第2話 悲願の常任入り
2024年1月6日17:00 フランス・パリ 国際連合臨時本部
アメリカ合衆国が消失してから5日、ニューヨーク国際連合本部が機能停止に陥ったため1月3日にアメリカを除いたロシア、中国、フランス、イギリスによる緊急常任理事国会合にて緊急措置として本部機能をパリ、ローマへ分散的に移転させた。
そして、安全保障理事会は前例のない事態に直面していた。常任理事国の一角であるアメリカの空席により拒否権を持つ五大国の均衡は崩れ、議事運営そのものが揺らいでしまっている。緊急常任理事国会合での重い沈黙の中、フランス大統領のエマニュエル・マロンが口を開いた。
「国際秩序維持のため、空席となった常任理事国の機能を暫定的に補完する必要があります。そのため私から特別措置として日本の常任理事国入りを提案します」
各国代表の視線がマロン大統領に向けられた。フランスが提案した日本は経済規模、国際貢献、そしてこれまで安保理改革を訴えてきた当事国である。アジアの安定を維持するためにも、現実的な選択肢に違いない。しかし日本の常任理事国に拒否反応を示したのは中国とロシアであった。
「拙速な決定は地域の緊張を高める。私は日本の常任入りに慎重である。君は日本の歴史を学べていないのかね?日本が80年前何をしたのかー」
中国の王尹聾国連大使はと槫秦北国家主席は日本の歴史まで持ち出し、牽制の色は隠せていなかった。この発言に
「これは暫定措置です。80年前の話を持ち出すべきでありません。今は目の前の問題に集中するべきだと思います。これは米国の議席を代替する形で、日本に常任理事国機能を委ねる案です」
マロン大統領は王国家主席に反論した。一方、日本の常任理事国入りの案にイギリスのルーク・マニエル首相は賛成、ロシアのウォロデミル・プリンストン大統領も日本の常任理事国入りに条件付きでなら認める意思を示した。
「我々としては諸君らには冷静な対応を求める。マロン大統領の日本の常任理事国入りには賛成することはできないが我々が求める条件を飲んでくれるのであれば認めよう。聞いてくれるかな?」
ロシアの思わぬ反応に中国は驚いたがまずはロシアが言う「条件」について耳を傾けた。
「我々が持っている拒否権を日本に与えないことだ。どうだ?飲んでくれるかな?」
拒否権は常任理事国のみ所有が許されている権利である。ロシアからすれば日本が拒否権を保有することはロシアや中国にとっては都合が悪いのかもしれないのである。その条件を飲めば暫定措置としての日本の常任理事国入りを認めるらしい。ロシアの提案にマロン大統領とマニエル首相は苦虫を噛み潰したような表情を見せながらもロシアの提案を認め、中国も認めたことで日本の常任理事国入りが決定的となった。この決定を受けて国連事務総長のケビン・キャメロンは日本の橘裕一郎国連大使を通じて外務省と日本政府に常任理事国入りの要請の可否を求めた。
1月7日10:00 日本国・首相官邸
緊急常任理事国会合から翌日、日本の常任理事国入りの要請を大島康二内閣総理大臣は受け取った。日本にとって悲願の常任入りである。
「大島総理、パリに移された国際連合臨時本部より常任理事国入りの正式な打診です」
杉山和馬外務大臣の報告に、大島総理は目を閉じた。
「拒否権は?」
「ロシアと中国が日本の常任理事国入りを認めましたが拒否権なしという条件付きでの理事国入りを認めました。我々からしてみれば悲願である常任理事国入りであるのは確かですが拒否権なしはしんどいですね・・・」
「そうだな・・・」
1945年の終戦からまもなく80年、日本は常任理事国入りを悲願としてきた。だが拒否権なき常任理事国は、名誉と同時に制約を伴う。国内世論はどう動くか。中国やロシアはどこまで譲歩するのか。そして、日本は本当にその責任を担えるのか。
沈黙ののち、総理は言った。
「常任理事国入りの要請を受け入れよう。たとえ拒否権がなかろうが我々は断固とした姿勢を国連でも見せつけていく。たとえ不完全であっても、世界が我々を必要としている以上、逃げるわけにはいかない」
大島総理の覚悟の決まった表情に各閣僚は引き締まった。日本は、戦後体制の外縁から、ついに中心へと踏み込む。常任理事国入りの要請を日本が受け入れたことで悲願を果たした。しかし、これからはこの国には責任が重くのしかかる。
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