第20話 台湾海峡Ⅲ
2024年3月31日早朝 台湾海峡・金門島周辺
第三次世界大戦の開戦から半月が経過し、膠着状態にあった台湾海峡の情勢は、ついに新たな局面へと突入した。
中国福建省南部の厦門から、轟音を響かせた数隻の中国人民解放軍の高速着上陸用舟艇が一斉に離岸した。目標は、福建省の目と鼻の先にある台湾統治下の離島・金門島である。台湾本島への全面上陸に先立ち、まずは周辺の要衝であり政治的シンボルでもある金門島を制圧し、台湾側の士気を完全に打ち砕くという戦略であった。
夜明けの薄闇を切り裂くように、金門島側の海岸線へ向けて中国軍の艦砲射撃と多連装ロケットの雨が降り注いだ。
3月31日 06:30 台湾・金門島
「来るぞ! 島を守れ!」
金門島に展開する台湾軍金門島守備隊の将兵たちが、砲煙弾雨の中でおのおのの掩体壕から叫び声を上げた。防空サイレンが耳をつんざくように鳴り響く中、上空には無数の不気味な黒い影が群れをなして飛来していた。中国軍が誇る特攻自爆ドローンおよび軍用偵察・攻撃ドローンの群れである。
「ドローンだ! 対空火器で撃ち落とせ!」
守備隊の機関銃や携帯式防空ミサイルが夜空に向けて火を噴いたが、物量にモノを言わせた数百機規模のドローン群は、蜂の巣をつくように次々と防衛陣地や通信施設へと突入して爆発を引き起こした。
ドオォォン! パチパチパチ・・・!という音ともに電磁パルスや小型爆薬を搭載したドローンが陣地の真上で次々と炸裂し、瞬く間に守備隊の通信網が寸断され、前線の視界が奪われていった。その混乱の隙を突くように、中国軍の海兵隊員を乗せた水陸両用装甲車が荒波を越えて海岸線へと強烈な突進を開始した。
同年3月31日 08:00 台北 総統府地
「総統! 金門島西海岸の防衛陣地に対し、中国軍の大型着上陸部隊が強襲上陸を開始しました! 敵のドローン攻撃により一部の通信が途絶しています!」
総統府の地下作戦室に飛び込んできた報告に、府内の空気が一気に凍りついた。モニターに映し出された金門島の映像では、海岸線に殺到する中国軍の舟艇と、激しい銃撃戦を展開する守備隊の姿が生々しく映し出されていた。本土からわずか数キロという地理的条件ゆえに、金門島は中国軍の圧倒的な物量と砲火に最もさらされやすい最前線であった。
隰総統は、歯を食いしばりながら地図上の金門島を凝視した。
「金門島を奪われることは、単なる離島の喪失ではない。台湾全土の防衛線における心理的崩壊を意味する。守備隊に伝えよ。いかなる犠牲を払おうとも、一歩も退くことは許されない。本土からの援軍やNATO軍の反攻が始まるまで、死力を尽くしてこの島を死守せよ!」
同年3月31日 16:00 金門島・海岸線一帯
中国軍の猛烈な上陸作戦は台湾軍守備隊の想像を絶する死に物狂いの反撃によって想定外の足止めを食らうことになった。通信が途絶した最前線において、各小隊は事前に張り巡らされた有線電話や地下陣地網を巧みに活用し、個々の判断で正確な火力を集中させた。海岸線に肉薄した中国軍の上陸用舟艇や水陸両用装甲車に対し、隠蔽された対戦車ミサイルと迫撃砲が寸分の狂いもなく牙を剥いた。さらに、台湾本島から飛来した航空自衛隊の支援戦闘機や台湾空軍の残存機が敵の上空を急襲し、上陸部隊の背後となる海上補給路を寸断した。
「敵の第一波、前進を阻止! 水際で押し返せ!」
弾薬が底をつきかけ、血まみれになりながらも、金門島の守備隊は一歩も引かなかった。圧倒的な物量を誇る人民解放軍の波状攻撃を前に、海岸線は燃え盛る上陸艇の残骸と無数の兵士の死屍で埋め尽くされ、中国軍はついに海岸の足場を固めることすらできずに撤退を余儀なくされたのである。
1958年の金門砲戦以来、実に半世紀以上ぶりとなる台湾側の決定的な防衛成功がここに成し遂げられた。孤立無援の島で中国軍の強襲上陸を水際で防衛したこの歴史的な勝利は、絶望的な戦況にあえぐ台湾軍と国民の士気を爆発的に高め、迫り来る総力戦の行方に一筋の強烈な光を投げかけることとなったのだった。
次回も楽しみによろしくお願いします!




