第1話 世界秩序が崩れた日 第1幕
お読みいただきありがとうございます。「日米転生」の投稿もさせていただいている照山です。本作品は「日米転生」本編の「earth」編で描き切れなかたストーリーを書いていく予定でございます。2024年編と2025年編の構成で進めて参ります。
2024年1月1日 15:30(米国東部時間 1:30) 日本国・首相官邸
アメリカ合衆国の転移から、わずか30分後。年頭の静けさが残る公邸で寛いでいた大島総理大臣のもとに、加藤防衛大臣から急遽呼び出しの連絡が入った。事態の異常さを感じ取った大島は、直ちに官邸へと足を運ぶ。
「総理、およそ30分前より、アメリカ合衆国全域との通信が完全に途絶しました」
重苦しい表情で切り出す加藤に対し、大島は眉をひそめた。
「全域だと・・・? 単なる大規模な通信障害の可能性は無いのか。衛星写真等の視覚的な確認は取れているのかね?」
「現在、防衛省および内閣情報調査室を通じて精査を行わせています。間もなく最新の画像が届くはずですが・・・」
そこへ、青ざめた表情の内閣情報官が息を切らせて部屋へと飛び込んできた。
「大臣! 偵察衛星および気象衛星が撮影した、北米大陸周辺の最新画像です! とんでもない事態が起きています・・・!」
「・・・これは・・・何だというのだ・・・!?」
差し出された高解像度の衛星写真を覗き込んだ大島と加藤は、我が目を疑った。カナダとメキシコに挟まれた広大な領域。そこに存在するはずのアメリカ合衆国本土が、領域の形状に沿って丸ごと広大な洋海へと変貌していたのだ。アラスカ、ハワイ、グアムをはじめとする各領土もまた、海面上から綺麗に姿を消している。
「通信途絶という報告には俄かに信じがたいものがあったが・・・まさか、国家そのものが消失したというのか。・・・加藤さん、在日米軍の状況はどうなっている!?」
「日本国内に駐留する在日米軍基地および人員はそのまま残されています。しかし、本国という補給線と指揮体系を同時に喪失した彼らが今後どのような行動に出るか、予測がつきません。極東の安全保障構造は根底から崩壊しました。一刻も早い安保理の召集と、我が国の防衛体制の再構築が必要です」
「分かった。全省庁に情報収集の徹底を命じなさい。どんな些細な情報であっても、直ちに私へ報告するように」
「了解いたしました」
同日 16:00(現地時間 16:00) 大韓民国・ソウル 青瓦台(大統領府)
アメリカ合衆国の突如たる消失という報を受け、大韓民国の楊長雲大統領は直ちに国家安全保障会議(NSC)を召集。全閣僚を集め、情報収集と対策に追われていた。
「事態は世界規模の安全保障危機だ。現実にはあり得ない事象だが、事実として米本国は消滅した。抑止力たる米軍の支援が断絶した今、ロシア、中国、そして北朝鮮がこれを好機と捉え、力による現状変更に踏み切ってくる可能性が極めて高い。泰国防相、軍全般に第1次厳戒態勢を命じなさい」
「了解いたしました。大統領、日本側への対応はいかがなさいますか?」
「歴史的懸案はあるにせよ、この未曾有の事態において日韓の連携途絶は致命的だ。我が国は日本側と緊密な連絡を取り合い、共同で事態に対処する」
「承知いたしました。なお、既に日本の海上自衛隊は緊急事態に備え、領海および主要海域の警戒監視を急増させている模様です。我が海軍におきましても、敵対勢力の侵攻に備えた海上封鎖および警戒ラインの展開を実施すべきかと存じます」
「うむ、直ちに手配したまえ」
米国の消失を受け、日本側は海上自衛隊を中心に周辺海域の警戒態勢を最大限に引き上げ、北朝鮮と直接対峙する韓国もまた、全軍を挙げて海上および軍事境界線付近の封鎖・警戒命令を発令した。
同日 15:00(現地時間 15:00 / 日本・韓国時間 16:00) 中華人民共和国・北京
「槫国家主席、各機関からの報告はお聞き及びでしょうか」
人民大会堂の一室。言葉を選びながら報告する鏐国防相に対し、槫主席は笑みを浮かべながら静かに首を頷かせた。
「ああ、聞いているよ。太平洋の向こうにいた西側の親玉が、跡形もなく消え去ったのだろう? 我が中華民族にとっては、千載一遇の解放の好機ではないか。どうだね、国防相。この隙に乗じ、長年の懸案であった台湾、ひいては日韓を一挙に打ち砕くというのは」
槫主席の語気には、野心を隠そうともしない苛烈さが滲んでいた。しかし、対面する鏐国防相は冷や汗を流しながら不満と慎重論を覗かせる。
「主席、新年の早々からそのような大規模侵攻を行うなど無茶でございます。日韓台の3方向を同時に相手取るだけの兵力展開と兵站の準備が整っておりません。今はまず各国の動向を見極め、状況を静観すべきかと存じます」
「・・・フン、少々気が早すぎたか。だが、我が国の悲願を果たす好機が巡ってきたという考えに変わりはない。そのことだけは頭に叩き込んでおきなさい」
「・・・は、承知いたしました・・・」
その後、槫主席の主導により、日韓台に対する解放作戦に向けた最高幹部による秘密軍事会議が開催された。投入可能な動員兵力、現有兵器の損耗率、膨大な戦費の試算など綿密なシミュレーションが行われた結果、即座の軍事行動はリスクが大きすぎると判断された。しかし、半年以内の作戦開始を目標として着々と侵攻準備を進める方針が決定され、極東情勢は急速に緊迫の度を強めていくこととなる。
同日 15:00(現地時間 15:00 / 日本時間 16:00) 台湾・台北市・総統府
「総統! 直ちに中華民国国軍への動員令を! 米国のバックアップを失った今、我が国はいつ中国の怒涛の侵攻に晒されてもおかしくありません!」
総統室の扉を激しく開き、血相を変えて飛び込んできたのは灣国防長官であった。アメリカ消失の報は、中国の脅威に直面する台湾にとってまさに国家存亡の危機であった。
「落ち着きなさい、灣長官。国家の重大局面を預かる身として、まずは冷静さを保たねばなりません。突如たる米国の消失には私も強い衝撃を受けています。あなたの懸念通り、国軍の警戒レベルを即座に最高段階へ引き上げますが、現場がパニックを起こさぬよう徹底した指揮を行いなさい」
「了解いたしました、隰総統」
最大の保護国であったアメリカの消滅は、台湾にとって痛恨の極みであった。しかし、他国に頼るばかりではなく、自らの手で国土を守り抜く決意が今まさに試されている。隰総統の命により台湾軍は全軍緊急態勢へと移行し、大陸側の不穏な動きに対する警戒を強めた。
アメリカの消失を受けて危機感を募らせて防御を固める日・韓・台と、これを野望成就の隙と捉えて暗躍を始める中国・ロシア。極東のパワーバランスは完全に崩壊し、一触即発の緊張状態のもと、世界は連鎖的な全面衝突の危機へと歩みを進めつつあった。




