうに首をかしげた。

「カケルさん、大丈夫ですか?」


「なんとかな。一杯ずつしか飲んでないし。それにこう見えて、酒には強い方なんだ」

強がってみせると、エリシアは一瞬きょとんとしたあと、ふわりと笑みを浮かべた。

その笑顔に、不思議と酔いが和らいでいく気がした。


そのタイミングで、透き通ったガラスのグラスに淡い紅色の液体が置かれる。

エリシアは両手でグラスを包み込み、そっと口に含んだ。

唇が離れると、ほのかな果実の香りとともに、柔らかな吐息が漏れる。


「このお酒、美味しいですね。まるで…森の朝露を閉じ込めたよう」

その表現に、俺は思わず笑みをこぼした。

彼女らしい、自然に寄り添うような言葉だった。


「甘くて優しくて、飲みやすいな」

グラスを揺らしながら答えると、エリシアは小さく頷いた。


「ええ、私でも楽しめる一杯ですね」

果実酒の甘さに溶けるような声が耳に心地よい。


「エリシアに似合ってるよ、このお酒」

何気なく口にしたその一言に、彼女は驚いたように目を瞬かせ、それからふわりと頬を赤らめた。

光を受けたエメラルドグリーンの髪が揺れ、その横顔はどこか儚げで、胸の奥がわずかにざわめく。


「ありがとうございます…これもカケルさんのおかげですね」


「まぁ…おかげっていうか、巻き込まれたせいっていうか」

苦笑しながらグラスを傾けると、エリシアは静かに首を横に振った。

彼女の瞳には、曖昧さのない真っ直ぐな光が宿っていた。


「私、カケルさんと一緒に旅ができて、本当によかったと思っています」

その一言は、果実酒よりも甘く胸に染みた。

俺は返す言葉を見つけられず、ただ沈黙が落ちる。


「…………」


「カケルさん?」


心配そうに俺を覗き込むその深い碧の瞳は、今にも俺の心を見透かしそうだった。


「エリシア…俺、最初は君を連れてきてよかったのかなって思ってたんだ」

グラスの中で紅い酒がゆらめき、揺れる炎のように俺の迷いを映す。


「危険なこともあったし、見せたくない世界の醜さもあった。君には、そんな有り様を見てほしくなかったんだ」

言葉を吐き出した瞬間、胸の奥に溜め込んでいた澱が少しだけ和らぐ気がした。


エリシアはゆっくりとグラスを置き、まっすぐに俺を見つめた。

「カケルさん……」


その声に、胸の奥がざわつく。俺は小さく息を吐き、素直に言葉を返した。

「わかってるよ。君には助けられたし、楽しい想い出もあった。だから今は――君がいてくれてよかったと思ってる」


一瞬、エリシアの瞳が潤んだように見えた。

彼女は微笑を浮かべ、静かに首を振った。


「カケルさん……あなたは一つ、勘違いしていますよ」


「勘違い?」


彼女の瞳は、いつになく強い光を宿していた。


「私、貴方が思っているような、か弱い女ではありませんよ」


言葉は柔らかく、それでいて芯があった。

森で育ち、精霊と共に歩んできた彼女の気高さが、その一言に宿っていた。


「私は…世界のありのままを見ていきたいんです。例え、カケルさんが不安に思う光景が待っていたとしても…」


その声は決して大きくはない。

けれど、澄んだ水面に落ちる雫のように、胸の奥にしっかり響いた。

彼女の瞳には恐れの色などなく、ただ静かな意志が宿っている。


「私はそれを受け止めたいんです。それが、自分の強さにも繋がると思いますから」


そう言い切る姿に、俺は思わずグラスを握る手に力がこもった。

森で出会ったときの、か弱そうに見えた少女の面影はもうどこにもない。

そこにいるのは、自らの道を見据えた、一人の仲間――いや、それ以上の存在だった。


「それに…世界には素敵なものもあるんだって、信じていきたいんです」

エリシアは小さく微笑み、グラスをそっと揺らす。

その仕草は、まるで果実酒に溶け込んだ花々と語り合うかのようだった。


「エリシア…確かに、君は強いな」

名前を呼ぶだけで、喉が熱を帯びる。


「ええ。ですから、不安がらなくてもいいんです。これでも――お姉さんですから」

その言葉に、一瞬耳を疑った。


「…お姉さん?」

思わず間の抜けた声を返すと、彼女は胸を張るように微笑む。


「ええ。私、カケルさんより年上ですからね?」

冗談めかした響きなのに、不思議と説得力があった。

長寿の種族――エルフ。彼女が人間の尺度で計れない時を生きてきたことを、改めて思い知らされる。


「そうか…エルフって長寿だったな。因みに――」


「ダメですよ?女性に年齢を聞くのはいけません」

彼女はくすりと笑みをこぼし、人差し指を唇に添える。

その仕草は可憐でありながら、どこか艶やかで胸をざわつかせた。


「……バレてる。お姉さんには敵わないな」

思わず笑って肩をすくめる。冗談めいたやり取りなのに、どこか心が温かくなる。

エリシアもまた、頬をわずかに染めながら、静かに微笑みを返した。


そんな中、リュートの澄んだ音色が酒場の空気を包み込む。

アピアが口ずさむ声が、夜風に乗ってそっと響いた。


「嗚呼~そよぐ風よ 花を運び 揺るがぬ想いは 未来を照らす」

今回のお相手はエリシアでした。


穏やかな笑顔の奥にある優しさや包み込むような温もりが、少しでも伝わっていたなら嬉しいです。

静かにグラスを交わす時間も、彼女らしいひとときになったのではないでしょうか。


さて、次のお相手は豪快で頼れるあの人。

賑やかな乾杯の時間をお楽しみに。

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